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異世界転生した男、ほのぼの人生計画に夢を見る  作者: 黒月一
【第六章】少女救出編

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【第百七十七話】これは吉兆か、不吉か

【視点:リーバルト・ギリア】

「リーバくん! おはようございます!」


「ん……。あ、あぇ? なんでアディメさん?」


 僕の顔を覗き込んでいるアディメさんに、僕はそう言った。


「いやだなー! 寝ぼけてるんですか?」


 寝ぼけ……? ここは、学校の寮の寝室……?

 てことは今までずっと寝てたのか……?


「あ、えっと……アディメさん?」


「どうしました?」


 彼女は不思議そうな顔で僕の事を見る。

 随分と懐かしく感じるその頬に僕は触れる。

 彼女は「ヒャッ!?」と可愛い声を出した。


「その、ごめんね?」


「……? なんで謝るんですか」


 そんなおかしい人を見るような目で僕を見つめないでくれ……。


「いや……あはは、なんでだろうね」


 僕はそんな風に言ってごまかす。

 アディメさんを拒絶したことも夢なら、別に現実で謝る必要はないか。


 それにしても、変なシーンのところで起きたな。

 アディメさん救出のために、王都に向かっている馬車に乗っている途中で起きるとは。


「下でロントさん達が待ってますよ!」


「あぁ、うん、わかった。先に行ってて」


「はい!」


 アディメさんはそう元気よく返事をして、部屋の外に出た。

 彼女の頬に触れていた僕の手が空く。

 扉の外で、彼女が階段を下っている音が聞こえた。


 それにしても……夢みたいだ。いや、夢だったんだけれども。

 随分と長い夢を見ていた気がする。


 まさかロントくんが死んで、みんなと決別する夢を見るとは。

 アディメさんの様子もよく考えたらおかしかったかもしれないし、逆にあれで夢だと気づかなかった僕は、どうしようもなく馬鹿だったな。


「ふぅー。良かったぁ……」


 あれが現実だったら、本当にキツかった。

 ただ、ツレやスクリ、シビルとの出会いも無かったというのは、寂しいな……。

 いや、そもそもあれらは僕の脳が勝手に創り出した幻想なのか。

 となると、存外寂しくない……訳にはならないだろう。


 ……下に向かうか。


「お! 随分とうなされたね! こりゃ酷い悪夢だったわけだ!」


 僕が階段を降りて、共用スペースに足を踏み入れると、ロントくんが僕の姿を見て開口一番にそう言った。


「そんなにうなされてたの!?」


「うん! 時折僕の名前を叫ぶもんだから! おかしくっておかしくって!」


 そう言ってロントくんは笑いをこらえきれない様子でいる。

 そんなに笑う必要ないじゃないか……。


 でも……平和だ。いつも通りだ。


「リーバくん! 朝ごはんを食べましょう!」


 アディメさんがそう言うと、それにロントくんが同意する。


「そうだね、丁度パンを買ってきたんだ。──とびきり不味いのをね」


 なんでそんなもの買ってきたんだ……。 

 今月はお金にも余裕があるはずなのに。

 確か大体フリル金貨……何枚だっけ? まあいい。後で確認すれば良いことだし。


「ただいまー。おっリーバルト起きてる」


 ハーミルくんが玄関へと続く扉から出てきた。

 多分、外の花への水やりをしてきたのだろう。


「ちょうどよかった。今から朝食だから、ハーミルくんも座って」


 僕はそんな風に言って、目の前にある長めのソファに座り込んだ。

 僕の隣にアディメさんが座り込んで、密着してきた。


「あの……アディメさん?」


「どうしました?」


「近いね……?」


「そうですか?」


 アディメさんはそれだけ言ってパンを齧り始めた。

 色々と近い……。

 アディメさんは夢の世界でも、現実でもあまり変わってないな……。


「よ! ラブラブー!」


 ロントくんがそんな風に言ってからかってきた。

 あんたもルラーシアちゃんと付き合っているやろがい!


「僕に対する当てつけと見ていい?」


 ハーミルくんが僕達のことを恨めしそうに見つめてきている。

 彼は……ああ、そういやそうだったな……。


「そんな目で3人して見つめないでくれ! いいよ! 僕はどうせ好きになってくれる人も彼女もいないよ!!」


 ハーミルくんは悲しそうにそう叫んで、パンにがっついた。


「ほら、フィモラーちゃんとか……同級生の子とかさ……色々といると僕は思うよ?

 それにハーミルくんも一応大物貴族の子だし……」


「一応って何だよ! 僕は正真正銘父さんの第一子だよ!」


 あっ駄目だこれ。何を言っても多分悪い方向に行くタイプの会話だ。

 今の彼にどう言葉をかけようが、彼は変に曲解して塞ぎ込むな、これ。


 それにしても……本当に平和だ。


「リーバルト、どうしたの? なんかボーっとしてるけど」


「えっ? ああいや、平和だなーって」


「僕に彼女がいないことが平和!?」


「まあまあハーミル、そういう事もあるさ」


 ロントくんがそう言ってクスクスと笑う。

 それにつられて僕の隣にいるアディメさんも笑い始め、僕も笑った。


「なんだみんなして!! 僕泣くよ!? 泣くよ!?」


 ああ、平和だ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「うーん、どうしましょう……」


 僕は今、アディメさんと市場に来ている。

 建前としては買い物の手伝い、本音はデートらしい。

『らしい』というのも、アディメさんが突然「買い物に行きましょう!」と言ってきたのを、ロントくんが「これはデートだよ」と教えてくれたからだ。


 まあ彼女の真意がわからないので、何とも言えないが。

 それでも彼女の服装は見るからに力が入っていて、白いワンピースを纏っており、頭には僕のあげた青いリボンの付いた麦わら帽子をかぶっている。


「どうしたの?」


「いえ、今日の夕御飯は何にしようかなと」


 これデートじゃなくて本当に買い物の可能性あるな。

 まあ別にいい。

 彼女が幸せに外で外出できていること自体、僕としては嬉しい。

 それがたとえただの買い物だとしても、彼女が自由なのだと実感できればそれでいいのだ。


「あれ?」


「どうしました? リーバくん」


「あっいや、なんでもないよ」


 ……なんでアディメさんは外出できているのだろう?

 だって彼女が外出できないのは、彼女がその身を追われているからであって……。


 彼女が身を追われている理由は?


 勇者の元から消えたから……。

 僕の記憶上、この問題が解決したという記憶は、存在しない。


「ねえアディメさん」


「なんですか?」


 アディメさんが振り向いた瞬間、彼女の首元にキラッと光るものが見えた。

 僕がメリーワンダーの街(・・・・・・・・・)で買った、光の魔石が埋め込まれている首飾りだ。


 何故だ。何故そこにある。

 だって、現実ではメリーワンダーの街に行ってないはずだ……。


 いや、なんでメリーワンダーの街に行っていないことを断言できる? おかしい。


 駄目だ、これ以上考えるな。

 これ以上考えたら……駄目だ、ダメだ。


「……どうしました?」


「あ、アディメさんはさ、今は、勇者教団に追われてたり……する?」


 僕は恐る恐る訊いてみる。

 僕はなんでこんなことを訊いているんだろう。

 彼女の次にくるであろう回答が来るのを恐れて、頭がはち切れそうだ。


「いやだなぁリーバくん! 私はもう追われてませんよ!」 


「そう……そうだよね! あはは……」


 よかった。もう追われていないのか。

 じゃあ、もうあの問題は解決していることになるわけで。

 なんで僕はその事を覚えていないのか。


「リーバルトさん」


 アディメさんは僕の名前を略さずに呼んだ。

 彼女は僕に背を向けていて、その可愛らしい顔を見ることができない。


 どちらかというと、見たくないのだ。

 だから、僕の脳は彼女の後ろ姿を考えた。


「なに?」


 僕がそう反応すると、アディメさんは振り返った。


「早く私を助け出してください」


 振り返った彼女は涙を浮かべていた。

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