第23話 クラス分け演習
朝の演習場は、まだ砂が冷たかった。
打ち込み台が並ぶ普段の練習場より広い。四方に観覧用の段差が設けられていて、上級生や教師が見下ろせるようになっている。空は薄い青で、風はまだ少し冷たかった。
仮クラスの生徒が全員、広場の端に並んでいた。颯が隣にいた。茜はその少し後ろだった。セレンは、いつも通り一人で離れて立っていた。
「緊張する?」と颯が言った。
「少し」と葵は答えた。
嘘ではなかった。昨夜アーデルが言った通り、緊張はそこにあった。でも体の奥は、不思議なほど静かだった。
ライラが胸元でほんのりと温かかった。
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観覧席に、教師陣が並んでいた。
アーデルが端に座っていた。ハルトマンはその隣で腕を組んでいる。リースは少し離れた場所に立っていた。段差の上ではなく、広場に面した壁際に、どこか人目を避けるように。
葵はリースの位置に気づいた。
リースの肩の近くに、薄い青白い光がわずかに揺れていた。
オルタ。
授業のときはパネルの中にいる。でも今は、ここにも連れてきている。
葵は視線を前に戻した。
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演習の形式はシンプルだった。一対一の模擬戦。勝敗だけでなく、判断力・契約神魔との連携・戦略性が総合評価される。
審判はアーデル。広場の中央に立って、両手を軽く広げた。空気が、少し重くなった。
「結界を張る」
それだけ言って、アーデルは手のひらを下に向けた。
光の膜が、広場全体に広がった。
ひと呼吸の後、見えなくなった。
ただ、空気の質が、変わっていた。
颯が「すげえ」と小さく言った。葵は何も言わなかった。
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午前の最初に呼ばれたのは颯だった。
颯の相手は背の高い男子で、魔法主体の戦い方をする生徒だった。
颯は身軽に動き回って距離を詰め、最後は相手の魔法が収束する瞬間を狙って懐に入り、勝利を掴んだ。判定はAクラス相当と出た。
颯が戻ってきたとき、「やった」と笑った。葵は「おめでとう」と言った。
次に茜が呼ばれた。
茜の相手は女子生徒で、風属性の使い手だった。茜は最初から最後まで回復魔法しか使わなかった。でも相手の攻撃を受け流す動きは、葵の目には、どこか必要以上に抑えているように見えた。結果はBクラス相当だった。
茜は広場から戻ってきて、葵の隣に並んだ。何も言わなかった。葵も何も聞かなかった。
リオが呼ばれた。
線の細い体で、葵は心配して見ていた。リオは慎重に距離を取って戦った。相手の隙を見つけて短剣で一突き。勝った。Bクラス相当。
リオが戻ってきたとき、葵は「大丈夫だった?」と聞いた。リオは小さく頷いた。「葵が居てくれたから」と言った。
セレンの番が来た。
セレンは武器に短剣だけを選んだ。ボーガンも、契約神魔も、出さなかった。
相手は剣を構えた男子だった。背格好も体格も、セレンより一回り大きかった。
開始の合図が出た瞬間、セレンの姿が消えた。
葵には見えていた。
セレンの足の運びに、無駄が一切なかった。最初の一歩で相手の懐に入った。
短剣の柄で相手の手首を打った。剣が落ちた。
短剣の切っ先が、相手の喉の手前で、止まっていた。
広場が、しばらく静かになった。
審判の判定は、Aクラス相当だった。
セレンは何も言わずに戻ってきた。
葵は少し、セレンを見た。
「……」
セレンが葵の視線に気づいた。一瞬だけ、目が合った。
「……どうかした?」
「何でもない」
葵はそれ以上聞かなかった。
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午前の試合が、すべて終わった。
葵の名前は、まだ呼ばれていなかった。
「あれ、葵まだ?」と颯が言った。
「うん」
「変だな」
茜は何も言わなかった。少しだけ、葵の顔を見ていた。
昼休みになった。
葵は颯と茜とセレンと一緒に、広場の端の木陰でパンを食べた。アーデルが持たせてくれたものだった。
「午後に回されたんじゃないか」と颯が言った。
「そうかも」
「大トリってやつだな」
葵は笑った。「大トリって、そういう意味じゃない気がする」
茜はパンを少しだけかじって、葵にあげた。葵は受け取って食べた。
セレンは一人でパンを食べていた。葵の方を、時々見ていた。
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午後の光が、演習場の砂を白く焼いていた。
観覧席に、いつもより多くの人間が集まっていた。
午前にはいなかった顔も多い。三年生だ。
中央に、黒髪のストレートロングの少女が、腕を組んで広場を見下ろしていた。耳元で、赤いタッセルの飾りが揺れている。胸元には金色の蝶ネクタイ。背筋がまっすぐで、その一人だけが、もう試合の結果を知っているような顔をしていた。
両脇に、二人。一人は黒髪を高く一つに結っていた。結び目に組紐。木刀を立てたまま動かない。もう一人はプラチナブロンドの小柄な少女で、氷のような青い目が静かに広場を見ていた。
そしてカヴィヤと、その隣にアリアが居た。
カヴィヤは葵と目が合うと、小さく手を振った。アリアはその隣で腕を組んだまま、広場だけを見ていた。
五人とも、葵を見ていた。
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「小春葵」
名前が呼ばれた。
葵は広場の中央に出た。
対戦相手が、反対側から歩いてきた。
背が高かった。葵より頭一つ以上大きい。体格がいい。制服の上から着た戦闘服は企業製で、家名の紋章が胸に入っていた。ゴールドのネクタイ。Sクラスだ。
葵は少し、足を止めた。
演習はクラスごとの抽選のはずだった。Sクラスと仮クラスが当たることは、通常ない。
観覧席の端に、見慣れぬ顔があった。
Sクラスで先行聴講しているコネ組の一人だった。明るいブラウンの髪をきれいに横に流した、細身で姿勢のいい男子。整った顔立ちをしているが、葵が広場に出た瞬間から口元に薄い笑みを浮かべていた。
その隣に、もう一人。黒髪を短く整えた、中華系の顔立ちの男子。笑ってはいなかった。ただ、葵と対戦相手の顔を交互に見ていた。観察するような目だった。
葵には意味がわかった。
抽選は、弄られていた。
だが、異議を申し立てれば、止まる試合だった。
葵は、そうしようと思わなかった。
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対戦相手は、広場の中央に来ても表情を変えなかった。葵を見た。一瞬だけ、目が止まった。
「小春葵か」
「はい」
「知っている。契約神魔は、ピクシーだな」
事実を確認するような、淡々とした口調だった。
「……はい」
「私はエリック・デュボワだ。正々堂々と戦おう」
エリックは葵の目を見た。
「私の契約神魔はケルベロスだ」
葵は少し間を置いた。
「……ありがとうございます」
「礼はいい」
エリックは家名入りの戦闘服を外し始めた。装甲も、丁寧に脇に置いた。制服のシャツとジャケットだけが残った。
コネ組たちの笑みが、少し固まった気がした。
エリックは演習場に備え付けの大斧を手に取った。
「武器は好きに選べ」
葵はクラウ・ソラス・レプリカを見た。それから、演習場に並んでいるロングソードに目をやった。
「……ロングソードを借ります」
エリックは少し間を置いてから、口の端を上げた。
「好きにしろ」
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審判のアーデルが、開始の合図を出した。
エリックの空気が、変わった。
口元に、獰猛な笑みが浮かんでいた。普段の品位ある表情の奥から、別のものが滲み出ていた。
大斧を低く構えた。
砂が、震えた。
大斧の頭が地面を叩いた。地面が、割れた。
砂が高く跳ね上がった。地割れが、葵の方へ走ってきた。
葵は横に飛んだ。
地割れが、広場の端で止まった。アーデルの結界が、薄く光った。
観覧席が、ざわついた。
「……今の、戦技じゃないか?」
「演習でか?」
葵は息を整えた。
エリックがもう一度、大斧を振り上げた。
頭上から、振り下ろされる。
葵は手のひらを開いた。
「光よ、砦となれ」
光が、葵の頭上に降りた。
厚い層になって、大斧を受け止めた。
力で押し出したのではなかった。
ただ、そこに在るべきものとして、立った——という立ち方だった。
衝撃が、結界の上で散った。
観覧席が、また静かになった。それから、小さな声があちこちで漏れた。
「フォルティス・ルクス……?」
「あれ、上級防御だよな」
「仮クラスが?」
葵はそれを聞いていなかった。
エリックが、一歩下がった。それから大斧を、横に薙いだ。
砂が、横一列に吹き飛んだ。広場の地面が、波のように割れていく。
葵は跳んで避けた。
着地した瞬間、エリックがもう動いていた。
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葵は手のひらに光を集めた。
光弾が、エリックに向かって飛んだ。一発、二発、三発。
エリックは大斧を回転させて、すべて弾いた。砂が、白く飛んだ。
葵は連射した。
エリックは止まらなかった。光弾を弾きながら、距離を詰めてくる。
葵は下がった。
エリックの大斧が、また高く上がった。
来る、と葵は思わなかった。ただ、足が動いた。
葵は、前に出ていた。
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斧の懐。
エリックの目が、わずかに開いた。
葵はその目を見ていた。
大斧は、長い。振り下ろすには距離がいる。葵がエリックの腕の中に入った瞬間、大斧の頭は葵を超えて空を切った。
エリックが、笑った。
「……来たか」
エリックは大斧を引き戻した。柄を短く持ち替えた。それでも、葵の方が中にいた。
ロングソードが、エリックの腰のあたりを狙った。
エリックは半身で避けた。それから大斧の柄で、葵のロングソードを払った。
剣戟が始まった。
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葵はエリックの力を、まっすぐ受けなかった。
剣で受け流した。
斧の重みを、剣の腹で滑らせた。エリックが押せば、葵が流す。エリックが引けば、葵が踏み込む。
二人は何合か打ち合った。葵が踏み込めば、エリックが退く。エリックが押せば、葵が流す。どちらも決め手がなかった。
観覧席が静かになっていた。
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膠着が数十秒続いたとき、エリックが動きを変えた。
大斧を高く上げた。
葵はその軌道を読んで、ロングソードを構えた。
上から来る。
大斧が振り下ろされた。
葵のロングソードに当たった。
金属が、高い音を立てた。
ロングソードが、中ほどから断ち切られた。
観覧席から息を呑む声がした。
エリックの口角が、わずかに動いた。
葵は動いていた。
折れたロングソードの切っ先を、落ちる前に素手で拾った。
右の手のひらが切れた。血が出た。だが、手は止まらなかった。
ライラが、手のひらを包む光を強めた。
葵はエリックに向かって踏み込んだ。
エリックが大斧を横に振った。葵は屈んで潜り抜け、切っ先をエリックの大斧の柄に叩きつけた。一度、二度、三度。同じ場所を打ち続けた。
大斧の柄に、亀裂が入った。
エリックが力を込めた。
柄が、砕けた。
砕けた断面は、年輪のままだった。
木のまま、白く割れていた。
ただ、それは、もう武器ではなかった。
大斧の頭が、砂に落ちた。
広場が、静かになった。
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エリックは落ちた大斧を見た。靴の先で、軽く砂をかけた。動きに、苛立ちはなかった。
それから葵を見た。
「……剣の腕は、互角のようだな」
声に、感情が乗っていた。怒りではなかった。
「だが、契約神魔はどうかな」
エリックが右手を上げた。
闇の気配が広がった。
影が実体を持った。砂の上に、黒い獣が顕現した。三つの頭が、それぞれ別の方向を向いて、低く唸っていた。
冥界の門番だった。三つの頭は、神話の通りだった。
闇が三頭の足元から滲み、砂を侵蝕していた。
(葵、こいつ強い。私も出る)
光が、勢いよく胸元から出た。
エリックの目は、すでにそこに向いていた。
一頭が、ライラへ動いた。
「ライラっ!」
間に合わなかった。
顎が、ライラを捕らえた。力で押さえ込む形だった。ライラが身をよじる。逃げられない。
葵の体が、そちらへ向く。
残りの二頭が、葵に巻きついた。腕と胴を締め付ける。闇が、固い。
動かない。
「降参しろ」
エリックが、静かに言った。
声は冷たかった。三頭はライラを噛み砕かない。ただ拘束しているだけだった。
葵はライラを見た。
ライラが葵を見ている。
光が、引いた。一瞬だけ、暗くなった。
(葵、描いて)
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右の手のひらが、痛んだ。
さっきの剣撃で切れた傷だった。血が、じわりと滲んでいる。
葵は、その血を見た。
拘束の中で、指だけが動いた。砂の上に、血で線を引いた。
細く。
ゆっくりと。
簡単な形だった。
なぜこれを引けば状況が変わると思ったのか、葵にはわからなかった。
ただ、引いた。
ライラと契約を結んだときの、魔法陣。
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砂の上の線が、光った。
光は、贅沢に降っていた。
ひとひらの粒子の中にも、契約の根が触れているのだろうと、葵は思った。
それが惜しげもなく、砂の上に降っていた。
エリックの目が、変わった。
「なに」
光の中から、小さな影。
水色の翼。短い白い髪。緑の目。ライラより少し小さい。
光の粒のような気配は、同じだった。
ピクシーだ。
そのピクシーが、エリックの胸元に、光の弾を叩きつけた。
至近距離。
乾いた音。布の裂ける音が続いた。
エリックの体が、後ろに弾かれる。拘束がほどけた。
葵は腕を引いた。
ライラが顎から飛び出る。胸元に、戻ってきた。
葵はエリックの正面に立った。断ち切られたロングソードの切っ先を、向ける。
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エリックは、すぐには立ち上がらなかった。
砂についた手で、上体を起こす。
その瞬間、空気が変わった。
三頭の犬が、低く唸った。一頭が地を蹴ろうとする。エリックの右手が、もう一度、上がりかけた。
葵の剣の切っ先が、わずかに動いた。
エリックの目に、戦意がある。
だが、止まった。
エリックの視線が、自分の胸元に落ちた。
シャツが、肩から胸の下まで斜めに裂けていた。
布が、垂れていた。
鍛え上げた胸筋と腹筋が、午後の光の中で晒されている。
シャツは、まだシャツだった。
だが、家紋の刺繍が、肩から胸の下まで、断ち切られていた。
エリックは、しばらくそれを見た。
右手が、ゆっくりと下りた。
三頭が、姿勢を解いた。砂の上の闇が、薄れていく。
エリックは両手を、軽く上げた。
「……ここまでだ」
声は、さっきより低かった。
「半裸で剣を交えるのは、私の品位に関わる」
その口元が、わずかに笑っていた。負け惜しみのようには、聞こえなかった。
審判のアーデルの声が、静かに落ちた。
「小春葵の勝利」
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演習場が、一拍だけ静かになった。
葵は剣の切っ先を下ろした。
ライラが胸元に戻ってきた。光が、速く瞬いている。
葵はそっと手を当てた。何も考えていなかった。ただ、そこにいることが、当たり前だった。
それから、ざわめきが広がった。
「は?」
「今——」
「……二体目」
「待て、契約神魔は一人一体のはずだろう」
「不正だ」
「ピクシーが、二体——二体だぞ」
声が、あちこちから来た。
葵は演習場の砂を見た。血で引いた魔法陣の跡が、まだそこに残っていた。
観覧席の端で、明るいブラウンの髪の男子が立ち上がった。口元の笑みは、もう消えていた。代わりに、確信めいた表情があった。
「あれは不正ではないですか」
声が、広場に通った。
「人間は神魔と一生に一体しか契約できない。上級防御も、無詠唱で。仮クラスの実力ではない」
「黙れ」
ハルトマンが言った。低い声だった。静かだったが、広場全体に響いた。
「演習前に身体検査を行った。契約神魔の数も、全員確認済みだ」
「でも、二体目が」
「私の言葉が聞こえなかったか」
コネ組の生徒は黙った。それでも、目だけは葵から離れなかった。
隣の中華系の男子は、何も言わなかった。腕を組んだまま、葵を見ていた。目の奥に、小さな光があった。
ハルトマンは葵を見た。それから前を向いた。それだけだった。
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エリックが葵の前に来た。
「驚いた」
「……」
「二体目が出るとは思わなかった」
「僕も、できると思っていなかったです」
「嘘をつくな」
「本当です」
エリックはしばらく葵の顔を見た。それから、少し笑った。
「お前は、生涯で二番目のライバルだ」
「一番目は誰ですか」
「昔の話だ」
エリックはそれだけ言って、装備を拾いに行った。
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演習の後、全員の結果が出された。
颯はAクラス。茜はBクラス。リオはBクラス。セレンはAクラス。
「小春葵。測定不能につき、評価基準外」
審判の教師がそう読み上げた。
しばらく、広場が静かになった。
学園長が、観覧席の中央に座っていた。小柄な老人。皺の刻まれた顔に、深い何かが滲んでいた。
学園長が、立ち上がった。
「特例を認める」
静かな声だったが、よく通った。
「小春葵は本日よりSクラスに正式配属とする」
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観覧席が、またざわめいた。
「特例?」
「仮クラスからSクラスは聞いたことない」
「不当だ」
コネ組の男子が再び立ち上がった。
「学園長、それは」
「異議があれば、私に直接申し出なさい」
学園長は振り返らなかった。
「ただし、今日の演習を見た上での申し出であることを忘れないように」
コネ組の生徒は口を閉じた。それでも座らなかった。立ったまま、葵を見ていた。
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葵は観客席の最前列に目を向けた。
ストレートロングの少女が、葵を見ていた。腕を組んだまま、口角だけがわずかに上がっている。耳元の赤い飾りが、わずかに揺れた。
ポニーテールの少女は、木刀を立てたまま、何も言わなかった。
プラチナブロンドの少女は、氷のような青い目で、葵を見ていた。何も言わなかった。
カヴィヤだけが、葵に向かって小さく頷いた。簪の梵字が、午後の光の中で淡く反射した。
葵は視線を戻した。
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演習が終わり、生徒たちが散り始めた頃、葵は広場の端に立って、ライラと話していた。
「もう一人のピクシー……」
「うん」とライラが言った。「呼ばれた」
「ライラが?」
「葵が呼んだ。あの魔法陣で」
「知ってた? あれで呼べるって」
「……なんとなく」
ライラは少し間を置いた。
「でも葵が一人でやった。私は何も教えてない」
葵はその言葉を聞いて、しばらく黙った。
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観覧席の壁際に、リースがまだ立っていた。
演習が終わっても、帰らなかった。砂地になった広場を見ていた。葵が目を向けると、リースはこちらを見た。
目が合った。
リースは何も言わなかった。
肩の近くに、青白い光がわずかに揺れていた。
ライラが胸元で、静かに光を強めた。
葵は視線を外して、広場を後にした。
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なぜ、降参しなかったのか。
降参すれば、終わっていた。ライラも、あれ以上捕まっていなかった。
そもそも、戦う必要もなかった。
異議を申し立てれば、止まる試合だった。
葵は、そうしようと思わなかった。
それなのに、葵はそのどちらもしなかった。
(なぜ、しなかったのか。)
自分でも、わからなかった。
そして、なぜあの魔法陣を引けば状況が変わると思ったのか。
確信は、あった。根拠は、どこにもなかった。
ライラが、胸元でかすかに揺れた。
葵は答えを探して、やめた。
今は、関係なかった。
勝った、と思った。
それより、ライラが無事だったことが、嬉しかった。




