隣にいる
月日を重ねるうちに、最初の印象は少しずつ変わっていった。
無愛想で冷たい人だと思っていた光汰は、実際は驚くほど気さくで、よく笑う人だった。
その笑い方がずるいくらい自然で、気づけば私までつられて笑っていた。
光汰は、私のくだらない話にもちゃんと耳を傾けてくれた。好きな音楽まで驚くほど似ていて、話せば話すほど、一緒にいる時間が心地よくなっていく。
私たちが恋に落ちるまで、そう時間はかからなかった。
いつもの帰り道。
いつものコンビニの前。
見慣れたはずの景色なのに、その日だけは少し違って見えた。
「……話したいことがある」
そう言った光汰の声は、いつもより硬かった。
普段は余裕そうで、何事にも動じないのに、その日はわかりやすいくらい緊張していて、思わず少し笑いそうになった。
震えるような声で伝えられた言葉に、胸が熱くなる。
私が返事をした瞬間、光汰の表情がふっと柔らかくなる。
あんなに照れくさそうで、それでいて嬉しそうに笑う顔を、私はきっと一生忘れない。
付き合い始めてから、私は自然と光汰の家に入り浸るようになった。
自分の家には居場所がなかったから。
休みの日には、海や夜景を見に連れて行ってくれたり、ただ当てもなくバイクを走らせたりした。
後ろから感じる風も背中越しに見る景色もすべて特別だった。
家族とうまくいっていないことも、学校に行きたくない日があることも、光汰には全部話せた。
涙を流しながらでも、うまく言葉にならなくても、光汰は急かさず黙って隣で聞いてくれた。
「話してくれてありがとう」
ただ受け止めてもらえることが、こんなにも温かいなんて知らなかった。
たったそれだけなのに、不思議と救われた。
気づけば私は、何かあるたびに真っ先に光汰を頼るようになっていた。
高校もサボりがちになっていた私を、光汰は責めなかった。
その代わり、バイトの前になると毎朝決まって私を高校まで送ってくれた。
「頑張ったら、美味しいもの食べに行こ」
そう言って、何度も私を前に進ませてくれた。
無理に背中を押すわけでも、説教をするわけでもない。ただ、いつも私が前を向けるように、隣にいてくれた。
そのおかげで、ギリギリだったけれど高校を卒業することができた。
卒業式の日、息を切らして駆けつけた光汰は、誰よりも嬉しそうな顔をしていた。
「お疲れさま」
その言葉を聞いた瞬間、張り詰めていたものがふっとほどけた。
ここまで来れたのは光汰が居てくれたから。
そうして春が来て、私は専門学生になった。




