第272話:判断
南4局。いよいよ小百合の親である。ドラは五萬。
「悪いがこのまま逃げ切らせてもらうぜ」
完全に自信を取り戻した筒井が、ドヤ顔で小百合に話しかけた。
「10,700点差よ。7,700直撃か3,200オールで逆転でしょう」
筒井の挑発も気にしないと言わんばかりに、収納口にゆっくりと牌を落としていく小百合。
「へっ、オーラスもサクッと流してやるぜ」
異様な雰囲気の中、オーラスが開始された。
小百合は配牌時点で六・七筒以外が全て混一色、いや清一色まで狙えそうな関連牌。さらに、第一ツモが五索だったので仕掛けやすくもある二向聴に。
打点、形、スピード、すべてが及第点に達している。これが和了れなかったら───本当に覚悟を決める必要があるだろう。小百合は緊張をほぐすために小さく息をついてから、白を切ってスタートさせた。
他家を警戒させないために第一打はブラフ気味に白を並べたのもあるが、ラス親なので今更だ。それに今の状態ではどんな裏目を引くかわかったものじゃない。
小百合の第一打を見て、同卓している3人はやはり目の色を変えた。弱っている者の復活を妨げるのは麻雀のセオリーである。
(この局、3人はおそらく全力で親落としに来るはずだわ)
しかし、この手なら3人の猛追をも振り切って和了りきる自信がある。ドラの五萬、役牌は厳しいかもしれないが、ポン、五・八索のチーは比較的容易く行えるハズだ。索子の染め手と一点に読まれてしまえば難しくはなるが、いくらなんでもこの最序盤では読みようがないというものだろう。
1巡目は小百合を除いた全員が、索子ではない老頭牌切りだった。
(これから索子は絞られるかも…厳しい戦いは覚悟の上よ)
一方、菱崎も愚形ながら手は整いつつあった。
3巡目に引いてきたのは、四索であった。小百合は思わず、心のなかで安堵の溜め息を漏らす。変にブラフを打っていたら、早速捨て牌に2枚の白が並ぶところだった。
6巡目。小百合は早くも聴牌。
(張った……。でもここで平和の聴牌なんてしても意味はないわ…。親満狙いよっ!!)
チンイツ狙いで筒子を落とし、向聴を戻していく小百合。
(この女…索子の染め手か…)
菱崎は流石に警戒の色を強める。
一方、筒井の方はチグハグなツモに苦戦していた。
(クソ…切った牌にばかりくっつきやがって…)
イライラが募り、思わず四索を切ってしまう。
「ポン」
小百合はすかさず四索を鳴き、二・五・八索の三面張の聴牌に取る。
「あ…」
筒井はしまった、という表情をするがもう遅い。それを見て奥歯を噛み締める菱崎であった。
(何やってんだよ先輩!? 和了れないならせめて大人しくしておけよ……。この女が仕掛けたってことは、間違いなくホンイツかチンイツの聴牌だぞ)
菱崎のツモ番。赤五萬を暗刻にしてのドラ4の聴牌。
(ニ筒は一枚見えてるが…残りは三枚とも山に生きてる…。第一ここは猶予がないっ!)
二枚目の一筒に手をかける菱崎。
「リーチッ!! そんな簡単には和了らせないぜ」
『リーチデス』という女性の電子音が部室に鳴り響く。ギャラリーたちは息を飲んで、この対局を見守っていた。
麻雀の神はどこまでも意地が悪いらしい。8巡目。小百合が引いてきたのは、問題の二筒であった。
(この二筒さえ通れば私の勝ちだわ……けど……)




