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辺境伯令嬢ファウスティナと豪商の公爵  作者: 桜井正宗


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2/7

運命の出会い

 エル・ドラードは、アンティークな内装で木の良い匂いがした。

 広がる宝石と貴金属の商品。


 ダイヤモンドやエメラルド、ルビーが煌めく。……なんて綺麗なの。


 金や銀、プラチナまで取り扱っているんだ。


「素敵なお店……」

「まだ初めて一週間も経っていないけどね」

「そんな最近なのですね。ところで――」


「ああ、そうだった。僕はエゼル。ご覧の通り、貴金属店を営んでいるよ。君の名前は?」


「わたしは、ファウスティナ。ただのファウスティナです」

「ファウスティナ……? 君はあの辺境伯のご令嬢だね」


 彼は、エゼルは少し驚いた口調で言った。


「御存知でしたか」

「もちろん。君は“聖女”とも名高いからね、有名だよ。確か……金を作れるんだって?」


 わたしは、まだ彼を信用したわけではない。

 本当のことを言うか、嘘をつくか悩んだ。でも、彼の視線を前にすると、なぜだか嘘はつけなかった。


 だから本当のことを言った。



「そうです。魔力を使い、黄金を作れるのです」

「それは凄い。けど、その力を狙う者も多いだろう」


「……はい。今日も実は無理矢理、婚約させられたりして……耐えられなくなって家を飛び出して来たんです」


「そうだったのか。それは辛かっただろう。君がよければ、しばらく店を使うといい。このお店は、住み込みの従業員を雇おうと部屋がいくつかあってね」


「いいのですか……見ず知らずのわたしに」



 エゼルは「構わないよ」と即答した。

 その微笑みは宝石のように美しく、尊いものだった。……優しい人なのね。


 世の中には、こんな親切な男性もいるんだ。


 嬉しくて涙が零れ落ちそうになった。

 けれど、わたしは堪えた。


 今、泣いている暇はないから。



「あの、助けていただいたお礼がしたいのです。どうか、黄金を受け取っていただけませんでしょうか」


「いや、気持ちだけで十分だ。僕は、黄金が欲しくて君を助けたわけではないからね。純粋に君を……ファウスティナさんを助けたかったから、手を差し伸べたんだ」


 木漏れ日の太陽の日差しのような暖かい笑顔を貰って、わたしの中の時が止まった。

 それから、ドキドキして。

 視線が合わせられなくなった。


 こんな気持ちになったのは初めてだ。


「あ、あの……エゼル様」

「様はいいよ。ただのエゼルでいい」

「いえ、助けていただいた恩人を呼び捨てなど出来ません。ぜひ、エゼル様と……ええ、それが好ましいですっ」


「そ、そうか。ちょっと慣れないけど、僕はファウスティナって呼んでいいかな」

「とても嬉しいです……とても」



 エゼルは、わたしの足を診てくれた。

 まるで宝石を扱うように丁寧に触診してくれた。


 そんな幸せの最中、お店のドアが乱暴に開く。……な、なんなの?



「お邪魔するわ、エゼル様。……って」



 ズカズカとお店に入ってくる小柄な少女。

 派手なドレスに身を包み、鷹のように鋭い目つきをわたしに向ける。なんで妹がここにいるの。



「エレイン!」

「お姉様……なんでエゼル様のお店に。ていうか、屋敷から逃げ出したって聞きました。お父様の顔に泥を塗られたとか。

 となれば、もうお屋敷にはいられませんね」


「勝手に婚約されたのです。それに、もう家の為に黄金を作りたくはない」

「残念ね。邪魔(・・)なお姉様が伯爵の元へ行ってしまえば、私はエゼル様と幸せを手に入れていたのに」


「な、なんですって!」


「エゼル様は、公爵様よ。知らなかったの? ねえ、エゼル様」



 愉快そうに笑うエレインは、エゼル様の腕に絡みつこうとした。


 けれど。



「やめてくれ、エレイン。僕は君に興味がないと言っただろ」

「……っ! まだ私とのお付き合いを考えて下さらないの……」


「無理だ。天変地異が起こっても不可能だ」



 バ、バッサリね。

 痛快なほど冷たく突き放すエゼル様の態度に、わたしはホッとした。

 良かった、少なくとも二人に深い関係はないようだった。


 エゼル様は、わたしを再び抱えてくれた。


「部屋へ行こうか、ファウスティナ」

「……喜んで」


 わたしとエゼル様のヤリトリを傍で見ていたエレインは、悔しそうに唇を噛んでいた。

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