第292話:部室
和弥と菱崎の対局の日から、一週間が経過した。
いずれにせよ、3連勝のストレート勝ちなのだから、和弥にとっては理想の展開と言えるだろう。
事実、当の和弥もどこか満足した気分になっていた。あの程度のサシウマの額など、紅帝楼の裏賭場ではいくらでも体験出来る。しかしあの緊張感は、普段では到底味わえぬモノを含んだものだった。龍子との戦いのように。
まさか、これが麗美が言っていた麻雀の真髄とやらのことなのであろうか。そうなれば、和弥も既に“焼かれてしまっている”ということになる。
そんなことはない───と否定したい気持ちは山々だ。が、
(麻雀という道で生きていきたいと考え、裏の世界に入る決断をした時点で俺も既に正常ではないと言える気もするな)
自虐する和弥であった。
その日は由香や今日子の他に、紗枝、莉子のような一年生も、ほとんどが部室に集まっていた。
ドラは九筒。
「コレが2枚あるし…こっち切ってリーチですかね?」
ドラとのシャボ待ちで七索を切ろうとした莉子に、和弥がすかさず止めに入る。
「ストップ、一ノ瀬。それはツモ切りだ」
「え? 役はないし、コレでアガれば満貫じゃ…」
「リーチされてからそれを出す奴はいないよ。麻雀はアガれなきゃ意味がない」
「でも自力で引けるかも…」
和弥に怪訝そうな表情を浮かべながら、次巡のツモに手を伸ばす莉子。
「あ……」
「ほらな。そっちが伸びる確率の方が高い。アガリやすい形にしてからリーチの方がいい」
3巡後、莉子はメンピン・ツモ・ドラドラ・裏のハネ満をアガった。
「ねぇ、ここってさ、5時になったら退散しなきゃいけないよね?」
「そりゃあそうでしょ。下校時間だし」
「せいぜい半荘3回が限度ですよね……」
由香の問いに今日子と紗枝が答える。
麻雀面での話をすると、せいぜい2時間なところだとどうしても打てる人間は限られてくる。和弥・小百合・綾乃が遠慮して莉子のコーチに回っている現状、面子がこうなるのは致し方ないだろう。
「だったらセットOKの雀荘に行く? ゲーム代は私が全部持つから」
突然の綾乃の提案だった。
「何もそこまでしなくても…」
恐れを知らない綾乃の発言に、困惑する小百合である。───そういった綾乃を見ているとき、小百合は考えることがある。
(果たして私が部長と真剣勝負したら、どこまでやれるのかしら)
和弥がこの部活に入って間もなく、完膚なきまでの敗北を喫した。しかし、自分で言うのもなんだが、あのときと比べれば自分だって少しは成長しているハズだ。それならば、多少は違った結果になるかもしれない。
機会があれば試してみたいと思う反面、やはり手も足も出ずに潰されてしまうのではないかという恐怖心も確かにある。
それでもいつかは、そんな綾乃と真剣勝負を打つ日が来るのだろうか───と、そんなことを思いながらぼんやりしていた。




