第320話:小百合の心境
分かりづらいという指摘を受けましたので萬子は一〜九、筒子は①〜⑨、索子は1〜9と表記いたします。
立川南高校麻雀部部室。
「リーチッ!!」
11巡目、莉子がリーチをかける。
最近は和弥や小百合のアドバイスが無くなっても、それなりに打てるようになってきた莉子である。
「じゃあ追っかけっ!!」
同巡、今日子が追っかけリーチ。
やはりアドバイスがなくても周囲は手加減するつもりは一切ないようだ。
「私もリーチッ!!」
紗枝までがリーチしてきた。
「うわ。怖い怖い。あとは3人でやりあってよ」
由香はこの戦いからは撤退したようだ。紗枝の現物、⑤筒を切りだす。
「ツモッ!!」
アガったのは莉子だった。
「メンタンピン・ツモ・ドラ・赤。3,000・6,000で終了です」
「……大分腕が上がってきたな、一ノ瀬」
ソファーから観戦していた和弥も思わず感心する。以前なら牌効率重視の今日子のリーチ攻めに手も足も出ない状態だった。それが今では効率も計算してテンパイを組み立て、アガれるようになった。その姿は見事と言える。
「───ああ、もう。捲れると思ったのに」
今日子は無念そうに牌を伏せた。
「何。いい待ちだったの?」
そう言いながら、由香は今日子を見遣った。口をへの字に曲げながら点棒を回収する。
「負けない自信はあったわよ。ま、こんなこともあるわ」
「2回戦目はこうはいかないわよ」
「2回戦目は私がもらいますよっ!!」
同じく点棒を回収しながら口を挟んでくる紗枝。
「何度も同じ相手に負け続ける訳にはいかないしね。次はもらうわよ」
分かってはいたが、紗枝や莉子相手に今日子が引き下がるハズもない。そのまま4人は次の半荘に移るようだ。
「一応あたしはプラスで終えることはできたよ。プラスと言っても26,200持ちの2着。オカを含めたトータルはたったのプラス6だけど」
───由香の言葉にその時にゲーミングチェアに座っていた小百合は不意に、改めて和弥が打っている麻雀のレート設定が異様なことに気付いた。
|1,000点10,000円ということはたったのプラス6でも、60,000円の収入なのだ。
由香や今日子らがやりとりしている点棒を、まじまじと見つめる。
(1,000点一本が、10,000円……)
思わず、金銭感覚が狂ってしまいそうになる。
「どうしたのさゆりん?」
小百合の様子に気付いたが声をかけてきた。
「なんでもないわ」
と返すと、極力由香とは目線を合わせないようにする。
今更和弥のレートの大きさに改めて気付き、怯んでいたが、自分も高レートに興味を持ち始めている───などとは口が裂けても言えない。
実際打って、どうなるかなどわからない。和弥のように同席している3人を潰し、勝って終わることができるかもしれない。また、逆に自分が潰されてしまうかもしれない。それはやってみなければわからないのだ。
押し潰されてしまいそうなほどの不安と、先へ先へと進みたくなるような好奇心が入り混じったこの複雑な気持ち───これが和弥が高レートを打ち続ける理由なのだろうか。
───勝って嬉しい、負けて悔しいだけの麻雀には興味ない。
小百合はいつぞやの和弥の言葉を思い出していた。
「始めましょう。2回戦目よ」
茫然とする小百合を他所に、今日子の声が響き渡った。




