完璧なる勘違い協奏曲(コンチェルト)其三
この物語はフィクションです。
この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
ようこそ、東京の影の中へ。
ここは、光が滅び、影が支配する世界。
摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。
欲望、裏切り、暴力、そして死。
この街では、毎夜、人知れず罪が生まれ、そして消えていく。
あなたは、そんな影の世界に生きる、一人の女に出会う。
彼女の名は、エミリア・シュナイダー。
金髪碧眼の美しい姿とは裏腹に、冷酷なまでの戦闘能力を持つ、凄腕の「始末屋」。
幼い頃に戦場で、彼女は愛する家族を、理不尽な暴力によって奪われた。
それは、彼女が決して消すことのできない傷となり、心を閉ざした。
今もなお、彼女は過去の悪夢に苛まれ、孤独な戦いを続けている。
「私は、この世界に必要とされているのだろうか?」
「私は、幸せになる資格があるのだろうか?」
深い孤独と絶望の中、彼女は自問自答を繰り返す。
だが、運命は彼女を見捨てなかった。
心優しい元銀行員の相棒、エミリアの過去を知る刑事、そして、エミリアの過去を知る謎めいた女ライバル。
彼らとの出会いが、エミリアの運命を大きく変えていく。
これは、影の中で生きる女の物語。
血と硝煙の匂いが漂う、危険な世界への誘い。
さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。
そして、エミリアと共に、非日常の興奮とスリル、そして、彼女の心の再生の物語を体験してください。
あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?
…この物語は、Gemini Advancedの力を借りて、紡がれています。
時に、AIは人間の想像を超える unexpected な展開を…
時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を…
Gemini Advancedは、新たな物語の世界を創造する、私のパートナーです。
この作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では遅れて公開となります。あらかじめご了承ください。
ただし、どうか忘れないでください。
これは、あくまでフィクションだということを。
This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.
Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.
Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.
นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น
(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)
事務所の窓からは、冬の午後の柔らかい光が差し込み、高性能加湿器が静かに運転を続け、室内は快適な湿度と温度に保たれている。
エミリアはソファで優雅に紅茶を飲みながら、タブレットで何かの資料を確認していた。
その隣のデスクでは、佐藤健が、先ほどのジャズ喫茶での出来事(アイドル来店と夜組の勘違い)など全く知らず、北海道の調査レポートの作成に集中しようとしていた。
…いや、集中しようと、努めていた。
なぜなら、先ほどから、受付カウンターにいたはずのサスキアが、音もなくエミリアのデスクの傍らに立ち、何か数枚の書類を差し出しているからだ。
二人の間で交わされる会話は、佐藤には聞き取れないほど小声だが、その空気は明らかに『仕事』の、それも何か重要な案件が進んでいることを示唆していた。
(…な、何の話だろう…?)
佐藤は、レポート作成の画面から目を離し、恐る恐る二人の様子を窺った。
エミリアは、サスキアから書類を受け取ると、一瞬だけ目を見開き、そしてすぐに満足そうな、あるいは感心したような表情を浮かべた。
「あら、もうリストアップしてくれたの? さすがね、サスキア。本当に早くて完璧だわ。 いつもありがとう」
その声は、素直な感謝のように聞こえる。
サスキアは、それに対して、いつものように完璧な微笑みを返すだけだ。
エミリアは、受け取った書類…おそらく候補者のリストと経歴書なのだろう…に、熱心に目を通し始めた。
その真剣な横顔は美しく、知的だ。
だが、時折、彼女の唇の端が、くすりと楽しげに、あるいは何か面白いものを見つけたかのように、微かに持ち上がるのを、佐藤は見逃さなかった。
「ふむ…なるほど、この経歴は興味深いわね…」
「あらあら、この方…ふふ、確かに、健ちゃんの『お相手』として、なかなか面白いかもしれないわ…」
(ぼ、僕のお相手!?)
その、自分に向けられた(であろう)意味深な呟きに、佐藤の心臓が、ドクンと大きく跳ねた。
背筋に、嫌な汗がじわりと滲み出す。
まさか、本当に、あの『ハーレム計画(?)』が動き出しているというのか!? いや、でも、エミリアがそんなことを本気でするはずが…でも、あの人は、時々、本当にこちらの想像の斜め上を行くことを平然とやってのける…。
佐藤の頭の中は、再びパニックに陥りかけていた。
理由の分からない、しかし確実に自分に向けられている(ような気がする)不吉な予感が、彼の全身を支配し始める。
「…そうねぇ」
エミリアさんは、リストから顔を上げると、サスキアさんに指示を出す。
「早速だけど、明日か、それが無理なら明後日にでも、このリストの中から…そうね、まずこの三名ほど、面接を設定してくれるかしら? 場所は…ええ、下のジャズ喫茶店が良いわね。お店の雰囲気も、実際に見ていただかないと」
「承知いたしました。時間と場所、候補者の方々へ連絡いたします」
サスキアは、メモを取るまでもなく、完璧に指示を記憶したようだ。
(面接!? しかも、下のジャズ喫茶で!? やっぱり、何か僕に関係することが始まるんだ! うわあああ、どうしよう…!)
佐藤は、もはや仕事どころではなくなっていた。
エミリアとサスキアの間で、淡々と、しかし着実に進められていく、自分には窺い知れない『何か』。
それは、間違いなく、自分にとって良からぬことであるという確信だけが、彼の胸の中で急速に膨らんでいく。体が、恐怖で小刻みに震え始めた。
「ふふ、楽しみねぇ。どんな方々なのかしら」
エミリアは、これから始まるであろう『面接』に、心底楽しそうな表情を浮かべている。
その無邪気な(ように見える)笑顔が、佐藤には、悪魔の微笑みにしか見えない。
サスキアは、そんなエミリアさんの隣で、静かに、しかし確かな存在感を放ちながら、次の業務に取り掛かろうとしている。
彼女のブルーグレーの瞳は、相変わらず、何の感情も映してはいなかったが、佐藤には、その視線が、まるで『全て、計画通りです』と語りかけているように思えてならなかった。
事務所には、午後の穏やかな陽光と、加湿器の静かな作動音、そして、淹れたての紅茶の香りとは裏腹の、不穏な空気が満ちていた。
その中心で、一人、理由の分からない恐怖に怯え続ける佐藤健。
彼の知らないところで、また新たな『エミリアの計画』の歯車が、静かに、しかし確実に、回り始めていたのだった。
***
抑制された美しいピアノの旋律が、静かに、しかし確実に、店内の奇妙な緊張感を際立たせているようだった。
カウンターの中の高橋美咲と、凛さんのテーブルを担当する(ことになってしまった)小林陽子は、互いに助けを求めるような視線を一瞬だけ交わすが、すぐにサスキアさんに叩き込まれた『ポーカーフェイス』を思い出し、必死で表情を取り繕う。
背中には、じっとりと冷たい汗が流れていた。
「…ふぅ」
凛さんは、窓の外の午後の陽光に目を細めながら、カップに残っていたコーヒーをゆっくりと味わった。
そして、ふと、緊張で顔をこわばらせている陽子に、場を和ませるように、優しい笑顔で話しかけた。
「皆さん、こちらで働き始めて、まだそんなに経っていないんですよね? 覚えることも多くて、大変でしょう?」
その、トップアイドルからの、あまりにも自然で、優しい気遣いの言葉。
しかし、今の夜組の少女たちにとっては、それすらも『何か裏があるのでは?』と勘繰ってしまう材料にしかならない。
(キ、キタ! 仕事の話! これは、あたしたちがちゃんと仕事してるか、サボってないか、探りを入れてるんだ!)
(落ち着け、陽子! 練習通り! 練習通りに答えるんだ!)
「は、はいっ!」
陽子は、背筋を伸ばし、練習した完璧な笑顔(のはずが、少し引きつっている)で答えた。
「ま、まだ新人ですので、至らない点ばかりですが、サスキア様から毎日、たくさんのことを学ばせていただいて! すっごく充実してます! やりがい、ありますっ!」
なぜか、語尾に妙な力が入ってしまう。
凛さんは、その熱意(?)に、少しだけ驚きつつも、やはり『健気な子だなあ』という表情で、うんうんと頷いている。
「そうですか、それは素晴らしいですね。サスキアさん…でしたっけ? すごく、しっかりしてそうな方ですものね」
「は、はい! 本当に尊敬しています! 私たち、エミリア様にも、サスキア様にも、そして! も、もちろん、佐藤様にも! 大変お世話になっておりますので! ご迷惑をおかけしないよう、精一杯、お仕事に集中いたします!」
美咲も、カウンターの中から、必死の形相でフォロー(という名の墓穴掘り)を入れる。
とにかく、「私たちは佐藤さんに変な気はありません!」「エミリア様への忠誠は絶対です!」というアピールをしなければ、という一心だった。
「ふふ、皆さん、本当に真面目なんですね」
凛は、彼女たちのあまりの健気さ(と勘違いしている)に、思わず微笑んだ。そして、おそらくは純粋な好意と、過去の感謝の気持ちから、決定的な『衝撃』を投下した。
「分かります。佐藤さん、本当に優しい方ですものね。以前、私たちが事務所でちょっと大変だった時も、毎日のように、美味しい手料理を作って、差し入れしてくださったんですよ。 栄養バランスまで考えてくださって…。あの時のお料理の味、メンバーみんな、今でも忘れられないんです。本当に、お上手で…」
「「…………て、手料理ぃぃぃ!?」」
陽子と美咲の声が、ハモった。
その瞬間、二人の(そして、おそらくはバックヤードで聞き耳を立てていたであろう他のメンバーの)頭の中で、最後のピースが、カチリと音を立てて嵌ったような気がした。
(手料理!? 毎日!? あの、超絶美少女アイドルグループに!?)
(エミリアさんの愚痴は、やっぱり全部ヤキモチだったんだ!)
(凛様が、わざわざ会いに来るだけじゃなくて、手料理の思い出まで…!)
(しかも、料理上手!? なにそれ、スペック盛りすぎじゃない!?)
これまで『冴えないお兄さん』『エミリアさんの相棒』『でも、ヒグマを叩き潰す(比喩)くらい強いらしい謎の人』…くらいに思っていた佐藤健という存在が、彼女たちの頭の中で、一瞬にして『トップアイドルが本気になるほどの魅力を持つ、料理上手で、実はめちゃくちゃ強くて、普段は能ある鷹は爪を隠す的に冴えないフリをしている、超絶ハイスペックなモテ男(ただし、超絶ヤバい彼女持ち)』へと、劇的な変貌を遂げたのだ!
その瞬間から、彼女たちの佐藤さんに対する認識は、180度、いや、360度(?)くらい回転して、全く別の次元に突入してしまった。
(え…じゃあ、あの普段のだらしない感じとか、あたしたちへのぎこちない態度は、全部…計算…!?)
(あたしたちのこと、どう思ってるんだろ…いやいやいや、エミリアさんがいるんだから!)
(でも、もし、あたしが凛様みたいに綺麗になったら…? いやいやいや!)
異性として、全く、これっぽっちも意識していなかったはずなのに。今、彼女たちの頭の中は、先ほどまでとは全く違う意味で、佐藤さんのことでいっぱいになっていた。
顔がカッと熱くなり、心臓がドキドキと早鐘を打つ。
しかし、目の前には、その原因(?)を作った張本人(ただし無自覚)である凛さんが、優しく微笑んでいる。平静を装わなければ! サスキアさんの教えを!
「あ、あ、あの、そ、そうだったんですね! さ、佐藤様、お料理もお上手とは、存じ上げませんでした! ははは…」
陽子の声は完全に裏返り、笑顔は引きつっている。
「エ、エミリア様も、さぞ、お喜びになられていることと…」
美咲も、しどろもどろに付け加えるのが精一杯だった。
凛さんは、そんな二人のさらなる動揺に、「(あらあら、佐藤さんの意外な一面を知って、さらに緊張しちゃったのかしら? 初々しいわねぇ)」と、ますます生暖かい眼差しを向けていた。
やがて、凛さんは、「とても美味しいコーヒーでした。ごちそうさま」と満足そうに席を立つと、「今度は、他のメンバーも誘って、また必ず伺いますね」という、夜組にとっては嬉しくも恐ろしい言葉を残し、颯爽と店を後にしていった。
カラン…とチャイムの音が鳴り、ドアが閉まると同時に、店内に残された夜組の少女たちは、張り詰めていた糸が切れたように、その場にへたり込んだ。
「………………疲れた…………」
「…………心臓、止まるかと思った…………」
「…………佐藤さん…………マジで、何者…………?」
彼女たちは、顔を見合わせ、言葉にならない溜息をつく。憧れのアイドルに会えた興奮と、とんでもない秘密(?)を知ってしまった動揺と、そして、これから佐藤さんにどういう顔で会えばいいのか分からない、新たな、そして非常に厄介な感情。ラブコメ的なカオスは、まだ始まったばかりだ。
一方、階上のオフィスでは。
「…よし、これで今日のノルマは終わりかな」
佐藤は、パソコンの電源を落とし、安堵の息をついた。
「結局、エミリアさんもサスキアさんも、ジャズ喫茶の件は何も言ってこなかったな。うん、この調子なら、明日は行かなくて済みそうだぞ!」
彼は、自分の幸運(?)を喜び、楽観的な希望に胸を膨らませながら、軽い足取りで帰り支度を始めた。
階下で、自分に関する、とんでもない『恋愛フラグ(ただし、勘違いと恐怖に基づく)』が乱立し始めていることなど、露ほども知らずに――。
***
街がきらびやかなイルミネーションと、浮かれたクリスマスソングで彩られる頃。
夜は、しんしんと更け、時計の針は間もなく午前零時を指そうとしていた。
エミリアたちの事務所がある雑居ビルの、元倉庫を改装したという『寮』の共有スペース。
そこには、仕事を終えた『夜組』の五人の少女たちが、コンビニで買ってきたお菓子やジュース、温かいお茶などを持ち寄り、車座になってひそひそと話し込んでいた。
窓の外は、凍えるような冬の真夜中だが、部屋の中は暖房が効いていて暖かい。
壁に取り付けられた警備会社の小さなランプだけが、緑色の光を静かに灯し、この空間が『守られている』ことを示している。
それは本来、安心感を与えるはずのものだが、今の彼女たちにとっては、どこか息苦しい『監視』の象徴のようにも感じられた。
「……ねぇ、やっぱりさぁ」
最初に口火を切ったのは、ペットボトルのミルクティーを両手で温めながら、小林陽子だった。
その声は、いつものような明るさはなく、ひそやかで、真剣だ。
「今日の、凛様のこと…。あれ、絶対、佐藤さんのこと、本気だよね…?」
「……うん」
リーダー格の高橋美咲が、難しい顔で頷く。
「あの様子は、ただの知り合いに対する態度じゃなかった…。それに、エミリアさんの、あの妙な余裕と、佐藤さんを呼ぼうとした時の、ちょっと意地悪な感じ…」
「手料理、毎日だって…」
千葉亜美が、うっとりとしたような、それでいて信じられない、というような声で呟く。
「どんだけ胃袋掴まれてんのよ、凛様…」
「エミリアさんが、佐藤さんのこと愚痴ってたの、やっぱり全部、裏返しのヤキモチだったんだよ!」
陽子が、確信を込めて言った。
「『アイドルと挨拶くらいしかしない』とか言ってたけど、嘘じゃん! あんなトップアイドルが、わざわざこんな店まで会いに来るなんて!」
吉田真奈も、眼鏡の奥の目を細めて同意する。
「それに、北海道でのヒグマの話…エミリアさんを助けたのは、実は佐藤さんだった、という可能性も…?」
「えー!? マジで!?」
「あの冴えない雰囲気は、全部カモフラージュで、本当は料理上手で、怪力で、しかもトップアイドルに惚れられるほどの何かを持ってるってこと…?」
少女たちの間で、『佐藤健=実はとんでもないハイスペック・モテ男』説が、急速に、そして疑う余地のない『事実』として共有されていく。
誰も、それが壮大な勘違いである可能性など、微塵も考えていない。
むしろ、そう考えた方が、この不可解な状況(エミリアの言動、自分たちがここにいる理由)に、ある種の『納得』が得られるような気がしていた。
だが、その『納得』は、すぐに新たな、そしてより深刻な(?)悩みへと繋がった。
「……ていうかさ」
亜美が、不安そうな顔で切り出した。
「そんなすごい佐藤さんがだよ? 毎日、あたしたちみたいなのと顔合わせてるわけじゃん? …もし、万が一だよ? 佐藤さんに、その…く、口説かれたりしたら、どうする…?」
その一言に、場の空気が凍りついた。
「「「「…………えっ!?」」」」
少女たちは、顔を見合わせる。
誰も、そんな可能性、考えてもみなかった。
「そ、そんな! 佐藤さん、エミリアさんがいるのに!?」
陽子が、慌てて否定しようとする。
「でも! 確か、エミリアさん、『コントロールできる範囲なら、嫉妬しない』って言ってたじゃん!」
美咲が、記憶に不確かな、エミリアの(佐藤さんへの)言葉を思い出す。
「『ハーレム作ってもいい』って…!?」
亜美が、あいまいな記憶から連想した、あいまいな認識を、震える声で付け加える。
「え、それって、まさか、あたしたちのこと…!?」
「ど、どうしよう! もし、佐藤さんに『好きだ』とか言われたら…断ったら、エミリアさんだけじゃなくて、佐藤さんも怒らせちゃう…?」
「でも、OKしたら、エミリアさんに消されるかも…!」
「ていうか、あたし、ちょっと佐藤さんのこと、いいなって思ってたんだけど…いやいやいや! 無理無理無理!」
完全にパニック状態。彼女たちの頭の中では、『佐藤さん=超モテ男』『エミリアさん=嫉妬深い(が、ハーレムOK?な)ラスボス』『自分たち=佐藤さんに狙われている(かもしれない)か弱い存在』という、完璧に間違った相関図が出来上がりつつあった。
「も、もう、わかんないよぉ…!」
詩織が、ついに泣き出してしまった。
「……みんな、落ち着いて」
その時、美咲が、リーダーとして、震える声ながらも、皆を諭すように言った。
彼女の目には、混乱と、恐怖と、そして、何か、運命を受け入れようとするかのような、奇妙な覚悟の色が浮かんでいた。
「…たぶんね、もう、これは…『運命』なんだよ」
「…運命?」
「そうだよ。あたしたちが、あの夜、陽菜さんたちに助けられて、エミリアさんと出会って、この仕事を紹介されて…そして、佐藤さんが、実はすごい人で…凛様まで…。こんな偶然、重なるわけない。これはきっと、あたしたちが、佐藤さんの特別な存在になるっていう、決まっていた運命なんだよ!」
美咲の、その、あまりにも飛躍した、しかし妙な説得力を持つ言葉に、他の少女たちも、次第に引きずられていく。
そうだ、運命。
そう考えなければ、この訳の分からない状況を、説明できない。
「…じゃあ、あたしたち…佐藤さんの…その…」
陽子の声が震える。
「うん…」
美咲は、涙ぐみながら、しかし力強く頷いた。
「もう、覚悟を決めるしかないんだよ。そして、これが運命なら、あたしたち、このまま、みんなで協力して、支え合って、…幸せな、大きな家族を、築いていこうよ!」
「…大家族…!」
「…みんなで、一緒に…!」
「…エミリアさんは怖いけど…佐藤さんは優しいし…!」
「…うん! そうだね! 一人じゃ無理でも、みんなとなら…!」
なぜか、その場の全員が、感動的な雰囲気に包まれ、互いに手を取り合い、涙を流し始めた。
恐怖と混乱が生み出した、あまりにも歪んだ、しかし彼女たちにとっては切実な『決意』。
「よし! 決まりだね!」陽子が、涙を拭いながら、宣言した。
「あたしたち、今日から、運命共同体! 佐藤さんを、みんなで幸せにするぞー!」
「「「おー!」」」
「…でも」
美咲が、人差し指を立てて付け加えた。
「このことは、絶対に、誰にも話しちゃダメだよ。エミリアさんやサスキアさんはもちろん、陽菜さんや澪さんにも。いいね?」
「うん!」
「これは、私たちだけの、一生の秘密!」
少女たちは、固く、固く、そう誓い合った。
自分たちが、とんでもない勘違いと思い込みの末に、壮大な悲劇(あるいは喜劇)のヒロインになろうとしていることなど、全く気づかずに。
共有スペースの片隅で、警備システムの緑色のランプだけが、彼女たちの『涙の決意』と『秘密の誓い』を、無機質に、そして静かに、見つめていた。
***
からりと晴れ渡った、土曜日の午前中。
乾燥した冬の空気が、首都圏を覆う太陽の光をどこまでも透明にしていた。
クリスマスを間近に控え、街はどことなく浮かれたような雰囲気を漂わせ始めている。
【定食屋:午前11時】
大盛り定食・中華の定食屋の店内は、昼のピークにはまだ早く、穏やかな時間が流れていた。
厨房からは、源さんが昼の仕込みをするリズミカルな包丁の音と、香ばしいチャーハンの香りが漂ってくる。
女将さんは、カウンター席で新聞を広げながら、時折、店の奥の座敷スペースに心配そうな視線を送っていた。
その座敷では、夜組の少女たちのうち、高橋美咲と小林陽子、そして遠藤詩織が、源さん夫妻に『近況報告』という名目で顔を出していた。
「…それでね、サスキア先生、すっごく丁寧に教えてくれるんですよ! 英語の発音とか、お辞儀の角度とか!」
陽子が、身振り手振りを交え、少し興奮気味に話している。
その表情は明るいが、どこか空回りしているようにも見える。
「まあ、覚えることは山積みですけど…」
美咲が、少し大人びた口調で付け加える。
「でも、すごく勉強になります。将来のために、頑張らないとって」
詩織は、相変わらず口数は少ないが、以前のような怯えた様子は少し薄れ、二人の話に静かに頷いている。
時折、持参したらしい英単語帳に視線を落としていた。
そんな彼女たちの様子を、源さんと女将さんは、目を細めて見守っていた。
「へぇ、そうかいそうかい。みんな、頑張ってるんだなぁ、偉いじゃないか」
源さんが、嬉しそうに相好を崩す。
「本当にねぇ」
女将さんも、温かいお茶を出しながら微笑んだ。
「なんだか最近、みんな、少し雰囲気が変わったものねぇ。ちょっと大人っぽくなったっていうか…」
しかし、その微笑みの裏で、夫妻は一抹の違和感も感じていた。
確かに、言葉遣いは丁寧になり、以前のような荒っぽさは消えた。
だが、どこか上の空だったり、ふとした瞬間に遠い目になったり、あるいはメンバー同士で妙に真剣な顔で目配せをしたり…。
特に、あの『佐藤さん』という男性の話になると、顔を赤らめたり、急に黙り込んだり…。
(ふむ…年頃の娘さんだもんなぁ。やっぱり、色恋の一つや二つ、悩んでるんじゃねえかな? それで、勉強にも身が入ったり、逆に上の空になったり…)
(あらあら、もしかして、みんなして同じ人を好きになっちゃったとか? それで、悩んでるのかしらねぇ。まあ、クリスマスも近いし、この時期の若い子の悩みなんて、麻疹みたいなものよ。 ほっとけば、そのうちケロッと治るわよねぇ…ふふ)
人の好い保護司夫妻は、少女たちの内心で繰り広げられているであろう(とんでもない)勘違いなど知る由もなく、彼女たちの変化を、微笑ましい『恋の悩み』と『年相応の成長』として、温かく(そして、若干見当違いに)見守っていたのだった。
一方、厨房の片隅では、休憩中の陽菜と澪が、座敷の様子を窺いながら、ひそひそと話していた。
「…なあ、澪。やっぱり、あいつら、なんか変だと思わねえ?」
陽菜が、腕を組みながら眉をひそめる。
「…変、と言われれば、まあ、否定はしないけど」
澪は、冷静に、しかし少しだけ面倒くさそうに答えた。
「具体的に、何が?」
「なんか、こう…妙にソワソワしてるっていうか、上の空っていうか…。それに、時々、こっちチラチラ見てきて、ヒソヒソ話してんだよ。…まさか、また変なトラブルにでも巻き込まれてんじゃねえだろうな…?」
「……さあ。でも、サスキアさんの教育は受けてるみたいだし、寮のセキュリティも万全なんでしょ? 下手に首突っ込むより、今はあたしたち自身の『ペナルティ』に集中した方がいいと思うけど」
「…そりゃそうだけどよぉ…なんか、嫌な予感がすんだよな…。マジで、これ以上、厄介ごとは増やさないでほしいんだけど!」
陽菜は、ギリ、と奥歯を噛み締めた。
夜組の変化の理由は分からない。
だが、それが自分たちに飛び火してくるのだけは、絶対に避けたかった。
【秋葉原:同日午前】
一方、その頃。全ての元凶(?)、佐藤健は、そんな少女たちの葛藤や勘違いなど露知らず、休日の自由を満喫していた。
場所は、彼の聖地とも言える、秋葉原。
冬晴れの空の下、電気街は多くの人々で賑わっていた。
外国人観光客、最新ガジェットを求めるマニア、そして、色とりどりの衣装に身を包んだコスプレイヤーたち。
駅前広場の一角では、小規模なコスプレイベントが開催されているようだった。
「おお…!」
佐藤は、少し離れた場所から、目をキラキラさせながら、その光景を眺めていた。
決してカメラ小僧のように写真を撮りまくるわけではない。
彼は、あくまで純粋な『鑑賞者』として、キャラクターの再現度、衣装の作り込み、そして、そのキャラクターへの『愛』を、静かに、しかし熱く堪能していた。
「(素晴らしい…! あの甲冑の質感、見事だ…! こっちの魔法少女の杖の造形も…! やはり、三次元には三次元の良さがある…! いやいや、僕はあくまで二次元原理主義者だが、この情熱は認めざるを得ない…!)」
心の中で、熱い賛辞を送りながら、彼は満足げに頷くと、次の目的地である大型書店へと足を向けた。
目当ては、もちろん、『異世界に召喚されてハーレム作る漫画』の新刊だ。
コミックコーナーの一角、異世界転生・ハーレム系の棚の前で、佐藤は、まさに水を得た魚のようだった。
目を輝かせ、真剣な表情で、一冊一冊、背表紙を吟味していく。
「(お、〇〇先生の新刊、出てたか! これは絶対買わないと! えーっと、こっちの新作は…? ふむ、タイトルからして、なかなか期待できそうなハーレム展開じゃないか…! このヒロインのデザインも悪くない…よし、これも購入決定!)」
彼の頭の中は、完全に、剣と魔法、そして魅力的な(二次元の)ヒロインたちで埋め尽くされていた。
数日前の、エミリアとサスキアからの恐ろしいプレッシャーも、階下のジャズ喫茶で働く少女たちのことも、今はもう、彼の意識の彼方へと消え去っている。
これこそが、彼にとっての最高の現実逃避であり、心の平穏を取り戻すための儀式なのだ。
彼は、厳選した数冊の漫画を抱え、満面の笑みでレジへと向かう。
その背中は、どこまでも暢気で、幸せそうで、そして、自分が今、複数の女性たち(しかも、それぞれがかなり特殊な状況にある)の思考の中心(しかも、とんでもない勘違いと共に)にいることなど、全く、微塵も、気づいていない様子だった。
穏やかな(?)定食屋、そして暢気な秋葉原。
それぞれの場所で、それぞれの『勘違い」と『すれ違い』、そして『現実逃避』が繰り広げられる、奇妙な土曜日の午前は、まだ始まったばかりだった。




