婚約破棄
「ファウスティナ、君は聖女の力で“黄金”を作れるんだって?」
父・ギャレットが連れてきた男性は、悪名高き伯爵エルズワース。
わたしに興味津々で、勝手に『婚約』まで進められていた。
お父様ってば……勝手なことを。
「は、はい。ですが、黄金を作りすぎるとその価値も下がってしまいます。それに、魔力には限りがありますから」
価値のことは本当だった。
けれど、魔力の限りがあることは嘘だった。
わたしには膨大な魔力があった。
子爵の娘に生まれた、わたしは聖女としての力も宿していた。その力は“黄金”の生成だった。
池ほどの魔力を消費する代わりに、本物の金が作れた。
この力のおかげで没落貴族になりかけていた家を再建。
お父様は、わたしの黄金を皇帝陛下に献上することにより、辺境伯の地位まで上り詰めたのだ。
けれど、帝国が定める成人年齢・十八歳にもなれば、わたしは黄金がいかに貴重なものか理解できた。
金は人を幸せにするものだけど、不幸にもする。
作り過ぎればバランスの崩壊を招き、やがて戦争さえ引き起こす。それはある貴金属店を営む男性が口にしていたという警鐘でもあった。
「素晴らしい。素晴らしいよ、ファウスティナ! ぜひ、俺と結婚してくれ!」
「…………」
正直、わたしは嫌だった。
伯爵の評判は、悪い噂ばかり。
民から食べ物だけでなく、生活用品、宝石類、貴金属類を巻き上げてるって聞いた。そんな悪人と結婚だなんて……死んでも嫌。
「どうした、我が娘・ファウスティナ。嬉しさのあまり、言葉を失ったかな」
「お父様……そうではありません。わたしは、空いた口が塞がらないだけです」
「なんだと! 伯爵に失礼だろう。お詫びを申し上げるのだ」
「お断りよ! それに、伯爵様。一方的な婚約は不信感しか抱きません。望まぬ結婚なんて……人生の汚点にしかならない」
ハッキリ申し上げると、伯爵は顔を真っ赤にして憤慨した。
「ファウスティナ、貴様……!」
「あら、これは大変な失礼を。でも、この程度で動揺される器とは……どのみち近い将来破綻していたことでしょう。婚約破棄してくだいませ」
わたしは背を向けた。
お父様の静止を振り切り、そのままお屋敷を飛び出した。
――アテもなく帝国の街中を彷徨う。
なにも持たずに出たから、お金もなかった。
けれど大丈夫。
わたしには“黄金”を生成する奇跡の魔法がある。
適度に売ればお金になるし、生活には困らない。
だから、まずはどこかで金を売って……。
「きゃっ」
変なところで躓いて、わたしは倒れた。
……痛っ。
足を挫いてしまったみたい。
足を擦っていると、目の前にあったお店の中から人が現れた。……青空のような爽やかな顔をした男性だった。
とても整った容姿をしていて、けれど、どこか儚げ。
背が高く、金の髪が風に靡いていた。
「君、大丈夫かい」
「えっと……その」
「足を挫いたのかな。どれ、エル・ドラードで診てあげよう」
「エル・ドラード?」
「僕のお店さ。宝石や貴金属を扱っていてね。ともかく、中へ」
いきなりお姫様抱っこされてしまい、わたしは一瞬で顔が熱くなった。
見知らぬ男性にこんな風に運ばれるだなんて……。
でも、すごく嬉しかった。




