転生前(多分女性)
気が付くと、そこは白い空間だった。
「おめでとうございます、アナタは一億人目のお客様です」
トンチキな言葉に意識を向けると、視界が切り替わった。なんだこれきもちわる。
切り替わった視界の先には、白スーツに着られた子供が一人。
「着られたとは失礼な、オーダーメイド仕事着なんですけど~?」
思考が読み取られているらしい。
成程、ここは死後の世界的なやつで、私の体はもう存在しないようだ。
「冷静すぎてきもちわるいですねあなた…」
様々なフィクションにおいてよくある設定の一つと類似しているのだから、冷静な人間…? たましい…? も、別に珍しくないのでは?
「ああ…まあ最近は話も通じない程に取り乱す方も減りましたね、そのためにそういう設定流行らせたとこはありますし」
あー…同時期に色んな所で似たような設定が発生する、みたいなあれの一つで仕掛けた感じ?
なんだかわかんないけど、高次元の存在的な方々も色んなアプローチ考えて大変ですねえ。
「そうなんですよォ…わかってくれますかこの苦労」
いやわかんないし。幾ら見た目が幼いからって泣き真似はさすがにあざといのでスン…てなる。
よよ…みたいに泣き崩れる様は人間ウケを狙った学習結果なのかなと思うとワー…て気持ちに。
「高次元存在への扱いが雑、いやまあそれは良いです」
お、やっと本題ですか?
「はい、本題です。先ほど申しました通り、アナタは一億人目のお客様」
遥か昔のウェブサイトエントランスみたいな文字列。
赤い薔薇と白い真珠で飾って羽を散らそう。
「やめてくださいよ、流行ったの最近じゃないですか!」
時間の流れが違うんだなあ。
「しみじみ言われるとちょっと傷つく……いや、それはさておき」
さておき、で荷物を横に置く動きがつくのがなんとも……。
すごい渋い顔で見られた。いや見えるような何かがあるんだろうか今の私。
「えー…光球みたいな感じですね、ほぼ魂むき出しみたいなもんです、肉体はないです」
フーン…まあなんか生前の記憶もふんわり曖昧なのでそれはいいや。
それで? キリ番リクエストみたいなのがあるの?
「そうそうそれです、運の良いアナタに転生サービスをですね」
いやいらん、記憶消して一般モブで頼む。
「はっや! そして好意全否定! さすがにガチで泣きますよ?!」
ええー…だって、転生でイイモノもらっても生かせるかわかんないし、気楽に生きて行きたいならそれは邪魔じゃない?
「それはそうですけどお、ちゃんと良さそうなの選んだので聞くだけ聞いてくださいよ」
はぁ、まあ聞くだけなら。
どうぞ。
「よーしでは心して聞いてくださいよ!
まずはですねえ、アナタが転生するのは乙女ゲームのせか」
全力でお断りします。
「はっや! 聞いてくれるって言ったじゃないですか!
乙女ゲームの愛されヒロイン、ハーレムルート確約世界の詳細聞いてくださいよ!」
うーわやだ、絶対やだなにそれきもちわる。
おっと、早口になった白スーツ君に対抗してこっちも早口(発声器官ないけど)になってしまった。
「きも……きもちわるいって…いわれた……」
あ、ガチめに打ちひしがれポーズになった、なんかごめん。
しかしその世界その設定の世界に転生するくらいなら地獄の業火に焼かれる方がマシ。
「えぇ…そんな全否定されるほどに嫌な世界なんですか……」
んー…? いや、人によるだろうねえ。
これが記憶も何もなければ、へーそうなんだってオッケーしたかもだけど。
そもそも私、自分に対する色恋案件が気持ち悪くて無理なんだよね。
「ヒトとしてぶっこわれてたんです?」
私に物理攻撃ができない状態でよかったねこのポンコツ白スーツ。
いや、物理攻撃できても物理に訴えてはダメなんだけど。
「ぽんこつ…」
おやまあ顔から出るもの大体全部出てるよ、ほらそのスーツの袖でお拭き…うわほんとに拭いた。
しかしキミが失礼な事を言ったのは事実だから、私は謝らないよ。
他人を恋愛的や性的に愛さない人間がいるのを、否定される謂れはないんだから。
「あぁ…そうでしたね、失念していました、多くの人間は大体恋愛的な欲求を満たすと金とか権力はそこそこでもごまかせるのでつい」
手っ取り早く満たせる欲としてしか認識してねえなこいつ。
しかしそれにしたってハーレムて。
「エロゲハーレムの方が良かったです?」
話聞いてた? 気持ち悪いからヤダっつってんだろ。
相手が男か女かの話じゃないの、恋愛と縁のねえとこで生きていきたいから、どっちかと言えば男性に生まれたい。
「男性…ですか? 記憶が残ると混乱しそうですが」
ぶら下がってるものに慣れたらそこまで大変じゃないでしょ、逆の場合よりは。
内臓の面倒も減るんだし。
女性が結婚しなくても文句言われない世界なら、女性のままでもいいけど、そうじゃないならやっぱり男性がいいな。
あとは、結婚しないと一人前じゃないみたいな世界はやだなあ。
「はぁ…わかりました、予定していたプランが全く使えなさそうなので、可能な限りアナタの希望に添える世界を探しましょう」
だったら記憶消して一モブで。
「それは却下で!」
希望に沿ってないじゃん。
「さすがにこの部屋に案内した上で、記憶消して処理ってなるとわたしの評価に関わるんですよ! 前言撤回で申し訳ないですが、記憶をある程度保ったままで許容できる世界に転生をおねがいします!」
鬼気迫る顔で言われてしまえば承諾せざるを得ないが…どこのせかいもせちがらい…。
「多かれ少なかれそんなモノでしょう世界なんて」
否定はしないけど。
えーとじゃあ希望…さっきも言ったように男がいいな、あんま目立たない感じの次男とかがいい。
優秀な長男がいるおうちの気楽な次男坊とかそういうの。
「はあ…自分で何かを成し遂げる気はない、くらいの感じですか…?」
無難に生きて行くのが一番幸せじゃない…?
「よくわかんないですね、わたし一応これでもエリートなので」
ふーん、えらいねえ。
で、他にも何か決めないといけない事ある?
「興味なさすぎでしょわたしに? えーとあとは転生先の世界の希望ですかね、こちらのストックは大体剣と魔法の世界なんですけど」
興味持った所で旨味はないよね?
世界か…剣と魔法の世界はいいよね。冒険者とかがちゃんと市民権持ってて元気に生きてる世界がいいな。
「冒険者ですか、なるほど…ダンジョンとかはどうです?」
あーダンジョンいいね! ダンジョンはロマン。
でも配信がある世界みたいなのはパス。あ、でも紙は発明されてて本が普通に手に入る世界だと嬉しいな。
モンスターがいるのはいいけど、魔王いる世界は嫌。
「ふむふむ、で、その世界で冒険者稼業をするのが希望でいいですか?」
いや? 冒険者はやんない。
「うん?」
冒険者用のアイテムを売る、そこそこの商家の次男坊とかがいいな。
チェーン展開とかまでしてるような大店じゃなくて、支店がいくつかあるくらいの規模だったら、次男でもお店もらって独立できるかもだし、できなくても優秀なお兄ちゃんのサポート頑張って呑気に生きていけたらいいかなあ。
「冒険者は商売相手としてしか見てないんですか…?」
いや、商売相手&玉石混淆の冒険譚を聞かせてくれる憧れの職業として見てる。
でも私は安全圏で生活したい。
「冒険してくださいよ」
やだ。
そこそこで生きて行きたい。
「……はー……」
わかった、言い直そう。商売と言う冒険の旅に出たいんだよ私は(キリッ)。
「わかりました、効果音つけなくていいですから」
で? 要望としては大体それで足りた?
スキルとかつけられるなら、危機察知能力的なの欲しいけど。
「そうですね、丁度良さそうな世界と環境があったので、なんとかなりそうです」
お、ありがとう。
じゃあそろそろお別れかな?
「いえもうちょっと…スキルがある世界なので、先程のと、これつけときましょう、これで最低ノルマ分が達成になります」
あーなんか消費ポイント的な最低ラインがあるの?
恋愛系の変なスキルとかはやめてね?
「……わたしを恋愛大好きみたいに思ってません? 防御系スキルですよ」
だって最初の提案が乙女ゲームハーレムルート確約だったから。
見知らぬ他人の要望を叶えようとした時に、最初に思いつくモノって、自分が好ましいと思ってるモノから抽出すると思うんだよね。
防御系か、それならいいや、お任せします。
「かつてこの部屋に招いた方々の要望からピックアップしてるので、わたしの好みじゃないです」
ふうん…乙女ゲームのヒロインになるために転生した人もいるのかと思うと、世界は広いんだなあって思うね…お仕事ご苦労様。
「どうも…さて、ではこれで設定は完了しました」
じゃあ今度こそお別れかな?
「そうですね、長い時間お付き合いいただきありがとうございました、アナタの次の人生にも幸あれ」
ありがとう。二度と会う事はないと思うけど。
「私もそう願います、あ…保持している記憶ですが、産まれてすぐはアクセスできない状態になっています、物心つくあたりにかけてゆっくり思い出して行くと思うので、ご安心ください」
それは助かる。身動きできない状態で記憶あるとか拷問だしね…。
「では、新しい人生へ、どうぞいってらっしゃいませ」
白い空間に、どこからか光が差し込み始め、その光に包まれながら私は意識を失った。




