トンネルの向こう
隣の部屋に入ると、幾つかの眼鏡をかけて大きさやデザインを決めた。瞳の色は今かけている眼鏡と同じく紫色に見えるものにした。今かけている眼鏡とほぼ同じものだ。
……………昭和のおばさんがかけるような、蝶が羽を広げたような眼鏡も進められたが丁重にお断りした。ヨシュアさんはちょっと残念そうな顔をしたけれど、あんな眼鏡をかける人はいないと思う。
「これから作りますので……………そうですね、午後の3時くらいには出来上がりますよ」
「そうか、では、3時あたりにまた来るとしよう」
今、11時過ぎだから結構時間がある。
-------森の上空を翔びながら教えてもらった話では、この世界の一日は地球と同じ24時間、時計の見方も同じ。一年はきっちり364日で、一月は28日で4週間、つまり1週間は7日だ。とてもわかりやすくて助かる。ただ、一年は13ヶ月となっており、そこは気をつけないといけない。しかも、地球で言う春分の日が新年のスタートで、そこは西洋占星術の考え方と似ていると思った。牡羊座がスタートだものね。-------
私達は店を出ると、大通りに向かって歩き始めた。
「少し早いけれど、昼食をすませてしまおうか。その後、街の散策でもしようかね。ちょうどいい時間になるだろう」
「良いですね、そうしましょう」
「何か食べたいものはある?」
「食べたいもの………あるけど………あの、パスタってありますか?」
「パスタね、あるよ。では、そうしよう」
あるんだ。食事情はわりといいのかな?ノトが作ってくれた食事も美味しくて、前の世界と比べて遜色ない感じだしね。これはとてもラッキーなことよね。ただ、和食は食べられない気がする。この世界は西洋風だもの。贅沢言ってはいけないわね。
大通りに面した、綺麗な店を選び、昼食を食べた。
クリームパスタとサラダがとても美味しかった。
昼食の後、様々な店を覗きながらブラブラと歩いていると、大通りの先の一画が暗くなっているのに気がついた。店は皆閉まっていて、人影も見あたらない。中心街からそれほど遠くないのに不自然な感じだ。
「あの辺り、人影もないし暗いですよね。前からそうでしたか?」
「いや、以前はあの辺りも賑わっていたよ。何があったのかな?………訊いてみるか」
お父様は近くの店の店員に声をかけた。
「あの辺りが暗いけれど、何かあったのかい?以前はこの辺りと変わらなかったよね?」
「あぁ、あそこですか。あの先は、道路工事をしていたんですが、何か問題が起きたみたいで、中止されているんですよ。近寄らないように指示があって、店も閉めているんです。問題が何かははっきり説明されていないんですよね。魔法国へ繋がる道ということで皆楽しみにしていたんですがねぇ」
「そうか………どうもありがとう」
お父様は腕を組み、曲げた指先を唇にあてると呟いた。
「うん………気になるね。行ってみてもいいかい?」
「え、あぁはい、いいですよ」
私達は暗く人影のない方へ歩いて行った。やがて店が途絶え、大通りの先は、柵が置かれていた。衛兵が二人番をしている。
衛兵から見えないように建物の陰に隠れて様子を伺った。
柵の先は大きなトンネルと道が続いていて、明かりが灯されていないため奥までは見えない。
「このままでは行けないか。衛兵に止められるね。………ちょっと失礼するよ」
そう言うと、小さい子どもを抱えるように、左腕で私を抱えた。座っているような姿勢になってしまった。
そして魔法をかけた。お父様はあっという間に透明になり姿が消えた。だが、私を抱えている感触はちゃんとある。
………何?
「私達に隠匿魔法をかけたよ。衛兵達は私達を見ることは出来ないから、これで奥まで行ける」
「私もお父様が見えませんが」
「そうだね、だからこのまま行くよ。隠匿魔法は、自分より魔力の強い者には効かない、つまり自分より弱い者に効く。君が私を見ることが出来ないのは仕方ないよ。魔法を解くまで、しっかり掴まっていなさい」
「はい、わかりました。掴まります」
いい年をして少し恥ずかしいけれど、落とされては大変なので、腕をまわして抱きつくように掴まった。今の私の姿は15才くらいの少女だから、見た目的には問題ない。親子ということだしね。
「行くよ」
少し沈んだ姿勢をとった後、大きく飛び上がり軽々と柵を越えた。そのまま、暗いトンネルを低く跳びながら奥へと向かった。真っ暗で先が見えなくて正直恐い。
「真っ暗ですけど、見えるんですか?」
「うん、魔力を瞳に集中してごらん?見えてくるだろう?」
どれどれ、瞳に集中……………おぉ、暗視カメラで見ているようだよ。確かに見える。便利。
「見えました」
「上手く魔力を使って、竜の眼---ドラゴンアイ---を使いこなしてみるといい。他にもいろいろ使えるからね」
「はい、楽しみです」
話をしながら進んで行くと、小さな光が見えてきた。出口のようだ。
お父様は一度止まると、私を抱えたまま静かに歩き出した。
……………ズズズズッ………ドスン…………ズズズズッ………ドスン……………
大きな音と共に地面が揺れて、トンネルの天井から埃が落ちてきた。
私達はトンネルの出口に着くと、そっと外を覗いてみた。
出口の向こうは、平らな土地がいくらかあり、またすぐ岩山になっていた。
その平らなところを目指して、大きな塊がゆっくりと動いてくる。
……………ズズズズッ………ドスン……………ズズズズッ………ドスン……………
それは、見上げるほどの高さで、太い幹に大きな枝、枝には葉が生い茂り、幹の上の方には鼻と目と口がある。
長く太い根を足のように器用に動かして、トレントがこちらに向かって移動してきていた。
読んでくださり、ありがとうございます。感謝、感謝です。読んでくださった皆様に良い事がありますように。 。:+((*´艸`))+:。




