ドワーフの国
周りを見渡すと森が広がり、木立の向こうに道が見える。一人二人……歩いている人がいる。
どうやらドワーフの国に向かう街道らしい。
「さてと、このままでは少々問題があるかな。用意するか」
「何を用意するんですか?」
「馬車と馬。それと御者も必要かな」
「馬車と馬?」
「そうだよ、この服装で徒歩で向かうのは不自然だろう?」
確かにそれはそうだ。徒歩で移動する人の服装には見えない。
お父様は森の方へ行き、地面を見ながらしばらく歩いた後、何かを拾い上げた。
私は側に行きお父様の手元をのぞきこんだ。
「それは何ですか?」
「胡桃だね。ちょうどいい、これを使おう」
そう言うと、胡桃を宙に放り投げ何やらブツブツ言って魔法をかけた。
一瞬光ったと思った後、何もなかったところに馬車が現れた。華美ではなく、かといってみすぼらしくもなく、ちょうどいい感じの馬車だ。胡桃のように丸くはない。
次に木の上に向かって声をかけた。
「頼みがあるんだ。協力してくれるかい?お礼はするよ」
すると、木の幹を伝って栗鼠が二匹降りてきた。尻尾がふわふわしていて、とても可愛い。
そして、ちょこんと並んで座った二匹の栗鼠に掌を向けて魔法をかけた。光った後、二頭の馬が現れた。
次にチョロチョロと走っていた蜥蜴に同じように声をかけ、魔法をかけると御者が一人現れた。これで、馬車と馬と御者が揃った。
まるで、シンデレラに出てくる魔法よね。カボチャの馬車ではなくて胡桃の馬車だけどね。
ふふふ、眠り姫から灰かぶり姫になってしまったね。 わくわくするね。
「何を笑っているのかな?もう行くから馬車に乗って」
「はいはい、今乗ります」
馬車の中はなかなかに乗り心地が良く快適だ。ちょっとお嬢様になった気分。
お父様は馬と御者に何やら話した後、森の木々に向かって声をかけた。
「馬車が通れるように頼むよ」
そして馬車に乗り込むと馬車の壁をコツコツと叩いた。
「出していいよ」
そう声をかけると馬車はゆっくり動き出し、木々の間を通り木立の向こうの街道に入った。
馬車が通るのに合わせ木々が動いて道を作ったように見えた。
うわぁ~~ファンタジー~~。お父様って凄いかも。
街道に入ると岩山に向かって真っ直ぐ進んで行った。
岩山をくり貫いた入り口は大きく、石で出来た門が開かれている。門番らしき衛兵が数人立っていて、入る人達に声をかけている。何か渡しているようだ。多少時間がかかるようで入門を待つ列が出来ていた。
列に並び暫くすると、私達の順番がきた。お父様は馬車の窓から何やら差し出し衛兵に見せた。
「ようこそドワーフの国へ。あなたは商人なのですね。入国料は御者の方とお連れの方の分をお願い致します」
「これでいいかな」
「はい、確かにいただきました。良いご商売を」
馬車はゆっくりと進み、門の中へ入って行った。
岩山の中は天井が高く、圧迫感は全然ない。換気のためか大きな羽が動いている。―――――以前テレビで見た、何処かの国の駅を思い出した。確か、有事の際にはシェルターにもなるとか言っていた気がする―――――
石畳の道は綺麗に整備され、馬車が充分通れる幅がある。道の両脇には様々な店が並び、たくさんの人達が行き交っていた。かなりの賑わいだ。
背が低めでガッチリとした体格の人達はドワーフかしらね、スラッとほっそりで耳が少し長めで先が尖っている人達はエルフかな。うん、そうよね。人族もいるし、獣人族もいる。フードを深く被った人は分からないわね。
そんな事を考えていると、馬車は角を曲がり、少し狭く人の少ない道へ入って行った。先ほどまでの喧騒はなく、静かなところに着くと馬車は止まった。
「さぁ、降りよう」
お父様に続いて馬車を降りた。この辺りは街の外れなのか人がいないみたい。
「よし、魔法を解くよ」
ふわぁっと光ると、そこには胡桃が一つと栗鼠が二匹、蜥蜴が一匹いた。
お父様は彼らに何やらお菓子?だか食べ物を渡し、胡桃を拾った。
「助かったよ、ここまでありがとう。この上に小さな空気穴があるから、そこから森へ帰れるよ。気を付けてお帰り」
栗鼠と蜥蜴は壁の上の方にある小さな穴に向かって走って行った。
「これでいい。さて、少し歩くけれど、早速眼鏡を作っている工房まで行こうか」
「はい」
中心街とは違う方角へ向かって歩いていくと、何やら音が聴こえてきた。だんだん音は大きくなり、種類も増えてきた。
何かを叩く音や削る音、擦る音など様々だ。
幾つか角を曲がり、一つの店の前で止まった。
店の中には、眼鏡だけではなく、綺麗な細工のアクセサリーや小物が並んでいた。
お客さんは誰もいないみたいで店員さんも見あたらない。
「店主はいるかな?」
「はーい、今まいります」
店の奥から声が聴こえてきた。
奥から出てきたのは、ドワーフの少女だった。
「お待たせして申し訳ありません。店主は今、奥で作業中ですので、ご用件を承ります」
「私はベリル、眼鏡を作ってもらいたい。そう言えば分かると思うよ」
「はい、わかりました。伝えてまいりますので、もう暫くお待ちくださいませ」
少女はそう言うと、パタパタと奥へ消えていった。
暫くすると奥から、ゆっくりとした足取りでドワーフの老人が歩いてきた。
顔には幾筋もの皺がきざまれ、顎には白い髭が長く垂れていた。高齢だと一目で分かるが、瞳は力強い光を放っていた。
「お待たせして申し訳ありません。お久しぶりでございます、ベリル様」
「やぁ、久しぶりだね。変わりないかい?」
「はい、お陰様でなんとかやっております。ベリル様もお元気そうでございますね」
「そうだね、元気だよ。今日は眼鏡を幾つか注文したいんだけど、大丈夫かな?」
「はい、大丈夫でございます。急ぎの仕事はございませんので。幾つご用意すれば宜しいですかな?」
「私の予備を一つと娘の眼鏡を二つ………いいかな?」
「………娘?お嬢様がいらしたんですか?存じ上げませんでした」
「うん、そうなんだ。そろそろ眼鏡が必要かなと思ってね。ローズ、こちらにおいで」
私はお父様の隣に並び、軽くスカートを摘まんで挨拶をした。( こういう挨拶をしてみたかったのよね )
「はじめまして、ローズといいます。宜しくお願い致します」
「これはこれは、お丁寧にありがとうございます。私はこの店の店主、ヨシュアともうします。お会い出来て大変嬉しゅうございます。 では、お嬢様の眼鏡の大きさを決めますので、こちらにいらしてくださいますかな?」
私達は店のすぐ隣の部屋に入って行った。
読んでくださり、ありがとうございます。感謝、感謝です。読んでくださった皆様に良い事がありますように!