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2   神との対峙

 死後、幸は白紙の空間にいた。そして姿形の判然としない【神】が目前にいた。


 すぐそばの空間に動画が映し出され、音響も発生する。幸の自殺後、その亡骸を母親が発見したときのものだった。はなはだ無念で言葉も出ず、ただ嗚咽おえつを漏らすばかりだった。幸はただただ申し訳なさを感じた。


神「せっかく与えた命を粗末にする愚か者め。そのために誰かを哀しませ、苦しめることになる」

 と、神からの叱責を受けた。


幸「

――せっかく与えた命? ……愚か者は貴方の方です!

 貴方が原因で、どれほど私が苦しんだと思っているんですか!

 それなのに貴方は自分を棚に上げて、私だけが悪いかのように云う。それじゃあダメなんです。

 神である貴方が、行動を改めなければ、いけないのです!

 積りに積もった幸の怒りは爆発した。幸はさらにまくし立てる。


幸「

 そもそも、なぜ生きる意欲も意志もない私をあの世界に送ったのですか!? それこそが私を苦しませた最大の原因です。

 なぜ幾度も幾度も『楽にさせて欲しい。消して欲しい』と祈り続けたのに無視したのですか!

 貴方が、そのような対応しか取れないならば、私はもう存在したくありません。また生きようなどと思うはずがありません。

 もう、いい加減に、私を無に帰してください!!

 幸は渾身で訴えた。神はそれを黙って聞いたのち、「それは、すまなかったな」とだけった。


   ――


 幸は疑問を呈する。

幸「

 なぜ世界を作った張本人でありながら、その中で苦しむ人間を放置していたのですか?

 結局は『苦しませること』が目的だったのではないですか?

神「

 そうではない。神とて全能ではない。どうしようもないことも、あるものなのだ。

 下界の者たち自身の力を信じ、何とか乗り越えられるよう祈りをささげる他ないことも多い。

幸「

 貴方が作り出した世界じゃありませんか!

 満足に管理も出来ないのなら、いっそ消してください。

 その世界にしか存在できない者にとっては、辛いばかりです。

神「

 そうもいかない。あの環境下でも頑張って生き抜く生物も多様だ。それを全て、なかったことにするなど、命を張った者たちに申し訳が立たない。

 君は単に、世界との相性が悪かったのだ。よって、今度送る先は、神の力が行き届いた世界にしよう。

幸「それは、つまり、どういうことです?」

神「

 前回よりも、はるかに難易度の低い――つまり易しい世界だ。

 その新しい世界へ、君を送ろう。

幸「それを断り、自らの完全な消滅を願うのは?」

神「残念ながら受け入れられない。その点は、そういうものだと理解してくれ。」

 幸は、しばし沈黙した。

神「覚悟は決まったか?」

幸「いいえ」

神「だが他に選択肢はないぞ」

幸「

 またですか!? また、こちらの意思を汲まず、勝手に選択肢を用意し、それしか選べなくする――

 また苦しむばかりの人生を歩ませる気ですか!?

 ……そういうのが、もう、こりごりなんです。

神「分かった。申し訳ない。だが仕方ないのだ」

幸「

 何度も云うようですが、そういうやり方を取るからこそ、私は、もういいと云っているんです。これでは、もう生きる気は起きません。早く、私を、消してください。神である貴方が、信用ならない……というよりは、頼りないのです。

神「

 それは前回の世界が、神の力が及ばなすぎる、加護の乏しい世界だったからだ。

 あの世界で私は、云ってみれば設計者に過ぎないと云った所。運営は、その世界のシステムそのものが行っており、神ですら、指をくわえていることしか出来ない有様だった。

 今度の世界では、そのようなことはない。その一例として、今度、君が病気で苦しむようなことはない、と保証しよう。


 その一点は、幸の関心を惹いた。

幸「

 え、病気にならない? それは、一生ずっと、病苦に苛まれることなく、完全に健康でいられる、ということですか?

神「

 そうだ。病気にはならない。身体的にも精神的にも病にかかることなく健全でいられる。心身の弱さから人生を台無しにすることは、有り得ない。

 特に君は、神の加護を十二分に与えるから、他の者より、あらゆる面で守られるだろう。

 無論、今度の世界でも苦しむことはあるだろう。だが、その苦痛の度合いは比べるまでもない。

幸「

 感じる苦痛が、はるかに小さいということですか? 今度の世界の方が?

神「

 そう、そして、多幸感に包まれる。今度は多少の困難があっても幸福感の方が多いだろう。

幸「その言葉は信じられますか?」

神「

 それは君に委ねられている。ただ、神は意図して嘘をつくことはない、と云っておこう。

幸「それも信じられないのですが」

神「

 神に嘘は無用なのだ。また、もし今度の世界でどう仕様もなくなったときは、その時はまた祈るが良い。必要であれば手を貸そう。

幸「本当に? 傍観ではなくて?」

神「

 本当に困っているならば、何かしらの手は打つ。約束しよう。


 幸はしばし考えた。

幸「

 それが本当ならば、その世界で本当に困っている人は、いない、ということですか? 誰もが神に助けられるならば。

神「

 ではない。今度の世界と云うのは、君用に調整された世界だ。実は前回もそうなのだが、君は特別な存在として、その世界に存在する。――君に限らずな。

幸「ちょっと……よく分かりません」

神「

 魂それぞれに、それぞれの世界が与えられる。そして【世界】というものの正体は、いわば鏡だ。君の魂の分身が、野となり、空となり、動植物となる。

 究極的に云えば、君はその世界に存在する、たった一つの存在に過ぎない。それを多面として感じるのが世界だ。

幸「え……? え? いや、どういうことでしょう」

神「

 要は、君自身のために存在する世界だと、そこだけ分かってくれたら良い。

 私は君たちを、苦しめる気は毛頭ない。修行の場へ送り、成長して欲しい。ただそれだけなのだ。分かっておくれ。


   *


 話の一段落したのち、少し休んでいた。幸の意識は眠気に沈んでゆく。


 次に起きるときは、新しい世界で目覚めるときになるだろう。


 煌々とした、眩い光の海が見える。


      終わり

 本作は元々、異世界転生モノの物語である『易しい世界へ』の序盤として書かれたものです。

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