嫌われ者の真実
「その程度かよ」
槍の石突を地面に突き立て棒高跳びの要領で、さらに高く飛び上がった。
マズい。コルリが頭上に迫っている。槍が構えられる。リーチを考えればこちらは十分に射程範囲内だ。
剣で攻撃を受けるか?
否、それでは先ほどの繰り返しだ。全体重の乗った攻撃を捌ききることは不可能。
必要なのは防御ではない。攻撃だ。
リスク承知で相手の懐に飛び込む。
左腕を伸ばして素早く剣で突き上げる。コルリは攻撃を躱すため身を翻す。僅かではあるが大勢が崩れた。
「やるねえ」
彼の余裕さは崩せない。対する攻撃を躱された俺は無防備。
振り下ろされる槍は止まらない。このままでは体が真っ二つ。
構うものか。
腰の短刀を逆手のまま右手で引き抜く。相打ち覚悟で斬り上げる。
「お前マジか!!」
意表をつかれたコルリは槍の軌道を変えて防御を取る。
短剣の切っ先に槍の石突が当たる。
弾かれた短剣は彼のわき左の腹を掠めた。
初めて攻撃が通った。コルリの顔と俺の顔が同じ高さになる。苦悶に滲む相手の表情が見えた。
このまま追撃を、腰を捻り通り過ぎざまにノールックで剣を突き立てる。
「させねえよ」
手が弾かれた。
視線を落として確認する。蹴りをもらったか。コルリの右足が振り上がっている。
これなら反撃はない。こちらがチャンスだ。
短剣を順手へと握りかえる。左手の剣と一緒に左斜め上に振りかぶる。
体が自由落下を開始する。先ほどとは逆の展開。上を取った俺が有利。
コルリは着地できずに地面へと叩きつけられる。動く様子はない。
ここで決め……
悪寒が走る。
あいつ、笑ってやがる。
作戦変更。魔術で攻撃する。
「その宿命に抗え――白い牙」
オオカミの形をした氷がコルリに襲い掛かる。
「強き者よ、全てを喰らえ――――ブラック・オーカ」
強烈な水しぶきが巻き起こり、その中からシャチが姿を現した。
こちらは単唱魔術なのに対して向こうは複唱魔術。技の規模も威力も一回り以上違う。当然、俺の魔術は打ち消された。
どころかこちらに牙を向けて迫ってくる。こちらも二節詠唱で対抗するしかない。
「薄氷の砦は儚く、されど刹那に恒久――――スノー・ベール」
シャチの影が鼻先に迫ったところで氷のカーテンが目の前に広がり、攻撃を耐えしのいだ。
地面に着地する。
コルリは間合いの外まで離れていた。
「思ったより冷静だな。自棄になっただけかと思ったが、そうではないようだ」
「よくもまあ、騙し討ちですか」
「お互い様だろ。これで貸し借りなしだな」
コルリが槍を構えて高速で接近する。
スピードがこれまでとは違う。これが本気の速度か。
相手の攻撃を見極めながら、左手の剣を両手に持ち替えて捌いていく。
ついていくのに精一杯、今のところは。
連撃は続く。
「そうだ。お前、仲間にならないか。」
そのさなか、コルリが口を開いた。
揺動か、それとも自分は疲れていないというアピールか。
「急になんです?」
ちょうどこちらが槍を受け止めたところで鍔迫り合いの形になる。
「オレだけ、お前だけならリアムには勝てない。だが、オレたちなら話は別だ」
槍から伝わる力が抜ける。本気で言っているのかもしれない。
示し合わせたかのように二人の距離が離れる。
「どうして? なぜリアムに拘るんですか」
コルリは地面に槍を突き立て上体を起こす。
「アイツはな。王なんだ……」
リアムは兄貴分的な性格をしており、面倒見がよかった。自然と周りに人が集まってくるようなヤツだ。問題ごとが起きても、アイツが間に入れば収まるんだ。
本人も自分の性格を理解していて頼られることを良しとした。そして、問題ごとを解決すればするほど、他人と距離が生まれた。なぜかって? そりゃあ、学園の外のゴロツキたちの相手をしているからだ。
ゴロツキたちが、学園の不良や落ちこぼれ共を道から踏み外させようとしてもリアムが引き留める。すると不良や落ちこぼれといった嫌われ者がリアムにくっ付く。
気が付けばリアムの集団は嫌われ者ばかりになっていて、その中心にいるリアムこそが爪弾き者の代名詞となったわけさ。その役割を理解しているのは、教員どもを除けばごく一部。みんな退学や逮捕されないことに不快感を覚えている。
本人の思いとは裏腹にな。
そんなアイツも最上級生だ。特殊卒業の要件を満たしているから、単位に関係なく嫌でも今年で卒業する。学園生に与えられている不逮捕特権を失えば学園長でも庇えなくなるし、仲間を守るという大儀も失う。いずれにせよ王ではいられなくなるのさ。
コルリは再び槍を構える。その表情に先ほどまでの軽薄さは微塵も感じられない。
「彼は必要悪だと? 貴方は、リアムを倒して王になるというのですか」
「さあどうだろうなっ!!」
コルリは垂直に飛び、一歩で間合いの内側まで距離を詰める。
鋭い突きが喉をめがけて放たれる。反射的にガードする。
コルリの体は突きのために伸ばし切っているようでどこか違和感があった。
作為的なものではなく、自然な違和感。この感覚にかけるしかない。じりじりと、少しずつ前進して距離を詰める。
近づくほど突きが激しくなる。
しかし、慣れてきたこともあるのか捌くことができている。
攻撃が休まることはないだろう。だが、反撃できないわけじゃない。こちらの間合いまではあと一歩。
放たれた突きを剣でいなしながら一歩踏み込む。鋭く息を吸い込み、剣の間合いに入った。
ここから先は喰うか、喰われるかだ。




