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東京影譚 ~エミリア、影を紡ぐ者~  作者: ミルティア


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完璧なる勘違い協奏曲(コンチェルト)其五

この物語はフィクションです。

この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。


ようこそ、東京の影の中へ。

ここは、光が滅び、影が支配する世界。

摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。

欲望、裏切り、暴力、そして死。

この街では、毎夜、人知れず罪が生まれ、そして消えていく。

あなたは、そんな影の世界に生きる、一人の女に出会う。

彼女の名は、エミリア・シュナイダー。

金髪碧眼の美しい姿とは裏腹に、冷酷なまでの戦闘能力を持つ、凄腕の「始末屋」。

幼い頃に戦場で、彼女は愛する家族を、理不尽な暴力によって奪われた。

それは、彼女が決して消すことのできない傷となり、心を閉ざした。

今もなお、彼女は過去の悪夢に苛まれ、孤独な戦いを続けている。

「私は、この世界に必要とされているのだろうか?」

「私は、幸せになる資格があるのだろうか?」

深い孤独と絶望の中、彼女は自問自答を繰り返す。

だが、運命は彼女を見捨てなかった。

心優しい元銀行員の相棒、エミリアの過去を知る刑事、そして、エミリアの過去を知る謎めいた女ライバル。

彼らとの出会いが、エミリアの運命を大きく変えていく。

これは、影の中で生きる女の物語。

血と硝煙の匂いが漂う、危険な世界への誘い。

さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。

そして、エミリアと共に、非日常の興奮とスリル、そして、彼女の心の再生の物語を体験してください。

あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?

…この物語は、Gemini Advancedの力を借りて、紡がれています。

時に、AIは人間の想像を超える unexpected な展開を…

時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を…

Gemini Advancedは、新たな物語の世界を創造する、私のパートナーです。


この作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では遅れて公開となります。あらかじめご了承ください。


ただし、どうか忘れないでください。

これは、あくまでフィクションだということを。

This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.


Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.


Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.


นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น


(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)


週明け、月曜日の午前。

クリスマスを間近に控えた街の喧騒とは裏腹に、エミリアのオフィスは、比較的穏やかな空気に包まれていた。

窓からは冬晴れの明るい陽光が差し込み、高性能加湿器が静かに運転を続け、室内は快適な湿度に保たれている。


佐藤健は、自分のデスクでパソコンに向かい、北海道出張のレポート作成の最終チェックを行っていた。週末、秋葉原で心ゆくまで趣味の世界に没頭し、英気を養った(と思い込んでいる)彼は、今日はいくらか気分も軽く、仕事も捗っていた。


(よし、これで北海道の件は一段落かな。エミリアもサスキアさんも、今日はやけに静かだし…ふふ、この調子なら、しばらくは階下のジャズ喫茶にも行かずに済みそうだぞ…!)


そんな暢気で、完全に楽観的な希望を胸に、彼が安堵のため息をついた、まさにその時だった。

コンコン、と控えめなノックの音がし、事務所のドアが静かに開いた。


入ってきたのは、ジャズ喫茶の、あのクラシカルなメイド服に身を包んだ、小林陽子と高橋美咲だった。

二人とも、お盆の上に、淹れたてのコーヒーカップを乗せている。


「さ、佐藤様、失礼いたします。お飲み物をお持ちしました」


陽子さんが、少し緊張した面持ちで、しかし練習の成果か、以前よりは随分と落ち着いた声で言った。


「え? ああ、ありがとう。わざわざ、どうも…」


佐藤は、少し驚きながらも礼を言う。

普段、飲み物は自分で淹れるか、サスキアが用意してくれることがほとんどだ。

彼女たちがわざわざ三階まで運んでくるのは珍しい。


「どうぞ」


美咲さんも、丁寧な所作で、佐藤のデスクにコーヒーカップを置いた。

その横顔は真剣だが、どこか決意を秘めたような、不思議な硬さがある。


そして、二人は、すぐには立ち去ろうとせず、なぜか佐藤のデスクの傍に立ったまま、妙に潤んだ瞳で、じっと佐藤を見つめてくるのだ。

しかも、心なしか、頬がほんのり赤いような気もする。


(な、なんだ…? この子たち、今日の様子、ちょっとおかしくないか…?)


佐藤は、戸惑いを隠せない。

何か言いたいことがあるのだろうか? それとも、何か失敗でもして、謝りに来たのだろうか?


「あ、あの…佐藤様…!」


陽子さんが、意を決したように、しかし小声で、話しかけてきた。

その声は震え、視線はなぜか、佐藤の目を真っ直ぐに見られず、少し上目遣いになっている。


「わ、私たち…! その…!」

「えっと、その…!」


二人とも、何かを必死に伝えようとしているのだが、言葉がうまく出てこないようだ。

もじもじと指を絡ませたり、互いに目配せしたりしている。


(一体、なんなんだ…!?)


佐藤の混乱は深まるばかりだ。


「…あの!」


美咲さんが、ややあって、はっきりとした、しかしやはり小声で言った。


「私たち、皆様…その、星宮様がたのような、魅力的な存在には、到底及びもつきませんけれど…!」

「そ、そうです!」


陽子さんも、慌てて続く。


「で、でも! 私たちなりに、その…精一杯、頑張りますので! だから、あの…どうか、末永く…! よろしくお願いいたします!」


言い終えると、二人は、なぜか顔を真っ赤にして、深々と、それこそ床に頭がつきそうな勢いで、佐藤に向かってお辞儀をした。


「…………は?」


佐藤は、完全にフリーズした。


「皆様?」

「魅力的?」

「精一杯頑張る?」

「末永く?」


…全く意味が分からない。

彼女たちは一体、何の話をしているのだろうか? 自分の聞き間違いだろうか?


佐藤が、あまりのことに言葉も出せず、ただただ混乱していると、背後から、楽しそうな、しかし有無を言わせぬ声がかけられた。


「あらあら、健ちゃん。二人を困らせちゃ、ダメじゃない」


振り向くと、そこには、いつの間にかソファから立ち上がり、こちらを見てくすくすと笑っているエミリアと、その隣に、完璧な微笑みを浮かべて静かに佇むサスキアがいた。


「エ、エミリア! サスキアさん!」


佐藤は、助けを求めるように二人を見た。


「い、いや、僕は別に困らせたつもりは…! この子たちが、急に、その、なんだかよく分からないことを言い出して…!」


しどろもどろになる佐藤と、彼の隣で顔を真っ赤にして俯く陽子、そして必死で平静を装う美咲。その奇妙な光景を見て、エミリアは楽しそうに目を細めた。


「あらあら、健ちゃん、なんだかモテモテじゃない?」


彼女は、わざとらしく感心したような声を出す。


「でも、ごめんなさいね、陽子ちゃん、美咲ちゃん。健ちゃん、今、ちょっと手が離せないみたいだから。せっかくお茶を持ってきてくれたのに、悪かったわね。ありがとう」


その、有無を言わせぬ、しかし表面上はあくまで優しい言葉に、陽子と美咲は「は、はい!」「し、失礼しました!」と慌てて頭を下げ、逃げるように事務所を出ていった。

ドアが閉まるまで、二人が佐藤に送っていた、熱烈な(そして勘違いに満ちた)視線に、佐藤は全く気づいていない。


(…一体、なんだったんだ、今の…?)


佐藤が、呆然と彼女たちが出ていったドアを見つめていると、エミリアが、何事もなかったかのように、彼に向き直った。

その表情は、既にいつもの、少し悪戯っぽい、しかし仕事モードの顔に戻っている。


「――ところで、健ちゃん。例の『特別プロジェクト』のことだけど」

「え? と、特別プロジェクト…?」


佐藤は、まだ混乱から抜け出せないまま、聞き返す。


「ええ」


隣から、サスキアさんが静かに、しかし有無を言わせぬ響きで補足した。


「先日、エミリア様からご承認いただいた、佐藤様の『コミュニケーション能力向上』に関する計画のことです」


佐藤の背筋を、再び冷たいものが走った。


「つきましては、エミリア様のご意向により、今週中、複数回、『特別訓練セッション』を実施いたします」


サスキアさんは、手元のタブレットに視線を落としながら、淡々と告げる。


「スケジュールはこちらで調整し、改めてお伝えしますので、そのつもりで」

「な、な、なっ……!? ちょ、ちょっと待ってください! 僕、そんなの、まだ、心の準備が…!」


佐藤は、必死に抗議しようとした。


だが、その言葉は、エミリアの、天使のような、しかし悪魔的な笑顔によって、完全に遮られた。


「あら、だって健ちゃん、ちゃんと事前にご相談したら、どうせ『僕にはそんな能力はありません! 無理です! できません! 怖い!』とか言って、絶対に逃げちゃうじゃない? だから、もう決めさせてもらったわ。大丈夫よ、サスキアと、結城先生も立ち会ってくれるんだから。ね?」


有無を言わせぬ決定事項の通告。

逃げ道は、完全に塞がれていた。


「…………」


佐藤は、完全に言葉を失い、その場に立ち尽くした。


(夜組の子たちの奇妙な行動と、この訓練の話は、もしかして、繋がって…? いや、考えたくない…!)

(…外堀が…埋められていく……僕の知らないうちに、着々と……)


もはや、抵抗する術はない。

彼は、がっくりと肩を落とし、力なく呟くしかなかった。


「………はい………わかり、ました………」


その、蚊の鳴くような返事を聞いて、エミリアさんは満足そうに頷き、サスキアさんは、ほんのわずかに口角を上げたように見えた。

事務所には、相変わらず加湿器の静かな音と、飲み物の残り香、そして、一人の男の、これから始まるであろう受難への、深い、深い絶望だけが漂っていた。

クリスマスは、もうすぐそこまで迫っているというのに。


                    ***


午前十時。雑居ビルの四階に、急ごしらえとは思えないほど洗練された空間――仮設訓練所『夢の時間ステージ』――が、静かにその主役(という名の被験者)を待っていた。

柔らかな間接照明、カフェ風のカウンターとソファセット、壁には抽象画、そして観葉植物。

しかし、その空間には生活感がなく、壁の裏には高性能な監視カメラとマイクが仕込まれていることを、知る者は少ない。


別室のモニタリングルームでは、サスキア・デ・フリースと、顧問弁護士の結城玲奈が、複数のモニターに映し出される訓練所の様子を、冷静な目で見つめていた。

玲奈は、完璧なスーツ姿で腕を組み、興味深そうに画面を眺めている。

サスキアは、無表情のまま、手元の端末に何かを記録していた。


やがて、訓練所のドアが開き、サスキアに促される形で、顔面蒼白の佐藤健が入ってきた。

彼の視線は床に落ちたまま、全身からは「今すぐ逃げ出したい」というオーラが溢れ出ている。


そして、部屋の中央には、既に三人の女性が待っていた。

プロコスプレイヤーの神崎霞、桃里める、藤乃しずか。

彼女たちは、それぞれ事前に指示されたであろう、「露出の少ない、落ち着いた雰囲気の」しかし、キャラクター性を感じさせるコスプレ姿(霞はSF的な戦闘服風、めるはファンタジー世界の町娘風、しずかは穏やかな女神官風、といった具合だろうか)で、プロフェッショナルな、あるいはキャラクターに合わせた笑顔を浮かべていた。


「さ、佐藤様、本日はよろしくお願いいたします」


サスキアが、あくまで事務的に、しかし逃げ道を塞ぐように紹介する。


「こちらが、あなたのコミュニケーション訓練にご協力くださる、KASUMIさん、MERUさん、Shizukaさんです」


「よ、よろしく、お願いします……」


佐藤の声は、蚊の鳴くように小さく、消え入りそうだ。


訓練が始まった。始まった、というよりは、佐藤の完全なる拒絶反応が始まった、と言った方が正確だった。

彼は、ソファ席の一番端、コスプレイヤーたちから最も遠い場所に、縮こまるように座ると、決して彼女たちと視線を合わせようとしなかった。

コーヒーを勧められても、か細い声で断り、冷や汗をだらだらと流し、呼吸は浅く速い。


「佐藤さーん、この前出た異世界漫画の新刊、もう読みました? めっちゃ面白かったですよー!」


めるが、計算された元気いっぱいの笑顔で話しかけても、「あ…う…まだ、です…」と俯いたまま。

「佐藤さんは、SFもお好きだと伺いました。最近、何か注目されている作品はありますか?」霞が、クールなキャラクターの声色で、知的な話題を振ってみても、「…す、すみません…あまり、詳しくなくて…」と、完全に心を閉ざしている。

しずかが、優しく「お疲れではないですか? 何か、心配事でも?」と尋ねても、佐藤はびくりと肩を震わせるだけだった。


(((……手強い…!!)))


三人のプロコスプレイヤーの内心は、一致していた。

高額なギャラに惹かれて引き受けた、奇妙だが簡単な「話し相手」の仕事。

そう高を括っていたが、とんでもない。

目の前の男性は、彼女たちの持つあらゆるコミュニケーションスキルや魅力を、分厚い、見えない壁で完全にシャットアウトしているのだ。

これは、もはや訓練以前の問題だ。


その、膠着した、そして佐藤にとっては地獄のような時間が、一時間ほど流れた頃。

最初の小休止が告げられた。


「す、すみません! ちょっと、お手洗いに…!」


佐藤は、それだけ言うと、転がるように訓練所を飛び出し、そのまま別室のモニタリングルームへと逃げ出した!


「サスキアさーーん! 玲奈先生ーー!」


別室のモニタリングルームのドアを勢いよく開け、半泣き状態で二人の元へ駆け寄る佐藤。


「む、無理です! やっぱり僕には無理です! あの、綺麗な人たちを前にしたら、頭が真っ白になって、何も話せなくて…! でも! 仕事関係の女性となら、ちゃんと話せるんです! ですから、こんな訓練、必要ありません! 中止してください! お願いします!」


床に手をつき、必死で訴える佐藤。

しかし、サスキアは、眉一つ動かさずに、冷静に告げた。


「佐藤様。これは、エミリア様の決定事項です。そして、あなたご自身も、先だってご協力に同意なさいました。契約は、有効です」

「そ、そんな…!」

「それに」


玲奈弁護士が、眼鏡の奥から、冷ややかに、しかし妙な説得力のある声で付け加える。


「仕事関係なら話せる、というのは、ある意味、当然のことです。問題は、プライベートな関係性、特に異性との間で、自然なコミュニケーションが取れないこと。それを改善するための訓練なのですよ? ここで逃げ出しては、エミリア様のご期待を裏切ることに…」


エミリアの名前を出されると、佐藤は弱い。彼は、ぐうの音も出ず、再び深い絶望に包まれ、結局、とぼとぼと、午後の訓練へと戻るしかなかった…。


【訓練所 控室:昼休憩】


一方、佐藤が逃亡&説得(?)されている間、コスプレイヤーたちは、サスキアが用意したであろう、高級レストランのケータリングかと思うほど豪華な弁当と、温かい飲み物が並ぶ控室で、昼休憩を取っていた。

しかし、その表情は晴れない。


「…ねえ、どう思う? あの佐藤って人…」


めるが、不満そうに口を尖らせる。


「あたしたちのこと、完全に『脅威』みたいに見てない? せっかくMERUちゃんスマイルで話しかけてあげたのに、全然目も合わせてくれないし!」

「ええ…」


しずかも、困ったように微笑む。


「あそこまで心を閉ざされてしまうと、私たちが得意な『聞き出す』スキルも、ちょっと使いようがないわね…。まるで、傷ついた小動物みたいだったけど…」

「…正直、少しプライドが傷ついたわ」


霞が、冷たい声で、しかしその瞳には悔しさが滲んで言った。


「どんな相手でも、プロとして対応してきた自信があったけれど…。彼には、私たちの魅力も、技術も、全く通用しない。それどころか、恐怖を与えている…? ありえないわ」


プロとしての矜持、そして、一人の魅力的な女性としてのプライド。

それが、佐藤健という、予想外すぎる「壁」によって、打ち砕かれかけていた。


「……こうなったら」


霞の目が、カッと見開かれた。


「意地よ。 午後は、絶対に、あの男の心の壁をこじ開けてやるわ」

「そうこなくっちゃ!」


めるが、拳を握る。


「ただの仕事じゃない! これは、あたしたちプロコスプレイヤーの、そして女の意地をかけた戦いよ!」

「ふふ…少し、面白くなってきたかもしれないわね」


しずかも、その瞳の奥に、新たな闘志を燃やし始めた。

三人のプロフェッショナルは、豪華な弁当を味わうのも忘れ、午後の「佐藤健攻略作戦」について、熱心な(そして、少しだけ物騒な?)作戦会議を開始したのだった。


【訓練所:午後】


重い足取りで訓練所に戻ってきた佐藤を待っていたのは、午前中とは明らかに違う空気を纏った、三人のコスプレイヤーだった。


「佐藤さん、午後のセッション、始めましょうか?」


霞が、最初に口火を切った。

その声はクールだが、どこか力強い。

彼女は、佐藤が興味を示しそうな、最新のSF映画の話題から切り込んだ。

最初は警戒していた佐藤も、霞の的確な考察と、意外なほどの知識の深さに、少しずつ引き込まれていく。


「ええっ!? MERUもそれ、読みました! あの展開、マジでヤバかったですよね! 佐藤さんは、どのキャラが推しですか!?」


めるは、午前中の反省(?)からか、佐藤が手にしていた(であろう)異世界ハーレム漫画の話題に、満面の笑顔で食いついてきた。

佐藤は、思わず自分の考察を熱っぽく語り始め、それにめるが(計算された)完璧な相槌と共感を返す。


「…佐藤さん、お仕事、大変なんですね…。もし、私でよければ、少しだけ、お話聞きましょうか?」


しずかは、優しい笑顔と、包み込むような雰囲気で、佐藤が思わず仕事の愚痴(主にエミリアさんやサスキアさんへの…)をこぼしてしまうような、絶妙な聞き役に徹した。


プロの本気(と意地)が、徐々に、佐藤の固く閉ざされた心の壁を、少しずつ溶かし始めていた。

彼はまだ、ぎこちなく、視線も泳ぎがちだが、午前中とは明らかに違い、言葉を発する回数が増え、表情にも、ほんのわずかだが、人間らしい反応が戻り始めていた。

それは、完全な雪解けには程遠いかもしれないが、凍てついた大地に差し込んだ、確かな変化の「兆し」だった。


(…あれ? なんか、普通に…話せてる…?)


佐藤自身も、その変化に戸惑いながら、しかし、久しぶりに感じる「誰かと普通に話す」という感覚に、ほんの少しだけ、悪くないかもしれない、と思い始めていた。


モニタリングルームでは、サスキアが淡々と記録を続け、玲奈弁護士が(少し呆れたように)その様子を見守っている。

この奇妙な「治療」が、果たして本当に佐藤を変えるのか、それとも、さらなるカオスを生むだけなのか。

それは、まだ誰にも分からなかった。

ただ、計画の歯車は、また一つ、確実に回り始めていた。


                    ***


時計の針が、間もなく午後五時を指そうとしていた。

雑居ビル四階の『仮設訓練所』――佐藤健にとっては、もはや公開処刑場としか思えないその空間に、ようやく終わりを告げる声が響いた。


「――本日のセッションは、ここまでといたします。佐藤様、皆様、大変お疲れ様でございました」


別室(あるいは部屋の隅のモニター前)から聞こえてきたのは、サスキア・デ・フリースの、常に変わらぬ冷静で平坦な声だった。

その声が、まるでゴングのように、佐藤の限界寸前だった精神に響き渡る。


「…………はぁ…………はぁ…………」


佐藤は、ソファにぐったりと沈み込んだまま、浅い呼吸を繰り返していた。

全身は汗でじっとりと濡れ、頭はガンガンと痛み、思考は完全に麻痺している。

午前中の極度の緊張と拒絶反応、昼休憩前の逃亡(そして、サスキアさんと玲奈弁護士による冷静かつ有無を言わせぬ説得)、そして、午後の、プロのコスプレイヤーたちの(ある意味、本気になった)怒涛のコミュニケーション・アプローチ……。まさに、満身創痍だった。


目の前では、訓練相手を務めてくれた三人のコスプレイヤーたちが、それぞれのキャラクターを維持しつつも、わずかに安堵の色を浮かべて片付けを始めていた。

神崎霞はクールな表情を崩さないが、その指先が微かに震えているように見えた。桃里めるは、キラキラした笑顔はそのままに、額の汗をそっと拭っている。藤乃しずかは、穏やかな微笑みで、『お疲れ様でした』と佐藤に声をかけてくれた。


(…帰りたい…今すぐ、この場から消え去りたい…なんで僕がこんな目に…)


佐藤の心は、ひたすらそんな嘆きで埋め尽くされていた。

しかし、社会人としての、いや、エミリアの『相棒』としての最低限の体面は保たねばならない。

彼は、鉛のように重い体を無理やり起こすと、ふらつきながら立ち上がり、まずは、この異常な訓練に立ち会っていた二人の『監視者』に向かって、引きつった笑顔で頭を下げた。


「あ、あの…ゆ、結城先生、サスキアさん…きょ、今日は、その、ありがとうございました…。た、大変、勉強に…なりました……」


声は掠れ、言葉は途切れ途切れだ。

完全に社交辞令。

本心とは真逆の言葉が、かろうじて口から絞り出される。


「いいえ、お気になさらないでください」


結城玲奈弁護士は、眼鏡の奥の涼やかな目で佐藤を一瞥すると、興味深い標本でも観察し終えたかのように、わずかに口角を上げた。


「わたくしの方こそ、非常に貴重なケーススタディを拝見させていただきましたわ。今後の佐藤様の『変化』が、実に楽しみですね」


(き、貴重なケーススタディ!? 僕、実験動物かなんかですか!?)


佐藤は内心で叫んだが、声には出せない。


「佐藤様、本日は大変お疲れ様でございました」


サスキアさんも、完璧な微笑みをたたえて続けた。


「午前中は少々、戸惑いがおありのようでしたが、午後のセッションでは、わずかながらも、確かなコミュニケーティブ・アフェクト(感情的反応)の変化が観察されました。データは、今後の参考にさせていただきます」


(で、データ!? 僕の挙動不審ぶりを記録してたってこと!?)


佐藤の背筋を、再び冷たい汗が伝う。


「エミリア様のご期待に応えるためにも、佐藤様のお役に立つことなら、わたくしどもは、これからも全力でお手伝いさせていただきますので、ご安心ください」


サスキアさんの言葉は、どこまでも丁寧で、親切で、そして、一切の逃げ道を許さない響きを持っていた。


さらに、片付けを終えたコスプレイヤーたちも、佐藤に近づいてきた。

彼女たちの表情には、プロとしての仕事をやり遂げた達成感と、午後のセッションでの(わずかな)手応えに対する、少しだけ本物の喜びのようなものが浮かんでいるように見えた。


「お疲れ様でした、佐藤さん。また次回、楽しみにしています」


霞さんが、クールに、しかしどこか手応えを感じたような口調で言う。


「佐藤さーん、お疲れ様でしたー! 午後はすっごく楽しかったです! 次は、あの漫画の最新刊の話、もっと聞かせてくださいねっ!」


めるさんが、プロのアイドルスマイル全開で手を振る。


「ふふ、本当にお疲れ様でした。佐藤さん、とても頑張っていらっしゃいましたよ。またいつでも、私でよければ、お話、聞かせてくださいね」


しずかさんが、包み込むような優しい笑顔を向ける。


そして、三人は、まるで示し合わせたかのように(あるいは、サスキアさんからの無言の合図があったのか)、声を揃えて言った。


「「「これからも、よろしくお願いしますね、佐藤さん!」」」


キラキラした笑顔。プロフェッショナルな態度。そして、有無を言わせぬ『次』への約束。

佐藤は、完全に包囲されていた。四方八方から、丁寧な、しかし抗うことのできない言葉と視線が、彼に降り注ぐ。


(…だめだ…逃げられない……)


彼は、もはや、抵抗する気力すら残っていなかった。

心の中で、白い灰になりながら、かろうじて、引きつった笑顔を作り、力なく答える。


「………は、はい…………こ、こちらこそ…………よろしく、お願い……いたします………」


その声は、風前の灯火のように、か細く震えていた。


佐藤は、この仮設訓練所『夢の時間ステージ』から逃れる方法など、最初からどこにもなかったのだと、骨身に染みて悟ったのだった。


                    ***


月曜日の夜。

煌びやかな都会の夜景を遠くに望む、東京を流れる大きな川の河川敷。

その上に覆いかぶさるように走る高速道路の高架下が、彼女たちの『訓練場』だった。

コンクリートの巨大な橋脚が林立し、頭上を時折ゴォォッと走り抜ける車の走行音が反響する、無機質で、人気のない空間。

川面を渡る冬の夜風が吹き抜け、肌を刺すように冷たい。

川向こうのビル群の明かりが、二人の少女の必死な動きと、もう一人の、あまりにも対照的な姿を、ぼんやりと照らし出していた。


「だぁぁっ!」


鋭い呼気と共に、橘陽菜の、鍛えられた脚から繰り出される高速の回し蹴りが、空気を切り裂く。

それは、並のチンピラなら、一撃で意識を刈り取られてもおかしくないほどの、スピードと威力。

しかし、その蹴りは、ターゲットであるエミリア・シュナイダーの、優雅に翻ったコートの裾を、わずかに掠めることすらできない。


「…っ!」


陽菜の蹴りを避けたエミリアの死角を突くように、今度は藤井澪が、猫のような俊敏さで踏み込み、鋭い掌底を繰り出す。

だが、エミリアは、まるで背中に目があるかのように、あるいは、その攻撃が来ることを完全に予測していたかのように、振り返ることすらなく、バレリーナのように軽やかなステップで、ひらり、とそれをかわす。


「…はぁっ、はぁっ…!」


陽菜と澪は、既に息が上がり始めていた。

自分たちの全力の攻撃が、まるで子供の遊びのように、いとも簡単にあしらわれ続ける。

いや、あしらわれている、というよりは、完全に無視されている、と言った方が正しいのかもしれない。


なぜなら、攻撃対象であるエミリアは、息一つ乱さず、それどころか、どこか楽しげに、あるいは、心底うんざりしたように、一方的に自分の話を続けているのだから。


「――それでね。聞いてくれる、二人とも? 私の健ちゃんたら、本当に可愛いのだけど、ちょっと困ったもので…」


エミリアの声は、高架下の反響の中でも、鈴を転がすようにクリアに響く。

その内容は、しかし、陽菜と澪にとっては、聞いているだけで血管が切れそうなほど、腹立たしいものだった。


「せっかく私が、彼の『コミュニケーション能力向上』のために、最高の環境(あのジャズ喫茶と、協力者のコスプレイヤーたち)を用意してあげたっていうのに、彼は『僕には無理です!』とか言って、すぐに逃げ腰になるのよ? 信じられる?」


(知るか!! それどころじゃねえんだよ、こっちは!!)


陽菜は、内心で絶叫しながら、渾身の右ストレートを繰り出す。

だが、それもまた、エミリアがわずかに身を捩じるだけで、空を切った。


「私がね、彼のために、どれだけ心を砕いていると思って? この前の北海道だって、本当はもっと早く調査を終えられたのに、わざわざフェリーなんか使って、時間を作ってあげて…」


(はぁ!? あんたの都合だろ、それは!)


「事務所だってそうよ。私が彼が稼ぐであろう額の、軽く三人分以上の仕事を一人で片付けてあげているから、彼は安心してレポート作成なんていう、地味だけど大切な仕事に集中できるのよ? これって、まさに『内助の功』って言うんじゃないかしら? 私って、本当に健気で、献身的だと思わない?」


エミリアは、自分の背後で、必死に拳や蹴りを繰り出し続ける二人には全く注意を払わず、ただ、自分の『献身』ぶりを、うっとりと語り続ける。

その姿は、陽菜と澪には、こう言われているようにしか聞こえなかった。


(どう? 恋人もいなくて、こんな薄汚い高架下で、無様に地面を転がってるしかない、可哀想な貴女たちとは違って、私は、愛する彼のために、こんなにも優雅に、そして献身的に振る舞っているのよ? それなのに、空振りばかり繰り返して…本当に、無様で、惨めで、下品ね)


その(と、彼女たちが勝手に解釈した)エミリアからの無言の嘲りは、陽菜と澪の、わずかに残っていた冷静さをも奪い去った。


「「うおおおおおっ!!」」


二人の攻撃は、もはや技術も連携もあったものではない。

ただ、怒りと、屈辱と、焦りに突き動かされた、感情的で、粗暴で、下品なまでの、なりふり構わぬ突進へと変わっていた。

だが、それこそがエミリアの思う壺だったのかもしれない。

感情的になればなるほど、動きは単調になり、隙は大きくなる。

エミリアは、まるで子供の癇癪をあやすかのように、最小限の動きで、ひらり、ひらりと、その全ての攻撃を、鼻歌でも歌いそうなほどの余裕で避け続ける。

二人が、自分たちの攻撃が、さらに隙だらけになっていることに、全く気づいていないことすら、おそらく彼女は見抜いていたのだろう。


「…はぁっ…はぁっ…ぜぇ…」

「…くそっ…! なんで…当たらねえんだよ…!」


やがて、体力と、そして何より精神力が限界に達したのだろう。

陽菜と澪は、ついに膝に手をつき、荒い息を繰り返しながら、その場にへたり込んでしまった。

汗が噴き出し、息が上がり、視界が霞む。

目の前で、エミリアが、まるで何もなかったかのように、高架を見上げている姿だけが、やけにクリアに見えた。


その時、エミリアが、ふと何かを思い出したように、ポン、と手を叩いた。


「――あ、そうだわ! もうすぐクリスマスじゃない! やっぱり、あれも準備しなくっちゃ!」


その声は、先ほどまでの愚痴(のろけ話)とは全く関係のない、明るい響きを持っていた。

彼女は、地面にへたり込んでいる陽菜と澪のことなど、もはや全く意に介していないかのように、踵を返した。


「じゃ、今日の『訓練』はここまで、ってことで。お疲れ様」


それだけを言い残すと、彼女は、軽やかな、まるでスキップでもしそうな足取りで、高架下の暗がりから歩き去っていく。

そして、どこに隠していたのか、いつの間にか停まっていた、あの白いコンパクトカーに乗り込むと、エンジン音も静かに、あっという間に夜の闇へと消えてしまった。


高架下には、疲れ果て、汗と泥にまみれ、そして、深い、深い怒りと、どうしようもない無力感に打ちひしがれた、二人の少女だけが残された。


「……………あの、アマぁ…………!!」


陽菜が、地面に拳を叩きつけ、呻くように呟いた。

その目には、涙と、決して消えることのない憎悪の炎が燃えている。

澪もまた、唇を固く結び、エミリアが消えた闇を、冷たい怒りを込めて睨みつけていた。


今夜もまた、叩き込まれた。

自分たちの無力さと、エミリア・シュナイダーという存在の、圧倒的な壁の高さ、そして、その理不尽さを。

川面を渡る、冬の夜風だけが、彼女たちの荒い息遣いを、冷たく、そして虚しく、攫っていった。

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