第11話:街の異変と、冷たい視線
ミラがパーティに正式加入してから数日が経った。
四人での連携は、想像以上に上手く機能していた。
前衛でユートが敵を圧倒し、後衛からミラが強力な魔法で敵の群れを削る。そして、その間に生じる死角や魔法の余波を、アルトの『観察眼』とバルの『変な武器』が完璧にカバーし、遊撃とサポートをこなす。
一見バラバラで、いつも口喧嘩ばかりしている彼らだったが、戦闘においてアルトが指示を出すようになると、驚くほど滑らかに役割分担ができたのだ。
「よーしっ! これでゴブリンの上位種討伐の依頼も完了ね! やっぱり私の火力が全てを解決するのよ!」
「お前は最後の一撃をドカンと撃っただけだろうが。ほとんど俺が削って、アルトが敵を足止めしたんだぞ」
「細かいことは気にしないのユート! 終わり良ければすべてよしよ。さっ、ギルドで報酬をもらって、今日は美味しいお肉をご馳走してあげるわ!」
得意げに笑うミラ。ユートはやれやれと首を振り、アルトは「お肉……!」と目を輝かせている。バルは『俺様にも上質な魔石を食わせろケチ女!』と相変わらず騒いでいる。
そんな賑やかな四人は、防塞都市グランディスの冒険者ギルドへと意気揚々と凱旋した。
だが、ギルドの中はいつもと様子が違っていた。
活気にあふれていたはずの空気が、どこか陰惨で、ピリピリとした緊張感に包まれていたのだ。
「何かあったのか……?」
ユートが訝しげに周囲を見渡す。
掲示板の前には人だかりができ、冒険者たちが深刻な顔でヒソヒソと話し合っている。
「おい、聞いたか? また第五倉庫の物資がやられたらしいぞ」
「これで三日連続だろ? 騎士団は何やってんだよ」
「……どうせ、また『あいつら』の仕業だろ。最近この街に居座ってる、図々しい妖精族どものな」
その言葉に、ユートの足がピタリと止まった。
アルトも、空気が急に冷たくなったのを感じて振り返る。
「……妖精族?」
ユートの呟きは、いつになく低く、冷たかった。
アルトは少し驚いた。いつも穏やかで、戦闘中も冷静さを崩さないユートが、ハッキリと不快感を露わにするのを初めて見たからだ。
「最近、この街で連続盗難事件が起きてるのよ」
受付嬢に報酬の処理を頼んだミラが戻ってきて、小声で状況を説明してくれた。
「主に食料や魔石なんかの物資が夜の間にごっそりなくなるみたいなんだけど、現場には小さくて素早い影が見えたっていう証言が多くてね。それで、最近郊外の森から逃げてきてスラムに住み着いてる『妖精族』の連中が疑われてるってわけ」
「妖精族の人たちが……泥棒?」
アルトが首を傾げる。
彼が知る限り、妖精族というのは(絵本や噂で聞く限りだが)自然を愛し、争いを好まない温和な種族のはずだった。人間の街に住み着くこと自体が珍しいが、盗みを働くような真似をするだろうか。
「騎士団も、もう犯人は妖精族の中のならず者だと決めつけてるらしいわ。証拠はないみたいだけど。……ねえ、ユート? 今日の夜ご飯なんだけど……」
ミラがユートの腕を取ろうとしたが、ユートは無言でそれを避けた。
「……その事件の調査依頼、出ているか?」
「えっ? ああ、一応ギルドの特別依頼として張り出されてるけど、報酬は安いし、相手が本当に妖精族なら面倒な揉め事になるから誰も受けてないわよ? わざわざ私たちがやるような……」
「俺が受ける」
ユートの声には、有無を言わせぬ圧があった。
ミラは驚いて目を見張り、アルトもまた、普段と全く違うユートの様子に息を呑んだ。
「妖精族が……そんな無意味な盗みを働くはずがない。俺は、それを確かめたい。……ミラ、アルト。面倒をかけるが、手伝ってくれないか」
ユートは、どこか切痛な、あるいは過去の何かを振り払うような目で二人を見た。
その目には、アルトが初めて出会った時に感じた『自分の怪我を厭わず壊れたように戦う』危うさと、同じ種類の痛みが含まれているような気がした。
「……もちろんです、ユートさん。手伝います」
アルトが迷わず頷くと、バルも背中で『めんどくせぇが、美味い魔力があるなら手伝ってやってもいいぜ』と強がった。
「もーっ! アナタがそこまで言うなら、私も付き合うわよ! 運命の相手の頼みだもの!」
ミラも呆れつつ、やる気満々で杖を構えた。
「ありがとう。……恩に着る」
ユートは少しだけホッとしたように微笑んだが、その瞳の奥には、変わらない冷たい炎のような決意が揺らめいていた。
ギルドを後にした四人は、盗難事件のあった第五倉庫へと向かった。
道中、アルトはすれ違う街の住人たちの様子を観察していた。彼らの視線は、路地裏にうずくまるボロボロの衣服を着た人影——とがった耳を持つ『妖精族』の避難民たちに、酷く冷たく、まるで汚物を見るかのような目を向けていた。
(なんで、こんなに嫌がられてるんだろう……?)
アルトが不思議に思っていると、前を歩いていたユートがぽつりとこぼした。
「……人間は、自分たちと違う『魔力』の扱い方をする存在を恐れる。妖精族は自然の魔力をそのまま引き出して使うことができる。その力に対する無知な恐怖が、差別を生み出しているんだ」
「ユートさん……」
「……昔、一緒に旅をしていた『大切な人』も、妖精の血を引いていた。彼は誰よりも優しかったのに、その血のせいで謂れのない迫害を受けてきたんだ」
ユートの言葉は、酷く静かで、悲しみに満ちていた。
アルトは、彼がなぜここまで妖精族の容疑を晴らすことに拘るのか、その理由の片鱗に触れた気がしたのであった。




