【第四百八十一話】キャリア:イルモラシア・ブラッス(3)ダークエルフ
「離れろ! この悪しき者どもが!!」
空から落ちてきた襲撃者の身ぐるみを剥がし、そこらの木に縛り上げた襲撃者の一人がそう言った。
褐色の肌に、銀色の髪。眼光は鋭く、目の色は黄緑がかっている、耳の長い亜人。
「こりゃダークエルフだね」
メッダルがそう言って、襲撃者に顔を近づけた。
「ダークエルフ?」
「そう。といっても、耳が尖っている以外は僕たちエルフとの共通点はあまりないんだけど」
確かに、容姿的な特徴を見てみても、メッダルと共通している点は耳とその整った顔だけしかない。
武装に関しても、魔法に関係する武器を持っている奴はいなかったし、ここも魔法を主に武器とするエルフとではこれまた違う。
「やぁやぁはじめまして。僕はメッダル・ホッレル。君たちが大人しくしてたら命までは奪わないよ」
さっきまで素っ裸だったくせに、何をやっているんだろうか。
そんなことを思いながら、私はダークエルフの纏っていた服を羽織っているメッダルを眺めていた。
ちゃんと何重にも着込んで、あれだけ寒そうだったのが、今では逆に暑そうだ。
「我らの神聖な森に、貴様らのような奴らが何の用だッ!」
ダークエルフたちは私たちのことを睨みつけているが、その上で怒声を張り上げている奴がいた。
五人いる襲撃者は全員私たちに敵対的な目を向けてきているが、その中でも一際凶暴そうな眼光と顔つきをしている。
多分、彼女がこの集団のリーダー格だろう。
「私たちはこの森にいる凶悪な魔物を討伐しにきた。あなたたちを攻撃するつもりは一切ない」
師匠が一歩前に出て、ダークエルフの集団にそう言った。
「嘘をつくなっ! そうやって私たちに近づいて、警戒を解いた途端に襲おうとしているんだろう!? その手には乗らんッ!!」
状況的にはこちらが有利なのに、すごく吠えている。
一度立場をわからせた方が良いのではないだろうか。
それに、師匠に戯言を浴びせているのが気に食わない。
「師匠、こいつら一回殴ったほうがいいんじゃないですか?」
「逆に信じてもらえなくなるから駄目」
師匠は私の言葉にすぐにそう答えて、もう一度ダークエルフに声をかけた。
「あなた、名前は?」
「言うものか! 薄汚──」
「あ゙?」
「……イルア」
私が声を荒げると、師匠が私の名前をこちらを振り返った。
今こいつは何を言いかけた?
薄汚いという単語が出そうになっていたダークエルフに私は苛立ちを覚えながらも、師匠の話を邪魔するわけにはいかず、仕方なく黙り込むことにした。
「私はイルジー・クラサ。これ、お近づきの印」
師匠はそう言ってダークエルフと同じ視線にしゃがみ込んで、懐から干し肉を取り出した。
しかし、ダークエルフはそれを受け取らずに、ただ師匠を睨みつけている。
「……あぁ。わかった」
「っえ!?」
師匠が干し肉を噛みちぎって、それを咀嚼すると、残った方をダークエルフに渡した。
それ、師匠が口をつけた後の……。
「この通り、毒はないよ」
師匠がそう言うと、ダークエルフはほんの少しだけ眉を下げて、恐る恐るといった様子で干し肉をかじった。
この……っ。
「イルモラシア、さすがにステイ」
私の様子を見ていたメッダルがそう言ってくる。
「わかってるっ……よ!」
私はそう言って、拳を強く握り込んだ。
別に妬んでなんかいない。
ただちょっと……羨ましいだけだ。
「どう? 名前、教えてくれる?」
師匠がそう言うと、ダークエルフ達は互いに目を合わせて頷いて、リーダーらしき人物が小声で「メルギラ」と答えた。
「よろしく、メルギラ」
師匠がそう言った瞬間、メルギラを縛っていた縄をほどいた。
「……って、解放するんですか!?」
「うん。多分、襲ってこないだろうから」
「襲ってきても勝てるだろうしねー」
そんな……不用心な。
そう思いつつも、私の意見は通りそうもないので、何も言うことができなかった。
師匠はその後も拘束していた他のダークエルフも次々に解放していき、あまつさえ重要な干し肉を全員に分け与えた。
「私たちを襲ってきたのはあなたたち五人だけでいいよね」
「あぁ……。食料、感謝する」
「いいよ。仲良くしていこうね」
師匠がそう言うと、メルギラは「あぁ、よろしく頼む」と言って、右手を師匠に差し出した。
握手の文化はどうやらダークエルフにもあるようだ。
「あの……服、返していただけませんか……?」
「え? なんで?」
「それ、私の服……」
「僕が着てるから僕の服だよ」
メッダルが服を剥ぎ取ったダークエルフにそう言った。
服を剥ぎ取られた方は、裸というわけではないが、半袖に短いズボンという姿になっており、なんとも寒々しい。
何をやっているんだろう。
というより……。
「女の人しかいないんですね」
私は五人の中に男の人がいないことに気がついて、メルギラにそう言った。
「ん? あぁ、私たちに男は存在しない」
メルギラは私の質問に一瞬だけ戸惑ったあと、意味を理解したのかそう答えた。
男が存在しない種族……。
「え、それじゃあどうやって子孫を増やしてるんですか?」
「子供が必要なときに女が男に変わるようになっているんだ」
「へぇ……ぇ?」
私はその説明を聞いて、一瞬だけ固まってしまった。
女が……男に?
「普通のエルフも同じだよ?」
「エ?」
いや、聞いたことはある。
メスがオスに変わる生物がいると、魔法学校の一般教養の授業で聞いた。
確か魚類に多い性質だった……気がする。
……エルフって魚なの?
「その……先ほどはすまなかった。私はてっきり貴方が略奪……殺しにきたのかと」
メルギラがメッダルの方を見て、略奪という言葉を殺しに言い換えた。
まぁ略奪をしたというのは、ある意味間違ってはいない。
「あとで返すから、しばらく貸してくれないかな?」
「すまないが、それだと私の仲間が凍えてしまう」
「そこは問題ないよ」
メルギラの言葉に師匠がそう言うと、師匠は服を剥ぎ取られたダークエルフの周りに、複数の火の玉を生成した。
それと同時に火の周りで風を起こし、温められた風がダークエルフのもとへと送られる。
「温かい……」
「これで勘弁してくれる?」
「……あぁ、わかった。償いと服を貸し出したいのだが、我らの集落まできてくれるか?」
メルギラがそう言って、私たちは目を見合わせた。
本心か、罠か。
「いいよ」
どうやら、師匠は本心だと判断したらしい。




