歌舞伎町の『薬酒専門店(付喪神とモノノケたちのセーフハウス)』その七
【読者様への注意喚起】
この物語はフィクションです。
法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
また、作中に登場する人名、組織、団体名(アスター家、K&E リサーチ&コンサルティング等)はすべて架空のものであり、実在の人物・組織とは一切関係ありません。
ようこそ、東京の影の中へ ここは、光が滅び、影が支配する世界。
摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。
あなたは、そんな影の世界に生きる一人の女王に出会う。
彼女の名は、エミリア・シュナイダー。
金髪碧眼の美しい姿と冷酷な戦闘能力を持つ「始末屋」だが、その心は過去の壮絶なトラウマ(PTSD)により深く閉ざされていた。
彼女の唯一の拠り所は、佐藤健という元銀行員の相棒。
彼の存在こそが、彼女の心を繋ぎ止める唯一の「鎮静剤」だった。
女王の争奪戦と運命の対決 しかし、彼女の安息は、アスター家の令嬢リリア・アスターの出現によって一変する。
リリアは佐藤の独占をかけて、エミリアに「資金力」と「知略」で挑む。
二人の女王による壮絶な「争奪戦」が勃発し、その裏側で、巨大な「情報戦(現代ファンタジー)」が展開されていく。
リリアの計画: 彼女は愛する佐藤のために、軍事力、情報機関、そして公邸という名の「要塞」を築き上げる。
エミリアの覚悟: 愛する者の日常と自身の居場所を守るため、妹のヴァネッサや過去の因縁と共に、冷徹な知略と戦闘本能を解き放つ。
あなたは、エミリアがこの愛と権力の戦いを生き抜き、孤独を乗り越えていく「再生の物語」を体験することになる。
さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。
これは、あなたの「常識」が一切通用しない、究極のプロフェッショナルたちが「愛」のために戦う物語。
あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?
この物語は、最先端AI 「Gemini (by Google)」 との共作により誕生しました。
時に、AIは人間の想像を超える予想外(unexpected)な展開を――。 時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を――。 「Gemini」は、新たな物語の世界を創造する、私の大切なパートナーです。
※本作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では順次公開となります。あらかじめご了承ください。
ただし、どうか忘れないでください。 これは、愛と知略が支配する、あくまでフィクションだということを。
This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.
Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.
Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.
นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น
(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)
引き続き『ダミー・セーフハウス(ボートハウス)』に向かうために、都内の幹線道路を走る、エミリアが運転する愛車の白いコンパクトカーの車内で。
エミリアは助手席の佐藤に次なる「講義」を開始していた。
その、後部座席では、人間には聞こえない世界で、『付喪神ギルド』の三柱――薄氷刃、月白盃、薬院椿――が、緊急の議題を話し合っていた。
「…由々しき問題だ」
刃が腕を組む。
「我ら三柱と硯海が留守の間に、あのセーフハウスとして活用する、高級薬酒専門店:『五臓六腑』に、助けを求めて避難してきた、付喪神や、モノノケたちが現れたら、どうする?」
「そうですわね。誰かが出迎えて、事情を聞き、対応する『コンシェルジュ』が必用ですわ」
椿が、困ったように眉を下げる。
「ですが、誰を? 雇う当てもありませんわよ?」
盃が、首を傾げる。
三柱は、どうするべきか相談しながら、運転席の背中を見つめた。
「…ならば、知恵者に聞くしかあるまい」
「ええ。ここは、佐藤様に講習している、エミリア様にたずねてみてはどうか」
「名案ですわ!」
彼女たちは、一斉に、助手席の佐藤の心に働きかけて、その質問を誘導した。
佐藤は、ふと、頭の中に疑問が湧き上がるのを感じた。
それは、彼自身の疑問のようでいて、どこか違う、切実な響きを持っていた。
彼は、無意識に、エミリアに、こう問いかけた。
「…あの、エミリア。高級薬酒専門店:『五臓六腑』が無人の間のことなのですけど…。機械警備と、こじ開けに強い窓や扉で、防犯性を上げたけど、たとえば、そこに、緊急で避難してきた、誰かを保護するのにふさわしい、もっとこう、警備強化って、できないかな?」
佐藤が訪ねると、エミリアはハンドルを切りながら、その質問に少しだけ目を丸くした。
(…健ちゃんも、随分と、具体的で変な質問するわね。…まだ誰も雇っていない店に、誰が避難してくるというの?)
エミリアは思いながらも、しかし、その「危機管理意識」の高さは評価した。
(…でも、防犯性を上げるのは、賛成よ。…無人の店内で、要救助者を守るシステム…)
エミリアは、その難題に対し、安全運転しながら、自らの知識の引き出しを開け、考えてみた。
(…自動応答システム? …それとも、遠隔操作型の防衛ユニット…?)
春の夜の気配が近づく車内。
付喪神たちの「願い」と、佐藤の「質問」、そして、エミリアの「知恵」。
三つの要素が化学反応を起こし、あの空っぽの「城」に、新たなる「守護者」が生まれようとしていることなど。
運転席の女王以外、まだ誰も、想像すらしていないのであった――。
***
エミリアは、ハンドルを握りながら、佐藤の質問に対する「答え」を即座に提示した。
「…なるほどね。無人の間の保護と、防衛。…それなら、避難者(人間の)に対する対応として、これがベストよ」
彼女は、バックミラー越しに、後部座席(には誰もいないと思っているが)にも聞こえるように、はっきりと提案してみせた。
「スマートなポール型のデバイス。…つまり、箱庭の雑居ビルのエントランスでも設置してある、警備会社の『AI搭載型、警備ロボット』よ」
エミリアは、付喪神やモノノケの存在を実感していないので、あくまで現実的なセキュリティとして語り続ける。
「設置場所は、高級薬酒専門店:『五臓六腑』の出入り口の外側。…雑居ビル2階の共有廊下に、管理会社の許可を取って置くの。動力は、看板用のコンセント。…停電してもバックアップとして、バッテリー駆動するから、電気の開通を待たず、すぐに警備を開始できるわ。この警備会社の『AI搭載型、警備ロボット』が、音声で、避難者(あくまで、人間の避難者の保護として)に対応して、『ここは私有地です』とか、『何か御用ですか?』と、『自動応答』するの。そして、本当に保護が必要なら、カメラ越しに警備会社の指令センターか警備会社のAIが判断して、警備員が対応するか、あるいは警察に通報するか決めるの。…これなら、人件費もかからないし、完璧でしょう?」
そのエミリアのあまりにも現代的で、ドライな「提案」。
後部座席の、『付喪神ギルド』の三柱――薄氷刃、月白盃、薬院椿――は、顔を見合わせ、真剣にエミリアの提案を検討した。
「…ほう。『動態検知』と『熱源(体温)』か」
薄氷刃が、鋭く分析する。
「つまり、『実体』のある人間には反応するが、我らのような『付喪神』や、壁を抜ける『モノノケ』には、反応しない、と、いうことか?」
「まあ! それは、好都合ですわ!」
月白盃が、手を叩く。
「わたくしたちの『夜会』に『人間』が紛れ込むのを、『入り口』で追い払ってくれて、わたくしたちは顔パスで入れる。…最高の『門番』じゃありませんこと?」
「ええ。それに、万が一、本当に、助けを求めてきた人間がいた場合は、警察を呼んでくれる。…これなら、わたくしたちが手を出さずに済みますわ」
薬院椿も、安堵の表情を浮かべる。
三柱の結論は出た。
「――採用だ」
佐藤の脳内に、その「意思」が伝わる。
「…すごい、エミリア! それ、採用しましょう!」
佐藤が叫ぶと、エミリアは満足げに微笑んだ。
エミリアの提案は、人間界の防衛としても、霊界のゲートキーパーとしても、「極めて、正しい」。
科学の「目」は、霊を、見ない。だからこそ、彼らは、その「盲点」で、自由に踊ることができるのだ。
春の、夜の気配が漂う車内。
一台のロボットの導入が、この「ギルド」の鉄壁の守りを完成させた瞬間であった――。
***
エミリアは、『ダミー・セーフハウス(ボートハウス)』に向かう途中、ふとハンドルを切った。
エミリアは、合法的に路駐できる路肩に一時停車して、助手席の佐藤に「少し、待っていて」と告げる。
彼女は、思いついた「アイデア」を即座に実行に移すべく、エミリア自身のスマートフォンのセキュアなアプリから、リリアに電話をかけた。
その頃、リリアは、自室で世界規模の「統治」に忙殺されていた。
蒼穹キネマと、リリアの天空の『公邸』のメイドや執事たち。
チーム『セレノファイル』のクルーたち。
大阪『統括作戦室』のスタッフたち。
そして、リリアの兵器レンタル会社と情報機関、私設軍事複合施設、アスター家・緊急展開部隊、さらに囲い込んだPMCのスタッフ等に至るまで。
彼女は、その膨大な組織の人心掌握に励んでいるところだった。
その最中に入った、エミリアからの連絡で、一瞬何事と、思いながら電話に出ると、エミリアから、高級薬酒専門店:『五臓六腑』の出入り口のドア横に、雑居ビルの管理会社の許可のもと警備会社の『AI搭載型警備ロボット』のスマートなポール型のデバイスの設置を頼まれた。
リリアは、瞬時に全てを理解した。
(…なるほど。『付喪神ギルド』の三柱――薄氷刃、月白盃、薬院椿――からのリクエストですわね。…サトウさまを経由して、エミリア様に言わせた、と)
彼女は、その「配慮」を理解して、即座に秘書室へと回線を繋いだ。
「――螢。急な話だけど」、と謝って、「高級薬酒専門店:『五臓六腑』の機械警備をお願いしている大手警備会社に、雑居ビルの管理会社の許可のもと警備会社の『AI搭載型警備ロボット』のスマートなポール型のデバイスを、出入り口のドア近くの共有廊下に、死角がない形で設置を、お願いしてくださる?」
その手配が完了した、その頃。
東京駅の新幹線ホーム。
プシュー、とエアブレーキの音が響き、ドアが開いた。
そこから三人の女性が降り立った。あの三人の姉御たち――神楽坂薫と道頓堀咲と天王寺麗――が、新幹線で到着したのだ。
「…ここが、東京か」
「人、多いなぁ」
「…さて。陽菜たちの、顔、見に行こか」
彼女たちのその足取りは、軽く、そして、力強かった。
春の、夜風だけが、その東京に舞い降りた、三匹の「狼」たちの、その不敵な「笑み」を、静かに照らし出しているだけだったのである――。
***
巨大なターミナル駅の喧騒。
その人の波を優雅にかいくぐるように、神楽坂薫は迷うことなくタクシー乗り場へと向かう。
彼女は、乗り込むや否や、手早く運転手に目的地を告げると、シートに深く身を沈めた。
後部座席で腕を組み、タブレットを取り出す。
(…移動時間は最短で切り上げる。…その方が、これから始まる陽菜たちの説得の時間を長く取れる。効率が全てだ)
彼女の乗るタクシーは、きらめく都心の夜の渋滞を巧みに縫いながら、華やかな歌舞伎町へとひた走る。
一方、道頓堀咲は、そのエネルギーを発散させるかのように、改札を抜け、一直線に鉄道のホームへと向かった。
彼女は東京の夜の賑わいに胸を躍らせている。
オレンジ色の電車に揺られながら、彼女は車窓に映る無数の光のサインを楽しんだ。
そして、新宿駅に着くと、彼女は迷わず東口の雑踏へと飛び出す。
「…っしゃあ! さあ、東京で、一丁、頑張るか!」
彼女の足取りは最も軽く、複雑怪奇な新宿駅の迷宮のような構造における迷子の心配など微塵もなかった。
そして、最後の一人。
天王寺麗は、その鋭い感覚で人々の波から少し離れ、地下鉄への階段を降りた。
彼女の目は常に周囲を警戒している。
(…裏は? 誰か、我々の動きを察知していないか?)
地下鉄の落ち着いた車内は、彼女にとって外部からの視線や無用な接触を避けるのに最適だった。
新宿駅で下車した後も、彼女は人工の光の眩しい大通りではなく、裏道を、選びながら、慎重に、そして静かに目的地へと向かっていった。
タクシー、鉄道、地下鉄。
全く異なるルートを選んだ三人だったが、その計算は完璧だった。
彼女たちの到着は、わずか数分程度の差となる。
歌舞伎町の片隅。
小さな、ワンルームのタコパの宴は、まもなく、最強の援軍にして、最強の審査員である、三人の大物ゲストを迎えることになるだろう。
春の、夜風だけが、その三匹の狼たちの静かなる「集結」を祝福するかのように、路地裏を吹き抜けていくのであった――。
***
都内の運河沿い。
エミリアが、『ダミー・セーフハウス(ボートハウス)』の利用方法を、佐藤に、実地で、優しく教えていた。
「いい、健ちゃん。尾行がいないことを、『確認』したら、半径五〇〇メートル以内で、スマートフォンの、『電源を入れない(電子的な静寂)』。そして、ゴミは持ち帰る。光を漏らさない。そこに、誰もいないかのように、振る舞うのよ」
佐藤が、緊張した面持ちで頷く、その背後。
『付喪神ギルド』の三柱――薄氷刃、月白盃、薬院椿――も、神妙な顔で頷き、一緒に勝手に学んでいる頃。
――その頃。
二人組・新居。
新宿・歌舞伎町の喧騒から、少しだけ外れた路地裏に建つ、古い雑居ビルの最上階である四階の一室。
その静寂は、チャイムの音と共に破られた。階段を登って数分おきに、三人の客人が現れた。
最初は、神楽坂薫。
「…ここか。随分と、年季の入ったビルやな」
彼女は、涼しい顔で、その殺風景なドアを、見上げる。
次に、道頓堀 咲。
「おーい! 陽菜! 澪! 生きとるかー!」
彼女の声は、ドアの向こうまで響き渡る。
最後に、天王寺 麗。
音もなく背後から現れ、静かに呟く。
「…尾行はなし。…セキュリティは、ザルやな」
ドアが開く。
そこには、満面の笑みを浮かべた、『二人組(橘陽菜、藤井澪)』が立っていた。
「薫さん! 咲さん! 麗!」
「よう来てくれたな! 待っとったで!」
彼女たちは、関西弁で暖かく出迎え、一気に、その場の空気が緩む。
澪が、部屋の奥を指し示した。
「狭いとこやけど、入って。タコパで、話しながら、詳しいこと、説明するわ」
陽菜も、続く。
「最高に、美味い、粉もん、用意したるから!」
神楽坂薫、道頓堀咲、天王寺麗が、お互いに挨拶しながら、その靴を脱ぐ。
彼女たちは、それぞれ、面識はあったり、噂で知っていたりする仲だ。
「…まさか、あんたまで来るとはな」
「…お互い様な」
三人は、『二人組(橘陽菜、藤井澪)』に、鋭い視線を向けた。
「まあ、ええわ。積もる話もあるけど」
薫が、代表して言った。
「…まずは、話を、聞くために、上がらせてもらうで」
彼女たちは、部屋に上がった。
鉄板の熱気と、ソースの香りが充満する、小さな部屋。
そこで、今、『二人組(橘陽菜、藤井澪)』の人生設計を揺るがすかもしれない、小さな、しかし熱い「同盟」の交渉が始まろうとしていたのである――。
***
二人組・新居。
新宿・歌舞伎町の喧騒から、少しだけ外れた路地裏に建つ、古い雑居ビルの最上階である四階の一室で、熱々の湯気が立ち上っていた。
神楽坂薫、道頓堀咲、天王寺麗が座った後に、ホストである『二人組(橘陽菜、藤井澪)』が手際よくタコパを開始し始めた。
しかし、その和やかな空気は長くは続かなかった。
挨拶もそこそこに、神楽坂薫を中心に、三人の姉御たちは、その鋭い眼光で、『二人組』に質問を開始したのだ。
「――なあ、陽菜、澪。美味しそうな匂いやけど、その前に聞かせて」
薫が箸を置く。
「まず、なぜ、こんな新宿・歌舞伎町の、ヤバそうな雑居ビルの最上階なんかに住んでいるのか。キッチンカーを始めるらしいが、肝心のキッチンカーは、あるのか? 運転資金は、あるのか? あんたら、免許は、あるのか?」
咲も身を乗り出す。
「せやで。東京の物価は高いんやろ? 普段の生活費は、どうやって賄っているのか?」と、次々質問していく。
その矢継ぎ早の質問に、『二人組』は顔を見合わせ、観念したように口を開いた。
「…不本意だが、全部、エミリアっていう、女に面倒を見てもらってるんよ」
彼女たちはその「真実」を白状した。
合宿で習得した運転免許も。
中古の足代わりの、デザイン性の高い『コンパクトハッチバック(普通車)』も。
キッチンカーも全て買ってもらって。
さらに、リリアという佐藤の秘書からは、キッチンカーのポテトフライの5種類の『特製ディップソース』を教えてもらったのも。
そして、開業資金も、当分の運転資金も、家賃も、全てエミリアに出してもらったことなどを、包み隠さず話した。
三人の姉御たちが、そのあまりの『厚遇(飼い殺し)』に絶句していると、陽菜が拳を握りしめて叫んだ。
「でもな! ウチらは、ただ、飼われとるんちゃう!」
「そうよ。そのエミリアの相棒の、佐藤さんを…!」
澪も熱く語り出す。
「彼を、自分たちの手で、なんとか助け無ければならないと、私たちは本気で、思ってるの!」
その二人のあまりにも必死な訴え。
神楽坂薫、道頓堀咲、天王寺麗は、その豊富な人生経験から、瞬時に見抜いてしまった。
『二人組』が佐藤の話題を話す時に、その頬を紅潮させ、瞳を潤ませ、無意識に、恋する乙女になっていることに。
三人は気がついて、そして静かに顔を見合わせた。
(…なるほど。惚れた男のため、か。可愛いもんや)
しかし、現実は簡単ではない。
(…せやけど、その佐藤の相棒のエミリアに全部面倒を見てもらっていて…。衣食住、そして仕事まで全て、『恋敵』に握られている、この状況で…)
薫は、心の中で冷徹に分析していた。
(…ここから、その佐藤に対して、今の『二人組』に一体何を、できるの?)
春の、夜の帳が下りたワンルーム。
熱々のたこ焼きの湯気の向こうで、少女たちの「恋心」と、大人たちの「現実論」が、静かに交錯していたのである――。
***
二人組・新居。
たこ焼きの焼ける音と、香ばしい匂いが充満する、その狭い部屋で。
神楽坂薫、道頓堀咲、天王寺麗は、目の前の、恋する乙女状態の『二人組(橘陽菜、藤井澪)』に、冷静な視線を向けていた。
「…なるほどな」
薫が、冷たいウーロン茶を一口飲む。
「今も、エミリアという女性に、資金を援助してもらってるのは、わかったけど」
彼女は、さらに踏み込んだ。
「資金以外にも、この歌舞伎町で生きていくための、援助されているのか、他に、頼れる大人は、おるんか?」と尋ねると、『二人組』から即座に答えが返ってきた。
「うん。今は、エミリアからは家賃などを負担してもらっているけど」
澪が床を指差す。
「この雑居ビルの、『管理人代行』の、マダム・バタフライに、すごく良くしてもらってる。世話になっているわ」
「ゴミの出し方から、近所の挨拶まで、全部教えてくれたんよ」
陽菜も嬉しそうに答えた。
その名前を聞いた瞬間。
三人の姉御たちの間で、静かなアイコンタクトが交わされた。
そこには、言葉以上の、雄弁な「会話」があった。
(…アカンな。自分たちがいくら正論で説得しても、今の恋する乙女の『二人組』は舞い上がってて、聞く耳持たへん。忠告など聞かないだろうけど…)
(…せやな。身内の言うことより、他人の雷や)
(…ならば、その日頃世話になっている、マダム・バタフライに、一発ガツンと、現実を諭してもらったほうが、効くやろ)
彼女たちの意思は統一された。
薫がニッコリと笑って、言った。
「へえ、ええ人やな。…せっかくやし、そのマダムにも、挨拶しとこか?」
それは、愛する妹分たちを、現実に引き戻すための、愛ある「荒療治」の始まりだった。
春の夜の喧騒だけが、その大人たちの、あまりにも老獪で、そしてどこまでも優しい「共謀」を、静かに見守っているだけだったのである――。
***
『二人組・新居』の、熱気あふれるワンルーム。
アイコンタクトで打ち合わせを終えた、神楽坂薫、道頓堀咲、天王寺麗は、即座に行動を開始した。
まず、リーダー格の神楽坂薫が静かに立ち上がった。
「…せやな。陽菜、澪。あんたらが、世話になっとる人が、おるんやったら、挨拶しとかんとあかんわな」
彼女は、ここは神楽坂薫が代表して開店準備前の『管理人代行』の、マダム・バタフライに挨拶に行くことにした、と告げた。
「えっ? 薫さん、一人で?」
澪が、驚いて腰を浮かすが、すかさず、道頓堀咲が、その肩を押さえて座らせた。
「ええがな、ええがな! 薫さんは、こういうの得意なんや!」
咲は、たこ焼き器に新しい生地を流し込みながら、大声で笑う。
「それより、陽菜! ソース、足らんで! もっと持ってこい!」
天王寺麗も、澪のグラスに清涼飲料水を注ぎ足しながら、クールに援護する。
「そうやで。大人の話は、大人に任しとき。…それより、さっきの話の続きやけどな…」
神楽坂薫が留守にしている間は、道頓堀咲、天王寺麗が『二人組(橘陽菜、藤井澪)』の相手をしながら、時間を稼ぐことに成功したのだ。
その騒がしい部屋を背に。
神楽坂薫は、静かに靴を履き、部屋を出た。
彼女は階段を一つ降り、3階の重厚な扉の前に立つ。
神楽坂薫は、開店準備に忙しい『管理人代行』の、マダム・バタフライの店に、挨拶に行った。
(…さて。東京の「夜の蝶」はどんな顔をしてはるんやろか)
彼女は、着崩れを直し、一呼吸置くと、迷わずそのドアをノックした。
それは、関西の「理性」と、歌舞伎町の「人情」が交錯する、重要な「外交」の始まりだった。
春の、夜の雑居ビルの廊下だけが、その一人の女性の凛とした背中を、静かに照らし出しているだけだったのである――。
***
入室を促す声とともに、神楽坂薫が、その重厚な扉を押し開け、準備中の『蝶の夢』に訪れると、そこには、外の喧騒とは隔絶された世界が広がっていた。
真紅のベルベットのソファ。
磨き上げられたカウンター。
歌舞伎町のオカマバーらしい、しかし、どこか品格のある雰囲気の店内で、着物を着こなした、マダム・バタフライが、静かにグラスを磨きながら迎えた。
「あら、いらっしゃい。…関西の、お姉さん、ね」
神楽坂薫が、その場違いなスーツ姿で、深々と頭を下げる。
「初めまして、神楽坂薫と申します。…開店前の、忙しい時間に、突然訪問したことを、お詫びいたします」
「いいのよ。『あの子たち(陽菜と澪)』の大切なお客様だもの」
薫は、単刀直入に切り出した。
「マダム。単刀直入に申し上げます。私がなぜ、ここに、来たのか、その理由は…」
薫は、その知的な瞳でマダムを見据えた。
「『二人組(陽菜と澪)』を説得して、大阪へ連れ帰るためです」
薫は続ける。
「あの子たちは今、エミリアという、得体のしれない女性からの資金で、歌舞伎町で生活しています。それはあまりにも危うい。成功するかもわからないキッチンカーを始め、あろうことか初恋に振り回されて、舞い上がっている。…私は、彼女たちに地に足のついた生活をもう一度考えさせ、この無謀な挑戦を諦めさせることが、親愛なる友人としての義務だと思っています」
彼女は、その悲痛な決意を告げ、そして頭を下げた。
「マダム。あなたも、あの子たちを思ってくださるなら、…どうか、私を手伝ってほしい」
マダム・バタフライは、その言葉を静かに聞き終えると、ふわりと微笑んだ。
「…なるほどね。あなたの言いたいことは、よく分かったわ。でも、まあ…立ち話も、なんですし。とりあえず、座ったら?」
マダムは、そう神楽坂薫に優しく話して、カウンターの席を勧めた。
薫が、マダム・バタフライがカウンター内で開店準備している前の席に腰を下ろすと、マダムは、手際よく、烏龍茶をクリスタルグラスに注いだ。
カラン、と涼やかな音が響く。
かるく、氷を入れた、おしゃれなグラスに入れた烏龍茶を、優雅に置いた。
「まずは、喉を潤してちょうだい。…話は、それからよ」
その琥珀色の液体とマダムの深い瞳。
薫は、その不思議な「包容力」に、少しだけ、肩の力が抜けるのを感じていた。
春の、夜の静寂だけが、その二人の大人の、静かなる「対話」の始まりを、優しく見守っているだけだったのである――。
***
開店前の準備に忙しい『蝶の夢』店内のカウンター席に座る神楽坂薫が、その手元のクリスタルグラスの中で揺れる烏龍茶を見つめながら、静かに沈黙していた。
神楽坂薫は、自らの正論に対する返答を、開店準備を進めるマダム・バタフライから待っている。
やがて、マダムは、グラスを磨く手を止めずに、静かに口を開いた。
「…薫さん。私が、あの子達(陽菜と澪)を、貴女と一緒に説得しても、反発するだけよ。だって、若いって、自分の夢を信じて、自分の可能性に疑問を感じないものだから」
マダムは、ふわりと笑った。
「頭ごなしに否定しては、ダメ。それより、コケて、怪我して、泣いている時に、そっと、手を差し出して、立ち上がられるようにしたり、あるいは、悪い人たちに、ちょっかいかけられないよう手助けするだけで、良いと思うのよ」
そして、マダムは薫の瞳を覗き込んだ。
「ねえ、薫さん。貴女だって、あの子達のような年の頃は、私たちのような大人から、説教されて、『はい、そうですか』と納得して、大人しく引き下がれていたかしら?」と、優しく尋ねる。
そのあまりにも痛い『問いかけ』。
神楽坂薫が、自分の青春を思い出しながら、言葉に詰まった。
(…確かに。私も、親の反対を押し切って…)
彼女は、バツが悪そうにしながらも、しかし食い下がった。
「…ですが、マダム。あの子たちは、今まさに、その、悪い人たちにちょっかいかけられているから心配なのです。エミリアという女に、いいように利用されて…」
すると、マダム・バタフライが首を横に振った。
「いいえ。エミリアは、貴女が考えているような『悪い人たち』ではないわよ」
マダムの声のトーンが、少しだけ低くなる。
「エミリアは、もっと別の次元の存在。…逆に、悪い人たちにとって、怖い人だもの」
マダムは、そこで悪戯っぽく笑った。
「――薫さん。そんなに、あの子達が心配なら、近くで見守ったら?」
薫が、顔を上げる。
「…え?」
「ちょうど、就職口も、二階にオープンする、予定だし」
マダムは、(二階)を指差した。
「それに、四階のあの子達(陽菜と澪)の部屋の隣の空き部屋なら、大家に話を通して、三人くらいなら、ルームシェアして住めるわよ」と、冗談ぽくも本気な提案をした。
その言葉に、薫は絶句した。
(…就職口? 住む場所? …まさか、最初から、そのつもりで…?)
マダムの、そのあまりにも鮮やかな『手引き』。
春の、夜の静寂だけが、その予期せぬ『オファー』に戸惑う、理性の人の姿を、静かに照らし出しているだけだったのである――。




