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未来視軍師と紅の剣姫  作者: 暁紅桜
エピローグ
56/56

52話

 戦争終幕から数ヶ月が経った。

 戦後の平和はほんの僅かで、1ヶ月が経ってすぐに内乱が起きた。

 内乱を起こしたのはほとんどが赤の国の住人だったが、その中には元白の国の住人もいた。

 ただの国民とはいえ、腕の立つものは何人もいる。トランプ兵の何人かも女王を裏切り内乱を起こし、あっという間に彼女は拘束され、そのまま処刑された。


「悪の女王に死を!」

「国の平和のために!」

「傲慢なる赤の女王を許すな!」


 国の広場で行われた公開処刑。多くの国民の罵声を一身に浴びながら、拘束された女王は空を見上げる。

 雲ひとつない大空をただぼーっと眺める女王。兵士に急かされながら、首をギロチンの台の上へと置く。その時、数名の住人、兵士が気づいた。あの赤の女王が涙を流していることを。

 そして、女王の首は一瞬にして体から切り離された。


 新たな女王として選ばれたのは、地下牢に幽閉されていた白の女王だった。

 しかし、以前のようなお飾りではなく、しっかりと行動の一つ一つに目をやり、立派な女王として国を成り立たせていた。


「まっ、待ってくれ!許してくれ!」

「我々は何もしていない!だから!」


 元大臣たちも彼らの罪が明らかになり、女王のように大々的ではなく、暗い地下牢で一人一人寂しく処刑された。

 大臣たちも選び抜かれた新しい者がなりはしたが、腐敗が完全に消えたわけではない。しかし、以前よりも平和で幸せな国になった。


「それじゃあ、これお願いね」

「はっ!かしこまりました」


 今ではすっかり、赤の国の国民も、白の国の国民も、互いに手を取り合って、平和な国を作ろうと必死になっていた。

 桜蘭スリジエの住人たちも国に戻り、より一層国は賑わった。現在、あの領土に住んでるのは一組の夫婦のみだった。


「陛下」


 窓の外を眺めていた白の女王は声のした方を振り返る。扉の前、鎧を見にまとった女性……素顔を晒したホワイトナイトがゆっくりと彼女に近づく。


「マッド・ハッターからお茶会のお誘いがきております」

「そう。ライオネルやユニーアもさっきもらったと言っていたけれど」

「私にも届いてます。今日は、彼女たちがくるらしく」

「……残念だけど、仕事が山済みだから今回は断るわ」

「では、私も」

「気にしなくてもいいのよ」

「いえ。大切な友人がいかないのに、自分一人だけ行っても楽しくありませんから」


 一瞬きょとんとした顔をするが、白の女王はすぐににっこりと笑みを浮かべる。



 マッド・ハッターの開いた今日のお茶会は、とても賑やかなものだった。


「マウス、そんなに食べたらまた太っちゃうよ?ネズミじゃなくて豚になっちゃうかも」

「そんなことないもん!食べた分、しっかり動いてるもん」


 いつも通り、チェシャ猫がマウスをからかい、それに彼女が反発する。


「くそチェシャ猫め……俺の楽しみを邪魔しやがって……」

「マーチさん。紅茶のお代わりどうですか?」

「おう。もらう」

「スノー、私ももらっていいだろうか」

「はい!」


 チェシャ猫を恨むように睨みつけるマーチ。甲斐甲斐しく紅茶をあっちこっち走り回って注ぐスノー。いつものように優雅に紅茶をすするハッター。


「はぁウメェー。菓子ウメェー」

「マウスはあの後……チェシャ猫に……けしからん」


 元チェス兵の二人。ライオネルはばくばくと目の前のお菓子を頬張り、その隣にいるユニーアは鼻血を流しながらブツブツと何かを呟いていた。

 そして……


「うえぇ〜!アリスー、チェシャがいじめるぅー!」

「よしよしマウス。大丈夫だよ」

「そんなんだから嫌われるんだぞ」


 軍服ではなく、一般的な服を身に纏ったアリスとハンプティ。他のメンバーに比べて華やかさはないが、誰よりも幸せそうな雰囲気を漂わせていた。


「にしても陛下もホワイトも来ないなんて勿体無い」

「仕方がない。陛下はお忙しい身だ」


 わずかに俯くハンプティ。しかし、アリスが頬を膨らませて不機嫌になっているのに気づくと、慌てて「別になんでもない」と口にする。


「それで?夫婦となった二人は、誰もいない桜蘭で一体何をしてるのかな?」


 ニヤニヤとした表情を浮かべるチェシャ猫。なんのことを言っているのかすぐに理解し、ハンプティは顔を真っ赤にし、アリスは頬を膨らませる。


「お前ら、普通その反応逆じゃね?」

「ハンプティさん、ハグとかキスはするのに、一線は全然越えないの。じれったくて私から襲おうとしたら必死に抑えて……」

「ハンプティさんそれはないって」

「男なら女性の求めには応じる者だ」

「ユニーア、鼻血出しながら言っても説得力ないぞ」


 男性陣の非難を浴びるハンプティは、限界まで顔を赤くすると、そのまま両手で顔を覆う。


「だって、いざするってなると、なんかその……いたたまれない感覚に襲われるんだよ。幸せすぎて、これ以上求めていいのかなって……」

「それって、普通アリスがいうのでは?」


 スノーの的確な疑問に、ハンプティはそのままテーブルに突っ伏してしまった。

 その姿を横目で見ながら、アリスはお気に入りの紅茶を一口飲み、小さく微笑んだ。


「ハンプティさんには是非とも頑張ってもらいたいです。じゃないと、離婚も考えますよ」

「それはやだ!」


 勢いよく顔を上げたハンプティ。その瞬間に、唇に柔らかいものが当たり、0距離にアリスの顔がある。デジャブというべき、あの時と同じ光景が目の前に広がっていた。

 周りからわずかに歓声が上がる。だけどアリスは気にせず笑みを浮かべる。


「だったら、頑張ってください。それに私……赤ちゃん、欲しいです」

「バッ!」

「赤ちゃん!」

「まさかの子作りのお誘い!」

「これはハンプティさん断れないな」


 歓声と笑い声が響き渡る。

 幸福溢れるその場所は、誰一人として悲しい表情を浮かべてはいなかった。あるのは“笑顔”だけだった。


「ハンプティさん」

「ん?」

「私と逃げてくれて、ありがとうございます」


 今まで一番の、人間らしく、幸せそうな笑顔を浮かべるアリス。その顔を見て、ハンプティも笑みを浮かべながらゆっくりと顔を近づけていく。


「俺の方こそ、受け入れてくれてありがとな」


 雲ひとつなく広がる青空。てりつく太陽の光は、二人を祝福するかのように優しい光を地上に照らしていた。



【完】


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