52話
戦争終幕から数ヶ月が経った。
戦後の平和はほんの僅かで、1ヶ月が経ってすぐに内乱が起きた。
内乱を起こしたのはほとんどが赤の国の住人だったが、その中には元白の国の住人もいた。
ただの国民とはいえ、腕の立つものは何人もいる。トランプ兵の何人かも女王を裏切り内乱を起こし、あっという間に彼女は拘束され、そのまま処刑された。
「悪の女王に死を!」
「国の平和のために!」
「傲慢なる赤の女王を許すな!」
国の広場で行われた公開処刑。多くの国民の罵声を一身に浴びながら、拘束された女王は空を見上げる。
雲ひとつない大空をただぼーっと眺める女王。兵士に急かされながら、首をギロチンの台の上へと置く。その時、数名の住人、兵士が気づいた。あの赤の女王が涙を流していることを。
そして、女王の首は一瞬にして体から切り離された。
新たな女王として選ばれたのは、地下牢に幽閉されていた白の女王だった。
しかし、以前のようなお飾りではなく、しっかりと行動の一つ一つに目をやり、立派な女王として国を成り立たせていた。
「まっ、待ってくれ!許してくれ!」
「我々は何もしていない!だから!」
元大臣たちも彼らの罪が明らかになり、女王のように大々的ではなく、暗い地下牢で一人一人寂しく処刑された。
大臣たちも選び抜かれた新しい者がなりはしたが、腐敗が完全に消えたわけではない。しかし、以前よりも平和で幸せな国になった。
「それじゃあ、これお願いね」
「はっ!かしこまりました」
今ではすっかり、赤の国の国民も、白の国の国民も、互いに手を取り合って、平和な国を作ろうと必死になっていた。
桜蘭の住人たちも国に戻り、より一層国は賑わった。現在、あの領土に住んでるのは一組の夫婦のみだった。
「陛下」
窓の外を眺めていた白の女王は声のした方を振り返る。扉の前、鎧を見にまとった女性……素顔を晒したホワイトナイトがゆっくりと彼女に近づく。
「マッド・ハッターからお茶会のお誘いがきております」
「そう。ライオネルやユニーアもさっきもらったと言っていたけれど」
「私にも届いてます。今日は、彼女たちがくるらしく」
「……残念だけど、仕事が山済みだから今回は断るわ」
「では、私も」
「気にしなくてもいいのよ」
「いえ。大切な友人がいかないのに、自分一人だけ行っても楽しくありませんから」
一瞬きょとんとした顔をするが、白の女王はすぐににっこりと笑みを浮かべる。
*
マッド・ハッターの開いた今日のお茶会は、とても賑やかなものだった。
「マウス、そんなに食べたらまた太っちゃうよ?ネズミじゃなくて豚になっちゃうかも」
「そんなことないもん!食べた分、しっかり動いてるもん」
いつも通り、チェシャ猫がマウスをからかい、それに彼女が反発する。
「くそチェシャ猫め……俺の楽しみを邪魔しやがって……」
「マーチさん。紅茶のお代わりどうですか?」
「おう。もらう」
「スノー、私ももらっていいだろうか」
「はい!」
チェシャ猫を恨むように睨みつけるマーチ。甲斐甲斐しく紅茶をあっちこっち走り回って注ぐスノー。いつものように優雅に紅茶をすするハッター。
「はぁウメェー。菓子ウメェー」
「マウスはあの後……チェシャ猫に……けしからん」
元チェス兵の二人。ライオネルはばくばくと目の前のお菓子を頬張り、その隣にいるユニーアは鼻血を流しながらブツブツと何かを呟いていた。
そして……
「うえぇ〜!アリスー、チェシャがいじめるぅー!」
「よしよしマウス。大丈夫だよ」
「そんなんだから嫌われるんだぞ」
軍服ではなく、一般的な服を身に纏ったアリスとハンプティ。他のメンバーに比べて華やかさはないが、誰よりも幸せそうな雰囲気を漂わせていた。
「にしても陛下もホワイトも来ないなんて勿体無い」
「仕方がない。陛下はお忙しい身だ」
わずかに俯くハンプティ。しかし、アリスが頬を膨らませて不機嫌になっているのに気づくと、慌てて「別になんでもない」と口にする。
「それで?夫婦となった二人は、誰もいない桜蘭で一体何をしてるのかな?」
ニヤニヤとした表情を浮かべるチェシャ猫。なんのことを言っているのかすぐに理解し、ハンプティは顔を真っ赤にし、アリスは頬を膨らませる。
「お前ら、普通その反応逆じゃね?」
「ハンプティさん、ハグとかキスはするのに、一線は全然越えないの。じれったくて私から襲おうとしたら必死に抑えて……」
「ハンプティさんそれはないって」
「男なら女性の求めには応じる者だ」
「ユニーア、鼻血出しながら言っても説得力ないぞ」
男性陣の非難を浴びるハンプティは、限界まで顔を赤くすると、そのまま両手で顔を覆う。
「だって、いざするってなると、なんかその……いたたまれない感覚に襲われるんだよ。幸せすぎて、これ以上求めていいのかなって……」
「それって、普通アリスがいうのでは?」
スノーの的確な疑問に、ハンプティはそのままテーブルに突っ伏してしまった。
その姿を横目で見ながら、アリスはお気に入りの紅茶を一口飲み、小さく微笑んだ。
「ハンプティさんには是非とも頑張ってもらいたいです。じゃないと、離婚も考えますよ」
「それはやだ!」
勢いよく顔を上げたハンプティ。その瞬間に、唇に柔らかいものが当たり、0距離にアリスの顔がある。デジャブというべき、あの時と同じ光景が目の前に広がっていた。
周りからわずかに歓声が上がる。だけどアリスは気にせず笑みを浮かべる。
「だったら、頑張ってください。それに私……赤ちゃん、欲しいです」
「バッ!」
「赤ちゃん!」
「まさかの子作りのお誘い!」
「これはハンプティさん断れないな」
歓声と笑い声が響き渡る。
幸福溢れるその場所は、誰一人として悲しい表情を浮かべてはいなかった。あるのは“笑顔”だけだった。
「ハンプティさん」
「ん?」
「私と逃げてくれて、ありがとうございます」
今まで一番の、人間らしく、幸せそうな笑顔を浮かべるアリス。その顔を見て、ハンプティも笑みを浮かべながらゆっくりと顔を近づけていく。
「俺の方こそ、受け入れてくれてありがとな」
雲ひとつなく広がる青空。てりつく太陽の光は、二人を祝福するかのように優しい光を地上に照らしていた。
【完】




