あの日、出会い
家が近い、見た目が自由。このラーメン屋を選んだ理由なんて、それだけだった。
「今日から入る、色葉です。よろしくお願いします」
頭を下げ、顔を上げた瞬間、厨房の奥にいる男と目が合った。明るく色の抜けた髪。鋭く細い目。ほんの一瞬、こっちを見た。
「あー、ごめんね」
後ろから店長が苦笑混じりに言った。
「あいつ、女の子苦手なんだよ」
「…大丈夫です」
そう答えたけど、内心は愛想もないし、挨拶も返さない人。
——最悪。
それが、光汰との出会い。
そんな第一印象とは裏腹に、光汰はよく周りにいじられていた。
「こいつ彼女できたことないんだよ」
パートさんが冷やかすように光汰を肘でつつく。
「やめてくださいよ」
光汰は困ったように笑った。
その笑顔が、思ったよりずっと幼かった。
無愛想な印象とのギャップに、少しだけ戸惑う。
——本当は優しい人なのかもしれない。
胸のどこかでその感情が芽生えていた。
それから私は、気づけば光汰を目で追うようになっていた。
とはいえ、定時制の高校に行っていた光汰とシフトが重なることは少ない。けれど、週末だけは決まって一緒だった。
仕事にも慣れてきた頃だった。
終わりの時間、みんなで喋っていると気づけば帰りを急ぐ時間になっていた。
「光汰にバイクで送ってもらったら?」
店長が、徒歩で通ってる私を心配そうに見た。
少しため息をつきながらも光汰は何も言わずヘルメットを差し出す。
「ありがとうございます」
たった数分の道のりなのに、後ろから伝わる体温と夜風が妙に心地よかった。
いつもより、家までの距離が短く感じる。
そんな時間は、あっという間に終わった。
家の前でバイクを降り、私たちはしばらく他愛もない話をした。それ以来、週末の帰りは自然と光汰が送ってくれるようになった。
いつの間にかそれが当たり前になっていた。




