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第291話:麗美の考え

 菱崎はサシウマの金を卓に置くと、早々と紅帝楼(こうていろう)を後にした。

 勝負を見届けた麗美も、菱崎に別に声をかける訳ではなく、ただ去っていく後ろ姿を目で追うばかり。

 結果的には3試合連続のストレート負け。終わってみれば、“いつもの竜ヶ崎和弥”だったのだ。

 一方、当の本人である和弥は平然としている。盗み見た横顔は実に清々しい。


「───どうする? 1人(ワン)欠けだし、部員の敵討ちであンたが入るかい?」


 不意に、和弥が麗美に切り出した。麗美は顔を横に振り、やんわりと否定してみせる。


「遠慮しとくよ。前にも言ってけど、キミとはガチンコで打ちたいから。私も競技じゃなく博徒としての麻雀が打ちたいし」


「ほう……」


「負ければ、今まで積み上げてきたものすべてが一瞬にして無に帰してしまう。しかし勝てば、その危機からは脱することができる。その一瞬の解放感こそが、麻雀の醍醐味だと思ってるし」


「……確かにな。麻雀なんて負けた方が破滅するから面白いと思っている」


「ふふ、理解してもらえたようで嬉しいよ」


「………」


 相変わらず不敵な麗美の笑みであった。


「私はキミのようにそこらの有象無象相手に、接待麻雀打つのが苦手でね。やるなら3人飛ばして終わるような勝ち方が好きなんだ。そっちの方がスカッとするでしょ?」


「……それは確かに気持ちいいな」


「あるいは3人リーチをかいくぐってアガッた時とか。危機を脱したときの快感───それは一度病みつきになってしまえば、求めずにはいられなくなってしまうものなんだよ」


 彼女の話に納得しかけていた和弥であったが、不意に現実を思い出した。


「でもその割には、後輩が3連敗するのをそのまま見逃していたようだが?」


「私は敗者にいちいち慰めの言葉をかけたりしないよ。敗北の屈辱もまた、次の勝負への高揚感に繋がる。それがもてないなら彼は所詮それまでだってことだよ」


 麗美とこんなに話すのは初めてだ。和弥は思わず聞き入った。


「次こそは負けない。前回の反省点を改め、新たな知識を身につけたり有効な戦略を考えたりする───そのように勝利に向けて試行錯誤するのもまた一興といえるのんじゃないの。少なくとも、私はそう考えているけどね」


「ふーん……」


「ふふ……別に賛同なんて求めちゃいないよ。麻雀に対する人の考えは十人十色───理解される必要なんてないしね」


 麗美は再度不敵な笑みを浮かべながら言った。

 麻雀の魅力に囚とらわれてしまった、常人には及ばぬ考え。正直、2人の会話は普通の人間には理解はできないだろう。

 それでも和弥は、見習いたいと思える点はあった。どれだけ手痛く負けても腐らず、人に八つ当たりすることもなく、ただ次の勝利のために前を向いて生きていく

 馬鹿馬鹿しいと言われるかもしれない。しかし、菱崎も泣き言を言わずさっさと金を置いて帰っていった。


「んじゃ、俺もここで洗い時にするぜ。何か勝負する気を無くしちまった」


「おいおいカズちゃん、そりゃないぜ」


「もう抜けるのかよ」


 サラリーマン2人の言葉に、和弥は静かに「すいませんね」と返して紅帝楼を後にするのだった。

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