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不老不死の技術

白い鎧に身を包んだ集団に立つ女騎士は、随分と横暴な態度を取る。それに最初に怒りを露にしたのは、とギドとバルコの脳筋コンビだった。


「嘘つけ!俺らがこのカタコンベを見つけた時は、足跡なんぞなかったぞ!嘘をつくのが下手なんだよ、ボケがぁ!」

「今更「ホワイトナイツ」様が何の用だよ!イート国との戦争の時には、ティラキアⅠ世と一緒に国外に逃げていた弱虫どもがよぉ!クーガを見習えやぁ!」


余りにも直接的な罵倒に女騎士は声を荒げる。


「無礼者!私をホワイトナイツ騎士団長、イリネスと知っての罵倒か!」

「知るか馬鹿が!ホワイトナイツだか何だか知らんが、調子乗んなよ!ご高説並べるお前より、まず行動に移したクーガの方が、よっぽど騎士団長の位に相応しかったぜ!」


荒ぶるイリネスの話を、バルコがバッサリと切り捨てる。横に立つ冒険者たちはバルコの主要を聞いて全員が頷き、クーガを知らないポールでさえも、イリネスの胡散臭さに気付いて、ホワイトナイツを半眼で睨む。その様子についに、プライドだけ高いホワイトナイツの怒りが爆発する。代表してイリネスが命令を下す。


「貴様らはティラキア王国の反逆者だ!我ら「ホワイトナイツ」の誇りにかけて、貴様らを捕らえる!」


そのイリネスの言葉に、ホワイトナイツはカケル達に斬りかかる。捕らえるという命令を受けて、剣で斬りかかるとはどういう領分だとカケルが抗議の声をあげようとしたその時、トゥグリが騎士の一人を派手に殴り飛ばす。


「この手の連中に話し合いは無意味です。こいつらは私たちの話なんて聞く耳持たないですよ」

「話し合いなど不要だ。我々ホワイトナイツは常に正しいのだから」

「自らをホワイトと名乗る輩ほど、胡散臭いものはない」


イリネスの戯言をマウリが一蹴する。だがイリネスは不敵に笑う。


「手を出したな?今この瞬間、貴様らはティラキア王国の反逆者たちだ」

「ふざけんな、お前らから手を出してきたんだろうが」

「それを証明する証拠はあるのか?こちらには確かに、殴られた騎士が存在するがな」


イリネスの真意に気付き、バルコは歯軋りをする。ホワイトナイツは、正当性を得るためだけにカケル達を煽っていたのだ。ポールがホワイトナイツを睨みつける。


「その白い鎧は、返り血でも付いたら目立つよね。でも血なんて全然ついてない。つまりお前らは、この未知の森に入ってから一度も戦闘をしていないことになる。ギドみたいに弓もないのに、どうやって未知の森のモンスターを倒してここまで来たんだい?」

「あっ!」


ポールの指摘にカケルは声を上げる。それに考えてみれば、いくらトゥグリが強いと言えども、素手で騎士が吹き飛ばされるなんて、騎士の名折れだ。まるで騎士というより、これではまるで・・・。そのポールの指摘に、イリネスはクツクツと笑いだす。


「あぁ、バレてしまったか。最初から言っているだろう。我ら「ホワイトナイツ」は特殊部隊だ、と。騎士団とは一言も言っていない。だが騎士団というのはいい隠れ蓑になる。どんなことをしても、騎士団は正義になり、敵は悪になるのだからな」


そう言ってホワイトナイツは今度こそ明確に、殺意を露にする。悪い顔になったイリネスが、明確な脅しを仕掛ける。


「さて、改めて言おう。ここで見つけたものを全て渡してもらおう。特にそこの、ローテンという名のリッチは絶対に渡してもらおう」

「ダンジョン荒らしか!」

「ダンジョン荒らしと一緒くたにされるのは心外だな。死者がリッチというモンスターに変わるその理由を解けば、これからの不老不死の技術研究は大いに発展する。分かるか?これはティラキア王国の未来のためなのだよ。冒険者という野蛮な連中がリッチを管理するより、この国がしっかりと管理した方がいいと思わないか?」


カケルは記憶を思い出す。ホワイトナイツという言葉は、ディープワールドカードゲームの世界に出てくるものだ。それは表向きはティラキア王国の精鋭が集められた騎士団。だがその実は、影で王国の敵を粛正する御庭番衆だ。その実力は折り紙付きで、この未知の森をモンスターに見つかることなく進行したり、リッチの魔力を感じ取って探し当てるぐらい訳ないことだ。そして、ティラキア王国は、貴族のヒース家を筆頭にしてイート国と裏で繋がっていた。イート国との戦争で傷つくのは前線の兵士のみで、貴族たちは戦争の特需で大いに潤った。そしてティラキアⅡ世は王都が混乱しているこのタイミングで、不老不死の技術研究を大幅に加速させようとする。不老不死の技術研究は大変な難問だ。ゴーレムの機構解明、エルフの長寿を知るための人体実験、不老ともいえるリッチの解体などを繰り返して、徐々に論理が確立されていく。そしてティラキアⅡ世は、民への目隠しとして、ヒース家の当主を広場で処刑する。だが、ヒース家の当主だけが死んでも、水面下では不老不死の技術研究は継続されていたのだ。全ては年を取った連中が生にしがみつくためだけの禁忌だ。カケルはイリネスに、あらん限りの殺気を飛ばす。


「すべて思い出したぞ、この老害が」

「老害?何を言っている。私を見たまえ。若い女騎士だ、そうだろう?エルフのDNAを解析して、この若返りの技術を実用段階まで発展させたのだ。国王陛下は私を実験台に使われた。見ての通り実験は大成功。これが科学技術の力だ、これからの世界をがらりと変える代物だ!」


興奮したイリネスは無邪気にはしゃぐ。その様があまりにもちぐはぐで、さっきまで怒りを露にしていたバルコとギドは思わず黙る。価値観が違いすぎて、何を言ってもこのイカレた特殊部隊には通じないと悟ったのだ。カケルが静かな怒りをイリネスにぶつける。


「お前らは不老不死なんてもののために、エルフやゴーレムやリッチを、研究素材として扱っていた。物事の本質も見ずに、ただ外側しか見ていなかった。俺が見てきた彼らは、随分と色んな生き方をしてきたぞ。エルフは人間を恐れ、密かに暮らしていた!ゴーレムは仲間のために復讐するほど、感情的だった!リッチは、ただ昔の仲間にもう一度会いたいという願いが生んだ、それだけの存在だ!お前らはやれ亜人だとか、やれモンスターだとか勝手な呼び方をするが、イカレてんのはどっちだ!」


そのカケルの剣幕に、イリネスは何も言えない。だが余裕そうな顔だけはそのままで、何処までも自分の正義を信じて疑わないのだと、カケルは妙に納得する。どちらにしろ、これだけ言ってもホワイトナイツは剣を下ろさないことから、はなから話し合いでの解決は不可能だとカケルは悟る。


(どちらにしろ話し合いで解決させるつもりは、俺にもなかったからな。かえって好都合だ)


そう思いながら、カケルは「地喰い」の剣を握る。人間は弱い。対してモンスターは強いものだ。だがそれでも、道具を使えば人間も強くなれる。大事なのは、その道具は、何かの犠牲の上にあるという事を忘れないことだ。カケルは思い出す。ホワイトナイツの武具は、そのどれもがドワーフが手掛けた一級品だ。だがホワイトナイツはそんなことを忘れて、ティラキアⅡ世が亜人排斥を謳えば、それに従って亜人を排除する。気付けば、カケルの横にはトゥグリ、マウリ、ギド、バルコがそれぞれ武器を構えて、リッチとフランシスカ、ついでにポールを守るように立っている。カケルは思わず笑う。


「いいのかい皆。ホワイトナイツに逆らったら、もうティラキア王国で冒険者は出来ないよ。まさかティラキア王国を相手にするわけにもいかない。イート国と戦った時とは状況が違うんだ。騎士団もいなければ民兵もいないし、エルフ達もいなければ冒険者たちも随分と減った。分の悪い賭けだと思うけど」

「馬鹿が、カケル。そりゃお前も一緒だろ。お前がやるってんだから、俺らもやるだけだろ。「魂殺し」戦ではお前を出し抜いちまったからな、一番槍はお前に譲るぜ」


カケルの笑いを、バルコが豪快に笑い飛ばす。そこに小難しい理屈などはいらない。ただ目の前でフランシスカとローテンの時を超えた再開を見てしまい、自然の体が動いたのだろう。ポールはそんな冒険者たちを見て呆れる。


(やっぱり冒険者って基本野蛮だよね。でも悪い気はしないや)


ポールとフランシスカ、そしてリッチになったローテンを守る冒険者たちの後姿は、ポールにはとても大きく感じられた。ポールは彼らの心配などしない。冒険者たちは自分の意志で、「ホワイトナイツ」に剣を向けたのだ。そこに水を差すほどポールは野暮ではない。だが「ホワイトナイツ」がティラキアⅠ世の代から王国の御庭番衆としてやってきたのもまた事実だ。マウリが冷静にカケルに尋ねる。


「敵は随分と豪華な装備で武装してるけど、勝てるのかい?」

「厳しいですね、勝てるかどうかは五分です。でもやれるだけの事はやります」


そう言ってカケルは投影装置をチラリと見る。手札は7枚。カケルはモンスターを召喚できなくて、増えていくだけの手札を眺めるだけの日々だったが、すぐに覚悟を決める。出し惜しみをして勝てるような優しい相手ではないからだ。


〇大障壁[スペル] コスト緑・赤 ☆2

効果・1つの陣地を選択する。その陣地にモンスターは進軍不可

ー突如現れたその壁は生き物を拒んだー


〇水の流れ[スペル] コスト青 ☆1

効果・手札を1枚引く

ー止まることなく流れ続けるー


〇薄明[スペル] コスト白 ☆1

効果・貴方のモンスターが3体以上いて貴方の陣地が3枚以上ある時、貴方は今回のターンが終わった後に追加の1ターンを獲得する

―夜が明ける、その瞬間を切り抜き自分だけのものにする―


〇機械工場[陣地] 体力10 ☆2

効果・貴方のモンスターは墓地にはいかずこの陣地の下にストックされる。この陣地が破壊されるとき、下にたまったストック3枚につきカードを1枚引く

ーここは死の工場だー


〇スケルトン[モンスター] コスト1 1/1 ☆1

効果・ターン終了時、このモンスターのHPを最大まで回復させる

―死の兵士―


〇マーメイド[モンスター] コスト2 0/3 ☆2

効果・召喚時、プレイヤーのHPを5回復させる

―癒しの歌声が響き渡る―


〇骨の盾[アイテム] コスト2 ☆1

効果・モンスター1体のHPを+1して、「自己再生」を与える

ー不死身とは呪いであるー


カケルは機械工場をプレイし、すぐさまその陣地にマーメイドとスケルトンを召喚する。機械工場はカタコンベのすぐそばに設置され、マーメイドとスケルトンがカタコンベの入り口から入ってくる。


「野良のモンスターか。間が悪い」


それがカケルの手によるものとは知らぬイリネスが、モンスター達を見て悪態をつく。その隙にカケルは骨の盾を具現化する。だがその間にホワイトナイツは、戦闘能力がまるでないマーメイドとスケルトンを瞬殺しようと斬りかかるが、寸でのところでカケルが骨の盾をスケルトンに向けて投げる。スケルトンはそれを器用にキャッチし、ホワイトナイツの斬撃をその盾で受け止める。


「チッ、躊躇いがまるでない。人間以外は全部悪、か。力が強い奴が、自分たちを正義だと思い込むことほど質の悪いことはねぇぜ」


その様子を見てギドが吐き捨てる。ギドが牽制のために放った矢も容易く切り捨てられ、ギドの機嫌はすこぶる悪い。どうやらイライラが募っているようだ。ギドたち冒険者も先ほどスケルトンを狩ったが、それはカタコンベのお宝を手に入れるためだ。断じて目障りだから殺すという理由ではない。だがそんな冒険者パーティーに思いもよらぬ運命のいたずらが訪れる。


「さて、そろそろ粛正を開始するか」


そう言ってイリネスが斬りかかろうとした時、またしてもカタコンベの入り口から足音が聞こえる。またモンスターかとホワイトナイツが武器を構えると、そこには見上げる程の大きさのマシーンゴーレムと、その肩に乗る銃を持った少年、そして目に布を巻いている盲目の女性が立っている。


「ルルにオフィーリア!?それにマシーンゴーレム!」


思わず驚きの声を上げるカケルに、3人はそれぞれホワイトナイツに向けて構えを取る。オフィーリアが歌うように呟く。


「星の導きに感謝します。カケルさん、お久しぶりです」


その屈託のない笑顔に思わずカケルの荒んでいた心が洗われる。どうやらカケルが歩んできた道のりが、この運命を引き寄せたようだ。これで数は逆転、更に状況で言えば、冒険者たちはホワイトナイツを挟撃する形になる。思わずカケルは、感動の再開に笑顔で応える。


「オフィーリア、久しぶり」

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