[6]私と新聞部次期部長
――それは、女先輩達からの忠告があった日でもあり、夾先輩がまた現れた日の放課後に起こった。
***
「つかれたー」
私にとって睡魔との闘いとなる古文を何とか乗り切った。思いっきり腕を伸ばして、肩をならす。私はおっさんかい!ってつっこみたくなるけど、気にしない。
さて、無事に放課後になったわけだけど、何しよう。特に何も予定なんてないし、なあ……。愛実を遊ぼうかと思ったが、なんと愛実は「彼氏(年下)とデートだから、じゃあね!」とさっさと教室を出てしまった。
……つまんない。こうなれば、クレープをヤケ食いするしかな――。
私のぐるぐると回る思考を遮るかのように、肩が叩かれた。誰だよ、と思ったら、直樹だった。今日も顔に定評があるようですね。
「ん? 何したの?」
「いや、あの人が優貴のこと呼んでる」
そう言って、直樹は教室のドアを指差す。
あの人……嫌な予感がした。まさか。
直樹は私に耳打ちをした。
「お前、新聞部に目つけられることしたのかよ」
「はあ?」
新聞部。この如月高校の文化部の1つであるはずだ。いち早く伝えることをモットーに学校の噂や情報をおもしろおかしく新聞を作る部活であるため、インタビューをするために新聞部部員がやってくることはおかしくないけど……なんで私に?
「しかも次期部長が直々だぜ。気をつけろよ」
「う、うん」
たしか愛実に聞いたことある。次期部長は、今の部長を上回るほどの実力を持ってるって。誰も知らないような情報を即座につかむって話だった気がする。それで、文才もあるからその人が作る新聞が人気らしい。
すこし動揺しながら、席を立ち教室のドアに向かった。
「藤沢優貴ちゃんだよね? 初めまして、新聞部の井上葵です。ちょっとお話聞かせてもらっていいかな?」
肩にかかるほどの色素の薄い髪、ぱっちりとした目に赤いふちの眼鏡、制服に『新聞部』の腕章をつけているのが印象的な――葵先輩はそう言った。
***
「えっと、今日はどういう用件で私に?」
「単刀直入で言うと、優貴ちゃんに対して誰かが不穏な動きを見せているらしいんだよね」
「……何でですか?」
「んー、大雑把に言うと妬みかな?」
妬み。それは人間の中でも醜い黒い感情。
だけど、何で私なんかに?
眉をひそめて、首を捻っていると葵先輩はくすくすと笑った。
アレ? なんかおかしいことでもした?
「いやいや、ごめんね。さっきから顔色がころころ変わる優貴ちゃんがおもしろくて」
そんなに表情に出ていたのだろうか?
だとしたら、恥ずかしい。
「えーと、最近優貴ちゃんって夾に付きまとわれているでしょ?」
「……まあ、はい」
「それで、生徒後援会っていう生徒会公認同好会なんだけど。単純に言えば、学校の有名人について語り合ったりおっかけしたりしましょうっていうファンやミーハーの集まりよ。ちょっと最近、その奴らが不穏の動きっていうか怪しいんだよね。優貴ちゃんもなんか見に覚えない?」
ひょっとして、今日の昼休みのことかな。じゃあ、あの人たちはその生徒後援会の人たちだったんだ。
「えっと、今日の昼休みに話されて……たぶんその人たちだと思います」
そういうと、葵先輩はしばらく何か考えるような仕草をした。
「あー、もう行動に移っちゃってるんだ。なんで、こういう時だけ行動力があるのかな」
ぶつぶつと呟いていて、私のことは気にしていないようだ。これは黙って聞いているべきなのかな。
「しばらく、気をつけたほうがいいよ。逆ギレされるからね」
「はい、分かりました」
話が終わりになってきたところで、私はふと思った。どうして、これを一番最初に質問しなかったんだろう。
「あのっ! どうして、私にこんなことを?」
それが一番の違和感だった。私は葵先輩と接点がないから、葵先輩が私にわざわざ忠告をしてきた理由が分からない。
すると、葵先輩は意地悪そうに笑って言った。
「私の幼馴染が気に入っているのがどんな子か知っておきたかったからね」
「……え?」
きっと私は口をあけたまぬけ面をしているに違いないと思った。
新しいパソコンを買ったので、執筆スピードがこれから上がるはず……です。