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103/103

10秒の決戦

 一手一手が詰めろ。手番を譲ってくれるほど優しい相手ではない。こちらも逆王手をかけ続けて追い込み続ける必要がある。


 視線が交差する。脳が覚醒した。勝負はあと10秒で決まる。その結果がどちらか不明。死を覚悟していかなければならない。

 攻撃が途切れるコンマ1秒の隙間を狙い、胴をめがけて剣を鋭く振る。

 思わず止めていた息が漏れる。


 コルリが引いて剣が空を斬った。

 前傾になり前に突き出た顔を目掛けて鋭い突きが放たれる。

 眉間に迫る槍先を避けるため、腹筋に全ての力を込めて腰を極限まで落とす。

 槍が左前頭部を掠める。


 相手は無防備。チャンス到来。

 っこは最速の一手だ。

 リーチが長くなるよう左手だけで剣を握り腹部に目がけて突き出す。

 コルリは回避するのではなく、真っすぐに足を振り上げて剣先を上方に逸らす。


 槍を握ったコルリの右腕が折りたたまれる。

 剣を引き寄せ両手でガードは……到底間にはない。

 重心を後ろに下げる。

「逃がすか!!」

 刀身が心臓に迫る。これ以上はしゃがんでの回避はできない。

 今さらリーチの範囲外に逃げることは不可能。


 槍の一突きで臨終か。

 勝負に敗北して死ぬというのも騎士っぽくていいかもしれない。

 

 ――――――でも今じゃない。


光輝燦然レディエント!!」

 強烈な光が眼前に広がる真っ白な視界。

 左手の剣を捨て、右手の短剣を胸の前で構える。

 槍の穂が短剣に当たった。

 やはり攻撃は継続している。

 槍の力に負けて弾かれる右腕。

 左手で槍の柄を掴み、全身を前に投げ出す。 

 左脇の下に痛みが走る。槍の穂で切れたのだろう。左腕は使えないな。もっとも、ここまで来れば関係ない。

 上半身を捻り、右腕を背中側に引いて反動をつける。

 槍の長さは2メートルほど。そろそろ間合いに入る。


 その瞬間、腹部に何かが当たった。

 だが……

「何だと!!」

 呆気にとられたような声が聞こえた。

 腹部の痛みは強くない。足の横をするりと抜けて、コルリがいるであろう場所に着地。

 すべて思い描いた通り、右手を前に伸ばす。


 視力がだんだん戻ってきた。


「まいった。参ったよ。オレの負けだ」

 俺に跨られているコルリは白旗を挙げた。

 こちらも喉に当てている短剣を仕舞い脱力する。

 良かった。かなりリスクがあったのだが何とか勝てたようだ。


 コルリが足の下で地面を叩いて何かをしている。

「おめでとう。おめでとうなんだが、とりあえずどいてくれないか」



「なるほど。視界を奪うのと同時にオレの足元を凍らせていたと。その時点で勝敗は決していたな」

 俺の説明を聞いて納得した様子である。

 ぶっちゃけたところ、あのシチュエーションで蹴りを放つとこまで持っていた体幹が恐ろしい。

「ってアホか! 同時に二つの魔術を使うなんて!! 1年だろオマエは非常識だよ」

「あはは。それは披露してませんでしたね。偶然とはいえ助かりましたよ。両方とも一度使用していたので」

「偶然って、分かっていても対処できねえよ。オレの蹴りも見越して飛び込んだってことだろ」

「足技が得意なのは嫌になるくらい分かっていましたから。そにれあれだけ食らうと対策の1つも考えますよ」

「クレバーさを1ミクロンも感じないがなぁ」

「あははは。それって褒めてないで、イタタタ。シミルよ。傷口がぁ」

「安静にしてください。一番出血が激しいのがあなたなんですから」


 コルリの話し相手になりつつ、俺が倒し損ねたメリアという魔術師から治癒魔術をかけてもらっている。もしも俺が倒した2人を回復されていたらメリアたちには勝てなかった。

 治癒魔術の才能がある人なんて魔術を使える人の中でも一部。加えて、戦闘に参加しなかった2人も治癒の魔術を使用している。

 リボンの色からして両人とも2学年。分身したかのようにそっくりだ。

 2回生には最低でも2人治癒魔術を使える魔術師がいるということだ。1回生の中ではアビゲイルの専売特許である。

 教会付きの学校であったり修道院などの聖人を育成する場ならば、積極的に集めているのだろうから使い手が複数人いるのは分かる。しかし、ここは世俗の権力を養成する場。ある意味相容れない存在である。

 才能の塊がこうもポンポンともいるとは……おかしいよこの学園。

「しっかしまあ、馬鹿だよオマエ。あんなことして死んでないのが不思議だよ」

 そればかりは、2度いや前世と前々世も合わせて4度になるのか。死んだことがあるから感覚がおかしくなっているのかもしれない。もちろん何度も蘇れるのではない。ただ運が味方をしただけだ。


「まったくよ、落ちこぼれ同士って勝手に同情していたんだがな……やはり特別だったか」

「特別? 同情? なんのこと」

「あっーー。関係ない。独り言だよ。聞かなかったことにしておいてくれ」

 何の話だろう。しかし探ってもこれ以上は出てきそうにない。

 何かは隠してるよな。先ほどさり気なく床に敷いたハンカチの柄も、どこかで見たことがある気もする。

 記憶が確かならば、実家にいたときで、アンソニーがいて持っていたのは女性?

 ちゃんと見たら思い出せそうなんだけど、メリアがハンカチに座っており柄が見えなくなっている。

「おい。メリアの太ももをまじまじと見すぎだぞ」

 コルリが右の脇腹を肘で小突きながら耳打ちしてきた。

「ちがっ、違うから」

「どうだがな。こう見えてムッツリかもしれん」



 コルリから手袋を渡される。リアムが置いていったものだ。

 これがあれば。これがあれば、決闘に参加できる。

「反撃に移ってからの攻撃はマジで強かった。二刀流による攻撃の隙の無さ、あの良さを出して行けばワンチャンスあるかもしれんぞ」

「ええ。どうやら慎重になりすぎていたみたいです。格上相手には命がけでいかないと倒せない。そのことに気がつかせて下さったことには感謝します」

「そうか。ヘマ打ったかな。これで死なれたら寝覚めが悪い」

「死なないようにはしますよ。基本的に」

 魔術のおかげで傷口も塞がったし痛みも引いている。肉体への疲労などコンディションを整えれば来週には全力で戦える。

「ありがとうございます。これでいけます」

「おう。頑張ってこいよ」


 コルリたちがスッと立ち上がってもと来た方へと歩いていく。

 ふと、コルリが足を止めて振り向いた。


「お前はなれよ兄貴のような、それ以上の……ともかく、せいぜいリアム(アイツ)には勝って来いよ!」

 コルリが何かを話していた。前半は聞こえなかったが、最後の一言で十分。

 黙って右の拳を前に突き出した。


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