歌舞伎町の『薬酒専門店(付喪神とモノノケたちのセーフハウス)』その二
【読者様への注意喚起】
この物語はフィクションです。
法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
また、作中に登場する人名、組織、団体名(アスター家、K&E リサーチ&コンサルティング等)はすべて架空のものであり、実在の人物・組織とは一切関係ありません。
ようこそ、東京の影の中へ ここは、光が滅び、影が支配する世界。
摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。
あなたは、そんな影の世界に生きる一人の女王に出会う。
彼女の名は、エミリア・シュナイダー。
金髪碧眼の美しい姿と冷酷な戦闘能力を持つ「始末屋」だが、その心は過去の壮絶なトラウマ(PTSD)により深く閉ざされていた。
彼女の唯一の拠り所は、佐藤健という元銀行員の相棒。
彼の存在こそが、彼女の心を繋ぎ止める唯一の「鎮静剤」だった。
女王の争奪戦と運命の対決 しかし、彼女の安息は、アスター家の令嬢リリア・アスターの出現によって一変する。
リリアは佐藤の独占をかけて、エミリアに「資金力」と「知略」で挑む。
二人の女王による壮絶な「争奪戦」が勃発し、その裏側で、巨大な「情報戦(現代ファンタジー)」が展開されていく。
リリアの計画: 彼女は愛する佐藤のために、軍事力、情報機関、そして公邸という名の「要塞」を築き上げる。
エミリアの覚悟: 愛する者の日常と自身の居場所を守るため、妹のヴァネッサや過去の因縁と共に、冷徹な知略と戦闘本能を解き放つ。
あなたは、エミリアがこの愛と権力の戦いを生き抜き、孤独を乗り越えていく「再生の物語」を体験することになる。
さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。
これは、あなたの「常識」が一切通用しない、究極のプロフェッショナルたちが「愛」のために戦う物語。
あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?
この物語は、最先端AI 「Gemini (by Google)」 との共作により誕生しました。
時に、AIは人間の想像を超える予想外(unexpected)な展開を――。 時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を――。 「Gemini」は、新たな物語の世界を創造する、私の大切なパートナーです。
※本作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では順次公開となります。あらかじめご了承ください。
ただし、どうか忘れないでください。 これは、愛と知略が支配する、あくまでフィクションだということを。
This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.
Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.
Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.
นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น
(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)
日本標準時4月15日午後3時35分。
晴れ間が広がる都内。
新宿歌舞伎町。
『二人組(橘陽菜、藤井澪)』は、その疲れと充実感が入り混じった表情で、雑居ビルへと戻ってきた。
彼女たちは、特殊移動販売車『ダブルバレル(キッチンカー)』での初営業に備え、都内の有望な移動販売先の視察などに出かけ、そして、今、一度帰宅したところだった。
「…へえ。ここなら、ランチタイムのサラリーマンも狙えるかな?」
「うん。でも、競合も多いわ。…あそこの角地が空いていれば…」
二人は、熱心に商売の話をしながら、薄暗い階段を上がっていく。
しかし、二階の一角で、二人の足が止まった。
普段は埃を被っていたはずの、空き店舗になっていた部屋の前が、慌ただしい空気に包まれていたのだ。
先ほど荒垣弁護士に絞り上げられた、あの管理会社の営業の人が、必死の形相で部屋の前や、部屋の中を掃除していたり、あるいは、廊下の照明が、ちゃんと点灯しているか確認したりしている。
さらに、彼は、エントランスのポストに詰め込まれていた、大量の風俗店のチラシを回収して、代わりに、真新しい一枚のプレートを張っていた。
そこには、達筆な文字で、こう書かれていた。
「高級薬酒専門店:『五臓六腑』」
営業の男は、汗だくで、作業を続けながら、愚痴っている。
「…ったく、無茶苦茶だ。今日契約して、今日から突貫工事なんて…。何、考えているんだか…」
そのあまりにも切実な愚痴と、突然の「開店準備」。
その様子を見て、『二人組(橘陽菜、藤井澪)』は、顔を見合わせた。
「…なあ、澪。『五臓六腑』って、何?」
「…さあ。でも、薬酒専門店、だって。…こんな場所で?」
二人は、この雑居ビルで一体誰が、こんなマニアックな店を出すのかと、不思議だった。
彼女たちはまだ知らない。その「店」のオーナーが、自分たちがよく知る「あの人(佐藤)」であり、そして、その「店」が、やがて、自分たちを巻き込む、巨大な「騒動」の中心地になることを。
春の、その穏やかな日差しだけが、その雑居ビルの廊下で、交錯する、奇妙な「縁」を静かに照らし出しているだけだったのである――。
***
箱庭の雑居ビル、三階のオフィスでは、静かなキーボードの打鍵音だけが響いていた。
エミリアは、その手元のタブレット端末に表示された、一通の「通知」を確認した。
それは、今朝、内見し、購入を決めた『ダミー・セーフハウス(ボートハウス)』の販売会社からの連絡だった。
「――納品完了。東京の河川敷または、運河沿いの、合法的に係留できるところへの、係留作業、終了いたしました」
モニターには、穏やかな運河の水面に静かに浮かぶ、モダンなボートハウスの写真が添付されている。
エミリアは、その写真に満足げに頷くと、即座に次のフェーズへと移行した。
今朝、手付け金を支払っていた、そのボートハウスの残金を支払い、決済を完了させる。
都心での中古のワンルームマンション、あるいは、新築のファミリー向けマンションが買えるほどの、巨額の資金が、彼女の指先一つで瞬時に移動する。
しかし、彼女の表情は微動だにしない。
それは、彼女にとってはただの「数字」の移動に過ぎないのだから。
支払いを終えると、エミリアは休む間もなく、次々と係留後の手続きを開始した。
係留所を管理している会社との最終調整。
電気、水道の開栓手続き。
セキュリティシステムの稼働確認。
彼女は、その面倒な事務作業の全てを淡々と終わらせた。
(…よし。これでハードウェアは整ったわ)
彼女は、そのタブレットを置くと、隣でリリアと談笑している、佐藤を一瞥した。
(…あとは、あの子たち(佐倉奈々美と、雨宮結)を送り込み、そして、健ちゃんを「入城」させるだけ…)
春の、その穏やかな日差しだけが、その最強の女王の、そのあまりにも静かで、そしてどこまでも完璧な「築城」の完了を祝福するかのように、キラキラと輝いているだけだったのである――。
***
箱庭の雑居ビル、三階のオフィスでは、いつもの業務が続いていた。
その天井近くの空間に、三つの「影」が音もなく戻ってきた。
『付喪神ギルド』の、三柱――薄氷刃、月白盃、薬院椿――である。
彼女たちは、リリアの天空の『公邸』のジュリアンのプライベート書斎から、『硯海』との会談を終え、戻ってきていたのだ。
彼女たちの話題は、リリアから与えられた、新たなる「城」のことだった。
「聞きましたか、皆様。リリア様から聞いた高級薬酒専門店:『五臓六腑』のことです」
盃が、扇子を広げて言う。
「ええ。まだ、営業許可の関係で中身は空き店舗状態ですが…。ですが、今夜から『付喪神ギルド』として、使用して良いと、おっしゃいましたわ!」
しかし、そこには一つの問題があった。
そこはまだ、改装前の廃墟同然の空間。
電気、水道はないが、防盗対策と、警備会社が設置する「機械警備(バッテリー駆動の、携帯電話回線使用)」で守られただけの、暗く、静かな部屋でしかない。
「さて。今夜は、そこで、何をするか議論しましょう」
その議題に三柱は即座に反応した。
月白盃が、身を乗り出す。
「決まっておりますわ! 新たなる『城』の開所祝いとして、お酒の一本は、是非とも欠かせませんわね! 電気などなくとも、月の光と良き酒さえあれば、そこはもう都ですもの!」
薬院椿が、首を横に振る。
「いいえ、盃さま。まずは備えですわ。怪我をした付喪神やモノノケたちが、噂を聞きつけて訪れたときのために、せめて市販の医薬品などは欲しいですわ。…絆創膏と消毒液だけでも…」
薄氷刃が腕を組んで、言い放つ。
「贅沢を言うな。雨風をしのげ、誰からも襲われず、安心して一晩、寝られる。それだけで、十分だろう!」
「酒よ!」
「お薬ですわ!」
「寝床だ!」
お互い、自分の主張をぶつけ合っていた。
人間たちのあずかり知らぬところで、繰り広げられる、あまりにも人間臭い「引っ越し会議」。
その喧騒を他所に、佐藤は、ただ黙々と仕事(「高級薬酒専門店:『五臓六腑』」から他の件も)を続けている。
春の、その穏やかな日差しだけが、その三者三様の、あまりにも切実で、そしてどこまでも楽しげな「新生活」への夢を、静かに照らし出しているだけだったのである――。
***
箱庭の雑居ビル、三階のオフィスでは、穏やかな午後の光が差し込んでいた。
リリアは、愛する佐藤の『手伝い(高級薬酒専門店:『五臓六腑』の、備品選定から、他の件も)』を、完璧な秘書としてこなしながらも、その目は虚空を見つめていた。
彼女の『鑑定眼』には、『付喪神ギルド』の三柱――薄氷刃、月白盃、薬院椿――が、「酒よ!」「お薬ですわ!」「寝床だ!」と議論している、その喧しい様子が映っていたのだ。
(…全く。要望の多い子たちですこと)
リリアは、その騒ぎを見守りながら、一つの解決法を思いついた。
彼女は、自らのデスクで、通常業務とともに『東京アノマリー・ギルド』と『ダミー・セーフハウス』の業務開始と微調整を繰り返している、多忙なエミリアに、涼しい顔で声をかけた。
「――エミリア様。ご相談が、ありますの。まだ、開業までは二ヶ月ほど先になりますが、気が早い、わたくしとしましては…」
リリアは、悪びれもせず言い放った。
「高級薬酒専門店:『五臓六腑』の開業祝として、お花と、祝のお酒と、それから急病やけが人が出た時の薬箱をエミリア様にお願いしますわ」
彼女は、ライバルに貢物を堂々と頼み込んだ。
エミリアが、そのリリアの図々しさに呆れながらも、思考を巡らせる。
(開業祝として、お花と、祝のお酒は日本の商習慣や文化で理解できるけど…。なぜ、今、急病やけが人が出た時の薬箱が必用なのかしら?)
彼女は、そう思いながらも、リリアに正論で返した。
「…いいわ。健ちゃんのお店だから、その開業祝として、お花と、祝のお酒と、その謎の急病やけが人が出た時の薬箱を弊社から贈るのは良いけど」
エミリアは、はっきりと指摘する。
「でも、まだ開業していない、お店に贈っても、誰が受け取るの? 開業祝としての花は、店前に飾るから問題ないけど、祝のお酒とくすり箱は、外に置いたままというのは、防犯上、良くないわよ」
すると、リリアが事もなげにエミリアに答えた。
「あら。エミリア様なら、勝手に鍵を開けて、室内に置いてくれば、よいではありませんか」
それを聞いたエミリアが深いため息をつき、リリアに説教する。
「リリアさん。あなたの店のセキュリティを、何だと思っているの? 警備会社の機械警備のセンサーで適切に守られた室内に、正規の解除手続きをせず入ったら、即座に警察に通報されて、警備員が駆けつけてくるじゃない」
エミリアは、そこで言葉を切り、そして本来の「目的」を口にした。
「…だから。『五臓六腑』を警備する、警備会社の機械警備を、正規で停止させる暗証番号と物理的なカードキーか鍵を、提供してもらえれば…。リフォーム後に、責任を持って届けるわよ」
彼女は、あくまで気楽に述べてみせた。
リリアが、少しも疑うことなく頷く。
「ええ、構いませんわ。それなら、高級薬酒専門店:『五臓六腑』の、機械警備の解除出来る人に、エミリア様も、登録しますわ」
その言質を取って、エミリアが心の中でガッツポーズをした。
彼女は、合法的に高級薬酒専門店:『五臓六腑』の、完全なアクセス権を得たのだ。
これで、佐藤の店は、名実ともにエミリアの「監視下」にも置かれることとなった。
春の、その穏やかな日差しだけが、その二人の女王の、あまりにも高度で、そしてどこまでも佐藤を囲い込むための「契約」の成立を、静かに照らし出しているだけだったのである――。
***
箱庭の雑居ビル三階のオフィスで、エミリアは、リリアからのリクエスト――高級薬酒専門店:『五臓六腑』の開業祝――の手配について、思考していた。
ふと横を見ると、サスキアが、膨大な通常業務をこなしながら、「ヴァネッサの相手(荒垣砕弁護士が送ってきた、あの『歌舞伎町の物件に関する詳細な報告書』の解説)」に追われている。
(…これ以上、サスキアに雑用を頼むのは過重労働になるわね)
エミリアは、そう考え、自らが動くことを決めた。
(…いいわ。私が手配することにしましょう)
彼女は、手元のタブレットで次々と指示を飛ばしていく。
(…まず、お花。開業祝としてのお花は、店舗の許認可の関係で、二ヶ月ほど先になる。…ならば、定期的なお花の世話込みで、歌舞伎町を営業エリアとしている花屋に依頼して、常に美しい状態を維持させる。…次に、お酒。祝のお酒と薬箱は、私が持っていくので、調達だけ済ませればいい)
エミリアは、二人組・新居の雑居ビルの主とも言える人物に、連絡を入れた。
おかまバー「蝶の夢」のオーナーママ、マダム・バタフライ。
「――ええ、そうよ。同じ雑居ビルの二階の空き店舗に、高級薬酒専門店:『五臓六腑』が開業するの。その開業祝として、ふさわしい最高級品のお酒を。…ええ、熨斗と、包装と、本数は、あなたに任せるわ。…領収書は『K&E リサーチ&コンサルティング』で」
(…最後は、薬箱ね)
エミリアは、メモ帳を取り出した。
(…中身は、近くのドラッグストアで売られている市販品で揃えるとして、必用なものは…)
彼女のペンが走る。エミリアは、無意識に、そのリストを埋めていく。
・伸縮性の高い弾力包帯(大)と滅菌パッド × 3
・大判の防水透明フィルムドレッシング(チェストシールの代替品として)
・大型の滅菌ガーゼ(圧縮タイプ)
・市販薬で最強の鎮痛剤 (代替モルヒネ)
・医療用皮膚接合テープ
・抗生物質は医師の処方箋が無ければ買えないから、破傷風対策の気休めとしての消毒薬と体力維持に応用できる脱水対策としてのスポーツドリンク。
それは、普通の職場に置かれる薬箱には収められない、実戦的な、薬箱の中身――まさに野戦病院向けの、内容――を、メモ帳にリストアップしていた。
そのあまりにも物騒な「メモ」を、霊的な次元から見ていた『付喪神ギルド』の三柱は、顔を、見合わせた。
「…ほう。素晴らしい。あの女、戦を分かっているな。…これなら、多少の怪我なら安心だ」
薄氷刃が、深く頷く。
「あらあら、刃。そんなお酒が不味くなるような話。…でも、マダム・バタフライの、お酒のチョイスは楽しみですわね」
月白盃が、酒のことしか考えていない。
「…あの。エミリア様? …それは薬箱ではなくて、野戦キットですわ。…それと、消毒薬を使いすぎたら、モノノケたちの一部は消毒されちゃって、消えてしまいますわ」
薬院椿が、そのあまりのガチ勢ぶりに、若干引いている。
それぞれ、エミリアの行動を論評していた。
春の、その穏やかな日差しだけが、その最強の女王の、そのあまりにも過保護で、そしてどこまでも殺伐とした「買い物リスト」を、静かに照らし出しているだけだったのである――。
***
二人組・新居の、雑居ビルにある、おかまバー『蝶の夢』。
まだ、開店前の薄暗い店内で、オーナーママである『マダム・バタフライ(木村信男)』は、化粧前の素顔のまま、一本の電話を受けていた。
相手は、このビルの若き住人たち(陽菜と澪)のスポンサーであり、裏社会の顔役とも噂される『エミリア』だった。
「――あら、エミリア様。ごきげんよう。ええ、ええ。承りましたわ。…同じ、雑居ビルの二階の空き店舗に、開業する、あのお店ね」
マダムは、その受話器を肩で挟みながら、手元のメモ帳に、サラサラと注文を書き留める。
「高級薬酒専門店:『五臓六腑』の開業祝として、ふさわしい、最高級品のお酒。…ええ、予算は、青天井で、よろしくて?」
電話を切ると、マダムは、すぐに馴染みの酒屋へと連絡を入れた。その口調は、先程までの優雅なものから、テキパキとした商売人のそれへと変わる。
「――あたしよ。…ええ、急ぎでお願い。祝い酒よ。最高級品を見繕ってちょうだい。…そうね、まずは、入手困難な、幻の『日本酒(純米大吟醸)』を二本。それから、薬酒専門店なら、ベースになるような、年代物のヴィンテージ・ブランデーと、国産のプレミアム・ウイスキーも、追加して」
彼女は、その本数と、組み合わせを瞬時に計算する。
「熨斗は、もちろん御祝で。送り主は『K&E リサーチ&コンサルティング』様。…ええ、筆耕は、一番、達筆な人に書いてちょうだい。包装は、そうね…。店の名前が『五臓六腑』なんて渋い名前だから、重厚な和紙で包んで、水引は紅白の蝶結びで、派手にいきましょ」
マダムは、電話を置き、ふう、と息を吐いた。
(…それにしても、二階に、薬酒の店とはね。…あの子たち(陽菜と澪)のキッチンカーといい、このビルも、随分と賑やかに、なりそうじゃないの)
彼女は、まだ見ぬ、その「隣人」に思いを馳せながら、鏡の前に座り、今夜の「戦闘服」の準備を始めた。
春の、その穏やかな西日だけが、その夜の街の重鎮の、そのあまりにも手際の良い「仕事」を、静かに照らし出しているだけだったのである――。
***
箱庭の雑居ビル三階のオフィスで、エミリアは静かに席を立った。
彼女は、壁際に設置されたオフィスに設置された『金庫(盗難防止対策済みの措置済み)』を、慣れた手つきで開けると、そこから札束をいくつか取り出す。
それは、帯封のついた、新券の束。
彼女は、それを手元の風呂敷に驚くほど手際よく包み、そして、自分のデスクの前にぽんと置いて、涼しい顔をした。
佐藤が、そのあまりにも生々しい現金の塊にびっくりしながら、恐る恐るエミリアの様子を見ていると、エミリアが事もなげに説明してみせた。
「高級薬酒専門店:『五臓六腑』の開業祝の、お酒の代金よ。現金で、あのマダム・バタフライに、直接お酒の代金や心付けを支払うためにね。…夜の街では、カードより現金の方が喜ばれるのよ」
その光景を見ていたリリアは、静かに頷いた。
(…エミリア様が、わたくしとサトウさまのお店のために、ここまで。わたくしも、エミリア様が何か、表立ってビジネスをする時は、この借りは返さないと、いけませんわね…)
その現金の包みを、霊的な視点から見つめる、三つの「影」があった。
月白盃は、目を輝かせている。
あれほどの現金の束で購入する、最高級の酒。
「まあ! 高級薬酒専門店:『五臓六腑』の開業祝のお酒に期待してしまいますわ!」
しかし、薄氷刃は、渋い顔をしていた。
「…愚かな。月白盃は、能天気すぎる」
薄氷刃は、酒より兵糧攻めに耐えられる、食い物や水を、開業祝として求めればよかったと、真剣に月白盃に説教しながら悔しがり、それを薬院椿が、穏やかに諭す。
「あらあら、刃。考え方が古いですわ。もし、兵糧攻めに耐えるなら、食料の備蓄よりも、救援に来る仲間を増やすべきですわ。外からの助けこそが、籠城戦の要。…わたくしたちの『ギルド』も、もっと仲間を増やしませんとね」
彼女は、そう助言していた。
春の、その穏やかな日差しだけが、その最強の女王の、そのあまりにも粋な「支払い」と、その背後で、繰り広げられる、あまりにも物騒な「戦術論」を静かに照らし出しているだけだったのである――。
***
松田たち『特別捜査班』の三人は、都内の、とあるコンビニや、銀行、駅に設置されている、ATMをまわっていた。
彼らは今、『休日中』である。
しかし、老獪な長谷川は、決して正式には「命令」はしなかった。
ただ、長谷川係長からの、「そんなに元気なら、ちょうど良い。捜査二課からの要請で、わが一課にも応援要請が出ている。今日は年金支給日だ。その年金支給日の高齢者を狙った、詐欺の警戒の話しがある。銀行やコンビニのATM巡りで、その元気を、自主的に、存分に発散するのは? ああ、もちろん松田と、一緒にいる、若林と相沢もだ!」というギリギリのラインでの自主的な行動を促され、松田たち『特別捜査班』が、『自主的(係長の顔色を読んで)に、年金支給日を狙った、詐欺の予防のパトロールをした』という、『体裁』を取ったのだ。
これなら、万が一、何か問題が起きても、労働基準法を代表する、あらゆる法規から、警視庁の服務規程に至るまで、そして捜査部としての常識からの責任追及等の訴えから、長谷川係長に火の粉が及ばないからだ。
そんな、理不尽な「ボランティア」の最中。
三人は、ATMを巡りながら、高齢者を狙うひったくりや不審な電話をしている高齢者がATMを操作していないか監視しながら、小声で『――ティラノサウルスの骨を、買いませんか?』の広告主を類推し合っていた。
松田が、若林と相沢に告げる。
「…いいか。休日が終わり、明日、俺たちが正式に警察手帳を手にしたときには、あの石頭の長谷川係長をなんとか『納得(説得という名の「詭弁」)』させて、この件を正式に捜査しよう」
「…どうやって、説得するんですか?」
「決まってる。『詐欺グループ同士の内部分裂による、重大事件に発展する恐れが、ある』と、大げさに騒ぐんだ。…そうすれば、捜査一課(強行犯係)も、動かざるを得ん」
彼らは、そんな、希望的観測に満ちた打ち合わせをしていた。
だが、彼らは、知らない。
そんな、松田たち『特別捜査班』の、あまりにも警察官らしい、『言動(=事件を解決したいという熱意)』など、あの事なかれ主義の長谷川係長の前では、無意味であることを。
明日、彼らが、どれほど熱弁を振るおうとも。
長谷川係長は、書類をめくりながら、こう言うだろう。
「『――ティラノサウルスの骨を、買いませんか?』の広告を利用した詐欺? 金の貸し借り? …なら、詐欺事件なら、捜査二課(知能犯係)の担当だ。ウチ(一課)の出る幕ではない」
そう、松田たち『特別捜査班』の説得が失敗して、さっさと捜査二課に『――ティラノサウルスの骨を、買いませんか?』の件を丸投げする。
そんな、あまりにも事務的で、そしてつまらない未来が、既に決まっていたのだ。
春の、その穏やかな日差しだけが、その三匹の「猟犬」たちの、そのあまりにも無駄な「作戦会議」を、静かに照らし出しているだけだったのである――。
***
箱庭の雑居ビル、三階のオフィスで、佐藤は自らのデスクで腕を組んでいた。
彼の目の前のノートには、リリアの助言で固まった、あの高級薬酒専門店:『五臓六腑』の開業に向けて、絶対に必要な『人材』の要件が書き込まれていた。
『店長兼薬剤師:1名(必須。漢方薬の販売・管理責任者。店舗全体の運営と薬機法遵守を担う。夜間の時間帯をカバーできる、高給で雇用)』
『販売スタッフ:1〜2名(接客、レジ、薬酒の接客販売を担う。深夜営業のため、2名体制が望ましい)』
問題は、この、人材をどう、探すべきか、という点だった。
佐藤は、チラリと左右を確認する。右には、エミリア。左には、リリア。
(…エミリアに頼むのも、リリアさんに頼むのも確実だ。…でも)
佐藤の危機管理能力が警報を鳴らした。
(…どちらに頼んでも、必ず、頼んでいない方から、「健ちゃん(サトウさま)、どうして私には相談してくれなかったの?」とか、なにかネチネチと言われそう…)
佐藤は、その未来を悩み、そして決断した。
(…ここは、中立を保つためにも、外部の人材派遣会社に依頼しようか)
しかし、彼はそこで立ち止まった。
(…待てよ。薬剤師のような資格持ちは、そもそも派遣で雇うのは合法だったかな…?)
佐藤は、すぐに六法全書を開き、「労働者派遣法」と「薬剤師」の項目を検索し、確認していた。
(…原則、禁止? …いや、紹介予定派遣なら可能? …へき地ならOK? …薬局の場合は…)
彼は、その複雑怪奇な「法律」の壁に頭を抱えながらも、二人の女王に頼らずに、自力で解決策を模索し続ける。
そのあまりにも健気で、そしてどこまでも慎重な「独立心」。春の、その穏やかな日差しだけが、その哀れな佐藤の、その静かなる「奮闘」を、優しく照らし出しているだけだったのである――。
***
箱庭の雑居ビル三階のオフィスで、佐藤は、その六法全書から顔を上げた。
彼の表情には、諦めの色が浮かんでいた。
高級薬酒専門店:『五臓六腑』の開業に向けて、絶対に必要な人材。
店長兼薬剤師と販売スタッフ。
彼は、労働者派遣法と薬機法を照らし合わせ、人材派遣会社から雇うのは法律的に難しいと、諦めた。
(…では、どう探すか…)
佐藤は、今度は頬杖をつきながら考えたら、一つの合理的な「仮説」にたどり着いた。
(…そもそも、あの歌舞伎町で、安全に働いてもらうには、歌舞伎町に詳しい人を、雇うべきでは…。そうだ。歌舞伎町で現在働いているか、あるいは、過去に働いていた、過去がある人を、ターゲットに探すべきでは?)
彼は、その思いついたアイデアに一瞬、光を見た気がした。
あの街の、ルールと危険を知る者ならば、トラブルも未然に防げるかもしれない。
しかし、その「光」は、一瞬で消え去った。
佐藤は、呆然と虚空を見つめた。
(…で、一体、どうやって?歌舞伎町で働いているか、働いていた過去がある人を、僕が、探すの…?)
彼は、元・銀行員。
表の世界の住人だ。
(…路地裏で聞き込み? …いや、不審者扱いされるだけだ。お店に飛び込み営業? …迷惑がられるだけだ)
佐藤は、そのあまりにも高く、そして厚い「現実の壁」を前にして、『方法が思いつかず』、プツン、と。その思考が停止した。
ただ、オフィスの空調の音だけが、彼の耳に、虚しく響いているだけだったのである――。




