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第10話:凸凹パーティ結成!

「馬鹿っ! アルト、逃げて……!」


 ミラの悲鳴が森に響く。

 慌てて後ずさるアルトだったが、オークの突進速度は予想以上に速い。

 彼の手にあるのは、刃が欠け、丸っこい柄が異様に重い、どう見ても使い物にならない『ハズレの短剣(鉄塊)』だった。


(逃げ切れない……なら!)


 アルトは咄嗟に、その不格好で重いだけの短剣の柄を、足元の太い木の根の隙間にガツンと突き立てた。

 ちょうど刃の欠けた部分が、上を向いたまま強固な『つっかえ棒』として地面に固定される。

 直後、アルトの頭上からオークの丸太が振り下ろされた。


 ガギィィンッ!!


 凄まじい衝撃音。

 オークの振り下ろした丸太が、アルトの頭スレスレで——地面に固定された短剣のくぼみにガッチリと食い込み、急停止したのだ。

 自らの突進の勢いと丸太の重みを全て短剣ストッパーに受け止められ、巨大なオークの身体が反動で大きく前につんのめる。


「ブギッ!?」


 バランスを崩してよろけたオークの顔面が、アルトの目の前まで無防備に下がってきた。

 アルトはその隙を見逃さず、先ほどミラの放った『炎弾』によって焦げ付いていた地面の土と、まだ少しだけ熱を持っているくすぶった枯葉を両手で思い切り掬い上げた。


「これでもくらえっ!」


 熱を帯びた土煙と灰が、体勢を崩したオークの目と鼻を直撃する。


「ブギギギィィッ!?」


 不意をつかれて視界を奪われ、オークは苦悶の声を上げて激しくもがいた。


「嘘……! 武器を地面に固定して、あいつの突進の勢いを利用してわざと受け止めさせたの!?」


 ミラは驚きで目を見開いた。

 力が全くなければ、知恵と周囲の環境、そして与えられたヘンテコな武器を『道具』として完璧に使いこなす。アルトには、敵の攻撃の軌道や重心のズレを瞬時に読み取る『底知れない直感(観察眼)』があるのだ。


「よそ見するな、ミラ!」


「っ!? はいっ!」


 ユートの鋭い声で我に返ったミラは、再び杖を構えた。

 アルトの機転によって完全に目潰しをくらい、無防備になったオーク。その隙を、この凄腕の剣士が見逃すはずがなかった。


「ふっ……!」


 鋭い呼気と共にユートが踏み込む。

 流星のような一閃がオークの太い首を正確に薙ぎ払い、その巨体はドスンドスンと地響きを立てて崩れ落ちた。


「ふう……助かった、アルト」


 剣の血糊を払いながら、ユートが息をつく。

 アルトはへたり込みそうになるのを必死で堪えながら、歪んだ短剣を持った右手を震わせていた。


「い、いえ……バルがちょうどいい変な武器を作ってくれたおかげです」


『フン! お前みたいなチキン野郎には、これくらい歪んでる方がちょうどいいんだよ! 俺様の魔力のおかげだな!』


 背中でふんぞり返るバッグに苦笑しつつ、アルトは深く息を吐き出した。


 残っていた十数匹のゴブリンたちも、リーダー格のオークが倒されたことで完全に戦意を喪失し、散り散りに森の奥へと逃げ去っていった。

 静寂が戻った森には、焦げた匂いと魔物の血の匂いだけが立ち込めていた。


「……信じられない。あんた、ただの荷物持ちじゃなかったのね」


 ミラが杖を肩に担ぎ直し、恐る恐るアルトに近づいてきた。

 彼女の目には、先ほどまでの見下すような色は微塵もなく、純粋な驚きと感心の光が宿っていた。


「私の魔法の余波を、あんな風に泥臭く利用する奴なんて初めて見たわ。普通なら、魔法の邪魔になるからって前衛からは『下さがってろ!』って怒鳴られるのに」


「そうなんですか? ミラさんの魔法、すごく威力があってかっこよかったですよ。僕じゃあんなこと絶対できないし……」


 アルトが素直に感嘆の声を漏らすと、ミラの顔がパァッと明るくなった。


「でしょ!? 私の魔法、最高でしょ! やっぱりあんた、見る目あるわね! 変なバッグ背負ってるけど、許してあげる!」


『おい小娘! 誰が変なバッグだ! その赤毛燃やしてやろうか!』


「うるさいっ、ただの魔道具の分際で! 私の炎の方が百倍熱いわよ!」


 言い争いを始めるミラとバル。そんな賑やかな(うるさい)様子を、ユートは微笑ましそうに見つめていた。


「……アルト。彼女の実力は本物だ。だが、あの性格と大魔法の制御の甘さは、俺一人ではフォローしきれない」


 ユートが小声でアルトに耳打ちする。


「君のその『観察眼』と、機転の利く奇妙な戦い方なら……彼女の強力すぎる魔法と、俺の剣技の隙を上手く埋められるかもしれない。どうだ?」


 それは、最底辺の冒険者だったアルトに対する、彼からの絶対的な信頼の言葉だった。


「……はい! 僕で良ければ、精一杯やります!」


「よし、決まりだな」


 ユートは小さく笑うと、ギャーギャーとバルと口論を続けているミラの方へと向き直った。


「ミラ。君の魔法の威力は評価する。今日の戦闘は、アルトの機転がなければ危なかったが、結果的に君の力が必要だったのも事実だ」


「ッ! それって……!」


 ミラが期待に目を輝かせ、杖を握りしめる。


「ああ。これからは、俺たちと一緒に行動してもいい。ただし、必ず俺とアルトの指示には従うこと。勝手な大魔法の使用は厳禁だ。……それでいいか?」


「やったぁぁぁっ!! ついに、ついにユートのパーティに……! ううん、私の運命の相手と同じパーティに入れるなんて!!」


 ミラは歓喜の声を上げ、ユートに抱きつこうと飛び込んできた。

 ユートはそれを軽やかに躱し、アルトの後ろへと回り込む。結果、勢い余ったミラはアルトの背中——つまりバルに思い切り顔面を突っ込むことになった。


『ぶべぇっ!? 痛ぇっ! 何すんだこの暴力女!!』


「きゃあっ! 硬っ! 何このバッグ、中に石でも入ってんの!?」


「あわわわ、喧嘩しないで二人とも……!」


 こうして、腕は立つが過去に影のある美形の剣士、強力無比で自分勝手な魔法使い、そして最弱の初心者と口の悪い魔道具という、およそパーティとは呼べないほどバラバラな——しかし、妙に噛み合った四人(?)の珍道中が、正式に幕を開けたのだった。

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