表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東京影譚 ~エミリア、影を紡ぐ者~  作者: ミルティア


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

384/427

歌舞伎町の『薬酒専門店(付喪神とモノノケたちのセーフハウス)』その六

【読者様への注意喚起】


この物語はフィクションです。

法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

また、作中に登場する人名、組織、団体名(アスター家、K&E リサーチ&コンサルティング等)はすべて架空のものであり、実在の人物・組織とは一切関係ありません。


ようこそ、東京の影の中へ ここは、光が滅び、影が支配する世界。

摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。


あなたは、そんな影の世界に生きる一人の女王に出会う。

彼女の名は、エミリア・シュナイダー。

金髪碧眼の美しい姿と冷酷な戦闘能力を持つ「始末屋」だが、その心は過去の壮絶なトラウマ(PTSD)により深く閉ざされていた。

彼女の唯一の拠り所は、佐藤健という元銀行員の相棒。

彼の存在こそが、彼女の心を繋ぎ止める唯一の「鎮静剤」だった。


女王の争奪戦と運命の対決 しかし、彼女の安息は、アスター家の令嬢リリア・アスターの出現によって一変する。

リリアは佐藤の独占をかけて、エミリアに「資金力」と「知略」で挑む。

二人の女王による壮絶な「争奪戦ラブコメ」が勃発し、その裏側で、巨大な「情報戦(現代ファンタジー)」が展開されていく。


リリアの計画: 彼女は愛する佐藤のために、軍事力、情報機関、そして公邸という名の「要塞」を築き上げる。


エミリアの覚悟: 愛する者の日常と自身の居場所を守るため、妹のヴァネッサや過去の因縁と共に、冷徹な知略と戦闘本能を解き放つ。


あなたは、エミリアがこの愛と権力の戦いを生き抜き、孤独を乗り越えていく「再生の物語」を体験することになる。


さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。

これは、あなたの「常識」が一切通用しない、究極のプロフェッショナルたちが「愛」のために戦う物語。


あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?


この物語は、最先端AI 「Gemini (by Google)」 との共作により誕生しました。

時に、AIは人間の想像を超える予想外(unexpected)な展開を――。 時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を――。 「Gemini」は、新たな物語の世界を創造する、私の大切なパートナーです。


※本作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では順次公開となります。あらかじめご了承ください。


ただし、どうか忘れないでください。 これは、愛と知略が支配する、あくまでフィクションだということを。

This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.


Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.


Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.


นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น


とある、古びたリサイクルショップの片隅で、『付喪神ギルド』の三柱――薄氷刃、月白盃、薬院椿――は、困り果てていた。


目の前には、仲間になりたそうにしている、白熱電球の付喪神。

しかし、霊体である薄氷刃、月白盃、薬院椿では、物理的に財布を持たず、買い取って連れて行くのは無理なので、彼女たちは、蒼穹キネマで、統合的な組織づくりに励んでいた、リリアに遠隔で頼むことにした。


その「願い」を受信したリリアは、ふとペンを止めた。


(…『付喪神ギルド』の三柱から頼まれたことに、わたくしが動くのは簡単ですけれど。…そもそも、あの高級薬酒専門店:『五臓六腑ごぞうろっぷ』は、サトウさまの店として、わたくしは経済的に支援しているだけなので…。ここは、オーナーであるサトウさま自身が、白熱電球のスタンド、購入するのが、良いのでは)


彼女は、そう考え、即座に、佐藤のスマートフォンに、セキュアなアプリで連絡を入れた。


プルルル、と音が鳴る。

しかし、出たのは佐藤ではなかった。

佐藤の代わりに、リリアからの連絡にエミリアが出て、冷たく言い放つ。


「リリアさん。言ったはずよ。今日は、健ちゃんは、外出禁止、ネット禁止」


彼女がそう告げるも、リリアが食い下がった。


「まあ、エミリア様。過保護に、保護ばかりしていては、サトウさまに良くないですわ」


リリアは畳み掛ける。


「勤務中なら、業務優先でサトウさまが、出かける時に護衛が出来ないという理由で、エミリア様が、サトウさまの外出禁止と、指示なされるのは理解できますが。ですが、今はもう、定時後。そんなに心配なら、エミリア様が直接サトウさまの護衛すれば、よいでは、ありませんか」


そう答えられ、エミリアは一瞬、言葉に詰まった。

エミリアも、そのリリアの「正論」に納得せざるを得なかった。


それに、彼女には別の「計算」もあった。


(…そうね。骨董品の目利き――もちろん、リリアさんの非科学的な感覚ではなく、私の、市場ニーズや市場価格の変動の予想など合理的な基準での判断を、健ちゃんに教える、良い機会か)


エミリアは、そう考え、佐藤を呼びつけた。


「健ちゃん。お買い物に行くわよ。…着替えて」


佐藤に防弾防刃ベストを、着せて、さらに、その上からジャケットを羽織らせる。

そして、二人は、エミリアの愛車の白いコンパクトカーで、あのか弱い、白熱電球のスタンドが置かれている、とある古びたリサイクルショップに向かったのである。


春の、その穏やかな夕暮だけが、そのあまりにも重装備で、そして、どこまでも過保護な「デート(?)」の始まりを、静かに照らし出しているだけだったのである――。


                    ***


日本標準時4月15日午後6時。

晴れ間が広がる都内。


夕闇が迫る東京の幹線道路。

エミリアの愛車の白いコンパクトカーは、滑るように走っていた。


その助手席に、乗る佐藤は、防弾ベストの窮屈さに耐えながら、ハンドルを運転するエミリアから、熱心に耳を傾けていた。


「いい、健ちゃん。骨董品の目利きとは、直感ではないわ。『情報』の分析よ。その品物の『由来』、『素材』の劣化具合、そして、市場での『流通量』。…それらを、総合的に判断するの」


彼女は、骨董品の目利きの仕方を口頭で学びながら、目的地であるとある古びたリサイクルショップに向かう。


佐藤は、その講義に深く頷いた。

元・銀行員としての、担保評価などの最低限の知識はあったから、エミリアからの説明をスポンジのように吸収し、学びながら向かう。


やがて、大きな交差点の赤信号で、エミリアの愛車の白いコンパクトカーが停車した時、佐藤はふと息を抜いて無意識に車窓を見ると、隣の角にあるコンビニの店内で、見覚えのあるスーツ姿の男たちが、鋭い視線を配っているのに気が付き、目を凝らした。


松田たち『特別捜査班』だった。

彼らは、コンビニ店内の商品を選ぶふりをしながら、しかし、その目はさりげなく、ATM周辺を監視している様子だった。


「…あ、松田さんたちだ」


エミリアが、その佐藤の視線を追う。


「…なるほど。今日は、年金支給日だから」


彼女は、瞬時に状況を分析した。


「年金受給者の高齢者を狙った、ひったくりか、詐欺の警戒でもしているのじゃ、ないの?」


その答えに、佐藤もハッとした。

元・銀行員として、彼の中の記憶が蘇る。


そうだ。偶数月の15日。

年金支給日は、銀行の支店でも、お年寄りが大金を下ろして帰るため、警戒するよう言われていたなと思い出す。


あの頃の「日常」と、今の防弾ベストを、着込んだ「非日常」。

そして、ガラスの向こうで地道な任務に就く、刑事たちの「現実」。

赤信号が青信号に変わって、エミリアの愛車の白いコンパクトカーが走り出すまで、佐藤は何も言わずに、ただ松田たち『特別捜査班』の様子を車内から観察していた。


二つの、世界は、決して交わることなく、ただ、一瞬だけ、すれ違っていったのである――。


                    ***


エミリアたちは、その愛車の白いコンパクトカーを走らせ、目的地のすぐ近くのコインパーキングに駐車して、その店へと向かう。


そこは、とある古びたリサイクルショップ。

夕暮れの光と埃の匂いが充満する、静かな空間だった。


エミリアは、迷うことなく、店の片隅へと歩を進める。

そこに、埃を被った、一台の『白熱電球のスタンド』が置かれていたのを確認して、彼女は心の中で頷いた。


(…これが、リリアさんが言っていた、商品(付喪神)ね)


彼女は、それを手に取ると、次なる「指示」を佐藤に出した。


「ねえ、健ちゃん。このリサイクルショップで、ついでだから、あの高級薬酒専門店:『五臓六腑ごぞうろっぷ』の店内に飾る商品があったら、ついでに、買っちゃうから。健ちゃんが気になるものがあったら、教えて。私も確認するから」


佐藤は、その許可を得て、店内を確認しながら、宝探しのように、なにか興味惹かれるもの、ないかと探していると、カチ、コチ、カチ、コチ…。


静かな店内に、規則正しい音が響いているのに気づいた。

彼は、その音の元へと近づく。


そこには、かちこちと、振り子が振れるたびに音がしている、ゼンマイ式振り子時計が時を刻んでいた。


古びた木製の筐体。

真鍮の振り子。


(…いいな。この音)


佐藤は、直感的に、エミリアが手にしている、白熱電球のスタンドと、一緒に飾ったほうが良いのでは、と思い、「あの、エミリア。これ、どうかな?」と、エミリアに相談した。

エミリアは、その古時計を見つめた。


(…ゼンマイ式。…定期的にゼンマイを巻かなきゃいけないわね。…また、随分、世話がかかる物を、見つけたわね)


彼女は、そう思いながらも、その値札を見て、微笑んだ。


「…いいわよ。値段もお手頃だし。リリアさんの予算で、一緒に買うことにしましょう」


その一連の様子を、霊的な視点から『見ていた『付喪神ギルド』の三柱――薄氷刃、月白盃、薬院椿――は、顔を、見合わせた。


「…ほう。ゼンマイ式か。定期的にネジを巻く。…佐藤の規律を正すには、良い修行になるな」


薄氷刃が、満足げに頷く。


「あらあら。あのカチコチというリズム。お酒を飲む時のBGMには、最高ですわね」


月白盃が、楽しげに笑う。


「ええ。まるで心臓の音のようですわ。…お店に命が吹き込まれるようで、素敵です」


薬院椿が、優しく微笑む。


彼女たちは、それぞれ、論評していた。

新たな仲間(電球)と、新たな家具(時計)。


「五臓六腑」という城のピースが、また一つ、埋まったのである。


春の、その穏やかな夕暮だけが、その懐かしく、そしてどこまでも温かい「買い物」の風景を、静かに照らし出しているだけだったのである――。


                    ***


とある、古びたリサイクルショップのレジカウンター。

エミリアは、その店主に現金を、手渡した。


佐藤が選んだ、『ゼンマイ式振り子時計』と、『白熱電球のスタンド(付喪神)』。

彼女は、その二つの「戦利品」を購入し、佐藤と共に、丁寧に梱包された、それらを、愛車の白いコンパクトカーへと運び込んだ。


エンジンをかけ、車を出しながら、エミリアはふと、考えた。


(…健ちゃんには、意外と見る目が、あるのかもしれない。…次に、もっと、健ちゃんの本格的な、骨董品の、目利きの練習として)


彼女の思考が裏社会の地図を検索する。


(…裏社会のコネを使って、どこかの胡散臭いオークションにでも、健ちゃんを案内しようかしら…)


そこなら、贋作、盗品、呪物、なんでも、ありだ。

彼の「目」を鍛えるには、最高の「実戦場」になるだろう。


しかし、エミリアは、即座にその「名案」を却下した。


(…ダメね。あんな胡散臭いオークションに、純粋な健ちゃんを連れて行ったら、トラブルに巻き込まれるリスクが高い)


エミリアは瞬時にリスク評価を終わらせ、諦めた。

彼女はハンドルを切った。


「…行きましょう、健ちゃん」

「え、どこへ?」

「あなたのお店。高級薬酒専門店:『五臓六腑ごぞうろっぷ』に」


彼女は、その最も安全で、そして確実な「目的地」へと向かうことにした。

助手席の佐藤は、自らがたった今、裏社会のディープな「社会科見学」を回避したことなど知る由もなく、膝の上の「古時計」を嬉しそうに撫でている。


春の、その穏やかな夕暮だけが、その過保護な女王の、そのあまりにも賢明な「判断」を、静かに照らし出しているだけだったのである――。


                    ***


夕闇が濃くなるにつれ、街は、その妖しい輝きを増していく。

エミリアが運転する、愛車の白いコンパクトカーは、順調に歌舞伎町に向かって走っている。


助手席の佐藤は、車窓に映る、無数の光のサインと、欲望が渦巻く華やかな歌舞伎町の様子を、少し不安げに見ていた。


信号待ちで、車が止まる。

エミリアは、その佐藤の視線に気づき、ハンドルを指でトントンと叩きながら、楽しげに言った。


「ねえ、健ちゃんも、こういうところで、遊んでみたい? もし、遊びたいなら、ちょっと、そのへんの人に、聞いてくるけど?」

「…え?」

「この街の、今のトレンドとか、安全なお店とか。優しく尋ねれば、きっと、洗いざらい教えてくれるわよ?」


佐藤は、直感的に嫌な予感がして、即座に首を横に振った。


「大丈夫! 全く、興味ないから!」


彼は全力で断りを入れた。

その佐藤の必死な拒絶に、エミリアは「あら、そう?」と肩をすくめた。


「もう、健ちゃんったら心配性ね。別に、変なことしないわよ」


彼女は、アクセルを踏み込みながら、機嫌よく答えた。


「ただ、近頃の歌舞伎町がどうなっているか、話を聞いてくるだけよ」


そのあまりにも一般人の感覚とはかけ離れた「フィールドワーク」の提案。

佐藤は、その助手席で冷や汗を拭いながら、ただ早く目的地に着くことだけを祈っていた。


春の、夜の光だけが、その二人のあまりにも認識のズレた「ドライブ」を、極彩色に照らし出しているだけだったのである――。


                    ***


エミリアが運転する白いコンパクトカーは、歌舞伎町の喧騒の縁にある、二人組・新居の雑居ビル近くの、有料駐車場に駐車して、そのエンジンを止めた。


「さあ、着いたわよ、健ちゃん」


佐藤は、車を降りると、慎重に荷物を手にした。

彼は荷物持ちとして、先程購入したばかりの、『ゼンマイ式振り子時計』と、『白熱電球のスタンド(付喪神)』を、まるで壊れ物を扱うかのように大切に運び出す。


(…重くはないけど、年代物だから慎重に運ばないと…)


二人は、二人組・新居の雑居ビルの2階――そう、高級薬酒専門店:『五臓六腑ごぞうろっぷ』に、向かうため、雑居ビルの谷間の薄暗い道を歩く。


その道中。

佐藤は、すれ違う派手な服装の男女や、遠くから聞こえる呼び込みの声に、落ち着かない様子だった。


この時間に歌舞伎町に訪れたことがほとんどなく、彼は、おっかなびっくり、きょろきょろ見ていた。


佐藤が、周囲を気にしている間に、エミリアは、雑居ビルの前に立つと、佐藤に呼びかけ階段を登り、慣れた感じに、店舗のドアの前に立っていた。


彼女は手際よく、出入り口のドアを解錠すると、ガチャリ、と重厚なロックが外れる音が響く。


重厚なドアを押し開けた。

自らのスマートフォンのライト機能を使い、まだ電気も水道も開通していない、真っ暗な室内を照らし出す。


白い光の束が闇を切り裂き、真新しいカウンターと金庫を浮かび上がらせる。

エミリアは、リリア(螢)から受け取った、鍵と暗証番号とカードキーを使用して、機械警備を解除した。


「――どうぞ、オーナーさん」


彼女は、振り返り、佐藤にも入室を促した。

その暗闇の奥に広がる「城」。


佐藤は、ゴクリと生唾を飲み込み、その一歩を踏み出した。

春の、夜の気配だけが、その未完成の城の主の誕生を、静かに見守っているだけだったのである――。


                    ***


エミリアのスマートフォンの明かりだけが、室内を照らす。

静寂の高級薬酒専門店:『五臓六腑ごぞうろっぷ』店内。

エミリアは佐藤にテキパキと指示を出した。


「健ちゃん。さっきの『白熱電球のスタンド(付喪神)』をカウンターに置いて。それから、その『ゼンマイ式振り子時計』を壁にお願い」と指示して、佐藤は言われた通り、『白熱電球のスタンド』をカウンターに丁寧に置いて、次に、歴史の重みを感じる『ゼンマイ式振り子時計』を壁にかけようとすると、彼は手を止めた。


リフォームされたばかりの、真新しい壁。

そこには、『ゼンマイ式振り子時計』を壁にかけられるところがなかったので、彼は困り果ててエミリアに振り返って、「あの…壁に、かけられるところが、ないけど」とエミリアに尋ねる。


エミリアが呆れたように部屋を見渡して、壁の一点を指差した。


「何、言ってるの。あそこに、『ゼンマイ式振り子時計』をかけるのに、ちょうどよい所があるじゃない」と、指差す先を佐藤が見ると、そこには、確かに、佐藤がちょっと背伸びすれば届く位置。


そして、今後、『ゼンマイ式振り子時計』のゼンマイを巻くにもちょうどよい高さに、しっかりとした真鍮製の『ゼンマイ式振り子時計』をかける釘があって、鈍く光っていた。


佐藤は(…あれ? さっき見た時は無かったような…?)と、なんで気が付かなかったのだろうと不思議に思いながら、その『ゼンマイ式振り子時計』を壁にかけ、付属のねじ巻きでキリ、キリ、とゼンマイを巻いていた。


コチ、コチ、コチ…。


店内に、初めて「時」を刻む音が響き始めた。


その様子を『付喪神ギルド』の三柱――薄氷刃、月白盃、薬院椿――が、霊的な次元から見守りながら、議論していた。


そう。あの「釘」は、元々そこにはなかった。

『ゼンマイ式振り子時計』をかける、仕掛けを佐藤が用意していなかったため、代わりに『付喪神ギルド』の三柱が能力を行使して、瞬時に用意したことによるものだったのだ。


薄氷刃が、その主君の至らなさに憤る。


「…嘆かわしい! 段取り八分というものを! このような準備不足では、戦にならぬ! 今夜、夢の中で、滝行で、鍛え直す」と吠え、月白盃は、まあまあ、と笑う。


「よろしいじゃありませんか。結果的に、時計はかかりましたわ。細かいことより、結果、良ければ」と考え、薬院椿は、心配そうに、佐藤を見つめる。


「ええ。佐藤様は、お疲れなのですわ。こうした些細な失敗は疲労の蓄積が原因ですわ…」と話していた。


春の、夜の気配だけが、そのあまりにも過保護な付喪神たちに守られた、幸せな佐藤の背中を静かに見守っているだけだったのである――。


                    ***


無事に、高級薬酒専門店:『五臓六腑ごぞうろっぷ』店内の、カウンターに、『白熱電球のスタンド(付喪神)』が鎮座し、壁に『ゼンマイ式振り子時計』をかけることができたので、エミリアは満足げに佐藤に告げた。


「――よし。こっちは、これでいいわ。今日はこのまま『ダミー・セーフハウス』を見に行きましょう」


彼女は、悪戯っぽく付け加える。


「健ちゃんが良ければ、そのまま泊まっても、良いし」


その甘い誘惑に佐藤がドギマギしていると、エミリアは佐藤を促して退室の手順を踏んだ。

ピッ、と電子音が鳴り、機械警備をセットして鍵をかけ、二人は雑居ビルを後にした。


そのままエミリアの愛車の白いコンパクトカーを駐車してある、有料駐車場に向かい歩き出す、二人。


その背後を三つの「影」が追随していた。

『付喪神ギルド』の三柱――薄氷刃、月白盃、薬院椿――である。


「ほう。次は『水上の城』か」


刃が、興味深そうに言う。


「人間たちが作る『セーフハウス』というものの、使い方を学ぶために、エミリア様についていくことにしましょう」

「ええ。佐藤様が、変な虫(悪い女)に刺されないよう、見守りませんと」


三柱は、そう決めた。

有料駐車場で、二人が車に乗り込む。


エミリアが運転席。

佐藤が助手席。

そして。


『付喪神ギルド』の三柱――薄氷刃、月白盃、薬院椿――が、後部座席に、『座り(霊体として)』、車内は、物理的には二人だが、霊的には五人という、満員状態となった。


「あら、狭いですわね」

「刃、刀が、当たっておりますわよ」

「しっ、静かに。二人に、気づかれる」


エミリアと佐藤は、そんな、『付喪神ギルド』の三柱が後部座席に、乗っているのを知らないまま、エミリアが有料駐車場の代金を精算してゲートが上がると、滑らかに車を走らせた。


春の、夜の帳が下りる東京の街へ。一台の白く、小さな、そしてあまりにも賑やかな白いコンパクトカーが、ボートハウスを目指して、走り出したのである――。


                    ***


エミリアたちが『ダミー・セーフハウス』に向け、移動している頃。

新宿歌舞伎町の、雑居ビル4階。


二人組・新居。


部屋には、出汁とソースの、香ばしい匂いが満ちていた。

橘陽菜と藤井澪は、テーブルに並べられた、完璧な「タコパ」のセットを見つめ、一度、深く息を吐いた。


物理的なタコパの準備も終わった中、彼女たちはテーブルを挟んで向かい合い、議論していた。


「…さて、陽菜。問題は、ここからよ」


澪が、切り出す。


「雇用条件未定だらけの中、どうやって、なんとか、あの三人の姉御たち――神楽坂薫と道頓堀咲と天王寺麗――を説得して、この高級薬酒専門店:『五臓六腑ごぞうろっぷ』で、働いてもらうには、どうしたらよいか」


陽菜も、腕を組み、静かに応じる。


「…そうね。普通に考えたら、断られる案件だわ。給料も、待遇も、何も決まっていないんだもの。特に、薫さんは理詰めだから、感情論だけじゃ、動かない。咲さんは、ノリで来てくれるかもしれないけど、麗は、裏を読みすぎるから、逆に警戒されるわ」


二人は、頭を抱えた。

しかし、彼女たちには、退路はない。


「…やっぱり、正直に話すしか、ないんじゃない?」


澪が、提案する。


「私たちが、東京で、本気で勝負したいこと。そして、そのためには、どうしても、彼女たちの『力』が必用なこと」

「…そうね。小細工しても、あの人たちには、すぐバレるわ」


陽菜が、頷く。


「お願いじゃなくて、『共闘』の誘い。…この歌舞伎町で、一緒に、天下を、取ろうって」


その頃。

時速、数百キロで、東へとひた走る、新幹線の車内。


神楽坂薫、道頓堀咲、そして天王寺麗は、まだ、新幹線で移動中であったが、その窓の外には、既に、関東平野の灯りが、見え始めていた。


もうじき、東京に到着する。

二匹の「狼」は、覚悟を決めた。


この無謀な「ヘッドハンティング」を成功させなければ、自分たちの未来も、そして佐藤への「想い」も、守れない。


春の、夜の帳が下りる頃。

小さな、ワンルームで、熱い「説得」と、熱い「たこ焼き」の宴が、始まろうとしていたのである――。


                    ***


エミリアは、愛車の白いコンパクトカーを運転しながら、助手席の佐藤へと静かに語りかけていた。


「いい、健ちゃん。これから向かうのは、ただの『家』ではないわ。『セーフハウス』。…それは、あなたの命と情報を守るための『盾』よ」


エミリアは、まるで新兵に基本教練を施すかのように、セーフハウスの使い方のおさらいとしての、教本的な内容をわかりやすく話し始めた。


「まず、第一に。『入退室のルール(SDR)』よ。目的地に直行してはダメ。必ず遠回りをし、コンビニに立ち寄り、『尾行』がいないことを確認クリーニングしてから入るの。そして、第二に。『電子的な静寂』。セーフハウスの半径五〇〇メートル以内で、『個人のスマートフォン』の電源を入れるのは愚かな行為よ。位置情報でセーフハウスが『特定』されるわ。最後に、第三。『生活痕の隠蔽』。ゴミは持ち帰る。夜は遮光カーテンを閉め、光を漏らさない。…そこに、『誰もいない』かのように、振る舞うのよ」


佐藤は、そのあまりにもストイックな「生活」に喉を鳴らした。


「…まるで、幽霊みたいに、暮らすのか…」


その佐藤の呟きに、後部座席にいる『付喪神ギルド』の三柱――薄氷刃、月白盃、薬院椿――が、一斉に反応した。


彼女たちは、エミリアの講義を、セーフハウスの基礎を、一から学び、そして、それを自らの自分たちのセーフハウスである、高級薬酒専門店:『五臓六腑ごぞうろっぷ』の使い方へと変換し、議論していた。


「…聞きましたか、皆様。『尾行けはいを消せ』ということです」


薄氷刃が、真剣に頷く。


「店に入るモノノケたちには、必ず、あやかしの路地を三回回らせてから、入店させましょう。…不埒な陰陽師などに、つけられぬようにな」

「…『電子的な静寂』。…つまり、『妖気』を漏らすな、ということですわね」


月白盃が、扇子を閉じる。


「強力な結界で、店内の妖気を完全に遮断しましょう。…人間たちに『百鬼夜行』だと、バレては営業停止になりますもの」

「…そして、『生活痕の隠蔽』。…ゴミの処理ですわね」


薬院椿が、メモを取る(フリをする)。


「宴の後の残飯や空き瓶は、決して表には出さず、全てわたくしの薬箱で、処理いたしましょう」


エミリアの完璧な『講義』と、付喪神たちのあまりにも高度な『応用』。

その二つの「議論」が交錯する車内。佐藤は、背中が妙に重く、そして熱く感じるのを不思議に思いながらも、「…はい。肝に、銘じます」と、神妙に頷いた。


春の、夜の気配が近づく、東京の空の下。一台の小さな車は、人間と付喪神の知恵を満載して、運河のほとりへと走り続けていたのである――。


                    ***


引き続き『ダミー・セーフハウス(ボートハウス)』に向かうために、都内の幹線道路を走る、エミリアが運転する愛車の白いコンパクトカーの車内で。

エミリアは、助手席の佐藤に、次なる「講義」を開始していた。


「――いい、健ちゃん。これから向かうのは、ただの『家』ではないわ。セーフハウス。…重要なのは、対人関係よ」


彼女は、以前、選定した二人の部下の名前を挙げた。


「『セーフハウス管理担当』の二人(佐倉奈々美と、雨宮結)が、交代で『ダミー・セーフハウス』を管理するから、あなたが掃除をしたり、警備をしたりする必用はないの」


エミリアは、ハンドルを切りながら、優しく諭す。


「健ちゃんが『ダミー・セーフハウス』で学ぶことは、対人関係が中心になるの。『ダミー・セーフハウス』は、佐倉奈々美と雨宮結が管理するから、防犯上の懸念は少ないし、廃棄物の適正な処理手続きやインフラ維持も、丸投げできるけど…。理想を言うなら、健ちゃんが、佐倉奈々美と雨宮結と、直接やり取りして『ダミー・セーフハウス』の、管理の仕方を学ぶのよ」


彼女は、佐藤に分かりやすい「例え」を出した。


「つまり、コンシェルジュが対応してくれる、家賃が高いマンション的な使い方から、セーフハウスの使い方を学ぶのが、今の健ちゃんのような、初心者向きだと、思うのよ。あなたが司令官として、彼女たちに、的確な『オーダー』を出せるか。…それが、今回の課題ね」


その、説明しているエミリアの言葉を聞いていた『付喪神ギルド』の三柱――薄氷刃、月白盃、薬院椿――は、後部座席でハッとした顔を見合わせた。


「…盲点でしたわ」


月白盃が、扇子で膝を打つ。


「わたくしたちは、高級薬酒専門店:『五臓六腑ごぞうろっぷ』の設備ばかりに気を取られておりました」


薬院椿が、心配そうに言う。


「そうですわね。『付喪神ギルド』の三柱――私たち――や、硯海がいないときや、あるいは夜に、行けないときでも、避難してきた付喪神や、モノノケたちに対応する『コンシェルジュ』が、必要なのでは?」


薄氷刃が、腕を組み、唸る。


「うむ。空城の計も、限度が、ある。…我々が不在の間、店を守り、客をもてなし、そして佐藤への連絡役となる、『留守番』が必用だ」


彼女たちは、そのあまりにも切実な「人員不足」について、真剣に議論した。


(…誰か、適任はいないか? 24時間、文句も言わず、あの店に張り付いていられる、奇特な付喪神かモノノケは…)


春の、夜の気配が迫る車内。人間たちの「教育」と、付喪神たちの「人事」。

二つの異なる「組織論」が交錯しながら、車は、目的地へと近づいていくのであった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ