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命が潰える場所

カケルが深く考え込んでいる間に、冒険者たちとスケルトンたちの戦いは佳境を迎えている。気付けば15体いたスケルトンたちも、その数を6体まで減らしており、地面には骨が無造作に転がっている。劣勢を悟ったスケルトンたちは、せめて一太刀とばかりに、軽装のフランシスカに狙いを定める。今まで通り撹乱しようと近づいたフランシスカのククリナイフを、一匹がその身で受け止め残りの5匹が一斉に攻撃を仕掛ける。


「いたっ!」


何とかフランシスカは身をよじり躱すが、錆びた剣がフランシスカの左手を掠め、身に着けていたグローブに切り傷をつけ、そこから赤い血が流れる。フランシスカは一瞬顔を歪めるが、すぐに取り戻し、急いでスケルトンたちから離れる。そしてその隙に、トゥグリが「地喰い」の剣を横なぎに振り、残ったスケルトンたちを木っ端微塵に粉砕する。急いでカケルが怪我をしたフランシスカに駆け寄り、自然の治癒を使うためにその手袋を外そうとした時だった。


「触らないで!」


フランシスカはカケルの手を払い除ける。思わずカケルは驚くが、フランシスカの表情を見て、素直に退く。そしてフランシスカはすぐに悪い事をしたと悟ったのか、カケルに謝る。


「その、ごめんなさい。でも触られたくないの」

「気にしないでください。何か事情があるのでしょう。深くは聞かないです」


フランシスカのしおらしい態度に、カケルは何でもないと言った風に答える。その様子をポールがボケーッと眺めている。人間は誰しも、何か深い闇を抱えている。それは誰にも言えないものであり、他人に理解されたいとも思えないものだ。だからカケルは深く干渉することをしない。そんないざこざがあったが、スケルトンたちを倒すと、残るはダンジョンの醍醐味、つまりはお宝探しのみとなる。


「どんな宝があるんだろうな。カタコンベだから、昔の装飾品とかもあるかもしれない。魔道具は早い者勝ちだけど、こんなに広いんだ。。手分けして探そう」

「楽しみですね。こういう冒険譚もいいものです」


目の色を変えてマウリとトゥグリが宝探しを始める。カケルはユタの村にいたころの二人を知っているがために、トゥグリとマウリの変化に思わず苦笑する。カケルからしてみれば随分変わったと感じるが、綺麗ごとだけで生きていけないのもまた事実だ。冒険者とは本来こういう生き方なのだろう。カケルもルピーが心許なくなり、機械部品を探しに来たのだから人の事は言えない。そして一行はバラバラに宝探しに興じるが、カケルはニヤリと笑い、横にいるポールを見つめる。


「何?カケル」

「ポール、こういう時こそ探偵の出番だよ。探偵なら隠し扉を見つけたりするのも得意でしょ?期待してるよ。魔道具はないかもしれないけど、隠し財産ぐらいならあるかもしれない」


どうやらカケルは、ポールを使って宝探しをするようだ。他のメンバーが一人で地道に探している中で、事もあろうに探偵を使うのだから狡賢いやり方である。だがポールの方も満更でもない様だ。戦闘面では何も出来なかったが、こういう分野はポールの得意分野だ。


「任せてよカケル。お宝は俺たちのものだ。こういうのは我武者羅に調べたって体力を無駄にするだけだ。まずは周りの観察が大事だよ」


そう言ってポールは辺りを見渡す。カタコンベは非常に広く、内部は碁盤のマス目の様に縦と横の通路が広がっている。通路は縦横共に4本ずつ走っており、交差点には1つずつ棺桶が置かれている。この棺桶からスケルトンたちが出てきたわけだ。そして通路の端は、一つは出入り口となっており、それ以外はすべて行き止まりとなっている。バルコとギドがその行き止まりの壁を叩いて、空洞部分があるか確認しているが、今のところそれらしいものはない様だ。


「絶対どこかに隠し通路があるはずだ」

「奇遇だなギド。俺の第六感もそう告げている」


因みに二人は脳筋である。隠し通路があるという理論に、理屈などは一切ない。あの二人はダメだと感じながらポールが辺りを見渡すと、今度はトゥグリとマウリの姿が映る。


「こういうのは灯台下暗しという。命の石だって、村の近くの洞窟に埋まっていた」

「そうですね。つまりはこの出入り口付近に何かあるはずです」


バルコとギドに比べれば随分とまともな思考だが、その思考に至るまでの根拠が薄い。そのような状態で宝探しを開始しても、目当てのものは見つからないだろうとポールは感じる。そしてポールはもう一度カタコンベを見渡し、ある違和感に気付く。


「あれ?そう言えば棺桶から出てきたスケルトンたちは全部で15匹だったはず。なのにこのカタコンベは縦横に4本の通路が走っていて、交差点は16カ所ある。そしてその全てに棺桶が置かれている。つまり、棺桶が一つ多いんだ。カケル、宝物は棺桶の中だよ」


そしてポールとカケルは棺桶を探し回り、スケルトンが出てきてない棺桶を見つけた時、そこには棺桶を開けて中のものを物色しているフランシスカがいる。フランシスカはポールとカケルに向けて笑いかける。


「あぁ、ごめんなさい。私の方が少しだけ早かったみたい」

「俺が宝探しで負けた・・・?」


ポールは絶句するが、フランシスカは申し訳なさそうに笑うのみだ。だがフランシスカも、ポールとカケルがルピーがない事を知っているので、カケル達にとってありがたい提案をしてくる。


「良ければこの剣を持って行っていいわよ。強そうなんだけど、私にはでかすぎるし、少々無骨だから」


そう言ってフランシスカは「竜殺し」を提示する。その提案に思わずカケルは食いつくが、ポールは不審げだ。そしてポールはフランシスカが開けた棺桶の中をチラリと見やる。そこには他の棺桶同様、骨が入っている。だが他のスケルトンたちとは違い、剣などは持っておらず、服も着ている。そしてポールはあることに気が付き、カケルに忠告する。


「カケル、それは死者の持ち物だ。君が持つべきものじゃない」

「ポール、何を言っているんだ。死者の持ち物は、もう誰のものでもない。だから見つけた人が持っていく。それが当然じゃないか。そしてフランシスカが俺たちに譲ったんだ。この「竜殺し」は俺たちが貰ってもいいってことだ」

「フランシスカは本当にそれでいいのかい?」


ポールに急に話を振られてフランシスカはピクリと震える。その顔は深刻そうな顔をしているが、フランシスカは悩んだ末に結論を導き出す。


「大丈夫よ。それは私には扱えないから」

「本当にいいのかい?愛する人の形見だよ」

「えっ?」


ポールの言葉にフランシスカは驚いて顔を上げる。そしてカケルは驚きの言葉に間抜けな声を出す。フランシスカが恐る恐ると言った感じに切り出す。


「どこで気付いたの?」

「最初に感じた違和感は、未知の森の中に生成されたばかりのダンジョンがあることを知っていたことかな?未知の森の広さは、言わずと知れている。そんな中、君は一人で未知の森を歩いていた。まるでダンジョンがあることを確信していたかのように」

「・・・」

「そして、この広大な森の中からカタコンベの入り口を見つけた時、疑念は確信に変わった。いくら盗賊という職業でも、こんなすぐに見つかるはずが無い。宝物の場所を俺よりはやく見つけたのも、今考えれば当然だね。君はこの場所を良く知っているんだ」

「そう・・・。でも今の話じゃ、愛する人の形見っていう話は説明がつかないんじゃないの?」

「フランシスカ、何でカケルが左手のグローブを外そうとした時に、その手を払い除けたんだい?あと、何で両刀にしないんだい?その答えは、その棺桶にある骸骨の左手を見ればわかったよ」


そう言ったポールにつられてカケルが棺桶の中を覗き込むと、骸骨の左手にキラリと光る指輪を見つける。そしてカケルは全てを悟る。この骸骨・・・つまりはカタコンベをプレイした召喚者は、その昔フランシスカと同じパーティーにいたモンスター使いの男なのだ、と。フランシスカが魔法使いと喧嘩したとき、モンスター使いはフランシスカをフォローしたという話を思い出して、カケルは妙に納得する。観念したように、フランシスカはポツポツと語り始める。


「私たちは3人パーティーだったわ。魔法使いのシュテルガルドはお調子者で、感情で動く人間だった。モンスター使いのローテンは無口な奴だったわ。でも、モンスターへの愛情を語る時だけは人一倍饒舌だった。自慢でも何でもなく、良いパーティーだったと思うわ」


そう言った後、フランシスカは少し俯く。思い出したくない過去を思い出す踏ん切りをつけるように、目を伏せる。やがて、フランシスカがポツポツと呟く。


「あの頃は何でも楽しかったわぁ。でも歪っていうのは、簡単にできるものなのね。シュテルガルドとローテンが同時に私に告白してきて、私はローテンを選んだんだけれど、シュテルガルドはパーティーを抜けて、ローテンもローテンで思い悩んじゃって。最後はこんな日の光が当たらないところに逃げ込んだんだね」


そう言ってフランシスカは、ローテンの亡骸から指輪を引き抜き、それを掲げて見つめる。その物憂げな表情に、思わずポールは何も言えなくなる。それはまるで、楽しい過去を慈しむ様な、神秘さを孕んでいたから。すると、ふと後ろから声が聞こえる。


「誰かを愛するってのは、冒険者にはあるまじきことだ。それだけ弱点が増えるからな」

「バルコの言う通りだな。パーティーは解散してよかったと思うぞ。そのまま進めば、もっと辛い事が起きてたかもしれないからな」


その声の主はバルコとギドだ。バルコは先の戦争で、いつも一緒にいる魔法使いを失った。彼女はバルコの事を意識していたようだが、戦場ではそれはただの弱点となる。故に、バルコは魔法使いの死に嘆き悲しんだが、それ以上の事はしなかった。冒険者として生きていくために、墓などを作るのは割り切ったのだ。そしてギドも、自らの師匠であるテトをその手で殺した。いや、正確に言えばテトはずっと前に死んでいたので、テトの亡霊と呼ぶべきか。だがそれでも、気分のいいものではない。生きていくうちに、人というのは大切な者や守るべき人が出てくるものだ。だが冒険者にとっては、それらは全て心の弱さとなる。それはカケルも理解しているし、バルコとギドの言葉も正論であると感じる。だが正論が、必ずしも幸せを運んでくるとは限らない。フランシスカは力なく笑う。


「そうよ、愛情は弱さだって、それくらい知ってるわ。だから私は、ローテンの形見を見つけたら、冒険者稼業から足を洗おうと思っていたのよ」

「フランシスカ、本気か?」

「止めないでよバルコ。ちゃんと貯金はしてたから、ルピーならあるわ。それに、彼の指輪をなでながらゆっくりと本を読むなんてのも、いいと思わない?」


その問いにバルコは何も答えない。他人の価値観に何か注文を付けることなど、誰にも出来ないのだから。それに、フランシスカは、疲れてしまったようだ。バルコは無意識に悟る。彼女はこのカタコンベで過去に触れ、争いのなかった楽しいパーティーの時間を思い出してしまったのだ、と。ならばそれを止める権利は自分にはないと、バルコは引き下がる。カケルも「竜殺し」をフランシスカに返す。剣を受け取ったフランシスカは驚く。


「あら。いらないの?」

「欲しくないと言えば嘘になる。でも、他人の過去を踏みにじる趣味は、俺にはない」

「そう、ありがとう」


そのカケルの答えにフランシスカは、笑顔で応える。その時、フランシスカの腕の中にある骸骨が揺れた気がする。思わずカケルが武器を構えるが、骸骨はフランシスカを守るように腕を広げる。


「リッチだ・・・。ローテンの亡骸が、俺らの目の前でリッチになったんだ!」


バルコが驚嘆の声を上げる。リッチとは死者が何らかの無念を抱えて、骨になってこの世にとどまることを望んだモンスターだ。その無念はリッチの行動に如実に現れる。故に、モンスターだからと安易に討伐しないのだ。ギドとバルコは長年の冒険者としての勘から、このリッチに敵意はないと結論付ける。そしてそれは正しかったようで、リッチはフランシスカの手をそっと握る。


「ローテン?ローテンなの?」


フランシスカが尋ねると、リッチはただコクリと頷く。この世に神がいるというのなら、これはちょっとした神の粋な計らいかもしれない。思わずフランシスカは目元を拭う。だが物語は平坦ではないもので。突如カタコンベの入り口から金属音が聞こえる。思わず一行が後ろを振り返ると、そこには白い鎧に身を包んだ集団と、その前に立つ豪華な鎧に身を包む女がいる。そして、おそらくリーダーであろう女が声を張り上げる。


「我らはティラキア王国の特殊部隊、「ホワイトナイツ」だ!このダンジョンは我らが見つけたもので、つまりはこのダンジョン自体ティラキア王国の所有物だ。ここで見つけたすべてのものを渡してもらおう!」


その脅迫ともとれる言動に、一行は揃って同じ顔をするのであった。

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