完璧なる勘違い協奏曲(コンチェルト)其四
この物語はフィクションです。
この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
ようこそ、東京の影の中へ。
ここは、光が滅び、影が支配する世界。
摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。
欲望、裏切り、暴力、そして死。
この街では、毎夜、人知れず罪が生まれ、そして消えていく。
あなたは、そんな影の世界に生きる、一人の女に出会う。
彼女の名は、エミリア・シュナイダー。
金髪碧眼の美しい姿とは裏腹に、冷酷なまでの戦闘能力を持つ、凄腕の「始末屋」。
幼い頃に戦場で、彼女は愛する家族を、理不尽な暴力によって奪われた。
それは、彼女が決して消すことのできない傷となり、心を閉ざした。
今もなお、彼女は過去の悪夢に苛まれ、孤独な戦いを続けている。
「私は、この世界に必要とされているのだろうか?」
「私は、幸せになる資格があるのだろうか?」
深い孤独と絶望の中、彼女は自問自答を繰り返す。
だが、運命は彼女を見捨てなかった。
心優しい元銀行員の相棒、エミリアの過去を知る刑事、そして、エミリアの過去を知る謎めいた女ライバル。
彼らとの出会いが、エミリアの運命を大きく変えていく。
これは、影の中で生きる女の物語。
血と硝煙の匂いが漂う、危険な世界への誘い。
さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。
そして、エミリアと共に、非日常の興奮とスリル、そして、彼女の心の再生の物語を体験してください。
あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?
…この物語は、Gemini Advancedの力を借りて、紡がれています。
時に、AIは人間の想像を超える unexpected な展開を…
時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を…
Gemini Advancedは、新たな物語の世界を創造する、私のパートナーです。
この作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では遅れて公開となります。あらかじめご了承ください。
ただし、どうか忘れないでください。
これは、あくまでフィクションだということを。
This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.
Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.
Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.
นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น
(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)
土曜日の午後、陽光が窓から斜めに差し込み、ジャズ喫茶の店内に美しい光と影のコントラストを描き出していた。
壁一面のレコードジャケットが、午後の光を受けて静かに存在感を主張し、磨き上げられたカウンターやアンティーク調の家具が、上品で落ち着いた雰囲気を醸し出している。
低い音量で流れる上質なジャズピアノの旋律が、空間に知的な彩りを添えていた。
客のいない静かな店内、窓際のソファ席に、エミリア・シュナイダーとサスキア・デ・フリースは座っていた。
テーブルの上には、数枚の経歴書らしき書類と、冷めかけた紅茶のカップが置かれている。
先ほど終えたばかりの、新しいスタッフ候補者との『面接』の余韻が、まだ空気中に漂っているようだった。
霧島響子、そして水野小春。
どちらもサスキアが見立てた通り、一筋縄ではいかない、しかし確かな『何か』を感じさせる人材だった。
「…ふふ、さすがね、サスキア」
エミリアは、カップに残っていた紅茶を優雅に飲み干すと、満足そうに微笑んだ。
「どちらも、実に『面白い』人材じゃない。経歴も、能力も、そして…隠しているであろう『裏の顔』も。特に霧島さんの、あの静かな迫力はたいしたものね。小春さんの、笑顔の下の計算高さも、なかなかどうして」
「光栄です」
サスキアは、表情を変えずに小さく頷く。
「どちらも、エミリア様のご提示された条件…特に、口の堅さ、トラブルへの対応能力、そして『いざという時の知恵と機転』に関しては、高いポテンシャルをお持ちかと」
「決めたわ」
エミリアは、迷いなく、そしてどこか楽しげに言った。
「二人とも、採用よ。響子さんにはバーカウンターとフロアの統括、小春さんには厨房とバリスタを任せましょう。住み込みの件も含めて、あとはサスキア、よろしく頼むわね」
「承知いたしました。契約手続き、及び研修の準備を速やかに進めます」
サスキアは、完璧なタイミングで応じた。
重要な人事が、二人の短い会話だけで、淀みなく決定していく。
ジャズ喫茶の体制が整う目処が立ち、エミリアは機嫌が良さそうだった。
彼女は、ソファに深く座り直し、今度は少し悪戯っぽい光を瞳に宿して、サスキアに向き直った。
「それで、サスキア。…もう一つの、私の可愛い『騎士』様の、懸案事項なのだけど」
「…佐藤様の件、でございますね?」
サスキアは、エミリアの意図を正確に読み取り、静かに問い返す。
「ええ、そうなのよ」
エミリアは、わざとらしく、しかし本心からの苛立ちも滲ませて溜息をついた。
「健ちゃんたら、私がいくらお膳立てしても、全然『下』のお店に来てくれないんだもの。相変わらず、女の子の前だとガチガチだし…。このままじゃ、いつまで経っても、私の隣に立つに相応しい、素敵なパートナーにはなってくれないわ」
その言葉には、呆れと共に、どこか佐藤への深い(そして、かなり歪んだ)愛情と、もどかしさが感じられた。
「それで、サスキア。何か良い『治療計画』は思いついたかしら? 言っておくけど、普通のカウンセリングなんて、健ちゃんが素直に行くはずないし、時間もかかりすぎるから却下よ」
「はい」
サスキアは、待っていましたとばかりに、しかし表情は変えずに頷いた。
「エミリア様のお考えを拝察し、いくつか代替案を検討いたしました。佐藤様の状況…過去のトラウマによる自己肯定感の低さ、それが異性への苦手意識に繋がっている可能性を考慮しますと、段階的なアプローチが有効かと存じます」
サスキアは、淀みなく、しかし丁寧な言葉を選びながら、その巧妙な計画を説明し始めた。
ご本人の同意を得た上で、まずは安全な環境(プロのコスプレイヤー協力)で成功体験を積み、次に初恋の相手とのSNS交流をサポートする、という段階的な『治療(訓練)』計画。
それは、一見すると、非常に論理的で、佐藤の心情にも配慮した(ように見える)、実に巧妙なプランだった。
エミリアは、サスキアの提案を興味深そうに聞いていたが、やがて、悪戯っぽく笑みを深めた。
「…なるほどね。カウンセリングより、ずっと面白そうだわ。健ちゃんの反応も、見ものだしね。ふふ、特に、あの初恋の相手とやらとのSNS…想像しただけで笑えるわ」
彼女は、くすくすと笑いながら、しかし最終的な判断は即座に下した。
「いいわ、サスキア。その『治療計画』、あなたに一任するわ。 存分に、健ちゃんを『教育』してあげてちょうだい」
そして、エミリアは、ふと真顔になると、サスキアの目を真っ直ぐに見つめて付け加えた。
「ただし、サスキア。やるからには、準備は徹底的に、完璧にお願いね。 中途半端な仕込みで、彼を必要以上に傷つけたりするのは許さないわよ。あくまで、彼を『良い方向』に導くための『教育』なんだから」
「心得ております、エミリア様。全て、抜かりなく」
サスキアは、完璧な微笑みで、静かに、しかし確かな自信を込めて応じた。
「ふふ、頼もしいわ」
エミリアは満足そうに頷くと、ふと思い出したように、自分のタブレット端末を手に取った。
画面には、目まぐるしく数字とグラフが動く、複雑な暗号資産の取引画面が表示されている。
「まあ、その健ちゃんの『治療』にも、それから新しいスタッフのお給料にも、何かと『経費』はかかるでしょうしね」
彼女は、楽しそうに、そしてこともなげに言いながら、驚異的なスピードで画面をタップし始めた。
その指先が、まるで踊るように、複雑なコマンドを打ち込んでいく。
「ちょっと、暗号資産のスキャルピングで、健ちゃんの『治療代』、今からサクッと稼いじゃうわ」
その、あまりにも現実離れした、しかし彼女にとっては日常の一コマに過ぎないであろう言葉。
それを隣で聞いていた(であろう)佐藤健が、もしこの場にいれば、再び床に額を擦り付けていたかもしれない。
エミリアの周囲では、今日もまた、常識を超えた計画が、静かに、しかし確実に、動き出していた。
窓の外では、冬の午後の陽射しが、そろそろ西へと傾き始めていた。
***
日曜日の昼下がりには、あの古びた雑居ビルの四階、長らく物置同然だったはずの空きテナントスペースは、その姿を一変させていた。
そこには、仮設とは思えないほど洗練された、しかしどこか奇妙な空間が広がっていた。
壁は落ち着いた色調のパネルで覆われ、床には柔らかなカーペットが敷かれている。
部屋の中央には、座り心地の良さそうなデザイナーズソファとローテーブルが置かれ、一角には、まるで本物のカフェバーのような、小さなカウンターとエスプレッソマシンまで設えられている。
観葉植物が効果的に配置され、間接照明が穏やかな光を投げかけていた。
一見すると、どこかの企業の、洒落た応接スペースか、あるいは小規模な会員制ラウンジのようだ。
しかし、よく見れば、壁の装飾パネルの裏や、天井の照明器具の影には、高性能な小型カメラや集音マイクが、巧妙に隠されているのが分かる。
そして何より、この空間には『生活感』というものが全く欠けており、どこか作り物めいた、張りぼての舞台のような空気が漂っていた。
ここは、佐藤健の『コミュニケーション能力向上』のためだけに、サスキア・デ・フリースによって超短期間で設えられた、『治療』のための仮設訓練所――エミリアが内心で(あるいはサスキアへの指示で)『夢の時間』と呼んだかもしれない場所だった。
「……結構です。撤収してください」
サスキアは、内装業者と、おそらくはセキュリティ業者の担当者であろう男たちによる最終チェックが終わるのを確認すると、タブレット端末で電子サインを行い、簡潔に、しかし有無を言わせぬ口調で告げた。
業者たちは、彼女の完璧な、しかし感情の読めない態度に、少しだけ緊張した面持ちで深々と頭を下げると、足早に機材を片付け、部屋を後にしていった。
一人残されたサスキアは、完成した『訓練所』を、満足げに、しかしその瞳には何の感情も映さずに見回した。
(これで、第一段階の環境設定は完了ね。佐藤様がリラックスでき、かつ、我々が全ての状況を完璧に把握・管理できる空間。エミリア様の『あまり壊さないように』というご指示を考慮すれば、これくらいが妥当でしょう。ふふ、新兵訓練とはまた違うけれど、これはこれで興味深い『教育』になりそうだわ)
彼女は、二階の少女たちの『寮』と、一階のジャズ喫茶の準備状況を脳内で確認し、次のステップへと意識を移した。
同日、日曜日。
都心、結城玲奈法律事務所(あるいは彼女の自宅オフィス)
窓の外には、乾燥した冬晴れの、穏やかな日曜日の午後の景色が広がっている。
しかし、結城玲奈のデスクの上は、平日と変わらない緊張感に満ちていた。
彼女は、スタイリッシュな細いフレームの眼鏡の奥で、ノートパソコンの画面に表示された、三人のプロコスプレイヤーのプロフィールとSNSアカウントを、鋭い目で分析していた。
神崎霞、桃里める、藤乃しずか。
サスキアから送られてきた、今回の『特殊依頼』の協力者候補たちだ。
(…なるほど。タイプは三者三様。しかし、共通しているのは、トップレベルの人気と実力、そして、おそらくは『プロ』としての割り切りと口の堅さ、か。サスキア氏らしい人選ね)
玲奈は、それぞれのSNSアカウントを開き、投稿内容やファンとの交流の様子などを素早くチェックする。
そして、最も効果的で、かつ警戒されにくいであろうアプローチ方法を瞬時に判断すると、それぞれのダイレクトメッセージ(DM)機能を開き、慎重に、しかし淀みないタイピングで、個別のメッセージを作成し始めた。
文面は、極めて丁寧かつビジネスライク。それでいて、相手のプロ意識を尊重し、興味を引くように計算されている。
『初めまして、神崎霞様(あるいは、桃里める様、藤乃しずか様)。私、結城玲奈法律事務所の代表弁護士を務めます、結城玲奈と申します。突然のご連絡失礼いたします。実は、わたくしどもの重要なクライアントより、極めて機密性の高い、特別なプロジェクトが発足いたしました。つきましては、その分野の第一人者でいらっしゃる〇〇様に、ぜひご協力をお願いできないかと考え、ご連絡させていただいた次第です。(中略)…もちろん、ご協力いただけます暁には、破格の報酬と、万全の秘密保持体制をお約束いたします。まずは一度、オンラインでも結構ですので、詳細についてお話し合いの機会をいただけませんでしょうか。ご多忙中とは存じますが、ご検討いただけますと幸いです』
送信ボタンを押す指に、迷いはない。
彼女は、カップに残っていた冷めたコーヒーを一口飲むと、ふっと息をついた。
(さて、どう反応してくるかしら…)
エミリア・シュナイダーからの依頼は、いつもそうだ。
法廷での弁論や、通常の企業法務とは全く違う。
法律の知識だけでは太刀打ちできない、人間の心理、裏社会の力学、そして、時には物理的な危険さえも伴う、特殊な案件。
普通の弁護士なら、関わることすら躊躇うだろう。
(しかし…)
玲奈の口元に、わずかな、しかし確かな笑みが浮かんだ。
(…だからこそ、面白い)
退屈な定型業務では決して得られない、このスリル。
ギリギリの状況で、自分の知性とスキルを最大限に駆使し、クライアント(エミリア)の期待を超える結果を出すこと。
それは、彼女にとって、何物にも代えがたい知的な挑戦であり、最高の『勉強』でもあったのだ。
(今回もまた、一筋縄ではいかない案件ね。『コミュニケーション訓練』の相手役とは…エミリア様も、面白いことを考えるものだわ。さて、この『プロ』たちが、どう動くか…)
玲奈は、コスプレイヤーたちからの返信を待つ間、既に次のステップ…契約書の詳細な詰めや、サスキアとの連携方法についての思考を巡らせ始めていた。
彼女の頭脳という歯車もまた、エミリアの計画の下で、静かに、しかし確実に、回り始めていた。
日曜日の穏やかな午後。東京の様々な場所で、それぞれの思惑と計画が、水面下で着々と進行していた。
その中心にいるはずの佐藤健は、まだ何も知らずに、秋葉原で買ったばかりの漫画を読み耽っているのかもしれない。
***
日曜日の夜。クリスマスを間近に控え、きらびやかなイルミネーションが街を彩る一方で、家々の窓からは温かな光と、家族や恋人たちの団欒を想像させる穏やかな空気が流れていた。
しかし、その華やかな喧騒とは無縁の場所で、三人の女性が、それぞれの時間を過ごしながら、奇妙なメッセージに目を通していた。
【神崎 霞(KASUMI)の場合 - 都内、ミニマルな高層マンションの一室】
コンクリート打ちっぱなしの壁に、最低限のデザイナーズ家具。
生活感というものを極限まで削ぎ落とした、クールでミニマルな空間。
神崎霞は、トレーニングウェア姿でヨガマットの上に座り、タブレット端末で海外のファッションショーの映像を無心に眺めていた。
日中の撮影で酷使した肉体と精神を、静かな時間の中でクールダウンさせている最中だった。
ピコン、と控えめな通知音が鳴る。
彼女は、表情を変えずにタブレットの操作を中断し、傍らに置いてあったスマートフォンを手に取った。
複数のSNSアカウントを使い分ける彼女だが、仕事用のメインアカウントに、見慣れない名前からのダイレクトメッセージが届いていた。
『結城玲奈法律事務所 代表弁護士 結城玲奈』
(…弁護士?)
霞は、わずかに眉をひそめた。
普段、このアカウントにビジネス関係以外の個人的なメッセージが来ることは稀だ。
しかも、弁護士から直接とは。
彼女は、メッセージを開き、その丁寧で、しかしどこか含みのある文面に、注意深く視線を走らせた。
『…重要なクライアント…極秘プロジェクト…第一人者でいらっしゃる神崎様にご協力…破格の報酬…万全の秘密保持…一度、詳細についてお話し合いの機会を…』
怪しい。
あまりにも怪しすぎる。
霞の頭の中で、即座に警報が鳴った。
だが、同時に、その文面から漂う、尋常ではない『何か』の匂いと、『結城玲奈』という名前に、彼女の鋭いアンテナが反応していた。
(結城玲奈…? 確かに、聞いたことがある名前ね。たしか、経済事件や国際案件に強い、かなりやり手の女性弁護士…のはず)
彼女は、すぐにそばにあったノートパソコンを開き、高速タイピングで『結城玲奈法律事務所』と検索をかける。
表示されたのは、洗練されたデザインのウェブサイトと、数々の難解な企業法務案件を成功させてきた、輝かしい経歴。
そして、メディアのインタビュー記事などもいくつかヒットした。
そこに写る結城玲奈の姿は、知的で、クールで、一切の隙を見せない、まさに霞自身が目指すプロフェッショナル像の一つでもあった。
(…本物、みたいね。しかも、かなりの大物。その人が、私に? 極秘プロジェクト? 破格の報酬?)
霞の黒曜石のような瞳が、冷静な分析の色を宿して細められる。
リスクは高いかもしれない。
だが、このクラスの弁護士が関わる案件となれば、そのリターンも計り知れない。
そして何より、この謎めいた依頼そのものが、彼女のプロフェッショナルとしての好奇心を刺激していた。
彼女は、しばらく考え込んだ後、短い、しかし丁寧な返信を打ち始めた。『ご連絡ありがとうございます。詳細について、まずはオンラインでの面談を希望いたします。つきましては…』
【桃里 める(MERU)の場合 - 都内、ファンシーな内装のデザイナーズマンションの一室】
部屋全体が、パステルカラーと、ぬいぐるみやキャラクターグッズで埋め尽くされた、まるで夢の国のような空間。
桃里めるは、大きなうさぎのぬいぐるみを抱きしめ、ベッドの上で寝転びながら、スマートフォンで自分のSNSへのコメントをチェックしていた。
「MERUたん、今日も可愛い!」「元気もらえた!」「次のイベント楽しみ!」といったファンからの温かい(そして、時に熱狂的な)メッセージに、彼女は『営業用』のキラキラした笑顔で、「みんな、ありがとー!」と心の中で(あるいは、実際に声に出して)応えていた。
そんな時、仕事依頼などを受け付けている公式アカウントに、一件のDMが届いた。
差出人は『結城玲奈法律事務所』。
「え、なになに? 弁護士さんから? もしかして、あたし、なんかやらかしたっけ!?」
一瞬、ドキッとする。
彼女の計算高い日常も、時折、予期せぬトラブルと隣り合わせだ。
恐る恐るメッセージを開くと、そこには、何やら難しそうな言葉が並んでいた。
「…じゅーよーくらいあんと? ごくひぷろじぇくと? はかくのほうしゅう…? なにこれ、新手の詐欺!?」
最初は警戒したが、『結城玲奈』という名前で検索し、表示された、いかにもエリート然とした弁護士の写真と経歴を見ると、少しだけ考えが変わった。
「うわ、ガチの人じゃん…! なんか、すごい仕事してる人みたい…。で、あたしに協力依頼? しかも、めっちゃギャラ良さそうなんですけどー!」
彼女の頭の中の計算機が、高速で回転を始める。
(この人、なんかヤバそうだけど、コネ作っといたら、後々、役に立つかも? 海外進出とか? 大手企業の案件とか?それに、ギャラが良いのは超重要! でも、極秘ってのがなー…マネージャーに相談しないとヤバいかな?)
彼女は、すぐにスマホの電話帳を開き、所属事務所(提携しているエージェントかもしれない)の担当マネージャーに電話をかけた。
「もしもしー? ちょっとヤバそうな、でも、うまくいけばデカい仕事の話が来たんだけどー!」
その声は、既に、次のチャンスを掴もうとする、プロのタレントの顔に戻っていた。
【藤乃 しずか(Shizuka)の場合 - 都内、和モダンな雰囲気の落ち着いたマンションの一室】
障子越しに柔らかい間接照明の光が漏れる、静かで落ち着いた和室。
藤乃しずかは、上質なシルクの部屋着に身を包み、座椅子に座って、ゆっくりと日本茶を味わっていた。
部屋には、彼女が好む白檀のお香の香りが、静かに漂っている。
スマートフォンが、テーブルの上で、控えめな着信音を奏でた。
彼女は、優雅な所作でスマホを手に取り、DMの通知を開く。『結城玲奈法律事務所』からのメッセージ。
「…結城、先生…」
しずかの口元に、ふ、と意味深な微笑みが浮かんだ。
その名前には、聞き覚えがあった。
以前、懇意にしている企業の顧問弁護士として、名前だけは耳にしたことがある。
非常に有能で、冷徹で、そして『裏』にも通じていると噂される女性弁護士。
彼女は、丁寧な言葉で綴られた、しかし、どこか普通ではない依頼内容を、ゆっくりと目で追った。
(…特別なクライアント。極秘プロジェクト。破格の報酬。そして、守秘義務…ふふ、これはまた、面白そうな香りがするものね…)
彼女の興味は、報酬の額面よりも、その『極秘プロジェクト』の内容と、それを依頼してきた『特別なクライアント』の正体、そして、この有能な女性弁護士・結城玲奈が、なぜ自分に声をかけてきたのか、という点に向けられていた。
(「コミュニケーション訓練」の相手役、かしら? それにしては、条件が大袈裟すぎるわね…。何か、別の目的があるはず…)
彼女の、人の心理を読む鋭い観察眼が、メッセージの行間から、隠された意図を探り出そうとする。
(…まあ、どちらにしても、結城先生からの直接のご依頼とあれば、無下にはできないわね。それに…)
しずかの瞳が、好奇心と、わずかなスリルを楽しむような色を帯びる。
(…退屈な日常よりは、少しは刺激的かもしれないわ)
彼女は、スマホを置くと、再び静かにお茶を一口含んだ。
そして、結城玲奈への返信内容を、頭の中でゆっくりと組み立て始めた。
丁寧な言葉遣いの裏に、相手の真意を探るための、巧みな駆け引きを忍ばせて。
日曜日の夜。
東京の片隅で、三人のプロコスプレイヤーは、それぞれに、謎めいた招待状を受け取った。
警戒、打算、そして好奇心。
様々な感情を胸に、彼女たちは、知らず知らずのうちに、エミリア・シュナイダーとサスキア・デ・フリースが仕掛けた、新たな『計画』の歯車へと、その一歩を踏み出そうとしていた。
***
日曜日の夜。都心を見下ろす高層マンションの一室、結城玲奈の自宅兼オフィスは、週末とは思えない静かな緊張感に包まれていた。
窓の外には、宝石を散りばめたような壮大な夜景が広がっているが、玲奈の意識は、デスク上の高性能ノートパソコンの画面に集中していた。
磨き上げられたガラスのデスク、ミニマルなデザインの調度品、そして壁にかけられた抽象画。全てが彼女の研ぎ澄まされた美意識と、プロフェッショナルとしてのステータスを物語っている。微かに流れるクラシック音楽と、空気清浄機の立てる静かな作動音だけが、室内の静寂を彩っていた。
彼女は、淹れたてのブラックコーヒーを一口含み、指先でスタイリッシュな眼鏡のフレームを軽く押し上げた。
画面には、3人の女性のプロフィールと、彼女たちと交わしたダイレクトメッセージ(DM)の履歴が表示されている。
神崎霞、桃里める、藤乃しずか――今を時めくプロコスプレイヤーたち。
そして、エミリア・シュナイダー(と、その背後にいるであろうサスキア・デ・フリース)からの、またしても『普通ではない』依頼のターゲットだ。
(…さて、と。三者三様、興味深い反応だったわね)
玲奈は、DMでの最初の接触を反芻する。
警戒しながらも冷静に情報を求める霞、打算と好奇心を隠さないめる、そして、穏やかな言葉の裏で探りを入れてくるしずか。
どの一筋縄ではいかない。
だが、だからこそ、面白い。
玲奈の口元に、挑戦者を前にした時のような、ごく微かな笑みが浮かんだ。
まずは、最もプロ意識が高く、ビジネスライクな交渉ができそうな相手からだ。
玲奈は、オンライン会議ツールの接続を確認すると、予定時刻ぴったりに、神崎霞とのビデオ通話を開始した。
画面に映し出された霞は、漆黒のストレートヘアをシンプルにまとめ、ノーメイクに近い薄化粧にも関わらず、その端正な顔立ちと鋭い眼光は、画面越しでも強い存在感を放っていた。
背景は、彼女の自宅と思われる、白とグレーを基調とした、無駄なものが一切ない空間だ。
「結城先生、本日はお時間をいただきありがとうございます。早速ですが、ご依頼の『極秘プロジェクト』について、詳細をお伺いできますでしょうか」
霞は、単刀直入に切り込んできた。
「ええ、もちろんです、霞さん」
玲奈は、完璧なビジネススマイルを浮かべ、用意していた説明を、冷静に、しかし相手への敬意を払いながら始めた。
「今回の依頼は、わたくしどもの重要なクライアントの、極めてプライベートな案件になります。ある男性の…そうですね、『対人コミュニケーション能力、特に異性に対するそれ』を改善するための、特別なプログラムにご協力いただきたいのです」
玲奈は、佐藤の状況(いじめの過去、自己肯定感の低さ)を、個人情報に配慮しつつ、しかし協力の必要性を理解させるのに十分な範囲で説明した。
そして、最も怪しまれるであろう条件について、切り出した。
「つきましては、霞さんには、そのプログラムの一環として、ご自身の得意とされるコスプレ姿で、対象の男性と、リラックスした雰囲気の中で会話の練習相手になっていただきたいのです。ただ…」
玲奈は、少しだけ申し訳なさそうな表情を作った(もちろん、計算の上だ)。
「対象の方が大変デリケートな方でして、初対面の女性に対して極度の緊張を感じられるため、衣装につきましては、大変恐縮ながら、過度な露出は避け、落ち着いた雰囲気のものをお願いしたい、というクライアントからの強いご意向がございます。キャラクターの再現性よりも、今回はコミュニケーションそのものを最優先とさせていただきたく…」
霞の目が、わずかに細められた。
疑念の色が見て取れる。
玲奈は、畳みかける。
「もちろん、このような特殊なご協力をお願いするにあたり、報酬は通常の案件とは比較にならないレベルをご用意しております。また、訓練中は、対象の方の精神的な安定を図るという目的、そして万が一のセクシャルハラスメント等のトラブルを未然に防ぐため、私と、もう一名の女性関係者が必ず立ち会わせていただきます。 訓練に集中していただくため、スマートフォンは、その間だけマナーモードにしてカバンにおしまいいただく形になりますが、プライバシーには最大限配慮いたします」
玲奈は、相手の反応を注意深く観察しながら、立て板に水のごとく、しかし一つ一つの言葉に重みを込めて説明を続けた。
そして最後に、厳格な守秘義務契約についても言及し、その重要性を強調した。
霞は、しばらく黙って玲奈の説明を聞いていたが、やがて、静かに口を開いた。
「…条件は、理解しました。非常に特殊な案件であることも。ですが、結城先生ほどの弁護士が、なぜこのような依頼を?」
「わたくしは、クライアントのあらゆるニーズに応えるのが仕事ですので」
玲奈は、微笑みを崩さずに答えた。
「そして、今回の『コミュニケーション訓練』という特殊な分野において、キャラクターになりきり、かつ相手に合わせた適切な対応ができるプロフェッショナルとして、霞さん以上の適任者はいない、と判断いたしました。これは、あなただからこそお願いしたい、特別なご依頼です」
その言葉に、霞の表情がわずかに動いたように見えた。
プロとしての自負をくすぐられたのかもしれない。
玲奈は、内心で手応えを感じながら、具体的な報酬額と契約期間(複数回を想定)を提示した。
霞は、その額面にさすがに少し驚いた表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻し、「…契約書の内容を、事前に確認させていただけますか?」と、プロとして当然の要求をした。玲奈は、「もちろんです」と即答した。
――桃里める、藤乃しずかとのオンライン面談も、玲奈は同様に、それぞれの性格や動機(めるには「特別なミッション」感とビジネスチャンスを、しずかには「興味深い人間観察」と知的な挑戦を)を巧みに刺激しながら、交渉を進めていった。
怪しい条件に対する理由付けも、相手に合わせて微妙にニュアンスを変え、高額な報酬と、結城玲奈という弁護士自身の持つ信用力(と圧力?)で、最終的には三者三様の理由(打算、好奇心)から、この奇妙な依頼を引き受けさせることに成功した。
もちろん、厳格な守秘義務契約と共に。
全ての面談を終え、玲奈は、背もたれに深く体を預け、短く息を吐いた。
画面には、三人のコスプレイヤーから送られてきた、契約締結の意思を示すメールが表示されている。
(…ふぅ。これで、第一段階はクリア、かしらね)
彼女は、デスクに置いてあったスマートフォンを手に取り、サスキアへと簡潔なメッセージを送る。
『候補者三名、契約合意。研修場所の最終準備と、対象者(佐藤)への事前説明を、予定通りお願いします』
すぐに、サスキアから『承知いたしました』という、絵文字一つない、しかし完璧な返信が届いた。
玲奈は、再び冷めたコーヒーを一口含んだ。
窓の外は、もう完全に夜の帳が下りている。
(エミリア・シュナイダー…。相変わらず、人を厄介事に巻き込むのが上手いクライアントだわ。でも…)
彼女の口元に、再び、あのわずかな、しかし確かな笑みが浮かぶ。
(…今回の『治療計画』、果たしてどんな結末を迎えるのか。対象者(佐藤)は、本当に変わるのかしら? それとも…。ふふ、弁護士として、実に『勉強になる』ケーススタディになりそうね)
彼女の知的な好奇心と、プロフェッショナルとしての挑戦意欲は、この奇妙で、複雑で、そしておそらくは危険な計画によって、静かに満たされ始めていた。
玲奈は、ゆっくりと立ち上がり、夜景に向かって、軽くワイングラスでも傾けようかと、セラーへと足を向けた。
計画の歯車は、また一つ、静かに回り始めたのだ。




