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第7話:観る力

「えっ……あ、いや……」


 鋭い視線に射抜かれ、アルトは後ずさった。

 戦闘狂から詰め寄られているような威圧感があったが、ユート自身に怒りの色はなく、純粋な驚きと評価の色が浮かんでいた。


「俺は完全に前方のオークに意識を割いていた。あの一体が死角へ回り込んでいたことには、本当に気づいていなかったんだ」


「……その、なんとなく、です。葉っぱが擦れる音が聞こえたから……」


 アルトは視線を逸らして誤魔化そうとしたが、ユートは小さく笑って首を振った。


「嘘だな。お前はただの勘で叫んだんじゃない。“オークはフェイントだ”と明確に判断し、最も死角となる右後ろへの奇襲を言い当てた。……ただの素人じゃないな?」


「別に、すごい技じゃありません。ただ……昔から、嫌な予感というか、『あ、そっちに何かいるぞ』っていう直感みたいなのが、なんとなく働くことがあって……」


「……なるほど。そういう『鋭い勘』を持っている奴は時々いるが、君のは群を抜いている。ましてや、あの極限状態であれほど冷静に指示を出せるとはな」


 ユートは柔らかく微笑むと、アルトの横を通り過ぎ、倒れている魔物の群れへと歩み寄った。


「この魔物はどうする? 俺は討伐証明はいらない。君が持って行くといい」


「えっ!? いいんですか!?」


「ああ。俺一人なら、足に嫌な一撃をもらっていた。君への正当な報酬だ」


 アルトの目が銅貨……いや、銀貨以上の輝きを見せる。オークの討伐証明なら、しばらく黒パンを卒業して肉が食える。

 アルトが慌ててナイフで魔物の耳を切り取ろうとした時、背中のバルが不満げに騒ぎ立てた。


『おいノロマ! 証明部位なんかどうでもいい! さっさとソイツを食わせろ! スライム何十匹分もの極上魔力だぞ!』


「うわっ、ちょっと待ってバル! 今は……!」


 バルが「ズボォォッ!」と勝手に吸引力を発動させようとしたのを、アルトは必死で抑え込んだ。ユートの前で、大きな魔物を空間圧縮して丸呑みする異常な魔道具を見せるのは不味いと思ったからだ。

 だが、その声と挙動は、当然ユートの目に留まっていた。


「……喋るバッグ、か。珍しい魔道具を持っているな」


「あ、えっと……こいつはただ口が悪いだけで、あんまり役に立たなくって……」

「いや、さっきも何か隠していたな? 君、本当に面白い奴だ」


 ユートはなぜか機嫌を良くしたように笑うと、少しだけ真剣な顔つきになってアルトの目を見た。


「君、名前はなんという」


「アルト、です」


「俺はユートだ。……アルト、もし君さえ良ければだが、街まで一緒に行かないか? 実は俺、今“ある人”を探して旅をしているんだが、君のように『勘』が良い奴がいてくれると、何かと助かるかもしれない」


 ユートからの予想外の提案に、アルトは目を丸くした。


「ぼ、僕がですか? でも、僕は一番下のランクだし、戦いなんて……」


「戦いは俺がやる。君は、さっきみたいに俺の背中を見て、指示をしてくれるだけでいい。報酬もきっちり折半する。……どうだ?」


 ギルドの高ランク冒険者たちから「役立たずのノロマ」と馬鹿にされ続けてきたアルトにとって、その言葉は初めて自分を『戦力』として認めてくれた、信じられないものだった。

 それに、あの圧倒的な強さを持つユートと組めば、もう恐怖に怯えることもなく、黒パンで飢えをしのぐ生活からも抜け出せるかもしれない。


「……はい! よろしくお願いします、ユートさん!」


 アルトが力強く頷くと、ユートもまた力強くアルトの手を握り返した。


『チッ……! 俺様という偉大な相棒がいながら、小娘みてぇに他の男になびきやがって! 後悔しても知らねぇぞ!』


 背中で文句を言い続ける黄色いバッグの声を無視して、アルトとユートは共に街への帰路についた。

 最弱の初心者と、口の悪い魔道具。そして、美しい直剣を持つ圧倒的な剣士。

 奇妙な三人(?)のパーティ結成と、彼らの冒険譚が、ここから本格的に幕を開けるのだった。

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