邪悪な来訪者
登場人物
ハルナ:どこにでもいそうな女の子と見せかけて実は魔法少女。魔法の腕輪“マジカルチェンジャー”を使って変身し、魔法の拳銃“マジカルブラスター”を使いこなす。
カーター:ハルナのパートナーであるネコのような容姿を持った妖精の男の子。持ち前の明るさと豊富な知識によりハルナの戦いをサポートする。
ミサキ:ハルナの先輩とも言える魔法少女。今は戦うことが出来ない。
キャサリン:ハルナのパートナーでありカーターの双子の姉に当たる妖精。
クローディオ:闇の皇子。時期尚早として世界の破壊に否定的な態度を示している。
クローディア:闇の皇女。
ソリーサ:闇の幹部。闇の魔法で世界を脅かす。
シン:闇の幹部。闇の機械で世界を脅かす。
ケミル:闇の幹部。闇の薬で世界を脅かす。
ゼノ:闇の幹部。宇宙より邪悪な意思を持つ者を呼び寄せて世界を脅かす。
イオ:闇の幹部。闇の生物兵器で世界を脅かす。
その日、ハルナはミサキと会っていました。
「調子はどう、ハルナちゃん?」ミサキが訊ねました。
「う~ん、まだ不安もあるけど、何とかやってます!」ハルナが答えました。
「そう。良かったわ。」ミサキが言いました。
「ありがとうございます!」ハルナが言いました。
「ところでなんですけど……。」ハルナが続けて言いました。「昨日の私の戦い、どこかで見てませんでしたか?」
「えっ……?」ミサキがほんの少しだけ驚いた表情をしました。「何のことかしら……?」
「いえ……その……。」ミサキの反応にハルナは少しだけ慌てました。「いや……何というか、誰かに見られてたような気がして……。ひょっとしたらミサキさんが私のこと見守ってくれてたんじゃないかな~なんて……。」
「ゴメンなさい。そこまではしてなかったわ。でも、ハルナちゃんが望むなら、いつでも見守っててあげるから……。」ミサキも少しばかり困惑した様子で言いました。
「いえ……こっちこそゴメンなさい!なんかおかしなこと聞いちゃって……。大丈夫です、ミサキさんの手を煩わせなくとも戦い抜いてみせますから!」ハルナが取り繕うように言いました。
「フフッ、頼もしいわね、ハルナちゃん。」ミサキが笑顔で言いました。
「ありがとうございます、ミサキさん!」ミサキの笑顔を見てハルナは冷静さを取り戻しました。「それにしても、誰が見てたんだろう……?私の気のせいかな……?」
「きっと戦いで疲れてたからじゃないかしら?」ミサキが言いました。
「う~ん、ノイローゼかも……。」ハルナが落ち込んだように言いました。
「大丈夫、私がついてるわ。ミサキちゃんが困った時には出来るだけのことをしてあげるから……。」ミサキが優しく言いました。「お茶でも飲みましょう。ごちそうするわ。」
「あっ、だったらラベンダーが良いです!」ハルナが急に元気になりました。
別にハルナはラベンダーが好きという訳ではありませんでしたが、前回の戦いにおけるハルナの心理をご存知の読者にはこの時のハルナがラベンダーを欲した理由をお察し頂けることと思います。
「ラベンダーってパニックに効くんですよね!」ハルナが言いました。
「えっ……?ええ……。」ミサキはハルナが急に元気になったことを怪訝に思いましたが、この際ハルナが元気になったのであればその理由にはこだわらないことにしました。
その頃、闇の神殿では闇の幹部達が話をしていました。
「シンが自身の領域に篭り切りなのは知っているが、イオはどこへ行った?」ゼノが言いました。
「地上で活動をしているようだ。」ケミルが答えました。
「地上に……?」ゼノが言いました。
「どうやら地上にある古い屋敷で何か行っているらしい。」ケミルが言いました。
「皇子と言いイオと言い、何を考えているのやら……。」ゼノが呆れた様子で言いました。
「そういうお前は何か考えてんのか?」ソリーサが口を開きました。
「ん……?」ゼノが言いました。「お前の方こそ、人間へのリベンジは考えていないのか?」
「生憎だがオレは楽しみを後にとっとくタイプなんでな……。」ソリーサが楽しそうに言いました。「ひとまずのところはお前らの楽しみを見させて貰うことにするぜ。」
「フン……。」ゼノが言いました。「あまり悠長に構えていると、お前が楽しむ前にこの私が世界を滅ぼすかも知れんぞ。」
「ほう、やっぱ何か考えてるのか?」ソリーサが訊ねました。
「フッ……。」ゼノが言いました。「間もなく俺の力によって引き寄せられた邪悪なる者が彼方より姿を現す。その者がこの世界に大いなる破壊と混乱を齎すであろう。」
「ソイツは面白そうだぜ。」ソリーサが言いました。
「見物したければ好きなだけ見物をしているが良い。それなりの見世物になるぞ。」そう言い残してゼノがその場を離れました。
ハルナとミサキがティーハウスのテラス席でハーブティーを味わっていました。
ハーブの香りをしっかりと堪能しているミサキと対照的にハルナはその飲み物の独特な風味に慣れずにいましたが、それでもミサキの手前、努めて美味しそうにそれを味わうフリをしていました。
そんな中、空の彼方より一機のが飛来しました。
「……!」そのUFOに気付いたミサキが驚いた素振りを見せました。
「アレは……!」自らがリクエストしたラベンダーの香りのおかげか、或いは演技に必死だったらか、何故かその驚くべき出来事に対して冷静さを保つことが出来ていたハルナは、驚いたフリをしてその慣れない風味の飲み物が注がれたカップを床に落とそうかと考えましたが、それをやるのはせっかくごちそうをしてくれたミサキに対し申し訳無いと思ったのと、どの道その飲み物を飲んでいる時間は無いであろうことに気付いたことでその考えを実行に移すことを止め、ゆっくりとカップをソーサーに戻しました。
ミサキも、その想定外の事態を冷静に受け止め、しっかりとカップをソーサーに戻しました。
「ハルナちゃん……!」そしてミサキが言いました。
「はい!」ハルナが構えました。「変身!」
ハルナがマジカルチェンジャーで変身しました。
「気をつけて、ハルナちゃん!」ミサキが言いました。
「はい!」ハルナがジャンプしてその場を離れました。
そのUFOはとある通りに着陸しました。
通りにいた人々が困惑した面持ちでそのUFOを見つめる中、そのUFOから一体の怪人が姿を現しました。
「フン、弱そうな住人達だ。」
その怪人の正体は宇宙の遥か彼方に存在する惑星の一つであるマツバークからやって来たマツバーク星人のネクロフでした。
「お前達に恐怖を味わわせてやる。そしてお前達はこの俺に服従するのだ!」そう言ってネクロフは銃を構えました。
「ハアッ!」ネクロフが放った炸裂弾が通りにいた人々に絶望を齎しました。
「ハッハッハッハッハッ!」ネクロフは攻撃を続けました。
近くにある建物の屋上からゼノがネクロフの様子を眺めていました。
「フン、なかなかの悪党がやって来たな。或いは奴一人でこの世界を滅ぼせるかも知れん……。」
暴れ続けるネクロフの元にカーターと合流したハルナが駆けつけました。
「ん……?」ネクロフがハルナ達に気付きました。
「コレは……!?」ハルナがその惨状に驚愕しました。
「貴様……この星の兵士か……?」ネクロフが訊ねました。
「あなたこそ何者……!?」ハルナが訊ねました。「宇宙人……?この星を侵略しに来たワケ……?」
「俺はネクロフ。ここから遥か彼方にあるマツバーク星からやって来た。」ネクロフが答えました。
「ネクロフ……!マツバーク星……?」ハルナが呟きました。
「この星の住人達はこの俺が支配する。その為にはまず恐怖に訴えてやる必要がある。」ネクロフが言いました。
「その為にこんなことを……!」カーターが言いました。
「恐怖に訴える……。」ハルナが呟きました。この時ハルナは母親や学校の先生のことを思い浮かべていました。「うん……確かに効果的な手段かも……。」
「ハルナ、この世界を守る為にアイツを阻止しなくちゃいけない!」カーターが言いました。
「うん!」そう答えた直後にハルナはふと考えました。「でも……。」
「ん……?」ハルナの様子にカーターが首を傾げました。
「マツバーク星の住人を倒しちゃったりして、後で問題にならないかな……?」ハルナが言いました。
「問題……?」カーターが訊ねました。
「マツバーク星から損害賠償を請求されたりしない?」ハルナが言いました。
ハルナはハルナの言うところの“効果的な手段”によってそれなりに勉強に励んでいましたので、日本の歴史において外国人を無礼討ちした後に何が起こったかを知っていました。そしてハルナはこの状況をそれに当てはめて考えていました。
「その時はその時だよ!」カーターが少しばかり苛立った様子で言いました。「今はヤツを何とかしないとどの道この世界は終わりだ!」
「うん……。」ハルナが申し訳無さそうに言いました。この時ハルナは自分が全く以って見当違いな発言をしていたことに気がつきました。
「それにしても……。」ハルナが取り繕うように言いました。「マツバーク星の言語って日本語なのかな……?どこで日本語を覚えたんだろう……?」
「あっ……。」カーターがふと考え込みました。結局のところカーターも細かいことが気になってしまう性分なのです。「宇宙人のことはよく分からないや……。」
「戦いに来たんじゃないのか?それともこの俺を前にして怖気付いたか?」ネクロフが口を開きました。
「……!」ハルナとカーターが我に返りました。
「今なら降参を認めてやっても良いぞ。大人しくこの俺と服従の契約を交わせば痛めつけないでやろう。」ネクロフが言いました。
「誰も降参なんてしないよ!あなたを阻止してこの世界を守ってみせる!」そう言ってハルナがマジカルブラスターを構えました。
「ならば死ね!ハアッ!」ネクロフが銃を発砲しました。
「……!」ハルナがすかさず横に跳んで飛んできた炸裂弾を回避しました。炸裂弾がハルナの立っていた地面で炸裂しました。
ネクロフが連続で銃を撃ち続けました。ハルナは次々と飛んでくる炸裂弾をかわし続けました。
「ハアッ!」ハルナが跳びながらマジカルブラスターを発砲しました。
ハルナの放った魔法弾がネクロフの手に直撃しました。
「うあっ……!」ネクロフは銃を落としました。「くっ……!」
「ハアッ!」ハルナがマジカルブラスターを連続して撃ってネクロフを攻撃しました。
「うああっ……!」ネクロフが魔法弾を受けて怯みながら後退しました。
「クソッ……!この俺がこんな遅れた文明の住民に押されるとは……!」ネクロフがUFOへと逃げ込みました。
「逃がすもんか!」ハルナがネクロフを乗せて宇宙へと飛び立とうとするUFOに向けてマジカルブラスターを撃ちました。
「うおっ……!」魔法弾を受けてネクロフの乗ったUFOが墜落しました。
「トドメ!」ハルナがそのままマジカルブラスターに魔力をチャージしました。
「何……!?」墜落したUFOから抜け出したネクロフが驚いた様子を見せました。
「マジカルブラスト!」
「うあああああああっ……!」ハルナの攻撃を受けてUFO諸共ネクロフが爆発しました。
「やった!」ハルナが喜びの声を上げました。
カーターも安堵の表情を浮かべましたが、すぐにその顔を強張らせました。
「何か来る……!」カーターが言いました。
「えっ……?」そう言ったハルナが後ろを振り返りました。
ハルナの後ろにゼノが立っていました。
「お前は……!?」カーターが言いました。
「あなたも宇宙人……?」ハルナが訊ねました。
「いや、違う……!アイツからは闇の力を感じる……!」カーターが言いました。
「えっ……?」
「会うのはこれが初めてだな、魔力を持った人間。」ゼノが言いました。「私はゼノ、闇の幹部の一人だ。」
「ゼノ……。」ハルナが呟きました。
「私が招待した悪党をこんなにも早く倒してしまうとは……やってくれるな。」ゼノが言いました。
「あなたがアイツを……?」ハルナが言いました。
「ネクロフはコイツの闇の力によってこの星に呼び寄せられたのか……!」カーターが言いました。
「いかにも。マツバーク星は治安の悪い星で悪党も多い。宇宙を彷徨っていた悪党の一人がこの私の闇の力に引き寄せられたという訳だ。」ゼノが言いました。
「なるほど……。」カーターが言いました。
「せっかくだからお前達の抱く疑問にも答えてやろう。」ゼノが言いました。「先も言ったようにマツバーク星は治安が悪い。住人一人を倒したところで仇討ちを考える者もいないであろうし、そもそもあの星の住人がヤツの敗北を知る由も無い。そしてヤツの話していた言葉だが……。」
「そんな疑問にも答えてくれるの……!?」ハルナがゼノの言葉を遮り意外そうな様子で訊ねました。
「ああ。」ゼノが答えました。「私の力についてお前達に知っておいて貰うのも悪く無い。」
「ヤツの力……。」カーターが言いました。
「私は遥か彼方に存在する悪党を引き寄せることが出来る。私の力に引き寄せられた者は闇の力により思考を操られ、この星を目指し始める。それと同時にこの星の住人との意思疎通も可能になる。」ゼノが言いました。
「なるほど……。」ハルナが呟きました。
「でも、ネクロフの目的はこの世界の破壊じゃなくて支配だった。それは厳密にはお前達の目的に反するんじゃないのか……?」カーターが訊ねました。
「そうだな。私の力では悪党を呼び寄せることは出来ても根本的な邪悪さまでには影響を及ぼすことが出来ないようだ。だが、邪悪なる意思を持つ者が現われることは少なからずこの世界を破滅へと近づけるだろう。」ゼノが言いました。
「くっ……!」カーターが言いました。
「さて、そろそろ時間のようだな。」ゼノが言いました。
「時間……?」ハルナが言いました。
「時間って、まさか……!?」カーターが言いました。
「そう。次なる悪がこの星へと現われる。お前達は気付いていないが、既に多くのエイリアン達が我が力により引き寄せられ、この星へと迫っているのだ!」ゼノが言いました。
「そんな……!」ハルナが言いました。
次の瞬間、空の彼方より一体の怪獣が地上に姿を現しました。
「これは……!」カーターが言いました。
その怪獣が街を破壊し始めました。
「ヤツはメゾーゾ星の住人だ。メゾーゾ星には文明が存在せず、知能の低い生物が本能のみで破壊を繰り返している。ヤツはメゾーゾ星の住人の中でも特異な進化を遂げており、宇宙を飛び回る能力を身につけていた。よって我が力により引き寄せられ、この星へと姿を現したのだ。」
知性を持たず名前すら無いその怪獣を宇宙人と呼ぶことは語弊がありますが、ここでは便宜上その出身星に因んでメゾーゾ星人と表現することにしましょう。
メゾーゾ星人によって瞬く間に街が破壊されていきました。
「果たしてお前にヤツを止めることが出来るかな?」ゼノが言いました。
「やってみせるよ、絶対に!」ハルナが言いました。「マジカンダー召喚!」
マジカンダーとメゾーゾ星人が対峙しました。
「リストバルカン!」マジカンダーが右腕の機関砲でメゾーゾ星人を攻撃しました。
機関砲から放たれる魔法弾を受けてメゾーゾ星人が怯みました。
メゾーゾ星人が口から光線を吐いてマジカンダーを攻撃しました。
「うわああっ……!」マジカンダーが怯みながら後退しました。
メゾーゾ星人が大きな鳴き声を発しました。そしてメゾーゾ星人がマジカンダーへと向かっていきました。
「ハアッ!」マジカンダーが左腕の機関砲でメゾーゾ星人を攻撃しました。
マジカンダーの攻撃を受けてメゾーゾ星人が足を止めましたが、すぐさま体勢を立て直して再びマジカンダーに向かい出しました。
メゾーゾ星人がマジカンダーに迫りながら大きな鳴き声を発しました。
「ハルナ……!」マジカンダーのコックピット内にカーターの声が響きました。
「かくなる上は……!」ハルナが操縦桿を強く握り締めました。「ラスティング・バースト!」
マジカンダーが迫り来るメゾーゾ星人に向けて両腕の機関砲を同時に発射しました。
絶え間無く放たれる魔法弾を受けてメゾーゾ星人が鳴き声を上げながらもがきました。
「ハアーッ!」マジカンダーが機関砲を撃ち続けました。
魔法弾を受け続け、メゾーゾ星人は鳴き声と共に爆発しました。
「メゾーゾ星人を倒しただと……!?」ゼノが驚いた様子で言いました。
「だがたとえメゾーゾ星人の脅威を退けたところで全ての脅威を退けたことにはならない。宇宙には計り知れない程の悪意が存在しているのだ。いつの日にか次なる脅威がこの世界に訪れるであろう。」ゼノがそう言い残して姿を消しました。
とある建物の屋上でハルナとカーターが落ち合いました。
「ヤツの言う通りなら、いつかまた邪悪なエイリアンがこの世界に現われる……。」カーターが言いました。
「そうだね……。」ハルナが言いました。
「でも、邪悪があるのと同じように、この世界には正義がある。どんな邪悪がこの世界に姿を現そうとも、この私が阻止してみせるよ!」
こうしてこの日もハルナは世界の平和を守ったのでした。