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異世界転生した男、ほのぼの人生計画に夢を見る  作者: 黒月一
【第十一章】魔女編

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【第四百八十話】キャリア:イルモラシア・ブラッス(2)襲撃者

 日が昇って、辺りが明るくなってきた頃、私たちは森の中を歩いていた。

 三人とも魔法杖を持ち、体の周りに魔法で作った鎧をまといながら、周囲を警戒していた。


「その魔物って、どんな見た目なんですか」


「さぁ。ただ、森を焼き払えばそれでいいって言われたから、わからない」


 師匠はそう言って、その小さな体を寒さでぶるりと震わせた。

 彼女は白色のコートを着ていて、周囲には小さな火の玉を浮かせてると言うのに、それでも寒そうな様子だった。


「寒いんですか?」


「うん。イルアは寒くないの?」


「まぁ……慣れましたから」


 対する私は、長袖を二枚着て、それで寒さをしのいでいる。

 街を出たのはかれこれ四日も前だから、寒さにはもう慣れてしまったのだ。


「でも……メッダルは……」


「うん? なに?」


 私と師匠がメッダルの方を見ると、彼女は不思議そうな顔で首をかしげた。

 白い薄地の服。丈は膝下までしかなく、腕は肘の関節から先の肌が露出していた。

 その下に何かを着用している様子は見受けられない。


 ……感覚死んでる?


「僕のすべすべのお肌に何か付いてるのかな?」


「よくそんな薄ら寒いことが言えるね?」

「ひどくない?」


 私の言葉にそう答えたメッダルは、ただでさえ白い肌が寒さによってより一層白く見えた。


 周囲の葉に霜がつくほどの寒さだと言うのに、メッダルは全然ものともせずにピンピンしている。

 馬鹿は風邪を引かないと言うが、それに付随して寒さも感じにくいのではないだろうか。


「寒いことに強いのはいいことだよ」


「でも流石にこれは度を越してますよ」


「僕からしてみれば、そんなに寒さ対策をしている君らは貧弱に見えるけどなぁ」


 ……は?

 私はメッダルの言葉を聞いて、歩みを止めた。


「いま師匠を馬鹿にした?」

「イルア、だめ」


「いいや? ただ、貧弱と言っただけだけど?」

「メッダも」


「それを馬鹿にしたって言うんだけど」


「そうなのっ!? いやー、人間っていうのは案外オツムが足りないんだね? 貧弱は事実でしょ!?」


 こいつっ。


 私は杖で地面をコンッと叩き、周囲に光の玉を生成した。

 対抗するようにメッダルも闇の玉を生成する。


「やる?」


「僕は構わないよ」


 私は瞬時に魔力を放出して、すぐにでも防御が取れるように準備をした。

 メッダルは杖を派手に回転させて、私の視線を誘導しようとしている。


 彼女がよくやる戦法だ。

 回転している杖の方に気を取られていると、意識を向けていないところから不意打ちが飛んでくる。

 かといって、他のところに気を配りすぎていると、今度は真正面から攻撃が来るのだ。


「喧嘩は駄目って、言ってるよね」


 師匠がそう言った瞬間、突如として私たちが準備していた光と闇の玉が消滅した。

 消滅……というよりは、元の魔力に戻ったというべきだろうか。


 瞬時に辺り一帯の魔力濃度を薄めて、魔法の維持を不可にした。

 師匠の仕業だろう。


「何度も言わないといけないことかな」


 師匠がそう言って、私とメッダルの間に入った。


「でも……」


「イルア、あなたはもう少し冷静になって」


 師匠は少し顔をしかめながら、私の方を見上げてそう言った。

 可愛い。


「メッダも、なんでそんなに喧嘩を売りたがるの?」


「あはは、イルモラシアってからかい甲斐があるんだよ」


 やっぱりメッダは嫌いだ。

 とはいえ、師匠の怒った顔を見ることはできたし、そこまで悪くは思っていない。

 師匠を馬鹿にしたのは許せないが。


「本当に、警戒心を持って動いてね」


 師匠がそう言って私たちのことを少しだけ睨んできた。

 結構怒っているらしい。

 割といつものことだというのに。


「すみません……」


「あと」


 師匠が呟いて、目を瞑った。


「?」


 その瞬間、師匠の頭上で何かが砕け散った。


「師匠!?」


 私はすぐさま師匠の傍へ寄って、魔法杖を構えた。

 地面を見ると、魔法で造られた岩の壁の破片と、二本に割れた矢があった。


 誰が……!!


「イルアに喧嘩を売ったのは仲間割れを演じるため……なのかな?」


「御名答」


 師匠とメッダルがそんな会話をして、二人は木々を見上げていた。


 木の上に複数の影。


 そいつらは全身に緑色の布を纏っており、各々が弓矢でこちらを狙っていた。

 腰に短剣、頭をバンダナで覆っていて、表情を読み取ることができない。

 太陽を背にしているせいか、こちらの視界が強制的に制限されている。


 まるで獲物を狙うときのような布陣。


「作戦は?」


「こぶしで」


「了解」


 その言葉は二人の中で沢山ある合図のうちの一つだった。

『殺さずに・ぶちのめして・情報を吐かす』の合図。


 こうなってしまうと、もう私に出番はない。


「煙幕」


「はいよ!」


 瞬間的に辺りが霧で包まれる。

 メッダルの得意とする煙幕を張る魔法。原理的には一度生成した水の塊を、瞬間的に細かく拡散させるものだそうだ。

 少しの時間で完全に辺りが見えなくなってしまった。


「怯むな! 放てっ!」


 そんな声が聞こえて、空から矢が降ってくる。

 一本が私の足元に突き刺さった。


「相手、結構手練れですよ?」


 私はかろうじて師匠の姿を視認することができたので、小さな声でそう言った。

 喋るということは魔物ではない、どこかの民族か亜人かのどっちかだろう。


「だね。でも、木の上を選ぶのは少しお間抜けかな」


 師匠がそう言っている間にも、頭上からは大量の矢の雨が降り注いできて、私はそれを岩の壁で弾き返していた。


「まぁ、かもですね」


 私がそう言うと、師匠は一歩前に出て、杖を空に掲げた。

 師匠の杖は至ってシンプルで、普通の杖の先に風の魔石がついているものだった。


 それは今から約一〇〇年前、彼女が英雄と旅をしていたときに使っていた杖である。


「吹き飛べ」


 師匠がそう言った瞬間、耳を割る音が森中に響いた。

 メッダルの構築した煙幕は一瞬で晴れ、木に付いていた葉は一つ残らず空へと散った。

 乱れた空気は私たちにも伝わり、体がよろめき、立つことさえままならない。

 そんな中で、師匠だけは直立していた。


 ただの突風。

 ただの基礎魔法。


 だけど、師匠の放ったそれは、レンガ造りの家を土台ごと弾き飛ばす指向性の暴風だった。


「はい回収」


 メッダルがそう言ったときにはすでに勝敗は決していて、メッダルが水のクッションで襲撃者たちを包んでいた。

 ──また、何もできなかった。


「ははん! どうだい僕たちの力は!」


 メッダルがドヤ顔をしながら襲撃者たちに威張り散らしている。


「あ、メッダル」


「ん? どうしたのか──」


 暴風で吹き飛ばされていた矢が一本落ちてきて、メッダルの服を切り裂いた。

 ファサァっと、薄い白い布が地面に落ちた。


「……寒くない?」


「……うっす」


 襲撃者たちが厚着をしていて助かったと、その後にメッダルは言った。

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