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夢見た場所

フランシスカがカタコンベに帰っていくのを見届けてから、バルコがポツリと呟く。


「カケル、さっき話してたんだが、俺とギドは冒険者をやめるつもりだ」

「え?」

「そんな顔で見るなよカケル。確かに俺たちは英雄志望だがな、旅を続けてりゃ今回みたいに悲しい思いになることもある。俺らは疲れちまったんだよ」


そう言ってバルコはカタコンベをチラリと見てから、目を伏せる。バルコもギドも、先の戦争で辛い思いをしたのだ。その悲しい記憶が、フランシスカとローテン、そしてシュテルガルドを見たことによってフラッシュバックしたのかもしれない。それにだ、とバルコは続ける。


「俺たちはダンジョン荒らしじゃねぇ。これからはどっか田舎で釣りや狩りをして生計を立てるさ。幸い貯金もあるんだ。この国が危機に陥ったらまた俺らを頼ってくれ。その時は英雄として駆けつけてやるよ」


そう言ってバルコはカケルに共鳴石という魔道具を渡す。魔力を込めればペアの共鳴石が振動する仕組みだ。カケルはその共鳴石を受け取って少し笑う。


「釣りや狩りで生計を立てる、か。ははっ、バルコらしい面白い考えだ」

「馬鹿にするなよカケル。何不自由なくふざけたことを出来るってのは、恵まれてるんだぜ。ただ俺とギドは、その恵まれている時間を長く楽しみたいってだけだ。モンスターを狩る事だけが英雄への道しるべじゃねぇ。先は長いんだ、気長にやるさ」


それだけ言ってバルコとギドはカタコンベから立ち去る。最後にギドとバルコがカケル達を振り返り、手を振って別れを告げる。その様子を見てポールが呟く。


「二人は何処に行くんだろうね」

「さあ。それは彼らしか知らないことだ。でもギドもバルコも、最初にすることは分かるよ」


そう言ってカケルはローテンの灰を見る。そうだ、二人はきっと墓参りに行くのだろう。バルコはあの魔法使いの墓に、ギドは師匠であるテトの墓に、それぞれ行くのだろう。墓参りは過去の出来事を忘れぬようにするための行為だ。そして、これから二人が歩んでいく道のりを祝福するための行為でもある。そんなことを考えていると、ルルとトゥグリが言い争っている声が聞こえる。


「ルルさん、あれほど無茶はしないで下さいと言ったばかりなのに、何故イリネスを銃で撃ったのですか?私が防がなければ、今頃あなたは死んでいましたよ」

「でも、トゥグリさんが死ぬぐらいなら僕が・・・!」


凄むトゥグリに対してルルが何かを言おうとした時、トゥグリがルルの頬を引っ叩く。乾いたとが響いて、思わずルルは自分の頬を手で押さえ、驚きの表情を浮かべる。だが、引っ叩いたトゥグリの表情の方が、辛そうである。トゥグリは真剣な口調でルルに話しかける。


「貴方はもっと自分の命を大切にした方がいいです。貴方が死ねば私が悲しむのですから。それに無理に父の仇を取ろうとする必要もないんですよ。私は復讐心がどんなものか知っていますが、復讐をした後は心が乾いた大地の様に干上がるのです」


そう言ってトゥグリは優しくルルに教える。それは人生の先輩からの教えであろう。トゥグリはルルに、自分のような人生を歩んでほしくないのだ。それは知らない人からすれば綺麗ごとに聞こえるかもしれない。確かに親の仇を前に正常な判断が出来る人間などいない。だがトゥグリの歩んできた道のりが、その言葉を綺麗ごとで終わらせなくさせている。トゥグリの言葉が心に響いたのか、ルルは何も言えずに押し黙る。するとトゥグリがルルの頬に手を当てて、心底嬉しそうに呟く。


「貴方が無事で、本当に良かった」

「っ!」


思わずルルの顔が急激に赤くなる。その様子を見てマウリはにこやかに笑う。


「青春だねぇ」


そう言ってマウリがトゥグリとルルに近づき、何かを話す。そして三人で話してある程度に詰まったところで、マウリがカケルに向き直る。


「カケル、俺とトゥグリはユタの村に戻ることにするよ。ホワイトナイツに手を出したんだ。もうこの王都にはいられない。ルルは王都グーンラキアで、細々とヒース家の当主になって、家を支えていくらしい。またいつでもユタの村に帰ってこいよ!」


そうマウリが言うと、カケルはふわりと笑う。変わる人、変わらぬ人、様々な人がいるのだなとかけるは感じるのだ。そしてカケルは思い出したようにトゥグリに声をかける。


「そう言えば、トゥグリに冒険譚を聞かせるって話だったよな。折角だから、冒険譚を聞いていくかい?」

「いいんですか?」

「うん。ぜひ、トゥグリに聞いてほしい物語なんだ」


そう言ってカケルはガナスの村での記憶を思い出す。


_____


時は、ガルガンが亡くなる少し前。カケルはワインをもって、ガルガンの家に訪れる。ガルガンの家は四方の壁がそれぞれ、木、鉄、レンガ、土で出来ている風変わりな建物だ。実はこの建物は、「四人四季」の面々が作り上げたものだ。エルフが木の壁を、リザードマンが鉄の壁を、ドワーフが土の壁を作って、最後に人間がレンガの壁を作った。素人が作ったのだから壁はぼこぼこだが、ガルガン自身はこの家をいたく気に入っていた。他人からしてみれば不格好な家だが、ガルガンにとっては宝物なのだ。カケルはワイン片手にガルガンの家の戸を叩く。


「はーい。あ、カケルさん」

「やぁ、ルナちゃん。ガルガンさんはいるかな?」

「待っていたぞカケル」


カケルを出迎えたのは、人狼の少女であるルナである。ルナの父親はその昔、魔王軍に入っており、人間と死闘を繰り広げた。ルナの父親を殺したのは、ティラキア王国騎士団長であるクーガだ。戦場なので、殺すのも殺されるのも運命である。だがクーガはルナにまでは非はないと感じ、友であるガルガンにルナを託したのだった。カケルは目の前の人狼とドワーフを見つめる。種族は違うが、そこには愛情が感じられる。家の中を見渡すと、ガルガンが丁寧につけていた日記を見つける。そこにはルナの成長が事細かに綴られている。それを見て、カケルとガルガンは盛り上がる。ワインも入っているせいか、話はどんどん白熱する。


「ガルガンさん、いくら何でも親バカすぎますよ。「ルナが今日初めて、赤の日に暴走しなくなった。これも全てピッツのお陰だ」って。こんなことまで日記に書いてるんですか」

「からかうなカケル。いつだって子供の成長は喜ばしい事だ。それに、今の時代は平和すぎる!それが良いんだがな。もう儂らが知っているような戦争を繰り返してはならん。平和な時代を子供たちは過ごすべきだ」


そう言ってガルガンはワインをあおる。先日カケルが持ってきたビールは、ガルガンの友であったテトが亡くなった日に持っていった。ガルガンは決して酒が強いわけではない。だが、友を忘れぬために、酒を飲むのだ。ワインを飲みながら、昔を思い出したガルガンが呟く。


「アルトリアは元気か?」

「はい。と言っても、最近王都でイート国との戦争があって。そこでクーガさんが亡くなりました。アルトリアさんはそれが辛いようで、随分と泣いていました」

「そうか。実は、クーガはアルトリアの事が好きだったのだ。エルフと人間だ、当然寿命も異なる。叶わぬ恋だと知りながら、クーガは最後まで諦めることは無かった。カケル、亜人は自分の名前以外に神からも名前を授けられている」


そう言ってガルガンが、神から受けた名前について説明する。亜人はそれぞれ信奉する対象が異なる。ドワーフなら山だし、リザードマンなら海だ。エルフは山の神から名前を授かるという。


「アルトリアは、クーガにだけは神から受けた名前を伝えた。心を許したという事だ。そんなクーガが死んだのなら、耐えきれんだろうさ。エルフは総じて気障でいけ好かない奴らばかりだったが、友の悲しむ姿なんざ見たくはないさ。これ以上アルトリアを悲しませたくないから、儂の死はアイツには伝えないでくれないか。あとリザードマンのラカールにもだな」


そう言ってガルガンはワインをくいっと飲み干す。その顔は覚悟を決めた顔だ。カケルは最後にガルガンに問いかける。


「どうしても、死ぬんですか?」

「無論だ。もうこの体も長くはない。見ろ、体の震えが止まらない。儂が儂でなくなっていく感覚だ。出来ればガナスの村の英雄であるうちに、テトとクーガの下に旅立ちたいのだ」

「・・・」


ガルガンの決意は固いようだ。カケルは無言でグラスを掲げる。するとガルガンもグラスを掲げ、乾杯をする。カケルはたらふく酒を飲む。彼はこれから起こる惨劇を知っている。ルナの悲しみも、ピッツの戸惑いも、ヒハとギンの苦労も、ポールの決意も、ドゴールの運命も。それらをすべて忘れ去りたいかのように、酒をたらふく飲むのだ。飲まないとやってられない。


「・・・全員幸せにして見せる」


その呟きは誰にも聞こえることは無い誓い。だがカケルにとっては何よりも大切な、信念なのだ。


_____


「どうかな、ガナスの村での冒険譚は?」


カケルはガナスの村での出来事をかいつまんでトゥグリに聞かせる。するとトゥグリは複雑な表情をする。ユタの村にいるトゥグリの事だ。ガナスの村の未来についてもある程度知っていたのだろう。だが他の村を気にかけるほどの余裕もない。トゥグリは複雑な表情を一瞬浮かべるが、すぐに笑顔になる。


「ガナスの村が滅ぶことなく進んでいくのなら、それに越したことは無いですね」

「・・・そうだね。トゥグリもマウリもルルも、頑張って生きてね」


そう言ってカケルは三人を見送る。大所帯も気付けば随分と数が減った。今度はオフィーリアとマシーンゴーレム、そしてスケルトンがカケルの下にやってくる。カケルを見て、オフィーリアが口を開く。


「カケルさん、貴方にまた会えてよかったです。多くの命が星になりましたね」

「そうだね。オフィーリアはまた命の輝きを観測する旅に戻るのかい?」

「はい。スケルトンさんと、マシーンゴーレムのギアさんと一緒に、ふらりと旅に出てみるつもりです。マーメイドさんは海に帰りたいと言われたので、彼女は近くの川から海に行くようです」


ギアというのは、カケルが命名の儀でマシーンゴーレムにつけた名前だ。咄嗟につけた名前だったが、マシーンゴーレムは気に入ったようで、胸を手で叩く。スケルトンは骨の盾がお気に入りで、骨の盾を大事そうに抱えている。マーメイドは海に帰るために、川に潜っていく。最後にマーメイドがカケルの地図の一カ所を指さす。


「ここは、パルメトの首都のリッツベルだね。海の上に都市があるんだよ。どうやらマーメイドはこの海に帰るみたいだね。丁度いいから、次はここに行かない?」


カケルの地図をのぞき込んで、ポールが勝手に話を纏める。だが悪い気はしない様で、カケルはコクリと頷く。するとマーメイドは一瞬笑顔になり、川に潜る。最後にオフィーリアがカケルに別れを告げる。


「貴方に星の導きがありますように」

「オフィーリアもね」


終わってみれば、各自が進むべき道を見つけたようで。カケルはポールと一緒に取り残されたようだ。でも不思議と、カケルとポールは笑顔になる。色々なことがこの場所で起こった。ホワイトナイツに手を出したのだ。ティラキア王国の国王が生きている限り、カケルとポールはお尋ね者になるだろう。だがそれもいいかもしれない。パルメトの首都、リッツベルで新たな出会いを探すのだ。


_____


ここは王都グーンラキアからのびる大きな道。そこで一台の馬車が走っている。馬車の主であるラパツは、少し前にカケルからの願いを叶えるために、ガナスの村にアレキサンドライトと「星砕き」を届けるという大仕事をこなしたばかりだ。一仕事終えた安心感から、ラパツはふぅと息を吐き、荷台に縮こまるアルトリアに尋ねる。


「いつまでそうやって落ち込んでいるつもりですか。そんなんだからヘボエルフなんですよ。確かにクーガさんが亡くなったのは悲しい事でしたがね、俯いてても明日はやってくるんですよ」

「五月蠅い、ポンコツ商人の癖に。お前に私の苦しみが理解できるか。お前には関係ないだろう、放っておいてくれ」


ラパツがアルトリアに問いかけてもこの調子で、まるで話にならない。遂にラパツが、少しだけ語気を荒げる。


「放っておけるわけないでしょう!少しの間でも、一緒に寝食を共にした仲でしょう。それに密かに貴方の懐に忍ばせたこの共鳴石で、この広大な未知の森の中を探し回ってようやく見つけたんですよ。あんなところで何をしていたんですか?まさか自殺を図ってたなんて言わないですよね?」

「だったらどうした?私が自殺をしようが、お前は何とも思わないだろう」

「・・・っ!貴方は本当に鈍い人だ!私はアルトリアに死んでほしくないんですよ!」

「!!」


遂に本音を暴露したラパツに、アルトリアは一瞬固まる。だが顔を赤くして、伏し目がちに答える。


「私は人の年齢で言うと、お前よりだいぶ年上だ」

「気にしませんよ、そんなの。人を愛するのに年齢なんてきにしない!」

「人間とエルフの寿命は決して平等ではない。結局はお前も、私より先に逝くのだろう?もう悲しい思いはしたくないんだ」

「そんなもの!不老不死の技術を王国からふんだくってやりますよ!」

「・・・は?」

「決して不老不死の技術を悪いことに使うんじゃない。アルトリアを喜ばせるために使うんです!」

「は、ははっ!お前はそういう奴だったな。バカだが、憎めない」


ラパツの渾身の告白に対して、アルトリアは面白いものを見たという風に笑う。ラパツは、すわ告白失敗かと焦るが、アルトリアは涙を拭いて、いつもの元気な姿に戻ると、何も言わずに手を差し出す。それを見て、普段はバカなラパツが、今どうすればいいかを瞬時に悟る。自分の口をアルトリアの手に近づけ、アルトリアの心の穴を埋めてやるのだ。


「これからは、私の事はアルトリーチェと呼んでくれ」


それはアルトリアが森の神から受けた名前だ。それをラパツに教えるということは即ち、ラパツに心を許したということに他ならない。屈託のない笑顔を見せるアルトリアは、さながら天使だとラパツは感じる。確かに楽しい思い出は一瞬のうちに忘れ去り、その大切さを失ってから気付く。その癖、辛く苦しい思い出はいつまでも心にのしかかる。人生は上手くいかない事ばかりだと嘆く者も、世の中にはいるだろう。だが、楽しい思い出は忘れてしまうからこそ、毎回新鮮に映るのだ。そして人間は、その楽しい思い出を、いつまでも忘れないようにする術を持っている。それが上手くいくかは、本人の頑張り次第という奴だ。

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