眼鏡と剣
たくさんという程ではないが、森の奥の方がワサワサと動いているのが見える。
間を開けて一体ずつゆっくりと移動しているようだ。
小さいトレントや中間の大きさのトレントも懸命に移動しているのは、少し微笑ましく見える。
「このトンネルの出口、結界が張ってあるね。外から魔獣達が入らないようになっている。触れると衛兵が駆け付けるかもしれないけれど、仕方ないかな」
お父様はそう言うと、私を下ろして隠匿魔法を解いた。そして出口から少し顔を出して、トレントに向かって声をかけた。
私も同じように顔を出してみた。もわんっと何かが顔に触れた。
これが結界なのかな。
「やぁ、トレント達。忙しそうだけれど、何故、移動しているのかい?」
「こーーれーーはーーベーーリーールーーさーーまーーーーおーーひーーさーーしーーぶーーりーーでーーごーーざーーいーーまーーすーーー」
大きなトレントはそれだけ言うと通り過ぎて行ってしまった。
しばらく間をおいて、次に近づいてきた中間の大きさのトレント達が続けて言った。
「わーたーしーたーちーはーーひーなーんーしーてーいーまーすーー」
「いーやーなーーーけーはーいーがーーすーるーんーでーすーーー」
「ごーきーげーんーよーうーー」
彼らも通り過ぎて行ってしまった。
森の奥を見ると、まだこちらに向かって来るトレントがいる。
いつまで続くんだろうか………。
「止まってはくれそうもないね。これ以上は訊けないかな」
「どこに行くんでしょうか?」
「さぁね………どこかな。 トレントの移動なんて聞いたことがない。これでは、道路工事を中断するのも仕方ないことだね」
「そうですね」
「おそらく、このトンネルと向こうの岩山に作るトンネルを繋げて、魔法国まで長い道を作りたかったのだろうね。森を通るよりも安全だしね」
「魔法国?」
「あぁ、ドワーフの国を更に北に行くと、メルラン魔法国という魔法使いや魔女達の国があるんだ。森を通るから危険が多くてね、護衛を雇わないと行けないところだね」
「護衛ですか」
「まぁ、魔法使い達は空を飛べるから問題ないけれど、飛べない者のほうが圧倒的に多いからね。商人とかいろいろ」
確かにそうね。そうそう空は飛ばないね。
「さて、戻るか。私達が結界に触れたのはもうわかっているだろうし」
「はい」
お父様はまた私を抱えると、隠匿魔法をかけて、来た道を戻って行った。
途中で数人の衛兵とすれ違ったけれど、彼等は私達には気が付かなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ねぇ、じじ様。僕、あの人達と一緒に行ってもいい?」
小さなトレント---50㎝くらいの---が近くにいた大きなトレントに話しかけた。
「いーーきーーたーーいーーのーーなーーらーーばーーーいーーけーーばーーいーーいーーー。じーーぶーーんーーのーーじーーゆーーうーーにーーしーーてーーいーーいーーー」
「うん、わかった。行ってくる」
「きーーをーーつーーけーーてーーいーーけーーー」
小さなトレントは、小さな根を懸命に動かしてトンネルに向かった。
結界を難なく通り抜けると、暗いトンネルの中をローズ達を追うように必死に歩いて行った。
衛兵達が近づいて来ると、トンネルの端により目を閉じて、じっとしてただの木の振りをした。
もちろん誰も気が付くことはなかった。
そして、また必死に歩いて行くのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
トンネルを抜けて、隠匿魔法を解いた後、私達はヨシュアさんの店に向かった。
ちょうどいい時間になっていたのだ。
「おぉ、戻られましたか。出来上がっておりますよ。こちらでございます」
「うん、いいね。早速かけてごらん?」
私はお父様の眼鏡を返すと、新しい眼鏡をかけてみた。ぴったりでいい感じだ。
「ぴったりですよ。ありがとうございます!お父様、ヨシュアさん」
「ようございました。お似合いですよ」
「そうだね、似合っているよ」
そう言われると、嬉しいね。ちょっと照れてしまう。
眼鏡の支払いを済ませて外に出ると、もう3時半を過ぎていた。
「何か欲しいものはある? せっかくドワーフの国に来たんだから、買ってあげるよ。これでもお金はそれなりにあるから、大抵の物は大丈夫だよ」
「本当ですか? 私………剣が欲しいです。ドワーフの剣」
「剣? 何でまた?」
「ええと、剣術を習ってみたいです………。駄目ですか?」
「かまわないけれど……………剣術なら多少は私が教えてあげられるし……………でも何故?」
「この世界は物騒みたいですし、魔法以外にも身を守る術が欲しいです」
「護身用ということ?」
「そうです。駄目ですか?」
「いや、剣士になる訳ではなくあくまでも護身術として剣術を習いたいのなら………まぁいいかな。 ………君は背が低いから、レイピア………よりもショートソードの方がいいかな。女性用に作られた物で」
「はい、女性用の物でいいです」
「じゃあ、ヨシュアの店に戻るか」
「え?ヨシュアさんのお店はアクセサリーとか小物の店ですよね?」
「表向きはね。実は奥で武器とかも作っていたりするんだな。知る人ぞ知るという訳だ。腕はいいから大丈夫」
私達はヨシュアさんの店に戻り、剣を見せてもらうことにした。
「お嬢様でしたら、こちらでいかがでしょうか」
奥から出してきた剣は、柄が細めで握りやすそうなショートソードだった。柄には細かな花模様が彫られていて女性用だということがわかる。とても素敵な剣だ。
「うん、これはちょうどいいみたいだね。手に持ってごらん?」
「はい。………とても握りやすいです。手に吸い付くみたいで、心地よい感じがします」
「これで決まりでいいかな?」
「はい。ありがとうございます!」
「この剣は、ずいぶん昔に鍛えた物ですが、なかなか買い手がつかなくて、可哀想に思っていたのです。お嬢様に使っていただけて、大変嬉しゅうございますよ」
ヨシュアさんは嬉しそうにニッコリと笑っていた。
剣と鞘、ベルト等一式を買い揃え、私達は店を出た。
……………かなりの出費になったと思う。
「あの………かなりお金がかかりましたよね。本当にありがとうございます」
「まぁね、でも気にしなくて大丈夫だよ。お金の心配はないから。………ドラゴンは金銀財宝を隠し持っているものなんだよ」
そう言うと愉しそうに笑った。
確かに、洞窟の中とかに隠していそう。正に物語の中のドラゴンね。
私達は宿屋を探すことにした。もう夕方になる。探している途中で、変わった看板を見かけて足を止めた。
『 ワイバーン見学ツアー 』
「お父様、これ、何ですか?」
「私も初めて見るよ。何だろうね」
ワイバーンって見学出来るものなの?
読んでくださり、ありがとうございます✨ 感謝、感謝です。読んでくださった皆様に良い事がありますように✨ :*(〃∇〃人)*: