序章 アーポット亭の黄金
ズシン。
ズシン。
鈍く重い衝撃音が、地下通路に響き渡った。
そのたびに建物全体がかすかに震え、天井の隙間からぱらぱらと砂利が落ちてくる。
クリストファー:「まったく……レックスのやつめ」
頭に降りかかった砂利を払いながら、クリストファーは深々とため息をついた。
シド:「こりゃまた派手にやってるな」
その隣では、シドも呆れたように肩をすくめている。
二人が歩いているのは、アーポット亭の地下通路。
普段は誰も立ち入らない、さらに奥深くへと続く場所だった。
そして、その先では――。
レックス:「おりゃああああっ!」
少年の叫び声とともに、レックスの拳が振り下ろされた。
ドンッ!!
轟音が弾け、地下が大きく揺れる。
ズシン……。
ズシン……。
だが、目の前にそびえる巨大な岩戸は、びくともしなかった。
まるで要塞の門だ。
分厚く、重く、長い年月を経てもなお、傷ひとつ許さない頑強な石の扉。
レックスは拳を引っ込めると、困ったように頭をかいた。
レックス:「ダメか」
その瞬間――。
クリストファー:「ダメか、じゃねぇよ! レックス! ウチをぶっ壊す気か、おめぇは!」
怒鳴り声が、地下通路いっぱいに響き渡った。
レックスが振り向くと、クリストファーがずんずんとこちらへ歩み寄ってくる。
その後ろでは、シドが「やれやれ」と言わんばかりに首を振っていた。
レックス:「大丈夫だよ、兄さん。ウチはドラゴンが踏んづけても壊れたりしないから!」
胸を張って言い切るレックス。
クリストファーはこめかみを押さえ、もう一度、深いため息をついた。
クリストファー:「そういう問題じゃねぇんだけどな……」
レックス:「だったら、なんだよ!」
むくれた顔で言い返すレックス。
放っておけば、そのまま兄弟喧嘩に発展しかねない空気だった。
そこへ、シドがすっと割って入る。
シド:「まあまあ、二人とも落ち着きな。それよりどうだい、クリストファー。こいつ、開けられそうか?」
促され、クリストファーは巨大な岩戸の前へ歩み寄った。
そして、そっと片手を触れる。
その瞬間――。
ぼわっ。
岩戸の表面が、淡い光を帯びた。
クリストファーの目が、すっと細くなる。
クリストファー:「……こいつにかかってる魔力は、一つじゃねぇな」
低く呟く。
その声に、レックスとシドが身を乗り出した。
レックス:「どういうこと?」
クリストファー:「こいつを解除するには、二人の魔法使いがいる」
その言葉を聞いた瞬間。
レックスとシドは、そろって肩を落とした。
シド:「なんでぇ。一人じゃ開けられねぇのか」
レックス:「母さんを呼んでくるしかないね……」
二人の落胆ぶりを見て、クリストファーの口元がゆっくりと吊り上がる。
ニヤリ、と。
クリストファー:「俺一人で開けられねぇとは――言ってねぇよ」
次の瞬間。
ゴゴゴゴゴ……!!
地鳴りのような轟音が、地下に響き渡った。
巨大な岩戸が、重々しく動き始める。
ゆっくりと開いていく隙間から、まばゆい黄金色の光があふれ出した。
レックス:「わああっ!」
シド:「おおっ!」
レックスとシドが、思わず声を上げる。
そして、開いた扉の向こうに広がっていたもの。
それは――。
部屋の隅々まで、うず高く積み上げられた金塊だった。
まばゆい黄金の山。
地下深くに眠っていた、アーポット亭の秘密。
だが、このときの彼らはまだ知らない。
この黄金が十年後――。
一人の青年の運命を、大きく変えることになるなど。




