開店準備その2
イシューは敷物を庭に広げると庭の隅に立てかけてある『パラソル』というものを運び敷物の端に広げた。これを広げると太陽の光を遮ることが出来てほんの少しだけ涼しくなるのだ。
イシューがパラソルを固定させていると屋敷の中から荷車を引いた少女が出てきた。見たことの無い品物を沢山乗せているため、その足取りは重たい。
イシューは固定させると少女に駆け寄った。
「ミライさん、俺が運びます!」
「…良いの?」
「俺の方が力ありますから」
軽く息を切らせている未来から荷車を引き取り敷物の所まで運ぶと未来は息を整えながらお礼を言った。
「ありがとう、イシュー君」
「これくらい、何てことないです」
イシューは照れたように笑うと荷車から品物を降ろして敷物に並べ始めた。
見慣れない品々を手に取りイシューはしみじみと言った。
「今日も色々ありますね」
「そうね、色々試してみたくて。今日も暑いから飲み物とかも売ってみようかなって思って」
未来はそう言うと荷車から大きな桶を降ろす。触るとツルツルしている不思議な素材で出来ているそれは前にも見たことがあるとイシューは思った。
「確か『プラスチック』ってやつですよね?」
「そうそう、よく覚えてたね」
「…忘れませんよ、俺を洗うときに使ったじゃないですか」
「あぁ…そういえば、そうだったね」
出会った時のことを思い出し二人は顔を見合わせクスッと笑った。
「で、何に使うんですか?」
「ここに水と氷を入れるの」
未来はそう言い庭の隅にある井戸に桶を持って行くと井戸から水を汲み上げた。見たことない仕掛けで動くそれは『ポンプ式』というらしい。
未来は桶をパラソルの下に置くと荷車から青い箱を降ろした。
「ミライさん、それは?」
「これは『クーラーボックス』っていって中の温度を逃がさない様にしてくれるの」
未来がそう言って取り出したのはいくつもの氷の塊だった夏である今の時期に氷を持っていることがどれほど貴重であるか未来はわからないらしく水を張った桶に躊躇いも無く氷を入れようとしたためイシューは慌ててその手を掴んだ。
「ミライさん、何もったいないことしようとしてるんですか!?」
「え、勿体ない…?」
「今に時期に氷がどれほど貴重かわかってます?」
「…あぁ、そうか。そうよね、こっちには冷蔵庫も冷凍庫も無いんだものね」
未来はイシューの言葉に納得して氷を元通り青い箱にしまいこんだ。
それを見てイシューは安堵の息を吐く。
「(ミライさんは世間知らずだから、俺がしっかりしないと)」
「(失敗失敗。こっちじゃ色々不便だってこと、忘れてたわ。気を付けないと)」
二人はお互いの顔を見合わせるとどちらともなく笑みを浮かべる。
「さて、品物広げないとね」
「そうですね」
二人はそう言い合い敷物に品物を広げ続ける。
敷物に並べられたのは市場や商店では見たことの無いものばかりであったが、イシューには見慣れてきたものが多かった。しかし、その中で異彩を放つ存在があった。
敷物の中央に鎮座しているそれは緑色に黒い線の走った何とも禍々しい色合いのそれ。
それは球体をしており、少し触ればコロコロと転がってしまうそれを未来は大事そうに運んでいた。
「…あの、ミライさん。その…緑色のそれは一体…?」
「あぁ、これ? これは『スイカ』だよ。甘くて美味しいよ」
「えっ…た、食べ物なんですか?」
「そうだよ、今の時期に食べると美味しいよ。冷やしてきたから美味しく食べられると思うけど」
ニコニコと笑いながら言われイシューは本当に食べ物なのだと自分を納得させ頷いた。
それ以外に敷物に広げられたのは、貴重な塩や砂糖、蜂蜜。そして胡椒などの香辛料。そして小さな陶器に入れられた果実酒に新鮮なミルク。そして見たことの無い鮮やかな色と甘い香りを放つ果実類。そして先ほどの桶に入れられたガラスではない透明な入れ物に入った飲み物。そしてお茶の葉の各種に、一番高価な商品である薬。熱さましに喉の痛みを和らげるもの、頭の痛みを取るものなど様々な種類を揃えてある。それらを敷物に並べ終えると未来はイシューを振り返りニッコリと笑う。
「さぁ、イシュー君。開店よ!」
「はいっ!!」
さぁ、異世界商店の開店の時間です。




