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異世界転生した男、ほのぼの人生計画に夢を見る  作者: 黒月一
【第六章】少女救出編

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【第百九十五話】少女捜索

「誰だお前は!!」


「俺はハッセル・アームストロング! ルミリク帝国皇帝近衛騎士団の団員だ!」


 砂嵐の中、強風が吹く音と剣同士が擦れ合う音の中、そんな会話が聞こえてきた。

 さっきまで勇者と戦うことを嫌がってた男が、いざ戦ってみるとノリノリじゃないか……。


 まあいい。今はうだうだとしている時間はない。


「始めましょう」


 僕は急いで近くの瓦礫に隠れていた近衛騎士団の人の元へと走り、そう言った。


「はい!」


 近衛騎士団員の人達は一斉にそう返事をして、それぞればらばらの方向へと走り出す。

 勇者がここにいるなら、近くにアディメさんがいるはずだ。

 ハッセルが勇者と戦って時間稼ぎをしている間に、早くアディメさんを見つけなければ。


「スクリ、あとどれくらいかかる?」


 僕は近くの瀕死体を使って大怪我を負っているシビルに治癒魔法をかけているスクリにそう訊いた。

 シビルの顔色は先程よりかは生気の篭もっているものになっているが、それでもまだ傷は塞がりきっていない。

 少しずつ、地面の土に赤いシミが広がっていく。


「あと5分はかかります!」


 この風の詠唱魔法の効力が続くのが3分程度なので、シビルの傷が癒えるときには時間がオーバーしてしまう。

 もし風の詠唱魔法の効力が切れたら、シビルの傷を癒やしていることが勇者にバレて、最終的にシビルが殺されてしまうかもしれない。

 それは不味い。

 シビルという戦闘力を失うというのは、すなわち勇者相手に敗北することになるのだ。


「もうちょっと早くできそう?」


「頑張ってみます!」

 

 スクリはそう言ってもう一度治癒魔法の詠唱を始めた。

 彼女は先程よりも早口で治癒魔法の詠唱を始めている。

 こちらも早くアディメさんの捜索をしなければ。


「じゃあ任せた!」


 僕はそう言って、その場から離れる。

 砂嵐の中からは剣がぶつかり合う音が響いていた。


 僕はひとまず近くの家に向かってみる。

 近くの家と言えど、シビルと勇者の戦いで辺り一帯の家が吹き飛んでしまっているため、ハッセルと勇者が現在戦っている位置からかなり離れた家だ。


「アディメさん!」


 僕は大声でそう叫んで無人の家の戸を開く。

 中からは何の返事も返ってこなかった。

 僕は大急ぎで家の中を探索し始める。


 リビング、寝室、応接間、倉庫、その他もろもろの部屋をおおよそ30秒で回り、この家にはアディメさんがいないことがわかった。

 それなりに広い家なのに、自分でも驚くほどの手際の良さとスピードだった。


「アディメさん!」


 僕はもう1軒の家の扉を開き、またそう叫ぶ。

 そして、また返事は返ってこない。

 でも一応中にアディメさんがいないとも限らないため、僕は大急ぎで家の中を回り、アディメさんがいないことを確認し次第、次の家に向かう。 

 3軒目、4軒目と周っている内に、砂嵐が止む時間はとっくの昔に過ぎ去っていた。


 僕はアディメさんの名前をとにかく叫びまくる。

 すぐに喉が乾いて、水の基礎魔法を利用して喉を潤す。

 声がいつ枯れてしまってもおかしくはないだろう。


 急がなければ、ハッセルが死んでしまう。

 僕は5軒目の家に向かっている最中に、ハッセル達のいる場所をちらりと見てみると、そこには笑いながら勇者と死闘を繰り広げているハッセルがいた。


 砂嵐は止んでいた。

 しかし、この調子であれば、よほどのことが起きなければあと3分は持ちそうだ。

 幸い、スクリとシビルは勇者からは見えない位置にいるので、彼女達の位置がバレる心配は少ない。

 早くアディメさんを見つけ出さないと……。


 僕はその後も5軒目、6軒目、7軒目と回るが、依然としてアディメさんが見つかる気配がしない。

 本当に勇者の近くにいるのか?

 テタの言うことが信じられなくなってきている。


 いや、僕が実際にテタがそう言っていたところを見ていたわけじゃないが。


「リーバルトさん見つかりましたか!?」


 僕が次の家に向かっている途中で、近衛騎士団の魔術師の人がそう訊いてきたが、僕の表情を見て彼はまだアディメさんが見つかっていないことを察したのか「急ぎましょう!」と声を掛けてくれた。

 本当に急がなければ。


 8軒目、9軒目、10軒目、もはや周りが家に囲まれて、ハッセル達の姿が見えなくなっている所まで来てしまった。

 アディメさんは未だに見つかる気配がしない。


 僕は大急ぎで、涙目にもなりながら彼女を探す。

 彼女の名前を叫ぶ僕の声がくぐもっていく。

 どこへ行ってしまったというのか。


 もしくは、アディメさんは勇者から逃げ出しているのではないのだろうか?

 勇者が近くにいない内に、できる限り遠くへ逃げようと、どんどんと僕達から遠ざかっていっているのではないだろうか。


 もしそうだとしたら、僕が今やっているこの行為はなんだ?

 ただ顔も名前も知らぬ人達の家を荒らし回っているだけじゃないか。

 そんな、ゲームの中の勇者のようなことを、僕はしているのか?

 家の中に入って、ツボを割って、中に隠してあるものを盗ってしまうような人間の所業を、僕が?


 ……妄想はやめよう。

 そんなことをしても、ただ心配になったり虚しくなったりするだけだ。


 13軒目……15軒目……18軒目……どんなに家の扉を開けようとも、アディメさんはいない。

 痕跡すらもない。

 一軒一軒を見て回る時間が20秒どころか、10秒にも満たなくなってきた。


 扉を開いて、大声で叫び、部屋の扉を開けて、一瞬で部屋の中を見て、いなくて、次へ行く。

 ちゃんと部屋の中を見てもいない。見る気が起きない。

 どうせ丁寧に探したとしても、そこにいなければ僕のその行為は、空虚となるのだから。


 たまにアディメさんのようなものが見えたと思ったら、それはただの壁に掛けられているコートだったりで、時間を無駄にする。

 早く、もっと早く。間に合わなくなってしまう前に、早くアディメさんを見つけなければ。


 ハッセルに勇者の相手を任せてから早15分は経ってしまっている。

 いつ彼が勇者に負けて、こちらに迫ってきていてもおかしくない。


 いない。いない。いない。いない。

 どこの家にもアディメさんはいない。

 どこへ行った? 勇者はアディメさんをどこにやった?


 気づけば、僕は市場の方にまで来ていた。

 ここまで回った家の数は優に30軒は超えているだろう。

 しかし、やはりその家々に人はいない。


「痛ッ!」


 僕は市場を走っていると、道端に転がっている死体に足を引っ掛けて転んでしまった。

 くそ……早く、アディメさんを探さないといけないのに……なんで……。


 なんで、足が動かないんだよ……。


 体が立ち上がることを拒否しているのか?

 体に疲労が蓄積して、心では何をしても無駄だと思ってしまっている僕がいる。


 もうつかれた。もう休みたい……。嫌だ……。

 なんで、なんでこんなことに……。


 辺りに血の臭いが漂っていて、鼻がおかしくなってしまいそうだ。

 動きたいのに、動けない。体が動きたくないと言っている。


「クソ……クソッ! クソがッ!!」


 僕は理由もなく、地面を叩く。

 ボロボロになった石の道路が、僕の肉とぶつかって柔らかい音を出し、僕の皮膚を痛めつけた。


 こんなことをしていても無駄だと言うのに、何をやっているんだろう僕は。


「……はぁ」


 僕は無理やり、体に力を入れて、脱力しきったまま市場を歩く。

 元気なオバちゃんが営んでた野菜屋……気難しいおっちゃんのいた肉屋……僕をリーバと呼んでいた男の武器屋……。

 全てが懐かしくて、全てが抜け殻のように空だった。


 僕がお世辞を言ってよく値引き交渉をしていた、気前の良い女性のいた果物屋の目の前を通る。

 地面にはたくさんの果物が転がっていて、虫が湧いていて、汚れていた。


 唯一リンゴだけが、店の棚の、かごの上に乗っていた。

 僕はその中から清潔なリンゴを両手に2つ取り、1つを齧る。


 ……別にもうやらなくてもいいのに、僕はなぜ銀貨1枚を店のカウンターに置いてしまうのだろう。

 体に癖として染み付いているだけなのだろう。


 甘いリンゴの味が舌の上に転がって、多少なりとも現実逃避に役に立っている。

 ハッセルは無事だろうか。まだ戦っているのだろうか。


 早く探さなければとも思うけれど、足がうまく動かない。

 もう止めていいんだよと、体が訴えかけてくる。


 もういいや。そう思った。


 その時だった。

 近くの路地裏から、誰かの叫ぶ声がした。

 それと同時に、誰かが泣いているような声も路地裏からは聴こえてくる。

 路地裏から離れた位置に立っている僕ですら、人間の声と断定できるほどに、それらの声は大きく、厭に頭に響いてくる。


 僕は声の聞こえる路地裏を歩いていく。

 路地裏には血の臭いに混じって、吐瀉物や、汚物の臭い、食べ物の腐った臭いが漂っていて、あの日の記憶を思い起こさせた。

 確かあのときは、すすり泣く声で、僕はここに来たのだ。


 そしてやはり、その泣いている声は路地裏を曲がった先から聴こえてくる。

 誰かが喋っている声がする。その声は、僕を酷く不快にさせるような、嫌な声だ。


「──だと思ってんの!?」

「……なさい」


 僕は恐る恐る、路地裏の角を曲がった。

 そして僕は、その光景を見てハラワタが煮え繰り返りそうな思いになった。


 そこには、灰色の髪の少女に踏んづけられている、緑色の髪をした少女がいた。

 アディメさんと、勇者のもう一人の仲間だ。

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