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東京影譚 ~エミリア、影を紡ぐ者~  作者: ミルティア


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羅針盤は彼女たちの手に、彼はただ揺れる 其十

この物語はフィクションです。

この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。


ようこそ、東京の影の中へ。

ここは、光が滅び、影が支配する世界。

摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。

欲望、裏切り、暴力、そして死。

この街では、毎夜、人知れず罪が生まれ、そして消えていく。

あなたは、そんな影の世界に生きる、一人の女に出会う。

彼女の名は、エミリア・シュナイダー。

金髪碧眼の美しい姿とは裏腹に、冷酷なまでの戦闘能力を持つ、凄腕の「始末屋」。

幼い頃に戦場で、彼女は愛する家族を、理不尽な暴力によって奪われた。

それは、彼女が決して消すことのできない傷となり、心を閉ざした。

今もなお、彼女は過去の悪夢に苛まれ、孤独な戦いを続けている。

「私は、この世界に必要とされているのだろうか?」

「私は、幸せになる資格があるのだろうか?」

深い孤独と絶望の中、彼女は自問自答を繰り返す。

だが、運命は彼女を見捨てなかった。

心優しい元銀行員の相棒、エミリアの過去を知る刑事、そして、エミリアの過去を知る謎めいた女ライバル。

彼らとの出会いが、エミリアの運命を大きく変えていく。

これは、影の中で生きる女の物語。

血と硝煙の匂いが漂う、危険な世界への誘い。

さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。

そして、エミリアと共に、非日常の興奮とスリル、そして、彼女の心の再生の物語を体験してください。

あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?

…この物語は、Gemini Advancedの力を借りて、紡がれています。

時に、AIは人間の想像を超える unexpected な展開を…

時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を…

Gemini Advancedは、新たな物語の世界を創造する、私のパートナーです。


この作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では一日遅れでの公開となります。あらかじめご了承ください。


ただし、どうか忘れないでください。

これは、あくまでフィクションだということを。

This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.


Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.


Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.


นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น


(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)


月明かりが薄絹のように、波一つない穏やかなフィリピン海を優しく照らす。

しかし、その静けさは表層のみ。

欧州の有志国で編成された艦隊は、夜の闇に紛れ、日本へと向かっていた。

時折、強襲揚陸艦から艦載機やドローンが巨大な蛾のように暗闇へ飛び立ち、そして戻ってくる。

その規則的な羽音とエンジン音が、不気味な静寂を周期的に破っていた。


T.M.は、強襲揚陸艦の最上級個室…まるで高級ホテルのスイートルームのようなその一室で、小さくなっていた。

豪華な内装も、彼の心を和ませることはない。

部屋の中央には、異質な存在感を放つ白い蚊帳が設えられていた。

通気性を考慮した特殊な繊維で作られたそれは、外から中の様子を窺い知ることを許さない。

まるで盗撮を防ぐための結界のようだ。


その中でT.M.は、まるで鬼ごっこで隠れたように身を寄せ合い、大河内、黒川、白石、そして武藤と肩を寄せ合っていた。

皆、息を潜め、筆談で言葉を交わす。

秘密結社の密談のようだが、その会話の内容は、彼らの立場と状況を考えれば当然だった。

エミリアから送られてきた、レアメタル鉱床に関する詳細な報告書…。それこそが、今の彼らの命運を握る鍵なのだから。


                   ***


太陽は、既に、真上近くまで昇り、容赦なく、熱い光を、降り注いでいる。

まるで、世界を、焼き尽くそうとしているかのようだ。


機体は、まるで、巨大なトンボが、水面を這うかのように、低空飛行を続けていた。

その姿は、まるで、これから、何か、とてつもない出来事が、起こるのを、予感させるかのようだった。


窓の外には、どこまでも続く、フィリピン海の、青い海が、広がっている。

しかし、その海は、ただ、美しいだけではない。

その穏やかな海面は、まるで、嵐の前の静けさのように、不気味なほど、静まり返っていた。

まるで、これから起こる、激しい嵐を、予感させるかのように。


機内では、日本側レアメタル交渉チームのメンバーたちが、それぞれの思いを胸に、沈黙を守っていた。


大河内は、まるで、これから戦場に赴く武将のように、腕組みをし、目を閉じている。

その表情は、厳めしく、そして、どこか、決意に満ちているようだった。


黒川は、まるで、これから、重要なプレゼンテーションにでも臨むかのように、冷静沈着に、資料に目を通している。

その手つきは、まるで、熟練のピアニストが、鍵盤を叩くように、リズミカルで、そして、どこか、優雅だった。


白石は、まるで、人形のように、無表情で、窓の外を、眺めている。その瞳には、何も映っていないようだった。


武藤は、まるで、岩のように、微動だにせず、座席に座っている。

その全身からは、圧倒的な威圧感が、放たれている。


そして、T.M.は、まるで、迷子の子供のように、落ち着きなく、周囲を見回している。

彼の顔には、不安と、緊張の色が、はっきりと、浮かんでいた。

まるで、これから、恐ろしい目に遭うことを、予感しているかのようだ。


機内には重苦しい沈黙が垂れ込めていた。

まるでこれから処刑場に向かう囚人たちのようだ。

その沈黙を破ったのは、T.M.のスマートフォンだった。

軽快な着信音が、場違いな音楽のように機内に響き渡る。


T.M.は、まるで毒蛇にでも触れるかのように、恐る恐るスマートフォンを手に取った。

ディスプレイには『非通知』の文字。

彼は一瞬息を呑み、全てを諦めたように深くため息をつき、通話ボタンを押した。


「…もしもし…」


T.M.の声は、風に吹き消されそうな、か細い灯火のようだった。


「約束の、レアメタル鉱床の報告書。忙しい貴方の事情を考慮して、…あなたの業務用アカウントに送信してあるわ。…確認お願いね」


受話器の向こうから聞こえてきたのは、エミリアの、あの、どこか他人事のような、それでいて有無を言わせぬ冷たい声だった。

まるで彼の心を見透かしているかのようだ。

彼女は淡々と、どこまでも一方的に用件だけを告げると、まるで用済みとばかりに通話を切った。


ツーツー…という無機質な音が、まるで死刑宣告のようにT.M.の耳に冷たく響いた。

彼はしばらくの間、呆然とスマートフォンを握りしめたまま立ち尽くしていた。


「…誰からだ…?」


大河内が、地獄の底から響いてくるような低い声で尋ねた。

その瞳には冷たい炎が燃え盛っている。

全てを見透かすように深く、どこまでも冷徹だった。


T.M.は、大河内の威圧的な視線に、全身を氷水に浸けられたかのように硬直した。

まるで言い訳をする子供のように、震える声で答えた。


「…あ、…えっと、…あの、エミリア…と、いう、…その、情報提供者からでして…。…今回は、…その、…例の、レアメタル鉱床の、…現地の、詳細な調査報告書を、…送ってきた、…とのことで…」


T.M.の言葉に、大河内は獲物を見つけた獣のように目をギラリと光らせた。

その表情は全てを計算し尽くしているかのようだった。


「…すぐに、確認しろ…!」


大河内の声は雷鳴のようだった。それは命令というよりは、もはや脅迫に近かった。


T.M.は、まるで操り人形のようにぎこちなく頷いた。

そして、慌てて自分のスーツケースに向かい、宝物を探すかのように中身を引っ掻き回し始めた。


「…あった…!」


T.M.は、そう言って、やっと見つけた、というように安堵の息を漏らした。

震える手でタブレット端末を取り出し、電源を入れる。

その手つきは、まるで初めて機械を触る老人のようだった。


その様子を、白石は氷の彫像のように冷たい視線で見つめていた。

彼女の表情は全てを軽蔑しているかのようだった。


川島は、まるで機械の故障を心配する技師のように、眉間に深い皺を寄せ、T.M.のタブレット端末を覗き込んだ。

そして全てを諦めたかのように小さくため息をつき、呟いた。


「…この状況は、非常に危険です。…スマートフォンの位置情報、タブレットの通信データ、…これらが盗み見られれば、この機の位置、速度、高度は、全て、特定されてしまいます。…最悪の場合、敵対勢力に、捕捉され、攻撃を受ける可能性も…」


その言葉は、まるで死刑宣告のようにT.M.の耳に冷たく響いた。


しかしT.M.は、そんなことには全く気づいていない。

まるで砂漠で水を見つけた旅人のように、夢中でタブレット端末の画面を見つめていた。

そこに表示されていたのは、エミリアから送られてきたレアメタル鉱床に関する詳細な報告書だった。

それは、まるで彼にとっての唯一の希望の光のように見えた。


そして大河内と黒川は、まるで獲物に群がるハイエナのように、T.M.のタブレット端末を覗き込んだ。

彼らにとって、この報告書は、何よりも価値のある宝物だった。

それは彼らの欲望と野望を満たすための鍵となるのだから。


                   ***


白い蚊帳の中は、まるで、秘密結社の作戦会議室のようだった。

外の喧騒とは隔絶され、ただ、筆記具が紙の上を走る、かすかな音だけが、響く。

レアメタル交渉チームのメンバーたちは、まるで、古代の神官が、儀式を行うかのように、重々しく、そして、どこか緊張した面持ちで、言葉を交わしていた。


そのすぐ隣で、神崎、青山、川島は、まるで獲物を狙う獣のように、ノートパソコンの画面を、見つめていた。

彼らの瞳には、冷たい炎が燃え盛っている。

まるで、全てを見透かすかのように、深く、そして、どこまでも冷徹だった。


画面には、先ほど、青山が撮影した映像…、強襲揚陸艦の最上級個室、その壁一面を覆う巨大モニターに、映し出されていた、ドローンからの映像を、さらに、隠し撮りした動画が再生されていた。

炎上する標的艦、海面を切り裂くミサイルの軌跡、そして、…レ・シャカルの、迅速かつ、正確無比な突入シーン…。

彼らは、まるで、コマ送りで再生される、死の舞踏を、食い入るように、見つめている。


新型対艦ミサイルが、まるで、巨大な火竜のように、空気を切り裂き、標的艦に、命中する。

爆発の閃光が、画面全体を、白く染め上げ、衝撃波がドローンからの映像を揺さぶる。

まるで、映画のワンシーンのようだった。


しかし、彼らの心を、最も強く揺さぶったのは、その後の、光景だった。


煙と炎が渦巻く、標的艦。

それは、まるで、死にゆく巨獣のようだ。

いつ沈むとも知れない、その、危険な場所に、一機のヘリコプターが、まるで、死神の使いのように、舞い降りる。

そして、そこから、完全武装した兵士たちが、まるで、蜘蛛の子を散らすように、次々と降下していく。

レ・シャカル…、ヴァネッサが率いる、精鋭部隊だ。


彼らは、まるで、訓練された機械のように、迅速、かつ、正確に、任務を遂行していく。

その動きには、一切の無駄がなく、まるで、死と隣り合わせの状況を、楽しんでいるかのようだった。


映像の中の、一人の男が、ひときわ、目を引いた。

レ・シャカルのリーダー、ジャン=ピエール・ルブラン大尉だ。

彼は、常に、部隊の先頭に立ち、危険を顧みず、真っ先に、標的艦に、乗り込んでいく。

まるで、死を恐れない、獅子のようだ。


そして、人形と、記録装置を回収した後、彼は、まるで、部下たちを、見守るかのように、最後まで、艦に残り、そして、…見事な敬礼を、沈みゆく標的艦に、捧げたのだ。

まるで、戦場で散った、戦友に、別れを告げるかのように。

その姿は、まるで、古代の騎士のようであり、あるいは、武士道の、精神を体現しているかのようだった。


「…信じられん…」


神崎は、そう言って、まるで、悪夢でも見ているかのように、呟いた。

その声は、誰にも届くことなく、彼の胸の奥底で、虚しく響き渡った。


「…まるで、映画のワンシーンのようだったわ…」


青山は、そう言って、まるで、夢見る少女のように、呟いた。

その声は、誰にも届くことなく、彼女の胸の奥底で、静かに響き渡った。


「…あんな状況で、…冷静に、任務を遂行できるなんて…」


川島は、そう言って、まるで、全てを諦めたかのように、深く、深いため息をついた。

その声は、誰にも届くことなく、彼の胸の奥底で、虚しく響き渡った。


彼らは、皆、言葉を失っていた。レ・シャカルの、圧倒的な能力、そして、ジャンの、揺るぎないリーダーシップ…、それらは、彼らの、想像を、はるかに超えていた。

まるで、別世界の出来事のようだ。


彼らは、恐怖と、畏敬の念、そして、ほんの少しの、憧憬を、抱きながら、その映像を、何度も、何度も、繰り返し、見つめていた。

まるで、そこに、何かの答えが、隠されているかのように。


静寂が、白い蚊帳の中を、支配する。

まるで、嵐の後の、静けさのようだ。

しかし、その静けさは、決して、穏やかなものではない。

それは、まるで、これから起こる、何か、とてつもない出来事を、予感させるかのようだった。


ノートパソコンの画面には、先ほどまでの、実弾演習の映像が、繰り返し、再生されている。

煙と炎に包まれ、ゆっくりと、しかし、確実に、沈みゆく標的艦。

そして、その中へと、果敢に突入していく、レ・シャカルの、兵士たち。

まるで、地獄の業火の中を、進んでいく、悪魔の軍隊のようだ。


その映像を、見つめる、神崎、青山、川島の三人の目は、まるで、獲物を狙う獣のように、鋭く、そして、どこまでも冷徹だった。

彼らの瞳の奥には、恐怖と、畏敬の念、そして、ほんの少しの、憧憬が、混ざり合っている。

まるで、神の御業を、目の当たりにしたかのようだった。


「…分かったぞ…」


神崎が、まるで、全てを悟ったかのように、静かに、そして、力強く、呟いた。

その声は、まるで、深海の底から響いてくるかのようだった。


「…『ヴァネッサ・ウィリアムズ』が、…我々に、本当に、見せたかったもの…」


神崎は、そこで言葉を切り、まるで、獲物を捕らえる鷹のように、鋭い視線を、画面に向けた。

その瞳には、冷たい炎が燃え盛っている。

まるで、全てを見透かすかのように、深く、そして、どこまでも冷徹だった。


「…それは、…沈みゆく、標的艦に、…突入した、…あのチーム、…そして、…あのチームを率いる、…リーダー…」


神崎の言葉は、まるで、重い石を、一つ一つ、積み重ねていくかのようだった。

その声は、低く、そして、どこまでも、重々しかった。


「…あれこそが、…『ヴァネッサ・ウィリアムズ』が、…たった数年で、…世界の裏社会で、…台頭させた、…力、…そのものだ…」


神崎は、そう言って、まるで、全てを理解したかのように、静かに、そして、力強く、言葉を続けた。

その声は、まるで、真実を告げる預言者のようだった。


青山と川島は、神崎の言葉に、何も言わなかった。

ただ、黙って、頷くだけだった。

彼らもまた、同じことを、感じていたのだ。

まるで、同じ夢を、見ているかのように。


彼らは、レ・シャカルの、圧倒的な能力、そして、ジャンの、揺るぎないリーダーシップを、目の当たりにした。

そして、彼らは、理解したのだ。

…ヴァネッサ・ウィリアムズという存在の、…恐ろしさを…。


                   ***


片付けを終え、ふと手を止めた佐藤は、廊下から聞こえてくる、騒がしい声に、首を傾げた。

まるで、何かの、お祭りのような、賑やかさだ。


(…一体、何事…?)


彼は、恐る恐る、廊下を覗き込んだ。

そして、その目に飛び込んできた光景に、彼は、言葉を失った。


そこでは、廊下を埋め尽くすほどの人達の熱気が渦巻き、レ・シャカルのメンバーたちが、原子力空母の乗組員たちと、…なんと、綱引きをしているではないか。

それも、ただの綱引きではない。

皆、真剣な表情で、歯を食いしばり、全身の筋肉を、躍動させている。

まるで、これから、戦争でも始めるかのようだ。


「Allez, tirez ! Ne lâchez pas ! Baissez-vous !(さあ、引け!離すな!低くなれ!)」「Tenez bon ! (頑張れ!)」「On y va ! (行くぞ!)」


掛け声が、飛び交い、熱気が、むんむんと、立ち込める。

その異様な光景に、佐藤は、ただ、唖然とするばかりだった。


「I have no idea what goes on in the minds of those muscle-brained idiots.(あの筋肉バカどもの頭の中なんて、理解できないわ)」


エミリアが、まるで、全てを諦めたかのように、冷ややかに、呟いた。

その声は、まるで、氷の刃のようだった。


その時、どこからか、ヴァネッサの声が、響き渡った。


「Ne vous laissez pas faire ! Battez-vous jusqu'au bout !(負けるんじゃないわよ!最後まで戦いなさい!)」


その声は、まるで、雷鳴のようだった。

佐藤は、突然始まった、綱引き大会に、ただただ、困惑するしかなかった。

そして、彼は、この、異常な状況から、一刻も早く、逃げ出したい、と、強く願った。

まるで、悪夢から、覚めたいと願う、幼い子供のように。


                   ***


秋の夜風が、開け放たれた覆面パトカーの窓から、遠慮なく吹き込み、頬を撫でる。

都会の喧騒は遠のき、ここは幹線道路としては、さほど大きくない道だが、それでも交通量は途切れることがない。

テールランプの赤い光が、まるで獲物を追う獣の目のように、前方を走る黒塗りの高級車を捉え続けていた。


助手席の松田は、普段は着慣れない防弾チョッキの重さと、肩にかけたホルスターの中の拳銃の冷たい感触に、落ち着かない様子で、時折、身じろぎを繰り返す。


その時、彼の視界に、一台の大型トラックが、割り込んできた。

最初は、ただの偶然だと、気にも留めなかった。

しかし、何度か、同じトラックが視界に入ったり、消えたりするうちに、彼は言いようのない違和感を覚え始めた。

まるで獲物を狙う獣のように、静かに、そしてどこまでも執拗に、自分たちを付け狙っているかのような、不穏な気配を、肌で感じた。


「…桜井」


松田は、低い声で、桜井に呼びかけた。

まるで、これから何かとんでもないことを打ち明けようとしているかのようだ。


「…前に、エミリアに、…トラックのような大型車を停めるにはどうしたらいいのか、って…聞いたことがあるんだ…」


松田は、そう言って、過去の記憶を手繰り寄せるように、言葉を続けた。

その声は、どこか遠い場所から聞こえてくるかのようだった。


「…そうしたら、…あいつ、…何て言ったと思う…?」


松田はそこで言葉を切り、まるで答えを求めるかのように、桜井をじっと見つめた。

その瞳には、不安と緊張、そしてほんの少しの…期待の色が混じり合っていた。


「…『対物ライフルを使う』…。…だってさ…」


松田はそう言って、苦笑いを浮かべた。

その笑顔は、まるで全てを諦めたかのようだった。


「『…あー、…そんな、怒った顔を、向けないでよ! …もう、だから、松田のような、根は真面目で、人道主義な警官って、…苦手なのよね! …そうね、…松田が持っているような、回転式の旧式の銃じゃ、…トラックのタイヤは、撃ち抜けないし、…、…運転手を狙うのは、…最後の手段ね。…内燃機関の車なら、…ラジエーターを狙うのは、一つの手だけど、…確実とは言えないわね。…まあ、運が良ければ、…しばらくすれば、オーバーヒートで、止まるかもしれないけど…。…え、電気自動車だったら、どうするかって? …そうね、…EMP攻撃なら、…一発で、動かなくなるかもね。…まあ、そんなもの、…普通の警察官が、持ってるわけないけど』」


松田は、エミリアの言葉を、一言一句正確に再現した。

その口調は、まるで彼女が乗り移ったかのようだった。


桜井は、松田の話を、まるで悪夢でも見ているかのように、ただ黙って聞いていた。

ハンドルを握りしめ、慎重に、そして冷静に運転しながら、全てを理解したかのように、静かに、力強く頷いた。

そして、全てを諦めたかのように、深く、深いため息をつき、


「…あんな裏社会の人間に…質問して、…まともな答えが返ってくると…思っているのですか…?」


と呆れたように言った。

その声は、まるで母親が子供を叱るかのようだった。


「…そうは言っても、…俺よりかは、…武器の知識は…上だからな…」


松田はそう言って、まるで言い訳をするかのように言葉を続けた。

その声は自信なさげな子供のようだった。

彼は車窓を流れる景色をぼんやりと眺めながら、まるで全てを諦めたかのように呟いた。


松田と桜井の雑談は、さらに続いた。


「…『トラックが、突っ込んでくる? …そんなの、陽動の可能性が高いわね。…本命は、別にあるはずよ。…もし、あなたが、5発しか入らない、リボルバーしか、持っていないなら、…3発以上は、使っちゃダメ。…残りの2発は、…次の攻撃に備えて、…必ず、残しておくの。…いいこと? …自分の身は、自分で守るしかないのよ』…ってさ」


松田が語るエミリアの言葉に、桜井は、まるで獲物に狙いを定めた猫のように、目を細め、興味を惹かれたようだった。


「松田さん、…射撃は、…お得意なんですか?」


桜井は、何気ない口調で尋ねる。

しかし、その声には、どこか、値踏みするような、冷たい響きが、含まれていた。

まるで、骨董商が、古びた品を、鑑定するかのように。


「いや、…毎年、年に一度の実弾射撃訓練で、…5発、撃つだけだからな…。…下手なままだよ」


松田は、そう言って、自嘲気味に、小さく笑った。

その笑顔は、どこか、寂しげで、諦めにも似た感情が、滲んでいた。


桜井は、松田の言葉に、小さく、しかし、はっきりと、頷いた。

そして、まるで、諭すような口調で、言葉を紡いだ。


「…でしたら、なおさら、…あの始末屋の言うことを、…聞いておくべきですね。…誰かのために、全弾、撃ち尽くしたところで、…当たらなければ、意味がありませんから」


その声は、優しかったが、どこか、冷たく、突き放すような響きも、あった。

まるで、慈悲深い修道女が、罪人に、引導を渡すかのようだ。


松田は、桜井の指摘に、言葉を失った。

まるで、全てを諦めたかのように、深く、重いため息をつく。

そして、彼は、何も言えなくなった。

まるで、自分の無力さを、改めて、痛感させられたかのようだった。


                   ***


けたたましい警報音が夜空を引き裂き、開かずの踏切の遮断機が、まるで巨大な断頭台の刃のように、ゆっくりと、しかし容赦なく降りてくる。

カン、カン、カン、カン…死神のカウントダウンのような無機質な音が、神経を苛む。


高橋教授を乗せた黒塗りの高級車、そしてその後ろにぴったりと続く桜井の覆面パトカー。

二台は、運命に捕らえられたかのように、踏切の手前で完全に動きを止めた。

前にも後ろにも、逃げ場はない。


その閉塞感が現実味を帯びた瞬間、バックミラーに巨大な影が映り込んだ。

まるで地獄から這い出てきたかのように、一台の大型トラックが、重々しいエンジン音を低く響かせながら、ゆっくりと、しかし確実に、覆面パトカーの背後に迫る。

松田が昼間から何度も見かけていた、あのトラックだ。

巨大な車体は、夜の闇の中で、動く要塞のように不気味な威圧感を放っていた。


「来る…!」


松田が短く叫ぶのと、鈍い衝撃音が響くのは、ほぼ同時だった。

まるで巨大な鉄槌が振り下ろされたかのように、覆面パトカーの車体が激しく揺れる。


「何…!?」


桜井は、突然の衝撃に、短い悲鳴を上げた。

恐怖に凍りついた小鳥のような声だった。


次の瞬間、覆面パトカーは、抗いがたい巨大な力に押し流されるように、前方へと押し出された。

桜井は反射的にサイドブレーキを引き、フットブレーキを床まで踏み抜く。

しかし、トラックの圧倒的なトルクの前では、それは子供の抵抗に等しかった。

キーッ!とタイヤがアスファルトの上で悲鳴のようなスキール音を上げ、焼け付くゴムの匂いと共に白煙が立ち込める。

まるで地獄の釜の蓋が開いたかのようだ。


覆面パトカーは、もはや制御を失ったビリヤードの玉のように弾き飛ばされ、前方の高級車のリアバンパーに激しく追突した。

金属が歪み、軋む悲鳴。

そして、高橋教授を乗せた高級車は、巨大な手に弄ばれるように、無慈悲にも、けたたましく警報音を鳴らす踏切の中へと押し込まれていく。


カン、カン、カン、カン…! 警報音は、まるで死神の鐘のように、耳障りに鳴り響き、これから起こる悲劇を、冷酷に予告していた。


桜井は、悪夢の中にいるようだった。

全身から冷たい汗が噴き出し、ハンドルを握る手が滑る。

金縛りにあったかのように、体が動かない。


しかし、高級車の運転手は違った。

背後から迫るトラックの圧力、そして踏切の向こうに迫る列車の気配。

絶望的な状況で、彼は一瞬のうちに判断を下した。

踏切の先は、悪夢のように、赤いテールランプの壁が連なり、微動だにしない。

加速して踏切を突破しても、その先で立ち往生するだけだ。

彼は最後の賭けに出た。

まるで熟練の闘牛士が猛牛の突進を紙一重でかわすように、鋭くハンドルを切った!

車体は反対車線へと滑り込み、そのまま歩道の縁石に激しく乗り上げる。


ガシャン!!


衝撃と共に、車は歪んだ金属音を響かせ、罠にかかった獣のように、その場で動けなくなった。


その瞬間、松田は、まるで獣が咆哮するように、覆面パトカーの屋根に設置した赤色灯のスイッチを入れた。

赤い閃光が、周囲の闇を切り裂く。

彼はスピーカーのマイクを掴み、全開のボリュームで怒鳴りつけた。


「警察だ! 後ろの運転手、すぐに降りろ!!」


普段の彼の言動を知る者なら信じられないほどの、腹の底からの怒号だった。


しかし、トラックは嘲笑うかのように、覆面パトカーを押し続け、ハンドルを切る。

巨大な猪が邪魔な障害物を排除するかのように。

その狙いは、縁石に乗り上げ動けなくなった高級車だ。


「桜井、車を降りて、トラックを停めてくる!」


松田は叫ぶと、弾かれたようにシートベルトを外し、助手席から飛び出した。

よろめき、地面に手をつきそうになるのを必死に堪えながら、彼は駆ける。


周囲を見渡す。

この異常な騒ぎに、夜の静寂を破って、スマートフォンを構えた市民が集まり始めていた。

ハイエナの群れのように、遠巻きにこちらを窺っている。

SNSへの投稿、ライブ中継…彼らの目的が何であれ、このままでは人が集まりすぎる。

もしトラックが暴走すれば、犠牲者が出るのは必定だ。


松田は覚悟を決めた。

ホルスターから、冷たく重い回転式拳銃を引き抜く。

それはまるで、時代遅れの骨董品のようだったが、今の彼にとっては唯一の武器だった。

トラックの運転手に向けて、最後の警告を声を張り上げて宣告する。


「直ちにエンジンを停めなさい!!」


鬼神の叫びも、悪魔に取り憑かれたような運転手には届かない。

トラックは警告を無視し、覆面パトカーを無残に押し退け、高級車へと迫る。


松田はエミリアの忠告を思い出していた。

脳裏に響く、あの冷たくも的確な声。


『トラックが、突っ込んでくる? …そんなの、陽動の可能性が高いわね。…本命は、別にあるはずよ。…もし、あなたが、5発しか入らない、リボルバーしか、持っていないなら、…3発以上は、使っちゃダメ。…残りの2発は、…次の攻撃に備えて、…必ず、残しておくの。…いいこと? …自分の身は、自分で守るしかないのよ』


(くそっ…! エミリアの言う通りだ…!)


心の中で悪態をつく。

彼は祈るような気持ちで撃鉄を起こし、狙いを定めた。

無駄かもしれない。しかし、可能性に賭けるしかなかった。

トラックの巨大なフロントグリル、その奥にあるはずのラジエーターを。


引き金を引く。


肩に鈍い衝撃。


彼の全身が微かに震える。


訓練以外では、聞いたことのない、自分の銃が火を噴く瞬間。


周囲の全ての音が消え、時間が引き伸ばされたように感じた。


スローモーションのように、弾丸がトラックの前面に吸い込まれていくのが見えた気がした。


しかし、トラックは止まらない。

悪魔の乗り物は、なおも前進を続ける。


二発目、三発目――。


松田は撃ち続けた。

焦りと絶望が彼の心を支配する。

ちらりと覆面パトカーの運転席を見た。

ハンドルを握りしめ、フットブレーキを踏み続ける桜井の顔は、恐怖で青ざめている。

まるで死を覚悟したかのようだ。


(桜井を、守らなければ…!)


エミリアの忠告が再び脳裏をよぎる。


弾は残り二発。だが、今は――!


「桜井! 車を捨てて、早く逃げろ!!!」


松田の必死の叫び声と共に、最後の二発がトラックのラジエーターに向けて放たれた。

撃鉄が空撃ちする虚しい音。

もう松田に反撃する力はない。

今の自分は、格闘技を極めた一般人よりも弱いだろう。


スマートフォンを構え、傍観者よろしく撮影していた市民たちが、ようやく、ここが戦場であると認識し、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。


それでもトラックは、ゆっくりと、しかし確実に前進を続けていた。

松田が固まったまま、全弾撃ち尽くした拳銃を、ただ無力にトラックに向けて構えていると――


鋭い警告の声。

そして、三度、空気を切り裂く音。


松田は、何が起こったのか理解できなかった。

ただ、呆然と音のした方を見つめる。


そこにいたのは、桜井だった。

覆面パトカーから降り、松田の近くに移動していた彼女は、まるで熟練のガンマンのように、冷静に、そして正確に、トラックのラジエーターを撃ち抜いていた。


彼女の銃から放たれた三発の弾丸が、的確にラジエーターを捉える。

金属を貫通する鈍い音。

そして、ラジエーターから、白い蒸気が勢いよく噴き出した。

まるで、怪物が断末魔の叫びを上げているかのようだ。


松田の銃撃によるダメージも蓄積していたのだろう。

トラックは、まるで悲鳴を上げるかのように、徐々に動きを停め、やがて…完全に停止した。

力尽きた巨大な獣のように。


あたりに沈黙が訪れた。

嵐が過ぎ去った後の静けさ…だが、それは決して穏やかなものではない。

これから起こる、とてつもない出来事の、予兆のようだった。


「松田さん」


静寂を破ったのは、桜井の声だった。

獲物を狙う獣のように、鋭い視線をトラックの運転席に向けたまま、言葉を続ける。


「…私、プライベートではスポーツカーを乗り回すほどの車好きで、…それに、警察学校では射撃、一番だったんです。…だから、ラジエーターを破壊するのは…、松田さんより、私の方が上手です」


桜井の声は静かだったが、確固たる自信に満ち溢れていた。

全てを見透かしているかのようだ。

そして、これから狩りに出かけるかのように、手にしている拳銃を、トラックの運転席にしっかりと向け直した。


「…松田さん、…運転手を、逮捕してください!」


桜井の言葉は、まるで戦場での号令のようだった。

静かだが、有無を言わせぬ響きがあった。


その時、遠くで電車の音が聞こえてきた。

死神の足音のようであり、あるいは、新しい時代の幕開けを告げるファンファーレのようでもあった。

踏切の警報音が止んだ時、遮断機がゆっくりと、しかし確実に上がっていく。


そして、まるで全てを掻き消すかのように、警察車両の緊急走行を知らせるサイレンの音が、遠くから、しかし、はっきりと聞こえてきた。

それは、これから始まる新たな戦いの始まりを告げる雄叫びのようだった。

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