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第309話:勝負手・4

「やれやれ、第一ツモを引く前からこれだけ場が動いちゃ、あたしたちは大人しくしとくべきかな? ねぇ今日子?」


「あたしに意見を求めないで。自分の好きなように打っていいんじゃない。サシウマとかこっちは関係ないし」


「ツレないなー。同じ立場の者同士、仲良くしよー?」


「仲良く───ね。それじゃ、あたしがオープンリーチしたら一発で振り込んでくれる?」


「ごめんやっぱ無理」


「でしょ」


 引くに引けなくなった小百合と綾乃に比べ、由香と今日子の2人は気楽であるようだ。その打牌にも特徴はない。

 次巡は八索という有効牌を引けた小百合以外の全員がツモ切り。小百合は筒子(ピンズ)落としを完了させることができた上、これでイーシャンテン。

挿絵(By みてみん)

 テンパイとなる一・四索以外の索子を引いた場合は、萬子(マンズ)落としという選択もアリか。


(混一色に一通もつけば、倍満にまで育つわ…)


 そんな期待を抱きながら、小百合はツモ牌に手を伸ばした。

 引いてきたのは索子(ソーズ)でもなければ萬子でもない、初牌の南。發以外はすべて切り飛ばしてやろうと考えていたのだが、その牌を手にした途端、小百合の脳裏に嫌な展開がよぎった。

 字一色───そう都合よく役満が入るワケがない。役満なんて何百局打って一度入るかどうかと言われているのだ。

 しかし、相手は綾乃だ。今の牌勢なら字一色ならともかく、混老頭あたりなら十分ありえる。

 小考の末、小百合は持っていた南を手牌の端に置き、そのまま左へと手を滑らせた。

 無理をする必要はない。萬子を落とし、南を重ねての索子のホンイツ。


(ここはセオリーから考えてもその選択をするべきだわ)


 由香と今日子もやはり、小百合と綾乃の捨て牌を注視しながら安全牌切り。

 現状もっとも場を制していると言える綾乃は、ツモった牌を確認するなり即座に(ホー)に置いた。

 今日子の打牌は一索。間髪入れずに小百合は「チー」と発声し、二・三索を晒して赤五萬を切った。

挿絵(By みてみん)

 理想はやはり南を重ねてのテンパイ。次点に四・七索か八索を引いての南単騎の構えといったところか。いずれにせよ、南を切るつもりは小百合にはない。

 次巡、今日子がまたもツモ切りで四索。小百合は開きかけた口を、一旦閉ざした。

 ───事が上手く運びすぎていると思ったのだ。無論、手牌が短くなれば危険度も増すという論理的な理由もあるが、どちらかといえば、これは第六感からの警告だった。

 しかし、どう考えたって鳴いたほうがいいに決まっている。8切りなら南を切らずに済むし、なにより鳴かなくたって結局南を切らないと決めている以上他に選択はないのだから。

 躊躇うことはない。鳴いてテンパイに取るのがベスト。鳴いくべきよ───


「……すみません。なんでもないです」


 小百合は手を止めてしまったことに対する謝罪の言葉を口にしてから、ツモ牌へと手を伸ばした。

 引いてきた一筒をツモ切りしながら、“なぜ鳴かなかった”と自分で不思議に思う。小百合のその怪訝な思いは、次第に後悔へと変わっていった。

 今日子がもう一度鳴ける牌を切ってくれるとは限らないし、自分で引いてくるという保証だってないのだ。


(そうなれば、私はテンパイすらできない……なのに私は、なぜ見逃したのだろう……)


 ───結局、誰もテンパイできずに流局となった。


「ふう〜」


「なあんだ! 張ってなかったのか部長っ!!」


 由香は大げさに牌を倒す。


「まあ、仕方ないよ。次いきましょ、次」


 しかしこの展開は小百合的にはOKだろう。何となくだが、分かる。綾乃がまたハネ満以上の手を狙っていたのは。

 東2局の今日子の親があっさり流れて、いよいよ東3局。小百合の親である。

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