第八十三話 武蔵野合戦・小手指原合戦
かくして俺たちは高師直に勝利した。ここで残すところ敵は足利直義一人となった。
「今回もさすがだったな」
「もったいなきお言葉です」
今上帝が俺を呼び出して会話をしていたところだった。
楠木兄弟はようやくもとの土地に戻ることができたそうだ。
噂では住吉合戦で淀川で溺れていた敵方の兵士も救っていたらしく彼らの評判は上々だった。
「此度の戦で高師直を倒すことができてなによりだ」
「しかしここまで来ると敵方の動向が気になりますね」
足利直義はかつて今上帝を暗殺しようとした人物だ。二人の間で和睦の道はあり得ないだろう。
「どうやら敵方は新田が治める鎌倉の土地を奪還しようと躍起のようだ」
「どこで仕入れた情報ですか」
「私にも色々と伝はあるものだ」
ふっと今上帝が笑う。
「これで足利直義を倒せれば天下太平となる。頑張ってくれるな」
「はっ」
足利直義は史実では高師直と対立し出家したあげく謎の急死を遂げた人物だ。最後は南朝に与しようとした人間でもある。こちらは和睦する気はさらさらないが。
しかし久々に平和が訪れた京は悪くないものだった。今上帝のお陰で政治は安定しているし経済も順調だ。
佐々木道誉は亡くなったから必然的に近江も国の直轄地となった。これで楠木の和泉、摂津とつなげて水路と陸路が繋がることになった。瀬戸内海を通じて北九州の大宰府とも連絡がとれるようになり貿易も黒字となっていた。
鎌倉も六浦を改良して港としての機能を強化したから大陸との貿易も順調に進んでいた。
こちらは武器に必要な硫黄や硝石を輸入し、木材や刀剣を輸出していた。
もちろん和歌江島も港としての役割を果たしていたから結構な金額を稼いでいた。
ということで俺は今上帝と別れを告げる。
「短い間でしたが帝には本当にお世話になりました」
命を救ったり逆に彼に救われたのもいい思い出だ。
「いや私の方こそそなたには助けられた」
今度こそは最終決戦。これが終われば新しい政権もようやく安寧を得られる。
「今度こそ鎌倉を防衛して足利直義を打ち倒します」
「その意気だ」
ニッと今上帝が笑う。
「そなたにはやってもらわねばならないことが山ほどあるからな」
「えっ俺に更なる仕事ですか」
俺が面食らったのがおかしかったらしく今上帝は再び笑う。
「と冗談はさておいてそなたには褒賞もまだやっていないからな」
「此度の戦が終わればそなたの願いを叶えたいと思う」
それまでになにか考えておけと言われてしまった。
うーん。何がいいだろう。
まあすぐには思い浮かばないから今度あったときまでに考えておこう。
かくして俺は足利直義が待ち受ける武蔵国小手指原に向かうのであった。




