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一章1-9 古き騎士(4)

 ウルが家を出て向かったのは、裏側にある小さな納屋。何度も出入りした跡が見受けられる。戸を開けると中には使えなくなった物が散乱していた。その奥に目的の物が鎮座し、主を待っていた。

 白銀の鋼が光り輝く騎士の甲冑。

 手を伸ばして触れる。名も無い村に来てから一日とて整備を怠ったことはないが、装着したことはない。隣には同じく輝いている直径十センチの盾が掛けられている。

 先王から賜った大切なものだ。いつでも使えるようにしていた。

「随分と待たせてしまった。行こうか、役目を果たそう」

 一つずつ全て装着する。彼は体に馴染む甲冑を懐かしむ。

「まずはディグマンにアンジェリカ様のことを頼みに行かねばならんな」

 そう言って立ち上がる。甲冑は非常に軽く、動きを阻害するようなことはない。

 ウルが納屋を出るとルナとフェザーも二人が頭を下げて待っていた。アンジェリカを迎えた後に王の所へ戻ると伝え、何度も説得していた。二人とも反対していたが、ウルは一度も自分を曲げなかった。

「お前達には迷惑をかける」

「なら今からでもおやめになってください」

「すまない、それはできない。私は不器用なんだ」

「いつもそればっかり。……無事に帰ってきてくださいね」

 止めても無駄なことは、アンジェリカよりもこの二人の方が知っていた。ルナは何も言えず、拳を握ることできず、歯を食いしばり堪えていた。

 これ以上引き止めることは騎士の誇りを穢す、ルナにそれをする資格はない。

 ウルは二人の間を抜ける。騎士には止まらずに歩いていく。

「帰るさ。私は嘘をつかない」

 彼は小さい声で呟いた。

 向かった先はアンジェリカとルナが出会った岩場。地下に繋がる穴がある場所だ。もしもここにアンジェリカ以外の人間が入って来たとき、誰も見られないようにするためにウルが考えた。

 地下への穴の前に大男が立っていた。土竜の手を持った偉丈夫ディグマン、彼もまたアンジェリカを迎えたことでウルが去ることを知らされている。

「もう行くのか、もう少しアンジェリカと一緒に過ごせばいいだろう」

「同じ時間を長く過ごせば私に未練が残ってしまう。アンジェリカ様には未来があるものと一緒に過ごしてもらいたい」

「アンジェリカ様が行くことを望んでいないとしてもか」

「古いものは新しいものに変わらねばならない。既にルナに私の全てを教えています」

「たとえルナがお前の全てを知っていても、お前の代わりはできない。アンジェリカ様にとってお前はお前だけだ!」

 ディグマンは不恰好な手でウルを掴む。大きな手はウルの肩を覆い隠してがっちりと離さない。

「私はラムール様に使える近衛騎士。アンジェリカ様にはルナがいます」

「この、分からず屋が! どうしてお前はそう頑固なんだ!」

「同じ台詞を同僚にも言われたことがあります。頑固、懐かしい響きだ」

 ウルはディグマンの手を解き、抜き身の剣を前で構えた。剣先を上に、柄を胸の前で構える騎士の構え。

 そして一度目を閉じ、ゆっくりとディグマンを見据えるように開く。

「ディグマン。アンジェリカ様を頼む。ここで末永く過ごさせてさしあげてくれ」

「……まったく、俺の頼みを聞かないのに、お前だけ頼むのは不公平だ。しかも断れない頼みをしやがる」

「お前は私が唯一友と認めた男だ。お前にしかこれは頼めない。やって、くれるか?」

 自分を射抜くような目にディグマンは強く頷いた。

「当たり前だ。俺はお前の唯一の友だろ。それに、俺の親友が命をかけて頼むんだ、当然頼まれてやるさ」

「ありがとう。では私は行く。くれぐれも良く頼んだぞ」

 剣を下ろして腰に下げ、最後に一度頭を下げてからウルは歩き出した。いくつ歳を数えても、その姿はここに住み始めてから変わらない騎士の姿だ。

 ディグマンは彼の後ろ姿を見つめる。

「死に場所くらい選ばせてやりたいが、せめて騎士として誇りある場所に行くお前を見届けたかったよ」

 彼はいつまでも騎士の姿を見続けていた。

次回から一章2が始まります。

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