魔術 VS 槍
削りあう刃と刃。
上から抑える方向に力を込めることができているおかげで何とか槍を受け止められたものの、リーチもパワーも相手に分がある。
踏み込もうにもリスクが大きい。このままではマズイ。分かってはいてもどうしようもできない。
「おいおい。守ってばかりじゃ勝てないぜ」
コルリが煽ってくる。いや本音だろう。きっと煽っているつもりはなく本気でそのように感じているのだ。
勝手に挑んできておいて身勝手な奴だ。
この数手で正面切っての勝負では勝ち目がないことは嫌になるくらいはっきりした。純粋な切りあいではなく、トラップを用いて流れを引き寄せるほかはない。
魔力炉に魔力を回しこむ。敵に隙が無いならば隙を作ればよいのだ。
「ええ。悪かったですね。俺の実力はこの程度なので」
魔力炉にため込んだ魔力を媒体にして魔術を行使する。
「――――光輝燦然」
強烈な光が洞窟内に放たれる。
槍を押す力が弱くなった。相手の視力を奪ったはずだ。いまなら行ける。
剣を振りかぶりながら前に出る。迷いは不要。この機会を逃せば勝機は失せる。手心を加える余裕はない。
身長は向こうの方が頭一つ分高い。手首を返して、相手の肩口から斜めに剣を振り下ろす。
「えっ……」
しかし剣は肉をとらえることなく空を斬った。
おかしい。意表を突いたはずなのに。
腹部に衝撃が走る。
体が後方に投げ出される。
受け身が追いつかず地面に叩きつけられた。
痛ってぇ。眼を開きながら状況を確認する。
コルリは何事もなかったかのように正面に立っている。幸いなことに距離は離れているし、すぐに攻撃に移る様子はない。
体を起こすために腹筋に力を入れる。
クソっ。激痛が走った。ボディにダメージを負ったようだ。剣を杖にして腕の力で立ち上がる。
鈍い痛みが腹の周りに広がっている。口の中がしょっぱい。
つばを飲み込み、食道に溜まっていた血を吐き出す。
頬を伝う血を服の袖でふき取る。スッキリはしない。ただ、攻撃を受けてしまったという事実を痛感させられるだけだ。
「甘いんだよ。そんな単純な攻撃で倒せるとは思わないでくれ」
呆れたといわんばかりである。確かに単純な攻撃であったかもしれない。しかしながら、ここまで見事にカウンターを喰らうのは普通ではない。
回避するのが精一杯のはずだ。攻撃を読んでいたとしか思えない。
深く呼吸して痛みを胡麻化しながら早くなっている脈を整える。
ダメージのもらい方から考えるにミドルキックを受けたのだろう。骨が折れている感じではない。剣を中段に構える。
俺の動きを認めると槍が再び構えられる。
こちらから仕掛けるのはリスクが大きすぎる。相手が連続で攻めている中で意表を突く。
現在、副魔術路に魔力が滞留している。副魔術炉を持っている人間は少ない。
このサブ魔術炉には本体の魔力炉に魔力を送った際、ついでに魔力がチャージされる性質がある。そのため、いちいち魔力炉に火を入れる工程を省くことができるし、発動の兆しも隠せる。しかも魔力感知力に長けていないと存在に気が付くことが難しい。
秘密兵器である。本当は複数の魔術を同時に発動させたりするなどの使い道はあるのだが、魔力の消費が激しくなる、無駄なく行くならば、副魔術路単体だけで完結させるのが良い。
少しでも隙が生まれたらそこに勝機がある。
そのため、気持ちよく攻めてもらおうじゃないか。
「来ないなら行くぜ」
しなやかな弧を描く槍。遠心力を利用した槍は見た目以上の力が籠っている。知り合いに槍使いの名手がいなかったら危なかった。首から上が飛んで行ってたかもしれない。
ディックには感謝しかない。迷惑もかけられたものだが。
幾度となく攻撃をしのいでいると、槍の動きが早くなってきた。それに伴って攻撃も単純になる。特に振り下ろしを多用しており得意としているようだ。この男の攻撃パターンは大体分かった。
いい感じである。勝負に行く。
槍が振り上がる。振り下ろしが来る。
今回はつかれたフリをし、あえてガードの動きを中途半端な高さで止める。
力負けした剣が地面へと叩きつけられる。
ガードが落ちた形だ。
コルリは抜け目なく最速で出せる前蹴りを炸裂させる。こちらは後方に飛びながら攻撃を受ける。
回し蹴りほどではないが後方に飛ばされた。もっとも、受け身を取ることのできた今回はダメージというダメージはない。
それでもヨロヨロと立ち上がりつつ後ずさりをして、ギリギリ感を演出する。反撃できないというアピールでもある。
フィニッシュしようと心に隙が生まれる。悪いがそこをつかせてもらう。
「じゃあなっ!」
コルリが地面を蹴り上げて迫りくる。
仕掛けるのは攻撃が届く直前。
ここだ。
(アイスバーン)
今度は完全に無詠唱。一切発動の兆しを出さない。
瞬間的に地面が凍り付く。足を滑らせて体勢を崩させるのが狙い。
体勢を崩せればこちらが一方的に攻撃できる。そこで一気に戦闘不能に陥るまで攻め切る。
空中に上がっているコルリの足が凍った地面に迫る。気が付いている様子はない。そのままだ。そのまま体勢を崩せ。




