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第12話:直感が暴く核心

 第五倉庫には、事件の生々しい爪痕が残っていた。

 分厚い木製の扉は内側から抉じ開けられたように破壊され、倉庫内に積まれていたはずの木箱は無残に引き裂かれている。床には小麦粉が散乱し、干し肉や保存食がごっそり消え失せていた。


「目撃証言は『独特のフード衣装の端がちらっと見えた』……それだけ?」


 ミラが現場を見回しながら呟く。


「たったそれだけで妖精族の仕業って決めつけたのね。……まあ、この街の空気なら、そうなるか」


 しかし、ユートは黙ったまま倉庫の奥を鋭い視線で睨みつけていた。


「……やはり、おかしい」


 ユートの声に、静かな怒りが滲んでいた。


「ユートさん?」


 アルトが不思議そうに尋ねると、ユートは破壊された扉の前にしゃがみ込んだ。


「妖精族は耳の形が少し違うくらいで、見た目は俺たちとほとんど変わらない。衣装がちらっと見えた程度の証言で、なぜ妖精族と断定する? それに——この扉の壊され方を見ろ。内側から、桁外れの馬鹿力で引き裂かれている。人の手でこんな壊し方はしない」


「じゃあ……犯人は妖精族じゃない?」


「完全な濡れ衣じゃないか。調べればすぐにでもわかるものを……!」


 ユートの言葉に、アルトはハッとした。

 アルト自身も、現場の不自然な空気をヒシヒシと感じ取っていたのだ。


(たしかに、扉の壊れ方も変だ。それに……この匂い)


 アルトは鼻をヒクつかせた。

 小麦粉と埃の匂いに混じって、微かに——だが確実に、森で嗅いだような獣臭さと、鉄が錆びたような嫌な匂いが漂っている。


『チッ……! 臭ぇ臭ぇ! 魔力がドス黒く濁ってやがる! ノロマアルト、さっさとこの不味そうな魔力の残り香を拭き取れ!』


 背中のバルが、いつになく激しく抗議の声を上げた。

 バルが「魔力が不味い・濁っている」と文句を言う時は、決まって……。


「ユートさん! ミラさん! この事件、ただの盗難じゃないです! ……『魔物』が関わってます!」


 アルトの叫びに、ミラが驚いて振り返る。


「魔物!? 街の中に魔物が入り込んでるっていうの? 城壁も騎士団の警備もあるのに!?」


「分かりません。でも、あっちの奥から、すごく嫌な気配が……」


 アルトが指差した先——倉庫の最も奥まった壁には、目立たないように木箱が積まれていた。

 ユートが無言で剣を抜き、その木箱を蹴り飛ばす。すると、壁の低い位置に、人間が這って通れるほどの大きさの『穴』がぽっかりと口を開けていた。


「これは……地下水道への入り口か。使われなくなって久しいはずだが」


「繋がってるのね。犯人はここから出入りして、食べ物を盗んでいたってわけ」


 ミラの指摘に、ユートは短く頷いた。


「……行くぞ。このまま放っておけば、さらに妖精族への迫害が強まるだけだ」


「はいっ!」


 アルトが力強く返事をして、四人は薄暗い地下水道の穴へと足を踏み入れた。


 じめじめとした冷気と、饐えた匂いが鼻を突く。

 ミラの杖の先端に灯る小さな炎だけが頼りの、暗闇の行軍。足元には汚水が流れ、時には巨大なネズミが水音を立てて逃げていく。

 だが、進むにつれて、アルトの『嫌な予感』はどんどん膨れ上がっていった。


「……気をつけてください。何か、すごく大きくて、いっぱいいます」


 アルトが声を震わせながら警告する。彼の直感は、暗闇の奥に潜む悪意の塊を正確に捉えていた。


「数は?」


「少なく見積もっても、二、三十は。……それに、一匹だけ、ものすごく濃くて重たい奴がいます」


 ユートが剣を構え直し、ミラも杖を強く握りしめた。

 そして、地下水道が開けた空間——かつての貯水塔の跡地のような広い場所に出た瞬間、強烈な腐臭と共に、無数の赤い瞳が暗闇の中で一斉に光った。


「……! でたわね!」


 ミラの炎が空間全体を照らし出す。

 そこにいたのは、知能を持つ上位の魔物である『ホブゴブリン』の群れ。彼らは武器を持ち、盗み出した物資を貪っていた。

 そしてその群れの中心、玉座のように積まれた木箱の上に鎮座していたのは——。


「グオォォォ……!」


 全身が黒い体毛で覆われ、異様に腕が発達した巨大な魔獣、『漆黒猿ブラックエイプ』だった。

 その知能はオークを遥かに凌ぎ、簡単な罠すら考案するという。その腕力は鋼鉄の扉をも容易く引き裂く。


「あのデカい猿が倉庫を荒らした犯人ってわけね。結局、妖精族なんて最初から関係なかった。腹立たしいくらい馬鹿馬鹿しいわ」


 ミラが杖の先に巨大な炎弾を作り出しながら、不敵に笑う。


「アルト、死角の指示は頼む。……いくぞ!」


 ユートの叫びと共に、地下水道での激しい戦闘が幕を開けた。

 ホブゴブリンたちが奇声を上げて一斉に襲いかかってくる。


「バル! 一番嫌な武器を!」


『フンッ! クソ不味い魔力に囲まれて最悪な気分だぜ! ほらよ、最悪な気分にお似合いの【特注品】だ! さっさと引き抜きな!』


 アルトが引き抜いたのは、先端が異常に重く、柄が短すぎる『アンバランスな双剣』だった。普通に振れば手首を痛めるような代物だ。


「……右の三匹は僕が止めます! ユートさんは正面突破を! ミラさんは左奥の群れを!」


 アルトが、敵の陣形の一番崩れやすそうな場所を直感で見つけ出し、的確に声を掛ける。


 ユートは一切の躊躇なく、アルトが指示した通りの正面へと突進し、圧倒的な剣技で敵を切り裂いた。

 ミラはアルトの指示した左奥へと凄まじい火力の魔法を叩き込み、群れを一網打尽にする。

 そしてアルト自身は、アンバランスな双剣の『重さ』を利用した遠心力で遠距離からホブゴブリンの足を刈り取り、見事に足止めを成功させていた。


 四人の連携は、息を呑むほどに完璧に機能していた。

 残るは、激怒して立ち上がった群れのボス——『漆黒猿』のみである。


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