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東京影譚 ~エミリア、影を紡ぐ者~  作者: ミルティア


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93/350

完璧なる勘違い協奏曲(コンチェルト)其六

この物語はフィクションです。

この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。


ようこそ、東京の影の中へ。

ここは、光が滅び、影が支配する世界。

摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。

欲望、裏切り、暴力、そして死。

この街では、毎夜、人知れず罪が生まれ、そして消えていく。

あなたは、そんな影の世界に生きる、一人の女に出会う。

彼女の名は、エミリア・シュナイダー。

金髪碧眼の美しい姿とは裏腹に、冷酷なまでの戦闘能力を持つ、凄腕の「始末屋」。

幼い頃に戦場で、彼女は愛する家族を、理不尽な暴力によって奪われた。

それは、彼女が決して消すことのできない傷となり、心を閉ざした。

今もなお、彼女は過去の悪夢に苛まれ、孤独な戦いを続けている。

「私は、この世界に必要とされているのだろうか?」

「私は、幸せになる資格があるのだろうか?」

深い孤独と絶望の中、彼女は自問自答を繰り返す。

だが、運命は彼女を見捨てなかった。

心優しい元銀行員の相棒、エミリアの過去を知る刑事、そして、エミリアの過去を知る謎めいた女ライバル。

彼らとの出会いが、エミリアの運命を大きく変えていく。

これは、影の中で生きる女の物語。

血と硝煙の匂いが漂う、危険な世界への誘い。

さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。

そして、エミリアと共に、非日常の興奮とスリル、そして、彼女の心の再生の物語を体験してください。

あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?

…この物語は、Gemini Advancedの力を借りて、紡がれています。

時に、AIは人間の想像を超える unexpected な展開を…

時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を…

Gemini Advancedは、新たな物語の世界を創造する、私のパートナーです。


この作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では遅れて公開となります。あらかじめご了承ください。


ただし、どうか忘れないでください。

これは、あくまでフィクションだということを。

This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.


Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.


Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.


นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น


(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)


冬晴れの空の下でも、どこか重たい。

少なくとも、雑居ビル四階の『仮設訓練所』に、再び足を踏み入れた佐藤健にとってはそうだった。

昨日(あるいは数日前)の訓練初日の記憶――極度の緊張、逃亡未遂、そしてサスキアと玲奈弁護士からの、有無を言わせぬ説得(という名の圧力)――が、彼の足取りを鉛のように重くしていた。


(…今日も、あの地獄が始まるのか…)


カフェ風に設えられた、しかしどこか人工的で、監視カメラの気配が漂う空間。

そこには既に、三人の女神…いや、プロの女性コスプレイヤーたちが、完璧な笑顔(と、おそらくは完璧な役作り)で彼を待っていた。

神崎霞さんは、今日もクールなSFヒロイン風の、しかし露出は抑えられた衣装。

桃里めるさんは、パステルカラーの、元気な魔法少女風。

藤乃しずかさんは、柔らかな微笑みを浮かべた、慈愛に満ちた女神官風だ。

その美しさは、佐藤の心臓を無駄に高鳴らせ、同時に、コミュニケーションへの恐怖を増幅させた。


そして、訓練は始まった。

予想通り、佐藤は、昨日からの『揺り戻し』で、再びガチガチに緊張していた。

ソファには座らず、部屋の隅の椅子に浅く腰掛け、視線は床の一点をさまよい、声は蚊の鳴くように小さい。

顔色も悪く、額にはうっすらと冷や汗が滲んでいる。

コスプレイヤーたちが、プロの技術でどんなに明るく話題を振っても、彼の周囲には、目に見えない、しかし極めて分厚い『心の壁』が築かれているのが、誰の目にも明らかだった。


(((昨日より、ひどくなってる…!?)))


三人のコスプレイヤーは、内心で同じことを思っていた。

昨日の午後は、少しだけ打ち解けた(ように見えた)のに、一晩(あるいは数日)で完全に元通り、いや、むしろ悪化している? 自分たちの魅力も、プロとしてのスキルも、この男性の前では全くの無力なのか? その事実に、彼女たちのプロとしてのプライドが、再びチリチリと音を立て始めた。


そして、午前中のセッションが終わる頃には、佐藤の精神は限界に達していた。


「す、すみません…! ちょっと、気分が…!」


彼は、そう言い残すと、昨日と同じように、訓練所から逃げ出してしまったのだ。


「……やはり、一筋縄ではいきませんね」


モニタリングルームで、玲奈弁護士が、モニターに映る佐藤の姿を見ながら、興味深そうに呟いた。

隣のサスキアも、冷静な目でデータを確認している。

すぐに、モニタリングルームのドアが叩かれ、半泣きの佐藤が転がり込んできた。


「む、無理です! やっぱり僕には無理なんです! 仕事関係なら、女性とも普通に話せるんですから! こんな訓練、もうやめさせてください!」

「佐藤様」


サスキアが、優しく、しかし有無を言わせぬ口調で諭す。


「これは、あなたの自己肯定感を高めるための、重要なプロセスです。焦る必要はありません。少しずつ、慣れていきましょう」


「ですが…!」

「それに」


玲奈弁護士が、にこやかに、しかし目は笑わずに付け加える。


「契約は契約ですわ、佐藤さん。ここで投げ出すのは、プロフェッショナルとして、少々問題があるかと…エミリア様も、期待なさっていますよ?」


エミリアの名前を出され、そして契約という言葉に、佐藤はぐうの音も出ず、再び観念するしかなかった。


(ああ…もう、どうにでもなれ…)


【控室:昼休憩】


「…信じらんない! また逃げたんだけど、あの男!」


控室で、サスキアが手配したであろう、彩り豊かで見るからに高級そうな弁当を前に、めるがプンプンと頬を膨らませていた。


「午前中、完全に心を閉ざしてたわね…。私たちの魅力、一切通じず…」


しずかも、困ったように微笑む。


「…プライドが傷つくわね」


霞が、冷たく言い放った。


「プロとして、これは許容できない」

「こうなったら…いっそ、色仕掛けで…!」


めるが悪戯っぽく提案しかけるが、すぐに霞に制止された。


「馬鹿を言わないで。弁護士ともう一人が監視しているのよ? 下手なことをすれば、コンプライアンス違反で、逆にこちらが訴えられるリスクがあるわ。契約書にも、そういった禁止事項、あったでしょう?」

「う…それは、そうだけどぉ…」

「…とにかく、午後は戦略を変えましょう」


しずかさんが、提案する。


「彼の『得意分野』に、もっと踏み込んでみるのはどうかしら? 心の壁が高いなら、その壁の『中』に入り込むしかないわ」

「なるほど…」

「やってやるわ…!」


三人のプロコスプレイヤーは、打倒・佐藤健(の心の壁)に向けて、新たな闘志を燃やし、午後の作戦を練り始めた。

その瞳には、もはや単なる仕事相手への対応ではなく、攻略対象への、女性としての意地と、プロとしてのプライドが燃え盛っていた。


【訓練所:午後】


午後の訓練が始まった。

しかし、佐藤の様子は、コスプレイヤーたちの予想とは全く違っていた。

彼は、午前中のような怯えや拒絶を見せる代わりに、まるでスイッチが切り替わったかのように、完璧な『銀行員スマイル』を浮かべ、非の打ちどころのない、しかし完全に心のこもっていないビジネス対応を始めたのだ!


「KASUMI様、本日はどのようなご用件で? SFの最新情報についてですね? かしこまりました。現在、〇〇スタジオの新作が…」

「MERU様、その漫画の考察、大変興味深いですね! 素晴らしい着眼点だと思います。つきましては、関連作品のデータもご用意しましょうか?」

「Shizuka様、お仕事のお悩み、お察しいたします。私でよろしければ、いつでもお伺いいたしますので、ご遠慮なくお申し付けください」


完璧な敬語、完璧な笑顔、完璧な距離感。

それは、かつて彼がメガバンクで顧客に対応していた時の姿そのものだった。

しかし、そこには、個人的な感情や、心の交流は一切存在しない。

ただ、業務として、マニュアル通りに、完璧に相手を『処理』しているだけ。

サブカルチャーの話題ですら、彼は『お客様への情報提供』というスタンスを崩さない。


(((な、何なのよ、この人!? 午前中と全然違う! しかも、こっちの方が、ある意味、手強い…! 全然、懐に入れないんだけど!?)))


今度は、コスプレイヤーたちの方が、完全に戸惑い、ペースを乱されてしまった。

彼女たちの用意してきたアプローチは、この鉄壁の『銀行員モード』の前では、全くの無力だった。


モニタリングルームでは、玲奈とサスキアが、その予想外の展開に、思わずといった感じで顔を見合わせていた。


「…ふふ、これはまた…面白い反応ですね、佐藤さん」


玲奈の口元に、知的な好奇心に満ちた笑みが浮かぶ。


「極度のストレスに対する防衛機制として、過去の成功体験…最も得意とする社会的ペルソナに退行した、と。しかも、その完成度が非常に高い。…なるほど、実に奥ゆかしい自己防衛だわ。実に、実に、面白い…!」

「ええ」


サスキアも、冷静に頷きながら、端末にデータを入力している。


「条件付けされた定型応答パターン。感情的交流の完全な拒絶。これを『改善』と呼ぶのは難しいですが、彼のストレス対処メカニズムを理解する上で、非常に興味深いデータです。予想を超えた反応というのは、観察対象として、実に面白いものですね」


二人の有能な女性は、佐藤の『治療』の難しさを再認識しつつも、むしろ、その複雑で予測不能な反応に、知的な興奮と、研究対象への尽きない興味を感じているようだった。


【訓練終了後】


その日の訓練終了時刻。佐藤は、すっと立ち上がると、玲奈、サスキア、そしてコスプレイヤーたちに向かって、完璧な営業スマイルと、完璧なお辞儀と共に、そつなく御礼の言葉を述べた。


「結城先生、サスキアさん、そしてKASUMIさん、MERUさん、Shizukaさん、本日は、大変有意義なご指導、誠にありがとうございました。おかげさまで、多くの学びを得ることができました。今後のセッションも、楽しみにしております」


その、あまりにも完璧な社交辞令。

彼の内心とは、おそらく180度違うであろう言葉。


(よしっ! やり過ごした! 今日の僕は完璧だった! これで、僕のコミュ力が低いなんて、誰にも言わせないぞ! 見事、逃げ切った!)


佐藤は、心の中で、高らかにガッツポーズをしていた。


一方、コスプレイヤーたちは、そんな佐藤の姿に、ただただ訳が分からない、といった表情で顔を見合わせていた。


(…結局、何だったの?)

(手応え、ゼロ…)

(疲れた…)


彼女たちの胸には、プロとしての疲労感と、全く攻略できなかった相手への、言いようのない戸惑いだけが残っていた。


玲奈とサスキアは、そんな佐藤の『完璧な』挨拶に、意味深な微笑みを交わす。

彼の訓練が、一筋縄ではいかないことを、改めて認識したのだ。


「…じゃあ、お先に失礼します…」


戸惑いと疲労感を隠せないまま、コスプレイヤーの三人が、連れ立って訓練所を出て、雑居ビルの出口へと向かった、まさにその時だった。


「あ、すみませーん!」


明るく、しかし聞き覚えのある声。

振り返ると、そこには、帽子とマスクで顔を隠してはいるものの、明らかに一般人ではないオーラを放つ、二人の美しい女性が立っていた。


「あれ? もしかして、KASUMIさん? それに、MERUちゃんと、しずかさんも! やっぱりそうだ! お久しぶりです!」


声をかけてきたのは、Berurikkuのリーダー・星宮凛と、サブリーダーの月島葵だった。

彼女たちは、以前、番組か何かで、このコスプレイヤーたちと共演したことがあったのだ。


「えっ!? り、凛様!? 葵様!?」

「な、なんで、こんな所に!?」


コスプレイヤーたちは、今日一番の衝撃と混乱に見舞われ、完全にフリーズしてしまった。

なぜ、トップアイドルが、こんな場末の雑居ビルの前にいるのか!?


凛と葵は、そんな彼女たちの動揺には気づかず、にこやかに言葉を続ける。


「私たち、ちょっとこの近くに用事があって! それにしても、奇遇ですね! 皆さん、こんな所でどうしたんですか?」


その無邪気な問いかけに、コスプレイヤーたちは、どう答えるべきか、全く分からず、ただただ顔面蒼白になって立ち尽くすしかなかった。


(((…もう、訳が分からない……!!!)))


彼女たちの頭の中は、完全にキャパシティオーバー。

一方、階上の事務所では、佐藤健が、何も知らずに、今日の『勝利』を噛み締め、安堵のため息をついていた…。

ラブコメ的(?)カオスは、まだ始まったばかりだ。


                    ***


ジャズ喫茶に、予期せぬ来訪者が現れたことで、店内の空気は一変していた。

低い音量で流れる上質なジャズピアノの旋律と、淹れたてのコーヒーの香りはそのままに、しかし、カウンターの内側と、ソファ席の間には、目に見えない、しかし確実に存在する、緊張と興奮、そして大量の「???」が渦巻いていた。


カウンターの中では、高橋美咲と小林陽子が、必死で平静を装いながらも、内心の動揺を隠しきれていない。

目の前のソファ席には、帽子とマスク、サングラスで顔を隠していても、その輝きとオーラは隠しようもない、国民的アイドルグループ「Berurikku」のリーダー・星宮凛と、サブリーダー・月島葵が座っているのだ!


(本物だ…! テレビで見るより、もっとキラキラしてる…!)

(なんで、こんなお店に…? しかも、佐藤さんの知り合い…!?)


一方、凛さんたちに「ご一緒にどうですか?」と誘われ、恐縮しながらも同じテーブルの向かい側に座ることになったプロコスプレイヤーの三人――神崎霞、桃里める、藤乃しずか――もまた、内心穏やかではなかった。

彼女たちは、この業界における凛と葵の『格』の違いを痛いほど理解している。

背筋は伸び、表情は完璧な営業スマイルだが、その内側では、トップアイドルと同席するという極度の緊張と、『なぜ彼女たちが、こんな怪しい(と内心思っている)場所に?』という強い疑念が渦巻いていた。


「改めまして、星宮凛です。こちらは月島葵」


凛さんが、マスクを少しずらして、改めてにこやかに自己紹介する。


「か、神崎霞です!」

「も、桃里めるです!」

「藤乃しずかです! いつも番組、拝見してます!」


コスプレイヤー三人は、慌てて、しかし完璧な角度で頭を下げた。

委縮しているのが傍目にも分かる。


「ふふ、そんなに固くならないでください」


葵さんが、クールな表情を少しだけ和らげて言った。


「私たちも、今日はたまたま撮影が早く終わっただけで、今はオフですから」

「そういえば、皆さんは、こちらでお仕事か何か?」


凛さんが、純粋な好奇心から尋ねる。


「あ、は、はい! その…ちょっと、特別なご依頼で…」


霞が、言葉を選びながら答える。


「大変申し訳ないのですが、守秘義務契約を結んでおりまして、詳しいことは…」

「まあ! それは大変!」


凛が、驚いたように声を上げた。


「分かります! 私たちも、そういうの、しょっちゅうですから! ねー、葵」

「ええ。今の時代、情報管理は本当に大変ですよね」


葵も頷く。

その、あまりにもあっさりとした同情の言葉に、コスプレイヤーたちは(ああ、やはりこのレベルの人たちは、こういう特殊な仕事にも慣れているのか…)と、少しだけ安堵した。


「それで…凛さんたちは、どうしてこちらのお店に?」


今度は、しずかが、穏やかな口調で尋ねた。


その質問に、カウンターの中で聞き耳を立てていた美咲と陽子の心臓が、再び大きく跳ねた。


((キタ…!))


「ああ、それはですね」


答えたのは、葵さんだった。

その声には、隠しきれない感謝の響きがあった。


「以前、私たちが大変お世話になった方がいらっしゃいまして。エミリアさんと、佐藤さんに、改めてお礼を申し上げたくて、近くまで来たので寄らせていただいたんです」


エミリアさんと、佐藤さん――。その二つの名前が出た瞬間、ジャズ喫茶の空気が、ピシリ、と凍ったような気がした。


(やっぱり!!! エミリア様と佐藤様は、セットなんだ! しかも、このトップアイドルたちが、わざわざお礼に来るほどの関係!!)


夜組の少女たちの頭の中で、勘違いが、ドカーン!と音を立てて最終形態へと進化を遂げる。


(エミリア…? 佐藤…? あの、冴えない男に、この二人がお礼!? しかも変装してまで!? どういうこと!? 何か、とんでもない裏があるに違いない…!!)


コスプレイヤーたちの頭の中は、別の方向で疑問符と驚嘆符で埋め尽くされた。


「ふふ、本当はね」


凛さんが、少し残念そうに付け加えた。


「Berurikkuのメンバー全員で、ご挨拶に来たかったんだけど、なかなか皆のスケジュールが合わなくて…。今日は二人だけで来ちゃったの」


(((グループ全員で!? 佐藤さんに会いに!?)))


夜組の少女たちの思考は、完全に停止した。

もう疑う余地はない。

これは、運命なのだ。

自分たちは、とんでもない男(佐藤健)の、大きな物語ハーレムに巻き込まれたのだ、と。

彼女たちの目には、もはや現実的な思考はなく、どこか潤んで、悲劇のヒロインとして、この甘美な(?)運命を受け入れようとする、妙に清々しい光すら宿り始めていた。


「…でも、本当に良かった。あの時、佐藤さんがいてくれなかったら、私たち、どうなっていたか…」


凛さんが、しみじみと呟く。

そして、次の瞬間、彼女は、全く悪気なく、決定的な衝撃を投下した。


「特に、あの時なんて、本当にビックリしたんだから! シャワー室から出てきたら、佐藤さんとバッタリ会っちゃって! お互い、人に見せられない格好だったから、もう、すっごく気まずくて! あれは、本当に恥ずかしかったなぁ…ふふふ」


「「「「「………………!!!」」」」」


凛の、屈託のない(そして、おそらくは事実なのだろう)過去の思い出話。

しかし、その場の他の女性たち(夜組+コスプレイヤー)にとっては、それは衝撃度MAXの、超ド級スキャンダル発言にしか聞こえなかった!!!


(シャ、シャワー室でバッタリ!? しかも人に見せられない格好!? やっぱり、そういう関係なんだぁぁぁ!!!)


夜組の少女たちの勘違いは、もはや修正不可能な領域へと突入し、涙ぐみながらも「(これが運命…! 私たち、みんなで支え合って、幸せな大家族を…!)」と、固く、固く、決意を新たにする。


(聞いてはいけない! 聞いてはいけないことを聞いてしまった!! トップアイドルの、超プライベートな、しかも相手はあの怪しい男!? これ、絶対に外部に漏れたらヤバいやつだ! 私たち、消されるんじゃ…!?)


コスプレイヤーたちは、顔面蒼白になり、冷や汗が止まらない。

目の前のコーヒーは、もはや泥水のようにしか感じられなかった。


凛さんと葵さんは、そんな周囲の阿鼻叫喚(内心の)には全く気づかず、「ねー、あの時、本当に焦ったよねー」「うんうん」などと、楽しそうに思い出話に花を咲かせている。


そして、その頃、階上のオフィスでは。


佐藤健が、ようやく終わったレポートに安堵し、伸びをしながら呟いていた。

「よし、今日はもう仕事終わり! まっすぐ帰って、昨日買ったハーレム漫画の続きを読むぞ! あー、平和だなぁ…」


彼の平和は、彼が思っているよりも、ずっと、ずっと、脆く、危険なバランスの上に成り立っていることを、彼はまだ、全く知らない――。


                    ***


夕方。

雑居ビル四階の『仮設訓練所』での、嵐のような一日がようやく終わった。

結城玲奈弁護士が、その日の分析結果をまとめた(であろう)タブレット端末を手に、颯爽と、しかしどこか面白そうな余韻を残して帰途についた後、事務所に戻った佐藤健は、完全に燃え尽きていた。


(…疲れた……本当に、疲れた……)


彼は、自分のデスクの椅子に深く沈み込み、天井を仰いだ。

午前中の極度の緊張と逃亡、午後の(半ば開き直りの)銀行員モードでの対応…。

精神的な消耗は計り知れない。

だが、同時に、わずかな達成感のようなものも感じていた。


(…よし、今日は完璧に乗り切ったぞ! あの完璧なビジネス対応! これで僕のコミュニケーション能力が低いなんて、誰も言えないはずだ! 見事、あの場を『逃げ切った』!)


彼は、内心で高らかにガッツポーズを決めていた。

まさかその『完璧な対応』が、コスプレイヤーたちをさらに戸惑わせ、玲奈さんとサスキアさんを知的な興奮(?)に導いていたとは、露ほども知らずに。


(これで、しばらくはあの訓練からも解放されるかもしれない…!)


そんな甘い、楽観的な希望を抱きながら、彼はパソコンの電源を落とし、帰り支度を始めようとした、その時だった。


「――佐藤様」


背後から、静かな、しかし有無を言わせぬサスキアさんの声がかかった。

びくりとして振り返ると、彼女は完璧な微笑みを浮かべて立っていた。


「階下のジャズ喫茶に、お客様がお見えです。Berurikkuの星宮様と月島様が、佐藤様にご挨拶したい、と仰っていますが」

「えっ!? り、凛さんたちが!? 今!?」


佐藤の脳内に、一瞬で、あの華やかなアイドルたちの笑顔がフラッシュバックした。

そして同時に、エミリアの(アイドルたちを店に呼ぶという)宣言と、サスキアさんの(再教育宣告という)脅威も!


(まずい! なんでこのタイミングで!? エミリアたちに鉢合わせたら…!)


しかし、断るわけにもいかない。


彼女たちは、以前、(主にエミリアが)守った相手でもあるのだ。


「わ、わかりました! すぐに伺います!」


佐藤は、慌ててジャケットを羽織り直し、事務所を飛び出した。


(大丈夫、落ち着け、僕! 凛さんたちは、僕のことを悪く思っていないはずだ。あの時…事務所の独立問題で共同生活した時だって、打ち解けて話せたじゃないか! そうだ、あの時のように、自然に接すればいいんだ!)


彼は、自分に言い聞かせながら、階段を駆け下り、ジャズ喫茶の重厚なドアを開けた。


カラン、と上品なチャイムの音。

店内にいた全員の視線が、一斉に佐藤に集まった。

窓際のソファ席には、帽子とマスクで顔を隠していても、明らかにオーラを放つ星宮凛さんと月島葵さん。

そして、カウンターの中やホールには、あのクラシカルなメイド服姿の夜組の少女たちと、なぜかまだ残っていた(あるいは、上がり時間だったのか?)プロコスプレイヤーの神崎霞、桃里める、藤乃しずか。


「あ! 佐藤さん!」


凛さんが、佐藤の姿を認め、嬉しそうに声を上げた。

葵さんも、クールな表情をわずかに和らげ、会釈をしている。


「り、凛さん! 葵さん! ご無沙汰してます! お元気そうで何よりです!」


佐藤は、深呼吸一つして、練習した(?)笑顔で応じた。

不思議なことに、コスプレイヤーたちを前にした時のような、全身が凍りつくような緊張感はない。

彼女たちは『知っている』相手であり、かつて同じ時間を過ごした『仲間』のような感覚があるからだろうか。

あるいは、単に、彼女たちが放つ、プロのアイドルとしての『人を安心させるオーラ』のせいかもしれない。


「わざわざ来てくださったんですね、ありがとうございます。お会いできて、本当に嬉しいです」


自然に、そして親しみを込めて、そんな言葉が出てくる自分に、佐藤自身も少し驚いていた。

その様子を、カウンターの中から、そしてホールの隅から、二つの異なるグループが、全く異なる感情で見つめていた。


(((なっ……!? なんで、普通に話せてるのよ!? しかも、なんか、親しげ……!?)))


コスプレイヤーの三人は、内心、激しく動揺していた。

午前中の、あの壁を作りまくっていた姿はどこへ行ったのか? 自分たち相手には、あんなに怯えていたのに、トップアイドル相手だと、この変わりようはなんなのか!?


(((これが…トップアイドルの力…!? 私たちとは、『格』が違うってこと…!? 彼女たちのオーラの前では、あの鉄壁のガードも無意味になるっていうの…!?)))


霞は冷静に分析しようと努め、めるは悔しさに唇を噛み、しずかは興味深そうに観察している。

しかし、三人の中に共通して芽生え始めていたのは、『このままじゃ終われない』という、プロコスプレイヤーとしての、そして一人の女性としての、静かで熱い対抗心だった。

『負けるものか』と。


一方、夜組の少女たちは、その光景を、全く違う文脈で捉えていた。


(((やっぱり!!! 佐藤さん、凛様たちとは、めちゃくちゃ親しいんだ! あの笑顔! あの自然な会話! エミリアさんの愚痴なんて、やっぱり全部ヤキモチの裏返しだったんだわ!)))


彼女たちの頭の中では、『佐藤さん=超絶モテるハイスペック隠れイケメン(ただしエミリアさんというラスボス彼女持ち)』という設定が、もはや揺るぎない『真実』として確立されていた。


(((すごい…! トップアイドルと、あんなに自然に話せるなんて…!)))

(((私たちも、いつか、あんな風に、佐藤さんと…いやいや、おこがましい!)

(((でも、これが『運命』なんだよね…! エミリアさんは怖いけど、佐藤さんは優しいし、凛様たちとも仲良くできれば、きっと、私たち、ここで『幸せな大家族』になれるはず…!)))

(((そうだ! 悲劇なんかじゃない! これは、私たちに与えられた、最高のチャンスなんだ!)))


もはや、彼女たちの思考は、現実から完全に乖離し、ラブコメ的な妄想と、悲劇のヒロイン的な陶酔感の中で、奇妙なポジティブさを獲得し始めていた。

彼女たちは、互いに涙ぐみながら(今度は感動の涙?)、力強く頷き合う。


(((私たち、頑張る! 佐藤さんのハーレムの、たとえ末席の端っこの、影みたいなところでもいい! ちゃんと『足跡』を残せるように、精一杯、自分を磨かないと!)))


そんな、とんでもない決意が固められた瞬間だった。


「エミリアも、ちょうど上の事務所におりますので」


佐藤は、そんな少女たちの内心など全く知らず、人の好い笑顔で続ける。


「よろしければ、こちらへどうぞ。お茶でも」

「まあ、ありがとうございます!」

「お邪魔します」


凛さんと葵さんは、笑顔で立ち上がり、佐藤に案内されて、事務所へと続く階段の方へ向かっていく。


残されたジャズ喫茶。

そこには、トップアイドルへの対抗心を静かに燃やすプロコスプレイヤーたちと、壮大な勘違いの果てに、奇妙な『大家族計画』への決意を固めた夜組の少女たち、そして、ただ静かに流れる上質なジャズピアノの音色だけがあった。

これから始まるであろう、更なるカオスな日常。

その中心にいるはずの男は、今、何も知らずに、女神たちを、さらなる嵐の中心へと、自ら案内しようとしていた――。

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