クリムゾン
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「ノト、あの猫なんだけれど、何者だか気が付いているかい?」
「何者ってどういうことですか?」
「気が付いていないか‥‥‥」
「え?何ですか?」
「あの猫、あれはケット・シーだよ」
「ケット・シーですか?あの猫」
「そうだよ。ティムは気が付いているみたいだよ」
「全然分かりませんでしたよ。お恥ずかしい‥‥」
「気にする事はないよ。ティムは子どもとは言え魔力の強いトレントだ。ケット・シーは猫妖精、姿を偽るのは得意だろう。普段は飼い猫に成り済ましているだろうしね」
「はぁ、それにしても何故ケット・シーが現れたんですかね?」
「さあねぇ‥‥‥、悪意や害意は無いようだから、様子をみるしかないと思うよ。ティムも監視しているだろうから、話を訊いてみるといいよ」
「そうですね。そうします。‥‥‥メルクリウス様、先にお風呂をどうぞ。入っている間に寝台の用意をしておきますので。場所はここになりますが」
「ここで構わないよ、宜しくね。では、湯殿を借りるとしよう」
メルクリウスが居間を出ると、ノトは納戸から魔法の鞄を持ってきた。魔法の鞄は、その大きさ以上の物を入れることが出来る。空間収納の様に便利な物だ。
ノトは居間のテーブルや椅子を片付けると、魔法の鞄に手を入れベッドと寝具を取り出し設置した。
空いている部屋が無いので、この居間は臨時の客間となった。
「いい湯だったよ。ノトもどうぞ。私はもう寝台に入ってゆっくりするとしよう」
「わかりました。僕もお風呂の後は自室に行きます。少し早いですが、おやすみなさい、メルクリウス様」
「あぁ、おやすみ。私のことは気にせず、ゆっくりするといい」
ノトは風呂へ、メルクリウスは寝台へ向かった。
皆、それなりに疲れていたらしく、森の家は早々と寝静まったのだった。
◇ ◇
-----コケッ、コケッーー!!
屋根の上で雄鶏が大きな声で鳴いた。
「わぁー、起きます、起きます」
「うわぁーなんだぁー、鶏かー?」
ローズと猫は揃って飛び起きた。
「そうよ、うちの鶏。屋根の上で鳴くから、うるさいのよ。‥‥‥‥‥って、今の声、誰?」
「あー?俺に決まってるだろうが」
「俺?‥‥‥‥‥って、猫ちゃん?」
「あー?猫ちゃん?‥‥‥やべぇ、うっかりしゃべっちまった」
「猫ちゃんあなた話せたの?」
「‥‥‥‥‥」
ローズが猫を見つめると、猫は俯いて黙ってしまった。
「今さら隠さなくていいと思うよ」
「僕もそう思う」
ティムも起きていたようで、ベッドの側に来て頷いた。
「ばれちゃ仕方ないな‥‥‥。俺は、ケット・シーだ。名前はクリムゾン、性別はオス」
「ケット・シー‥‥‥猫妖精ね?初めて見るわ」
「まぁな、俺達は普段は飼い猫や野良猫の振りをしているからな。会ったとしても分からないよ」
「そうなんだ。会えて嬉しいわ、えっと‥‥クリムゾン」
「俺も嬉しいぜ、ローズ」
ケット・シーのクリムゾンは顔をあげると、嬉しそうに言った。
「どうして言葉を話さなかったの?」
「飼い猫の地位を確保してからと思ったんだよ」
「飼い猫の地位?」
「気味悪いと思われて、追い出されたら嫌だしな」
追い出したりしないよ、嬉しいよ。楽しいよ。
「あの、何故ケット・シーのあなたが此処に?」
「それはもちろん、ローズの護衛騎士になるためだぞ」
「護衛騎士?何故?」
「何故ってそりゃぁさ、姫には護衛騎士は付き物だろうが」
「姫?‥‥‥は?‥‥誰のこと?」
「ローズに決まってるだろ」
「私?‥‥まさか‥‥人違いよ」
何を言っているのかな?クリムゾン君、大丈夫かい?
「猫妖精の国では皆知ってるぜ。水の竜王様の娘が森に現れたってさ」
「水の竜王?‥‥‥‥‥それってお父様のこと?」
「今さら何言ってるんだよ。水の竜王って言やぁ、古代竜・水のベリル様のことに決まってるだろ?」
「そうなの?私、初耳よ」
「マジか?何で知らないんだ?」
「だって聴いてないもの」
クリムゾンは目をまん丸にして驚いた。
ティムも驚いたような声で話す。
「お姉ちゃん、ベリル様は教えてくれなかったの?僕でも知ってるよ」
「えぇ‥‥‥。私、お父様の結界の中でずっと眠っていたらしいの。最近目覚めたばかりだから、知らない事がたくさんあるのよ。今、勉強しているところなの。一般常識や魔法やあれこれね」
「そうなんだ‥‥‥あのね、僕の知っている事なら教えてあげるよ」
「本当?ありがとうティム」
「俺も教えてもいいぜ。その代わり、俺を護衛騎士にしてくれよな」
「護衛騎士にするのは私は構わないけれど、お父様に訊かないとはっきりとは言えないわ。そもそも、何で私の護衛騎士になりたいの?」
「猫の王様が言ってたんだよ。一族から、竜王の姫の護衛騎士になる者が出たら誉だってさ。だから俺様、ケット・シーの猫騎士クリムゾンがここに来たという訳さ」
「誉なの?」
「そうさ。だから、宜しく頼むぜ」
「だから、お父様に訊いてからね」
「まぁ仕方ないよな、それでいいぜ」
「お姉ちゃん、僕も護衛騎士になる」
「え?ティムも?‥‥‥どうなのかな、お父様に相談してみようね」
「うん、分かった」
「そういう訳で、ローズ、ティム、宜しくな」
「えぇ宜しくね」
「僕も宜しくね」
私達は笑顔でお互いを眺めた。仲良くやっていけそうな気がする。
猫妖精の護衛なんて、素敵ね。嬉しい!
それに、姫って何、姫って。
プ、リ、ン、セ、ス。
オバサンでも姫でいいのかーという疑問はあるけど、見た目は問題無いから良しとしよう。うん。
これから楽しくなるかしらね。
仲間が増えたしね。
「支度をして下に行こうか。クリムゾン、下の二人に紹介するわね。ちゃんと挨拶してね」
「もちろんだぜ」
そう言うと、ポンッという音と共にクリムゾンの姿が変わった。
「わぁ~、クリムゾン凄いね~。ねぇ~お姉ちゃん」
「本当ね、剣を下げていて騎士様ね」
「俺様は誇り高い猫騎士だからな」
クリムゾンは自信満々で答えた。
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