第285話:振り代え
「ツモ! ホンイツ・三暗刻でハネ満!!」
菱崎が南を掴んだ巡からずっと下家はツモ切りを続けていたので、その時点で南は暗刻であったということになる。つまりはあの時に南を手放していたら、同巡に相手がツモ切った四筒で満貫をアガれていた。
(いや、そうとも限らないか…このレベルの下家なら、南を大明槓した可能性だって少なからずは考えられるものね)
そうなればツモが変わり、また展開も変わっていたハズ。
麗美が見学した半荘は、このような展開が非常に多かった。下家が好調だったということもあるかもしれないが、微妙に切りづらい牌が頻繁に菱崎の手元にやってくるのだ。
(まあでも、凡人なら勢い任せに叩き切ってしまう牌を、菱崎くんはしっかりと止めているね。前回の国士はマジで不運としか言いようがないよ)
無論、それはいいことばかりではない。先ほどの南のときは大明槓の可能性があったのでわからなかったが、そのあとの局にて、確実にアガリを逃したと言える局面がいくつかあった。当然、そんなものはただの結果論に過ぎないが。
とにかく麗美が思ったのは、私が打っていたらアガリをものにできた局もあっただろうが、逆に相手のアガリを誘発してしまっていた局もあったということだ。
(それにしても3回戦目、竜ヶ崎くんは大人しいね。新一さんみたいにここから一発逆転狙ってるのかな?)
息を潜めているような和弥の打ち方もまた正解なのか。いや、そもそも正解なんてないのかもしれない。どんな選択をしようと、気まぐれな牌の並びによってその成否は紙一重の差で変わってしまうものなのだから。
ハネ満をアガられたとはいえ、菱崎の好調さは止まらない。
東3局。ドラは五萬。
「リーチ! ケリ付けてやるぜ!!」
9巡目に7,700聴牌のリーチをかける。
困った様子なのは下家だ。
今一度、菱崎の捨て牌を確認する。
(あの捨て牌に四・七索は切れない…。雀頭を振り代えるか…)
現物の四筒を切り飛ばす下家。それを和弥がすかさず鳴いた。
「チー」
西を切る和弥。今度は下家はスジの七筒を切り、またも和弥がそれを鳴く。
「チー」
12巡目。
「ツモ。500・300」
「チ…」
舌打ちをする菱崎。
「リー棒が無駄になったな」
点棒を受け取った和弥は、牌を収納口に落としていく。




