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紫式部日記 舞夢訳  作者: 舞夢
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十一日の暁、御堂へ渡らせたまふ。(2)

事果てて、殿上人舟に乗りて、みな漕ぎ続きてあそぶ。御堂の東のつま、北向きに押し開けたる戸の前、池につくり下ろしたる階の高欄を押さへて、宮の大夫はゐたまへり。殿あからさまに参らせたまへるほど、宰相の君など物語して、御前なれば、うちとけぬ用意、内も外もをかしきほどなり。

 月おぼろにさし出でて、若やかなる君達、今様歌うたふも、舟に乗りおほせたるを、若うをかしく聞こゆるに、大蔵卿の、おほなおほなまじりて、さすがに声うち添へむもつつましきにや、しのびやかにてゐたる後ろでの、をかしう見ゆれば、御簾のうちの人もみそかに笑ふ。

 「舟のうちにや老いをばかこつらむ。」

と、言ひたるを聞きつけたまへるにや、大夫、

 「徐福文成誑誕多し」

と、うち誦じたまふ声もさまもこよなう今めかしく見ゆ。

 「池の浮き草」

とうたひて、笛など吹き合せたる暁方の風のけはひさへぞ心ことなる。はかないことも所から折からなりけり。


※宰相の君:中宮付き女房。敦成親王の乳母。

※若やかなる君達:道長の息男など。頼道、教通、兼隆、雅通と思われる。

※大蔵卿:従三位参議大蔵卿藤原正光。当時53歳。

※舟のうちにや老いをばかこつらむ:白楽天の詩。「海漫々:童男卯女舟中ニ老ユ」から、紫式部が若い人に交じり53歳の大蔵卿が浮いている様子をたとえた。

※「徐福文成誑誕多し」:紫式部の漢詩からの言葉を踏まえ、中宮の大夫は、中国の道士徐福、文成(少翁)誑誕でたらめ多し」と応じたもの。


法要が終了しますと、殿上人たちは船にお乗りになり、みな次々に池に漕ぎ出して、管弦の遊びとなります。

御堂の東側の端、北側に押し開けられた妻戸の前、池に降りられるように作り付けられた階段の欄干に手を置いて、中宮の大夫がお座りになっておられます。

道長様は、中宮様のお前におられる少々の間 、中宮の大夫には宰相の君がお相手をするのですが、やはり中宮様の御前でありますので、節度を保った上品な対応です。

そのように、御簾の内も外も、風情に包まれています。

月は、雲間から、ほんのりと出て、若々しい君達が、今様の歌を歌う声は、全員が船に乗り込んでいることもあって、いかにも若々しさを増して聞こえて来るのです。

その中で、大蔵卿が年甲斐もなく仲間に入ってしまったのですが、さすがに歌声を張り上げるまでは恥ずかしいのか、結局は隠れるように座っていらっしゃいます。その後ろ姿は、見ていて、実に笑えてしまうので、御簾の中の女房隊も、クスクスと笑っています。


「船の中で、自らの老いを嘆いておられるのでしょうか」

と私(紫式部)がつぶやいたのが、耳に入ったのでしょうか。


中宮の大夫

「徐福文成誑誕多し」

と詠われる声も姿も、実に現代風に華やかな感じです。


(船の中の君達は)

「池の浮き草」などと謡い、笛を吹き添えているのですが、その音を響かせる暁方の風の気配までが、何かいつもとは違う、特別な感じです。

このように、ほんの少しの風であっても、その時と場合によるものと感じるのです。


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