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君を忘れる  作者: 一ノ瀬 薫


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2/2

隣にいる

月日を重ねるうちに、最初の印象は少しずつ変わっていった。


無愛想で冷たい人だと思っていた光汰は、実際は驚くほど気さくで、よく笑う人だった。

その笑い方がずるいくらい自然で、気づけば私までつられて笑っていた。

光汰は、私のくだらない話にもちゃんと耳を傾けてくれた。好きな音楽まで驚くほど似ていて、話せば話すほど、一緒にいる時間が心地よくなっていく。


私たちが恋に落ちるまで、そう時間はかからなかった。


いつもの帰り道。

いつものコンビニの前。

見慣れたはずの景色なのに、その日だけは少し違って見えた。

「……話したいことがある」

そう言った光汰の声は、いつもより硬かった。

普段は余裕そうで、何事にも動じないのに、その日はわかりやすいくらい緊張していて、思わず少し笑いそうになった。


震えるような声で伝えられた言葉に、胸が熱くなる。

私が返事をした瞬間、光汰の表情がふっと柔らかくなる。


あんなに照れくさそうで、それでいて嬉しそうに笑う顔を、私はきっと一生忘れない。


付き合い始めてから、私は自然と光汰の家に入り浸るようになった。

自分の家には居場所がなかったから。


休みの日には、海や夜景を見に連れて行ってくれたり、ただ当てもなくバイクを走らせたりした。

後ろから感じる風も背中越しに見る景色もすべて特別だった。

家族とうまくいっていないことも、学校に行きたくない日があることも、光汰には全部話せた。


涙を流しながらでも、うまく言葉にならなくても、光汰は急かさず黙って隣で聞いてくれた。

「話してくれてありがとう」

ただ受け止めてもらえることが、こんなにも温かいなんて知らなかった。

たったそれだけなのに、不思議と救われた。


気づけば私は、何かあるたびに真っ先に光汰を頼るようになっていた。


高校もサボりがちになっていた私を、光汰は責めなかった。

その代わり、バイトの前になると毎朝決まって私を高校まで送ってくれた。

「頑張ったら、美味しいもの食べに行こ」

そう言って、何度も私を前に進ませてくれた。


無理に背中を押すわけでも、説教をするわけでもない。ただ、いつも私が前を向けるように、隣にいてくれた。


そのおかげで、ギリギリだったけれど高校を卒業することができた。


卒業式の日、息を切らして駆けつけた光汰は、誰よりも嬉しそうな顔をしていた。

「お疲れさま」

その言葉を聞いた瞬間、張り詰めていたものがふっとほどけた。

ここまで来れたのは光汰が居てくれたから。


そうして春が来て、私は専門学生になった。



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