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異世界転生した男、ほのぼの人生計画に夢を見る  作者: 黒月一
【第六章】少女救出編

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【第百九十六話】再会

「いつもいつもユウスケとミノルに迷惑を掛けてるのがうざったいんだよ!!」


「……ごめんなさい」

「ごめんじゃねぇよ!」


 ボコッと、灰色の髪の少女が杖でアディメさんを殴った。

 その音は大きく太く、とても強い力で殴ったことがわかる。

 なんとも不快だ。こいつが、アディメさんをあんな状態に……。こいつが全ての元凶なのだ。

 こいつさえいなければ、アディメさんは少なくともあの時この場では泣いていることは無く、こんな不幸な目に会う必要もなかった。

 こいつが、こいつが……!


 僕の左手からリンゴが落ちた。

 右手に持っている杖を灰髪に向けた。


「──駄目ですよ」


 ……ッ!?

 スクリ? なぜここに……。


 よく見ると、彼女の右手には、僕が先程落としたリンゴが握られていた。


「誰よあんた達」


 灰髪が僕達に気づいてそう言ってきたので、僕はその態度に物申そうと前に出る。

 しかし、それをスクリは止めた。

 自分がやる。そう言わんばかりに、彼女が前に一歩踏み出したのだ。


「私達はそこの緑髪のお嬢さんに用があって来たんですよー。

 だから……返してもらえます?」


 スクリはだからの後に少しの間を置いて、その少しの間で楽観的な表情が、真剣な表情へと変わった。


「返すも何も、アディメは私達の所有物よ! ミノルが奴隷になっていたこいつを買ってきたから、所有権は……」


「所有権があるから好きにしてもいい、なんて都合のいい話は嫌いですよ」


 こんな覇気のあるスクリは見たことがない。

 いつもヘラヘラして、ギャンブルをしたことを誤魔化して、僕の財布から金をくすねるスクリが、そこにはいなかった。


「部外者は黙って……!」


「黙って何になるんです? ただこの場でヘラーラさんが殴られているのを黙って見てろと?」


「スクリ……」


 僕が彼女の名前を呼ぶと、スクリはこちらの方を振り返って、そっと微笑んだ。

 大丈夫です。そんな言葉が彼女の表情から不思議と聴こえてくる。


「もういい。あんた達全員ぶっ倒す!」


 そう言って、灰髪が杖をこちらに向けて構えたので、僕は彼女の杖の先端に基礎魔法で火をつけた。

 杖の火は瞬く間に大きくなって、すぐに灰髪の杖の先端についていた土の魔石がコトリと地面に落ちる。


 咄嗟に灰髪が杖を捨て、両手を前に突き出して魔法を発動しようとしたので、僕はすぐさま灰髪の元へ走って、殴打した。

 さほど鍛えていない僕ですら、灰髪を伸すことは容易だった。

 僕が殴打すると、彼女はすぐに吹き飛んで、尻もちをついたのだ。


 これが本当に、勇者と、アディメさんと行動を一緒にしていた人間なのか?

 弱すぎる。ここまで弱くて、何が勇者のお付きだ。

 いくら魔術師職だからと言って、魔法を発動するスピードも、僕の攻撃を避ける反応速度も、勇者のお付きどころか、普通の冒険者をやっている魔術師にすら劣るだろう。


 僕は無性に腹立たしくなって、灰髪の目の前に立って、拳を振り上げる。


「リーバルトさん、駄目です」


 スクリの声で、僕の振り下ろそうとしていた拳が止まる。

 スクリの左手が僕の右腕を掴んで離さない。


 ……憂さ晴らしをしたところで、何の意味もないか。


「何よ……何よあんたた──」

「黙ってくれないか。うるさい」


 頭がガンガンする。

 この耳に入る音全てが不快に聞こえて仕方がない。


 ふと、アディメさんの方を見ると、彼女は信じられないと言ったような顔でコチラを見てきていた。

 僕の姿が目の前にあることが、彼女にとっては幻覚に見えるのだろう。

 日記を見てみても、精神健康状態は悪い様子だった。今の僕を幻覚だと考えてしまってもおかしくはない。


「……アディメさん」


 僕が彼女の名前をそっと呼ぶと、彼女は目を丸くさせて、しばらく静止した。

 その目からは次第に大粒の涙が溢れ出してきていて、何かの言葉を発しようとしているのか、口をパクパクとさせている。

 言葉にならない声が、小さくかすれながらに聞こえてくる。


「アディメさん、もう……もう大丈夫ですよ」


 僕が更にそう言うと、彼女の瞼から流れる涙の勢いが増して、嗚咽が聞こえ始めた。

 彼女は薄汚れた修道服を着ていて、足には途中で切れている鎖があった。


「リーバくん、会いたかった……会いたかったよ……」


 アディメさんが嗚咽混じりにそう言って、僕の方へと近寄って……僕の太ももをしっかりと抱きしめてくる。

 僕は彼女の修道服の頭巾を外し、その頭をそっと撫でた。

 しばらく会わない内に彼女の髪の毛は、最初に会った頃と同じぐらいにまで伸びている。


「僕もです……」


「敬語は使わないで……」


「……うん」


 しばらく会っていないと、やはり癖として敬語が出てしまうな。

 そんな癖は止めた方がいいのに、どうしてもしてしまう。


「2人で感動的な再会はいいんですけど……そろそろ行かないと不味いですよ?」 


 スクリが灰髪を縛りながらそう言って、僕はハッとした。

 そうだ、ハッセルが危ない。彼はまだ勇者と戦っているのか?

 そもそも、なぜスクリはここにいる? シビルを治癒していたのではないのか?


「スクリ、そういえばなんでここに……」


 僕は灰髪の少女に猿ぐつわを付けているスクリにそう訊くと、彼女は答えた。


「シビルさん、傷が全部治ったかと思うとすぐに起き上がって、すぐさま勇者と戦いを始めたんです。

 止めようにも、あの場で止めれる技量なんて私にはありませんし……」


 ……ハッセルとシビルが、勇者と激戦を繰り広げている様子が脳裏にありありと浮かんでくる。

 というかシビル……いくらなんでも好戦的過ぎないか……?


「とりあえず急ぎましょう」


 スクリがそう言って僕にリンゴを手渡して来たので、僕はアディメさんを撫でる手を止め、まだ少し涙目の彼女を立ち上がらせた。


「また後にしましょう。これ、あげます」


 僕はそう言ってアディメさんにスクリから渡されたリンゴを渡すと、彼女は「うん」と涙まじりの微笑を浮かべながら返事をした。

 アディメさんは僕のリンゴを受け取り、大切そうに懐にしまった。

 できれば食べてほしいんだけどな……。


「私の目の前で惚気けないでくれます……?」


 スクリが恨めしそうに僕にそう言って、ずかずかと灰髪を引っ張って路地裏から出ていった。

 感動の再会なんだから、少しぐらいは惚気けてもいいんじゃないかなと、僕は思う。

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