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異世界転生した男、ほのぼの人生計画に夢を見る  作者: 黒月一
【第十一章】魔女編

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【第四百七十九話】キャリア:イルモラシア・ブラッス(1)きっかけ

【視点:イルモラシア・ブラッス】

 朝、テントの外からメッダルの声が聞こえて目が覚めた。


「だから! 一度痛い目を見せなきゃ駄目なんだよっ!!」


 メッダルの怒声。

 彼女が声を張り上げて怒ることは珍しく、私はつい驚いて、そっとテントの中から外を覗いた。


 そこにはメッダルと、師匠が向かい合って話し込んでいる姿があった。


「でも、何か理由があるかもしれないよ」


「何の理由があるんだ!? いくらなんでも最近の人間の依頼は度が過ぎてるッ!」


 メッダルの持つエルフの耳は真っ赤に染まっていて、一本にまとめて垂らされていた金の髪が激しく揺れていた。

 今回の依頼は、王国付近の小さな森で強い魔物が発生したから、森ごと焼き払ってくれというものだった。


 エルフにとって、森というものは神聖なものだ。

 それを焼き払うということは、エルフにとっては神を侮辱するのと同義であり、彼女はそれで憤っているのだろう。


 しかし、ホムン……なんとかという種族である師匠にとっては、森というものにそれほどの文化的価値も思い入れもないのか、森を焼き払うということに躊躇いがないらしい。


「森には沢山の生き物がいるんだっ! この調子だと、いつかエルフの集落にも被害が来る!」


「落ち着いて、メッダ」


「落ち着けるもんか! もういい! 今すぐにでもあの馬鹿ギルドマスターのところに行って……」


 メッダルがそこまで言いかけたので、私は仕方なくテントの幕を開けて、声を出した。


「メッダル……」


「……っ」


 私がそう言ってテントの外を出ると、メッダルは驚いたような顔をして私の方を振り返った。

 聞かれていたとは思っていなかったのか、メッダルは私の方を見て、パクパクと口を動かしつつも、何も言えずにいるらしい。


「イルア、おはよう。よく眠れた?」


「はい。あの……何か喧嘩ですか?」


 話は聞いていたものの、私はいかにも知らなかった体を装ってそう言った。

 メッダルは私の言葉を聞いて安心したのか「いいや、なんでもないよ」と言って、笑いかけてきた。

 こういうときの彼女は、作り笑いが上手だ。


「うん。なんでもない。ご飯にしようか」


 師匠がそう言って、私たちは朝ごはんを食べることにした。

 空はまだ少し闇を帯びていて、火の灯りが周りを赤く照らし、冬の寒い気温を幾分かマシなものにしてくれた。


 ハァッと息を吐くと、白い霧が宙にふわりと浮いた。


「今日、終わらせるよ」


 干し肉をかじっていると、師匠がそう言う。

 師匠は倒木の上に行儀よくちょこんと座っていて、白湯を啜っていた。


「……」


 メッダルは一瞬だけ食べている手を止めて、そしてまた食べ始めた。

 パチリッと、炎が鳴る。


「いつ始めますか?」


「日が昇りきったら、それと同時に火を放つ」


 師匠の放った言葉に、メッダルが反応した。


「イルジーっ……!」


 彼女は激昂した様子で立ち上がって、師匠の目の前に立つ。

 私には到底怒った彼女を止めることはできないから、それをそっと眺めることしかできない。


「メッダ、わかって」


「何をだよっ!」


「私たちは依頼を要望通りにこなしてきたから信頼を得てきた。もし依頼主通りに仕事ができなかったら、信頼がなくなって、お金が稼げなくなるかもしれないよ」


「結局は金なのか!?」


 メッダルがそう言うと、師匠は静かに頷いて、白湯に口をつけた。

 こういうときでさえ、師匠は至って冷静だ。

 魔法に長けたエルフ族のメッダルを簡単にねじ伏せることができる力を持っていながら、決して魔法の力には頼らず、対話で済ませようとする。


 私はそんな師匠の姿を見て、彼女のようになりたいと、そう思っていたのだ。


 とはいえ、メッダルの主張も私には理解ができるものだった。

 森を焼き払って良いことなどは無い。命は沢山失われるし、木の実や薬草だって採れなくなってしまう。

 森に住んでいる種族はエルフ以外にも沢山いて、その種族の住処がなくなってしまえば、難民が大量に周辺諸国へなだれ込んでしまうだろう。


 たとえ小さな森だとしても、焼き払っていい理由にはならない。


 師匠の味方になりたい私と、メッダルの主張が正しいと思う私とで、不安定になっていた。


「メッダ。あなたも、集落のみんなを豊かにしてあげたいから仕事をしているんだよね。だったら、こうするしかない」


「森を焼き払うぐらいなら泥棒のほうがマシだ」


「あなたは窃盗団を作りたいの?」


「そういう話じゃないだろう!?」


 メッダルの言う通り、そういう話ではない。

 彼女は別に窃盗をしたいというわけではないのだ。

 ただ、森を焼き払うのは、窃盗以上に最悪な行為というだけで。


 今みたいに、師匠は時たま的外れなことを言ってしまうことがあった。

 そのたびにメッダルが怒って、私がそれを止めていた。


 でも、なぜだろう。

 今回は止める気が起きない。


「第一、森を焼いたら、集落のみんなに顔向けができないじゃないか……」


 私が生まれる前、メッダルは貧しいエルフの集落に住んでいたらしい。

 貧しい、といっても生活に困っていたわけではなく、自給自足で集落のみんなと協力しあい、暮らしを営んできたという。


 ただ、最近になって人間が力をつけてくると、嫌でも外部との交流が増えてお金が必要になる場面が増えたらしく、そのためにメッダルは出稼ぎに出て、冒険者をやっているようだった。

 実際、年に数回ほどメッダルは地元に帰って、冒険者業で稼いだお金を集落のみんなに渡しているようだ。


「師匠」


 私は俯いて落ち込んでいるメッダルの姿を見て、耐えられなくなってしまった。


「なに?」


 師匠は不思議そうな表情をしながら可愛い顔を傾けた。

 私はその様子に少しうっとりとしながらも、師匠に提案をした。


「一回だけ、森の中を見て周りませんか? もし件の魔物がいたらそこで殺してしまえばいいですし。いなかった場合に森を焼きましょう」


「でも、それだと依頼主の意向に」

「魔物さえ倒せば、依頼主はそれで満足すると思います。人間ってそこらへん、適当ですから」


 私がそう言うと、師匠は「うーん」と愛くるしく顔をしかめながら悩んでしまった。

 私の言葉を聞いたメッダルはほんの少しの期待を抱きながら、師匠のことを見ている。


「──まぁ、そうだね。わかった。一度だけ、森の中を散策しようかな。ただ魔物が見つからなかったら森は焼き払うよ、いい?」


 師匠がそう言うと、メッダルは顔を明るくして「あぁ!」と言った。

 まぁ、これでひとまずは安心できるだろうか。


 私はそんなことを思いながら、干し肉を一気に口の中へ放り込んだ。


 炎がまたもや、パチリッと鳴いた。

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