表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第5章 人生は楽しんだ者の勝ち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/47

第6話 因縁に縛られしものたちの反逆

森を抜けた一行は、街道沿いにぽつんと佇む小さな街へ辿り着いた。


石造りの宿屋に部屋を取り、それぞれが静かな夜の中へ散っていく。


そして――。


カミーアの部屋。


扉が閉まった途端、部屋の中は妙に静かになった。


窓から差し込む月明かりが、床に淡い光を落としている。

その光の中に、二人分の影が並んでいた。


シャルクスは落ち着かない様子で視線をさまよわせている。


壁。

机。

ベッド。


そして、また壁。


どう見ても挙動が怪しかった。


そんな彼を見て、カミーアは小さく笑う。


カミーア:「無事でよかったよ、シャル」


柔らかい声だった。


責めるでもなく、問い詰めるでもなく。

ただ、そう思ったから口にしたような声。


シャルクス:「……あ、ああ」


シャルクスの肩がびくりと揺れた。


ぎこちなく頷くその姿に、いつもの余裕はない。

軽口の一つでも返してきそうな男が、今はすっかり調子を崩している。


しばらく、沈黙が落ちた。


やがてシャルクスは、何かを振り払うように口を開く。


シャルクス:「……なぜ、俺がファーミストに来ると分かった?」


声は硬い。


けれど、そこに責める響きはなかった。

あるのはただ、戸惑いだけだ。


カミーアは一瞬だけ目を伏せた。

それから、照れ隠しのように頬をかく。


カミーア:「あたいも、ファーミストに向かってたんだよ」


一拍置いて。


カミーア:「あんたのことを……もっと知るために」


その言葉に、シャルクスの息が止まった。


胸の奥で、鼓動がひどくうるさい。


カミーアは続ける。


カミーア:「途中でレックスさんたちと会ってね。バルデンの黄金のことを聞いたんだ。あれは、あたいのために残されたものだって」


部屋の空気が、わずかに変わった。


シャルクスの表情が曇る。


それを見て、カミーアは一歩だけ距離を詰めた。


カミーア:「あんた、あたいのために黄金を探してくれてたんだろ」


真っ直ぐな瞳が、シャルクスを捉える。


シャルクスは天井を仰ぎ、深く息を吐いた。


シャルクス:「……それじゃあ、ロッドさんのことも聞いたんだな」


どこか気まずそうな声だった。


だが、カミーアはふっと笑う。


カミーア:「たとえ血が繋がってなくても、あたいの親父はロッド・プラントだよ」


迷いのない言葉だった。


シャルクス:「……そうだな」


その強さに、シャルクスもようやく小さく笑った。


だが、その笑みは長く続かなかった。


シャルクスは、少し遠くを見るように目を細める。

そして、静かに口を開いた。


シャルクス:「……ロッドさんとその話ができたのは、俺が破門された時だ」


空気が、また変わる。


カミーア:「あの時か」


カミーアの目が細くなった。


忘れたことなど、一度もない。


カミーア:「何があったんだよ。なんでシャルは破門になったんだ」


思わず身を乗り出す。


胸の奥でくすぶっていたものが、今もまだ消えていない。

あの時の悔しさは、はっきりと残っていた。


けれどシャルクスは、慌てることもなく軽く手を振った。


シャルクス:「ロッドさんが俺を破門したのは、黄金探しに出すためだよ」


穏やかな声だった。


カミーア:「……黄金探しに?」


シャルクス:「ああ」


そこで一度、言葉が切れる。


シャルクス:「ロッドさんは……何かに焦っているようだった」


視線が床へ落ちた。


カミーア:「焦っていた? 何を焦っていたんだ。親父は」


カミーアは眉を寄せる。


シャルクスは短く息を吸った。


シャルクス:「……ワッツだよ」


カミーア:「えっ?」


あまりにも唐突な名前だった。


カミーアは思わず目を見開く。


シャルクスは、ゆっくりと言葉を続けた。


シャルクス:「ロッドさんは、ワッツと黄金の因縁に気づいていたんだ。だから黄金を俺に探させて、自分は奴の一騎打ちを受けた」


握った拳が、わずかに震える。


シャルクス:「君を、その因縁から遠ざけるために」


静まり返った部屋に、その言葉だけが落ちた。


カミーア:「……それじゃあ、親父も……」


声がうまく出なかった。


胸の奥に、冷たいものが沈んでいく。


脳裏に浮かぶのは、ワッツの顔だった。


会えばケンカばかりしていた。

それでも、何度も助けられた。


背中を預けて戦ったこともある。

一緒に笑ったことだってあった。


その男が――。


因縁の相手。


カミーアは唇を噛んだ。


シャルクス:「……ショックかい」


遠慮がちな声だった。


カミーア:「……そりゃあね」


それ以上の言葉は出なかった。


怒りなのか。

悲しみなのか。

裏切られた気がしているのか。


どれも違うようで、どれも少しずつ混じっている。


シャルクス:「……」


シャルクスは何も言わなかった。


ただ、じっとカミーアを見ている。


その視線に気づき、カミーアはむっとして顔を上げた。


カミーア:「……なんだよ」


わざと強がるように、口を尖らせる。


するとシャルクスは、はっとしたように視線を逸らした。


シャルクス:「……なんでもねぇよ」


明らかに動揺していた。


その様子が、少しだけ可笑しかった。


カミーア:「まさか――妬いてるの?」


くすり、と悪戯っぽく笑う。


カミーアは一歩踏み込み、シャルクスの顔を下から覗き込んだ。


シャルクス:「い、いや……そういうわけじゃないが……」


声が裏返った。


視線は相変わらず泳いでいる。

あまりにも分かりやすい反応に、カミーアは吹き出しそうになった。


カミーア:「ワッツにはさ、尊敬とか憧れはあったよ。でも――」


ふっと、表情を和らげる。


カミーア:「愛情とは違うよ」


そう言って、カミーアはそっと両腕を伸ばした。


シャルクスの首に、ゆっくりと回す。


シャルクス:「っ!?」


一瞬で、彼の体が固まった。


カミーア:「一緒に挑んでくれるんだろ?」


至近距離。


悪戯っぽい瞳が、まっすぐシャルクスを射抜く。


カミーア:「あたいの因縁に」


シャルクス:「あ、ああ」


シャルクスは視線を逸らし、ばつが悪そうに頬をかいた。


その反応を見て、カミーアはくすっと笑う。


そして、ゆっくりと腕をほどいた。


ほんの少しだけ――名残を残すように。


カミーア:「因縁を断つために、ファーミストに来たんでしょ。どうするつもりなの?」


その問いが落ちた瞬間。


シャルクスの空気が変わった。


さっきまでのぎこちなさが、すっと消える。

瞳の奥に、鋭い光が宿った。


シャルクス:「ああ。黄金にかけられた因縁は――呪いなんかじゃない」


静かな声だった。


けれど、その奥に抑えきれない怒りがある。


シャルクス:「災いを起こしているのは、バルデンの一族の仕業だ」


窓から差し込む月明かりが、シャルクスの横顔を淡く照らす。


シャルクス:「ガスパーは、おそらくバルデンの一族だ。奴を炙り出して――」


一瞬、間が空いた。


シャルクス:「ケリをつける」


その眼差しは、真剣だった。


カミーアはその決意を、まっすぐ受け止める。


そして、強く頷いた。


カミーア:「今度は、あたいも行くよ」


迷いのない宣言だった。


その瞬間。


シャルクスの眉が、ほんのわずかに動いた。


けれど、カミーアは気づかない。


シャルクス:「ま、具体的なことはクリスたちと相談しとくよ」


シャルクスは少しだけ肩の力を抜き、いつもの調子に戻した。


シャルクス:「また明日」


カミーア:「うん、分かった」


シャルクスは扉へ歩み寄る。


取っ手に手をかけて、一度だけ振り返った。


何かを言いかける。


けれど――。


結局、何も言わなかった。


シャルクスは静かに扉を開け、部屋を出ていく。


ぱたり、と扉が閉まった。


残されたのは、静かな部屋。

そして、窓辺から差し込む月明かりだけ。


カミーアは、そっと胸に手を当てた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ